#75 墓参りと七味唐辛子
9月20日(土)
一昨日、鋸南町ダンジョンを完全攻略した事がその日の夜にはテレビやネットでニュースとして流れた。
山中湖ダンジョンを完全攻略した時もニュースになっていたのだが、今回は山中湖ダンジョン完全攻略から僅か12日足らずでの完全攻略だった事もあり、より大きなニュースとして取り上げられていたらしい。
お陰で昨日はクラスメイトだけじゃなく、他のクラスや先輩達まで俺達の教室に見物に押し寄せていた。
ただ、相変わらず俺の写真や映像は使われていなかった様で、クラスメイト以外から声を掛けられるのは唯佳達3人だけだったので、俺は今まで通りのんびり過ごせた。
今日はばあちゃんに誘われ、墓参りに行く事になっている。
父さんが仕事で車を使っていて、唯佳のうちの車はおじさんとおばさんがデートで使っているらしく、公共交通機関を利用する事になった。
唯佳の転移が使えればよかったのだが、残念ながら転移を覚えてから行っていないので、転移出来なかった。
一緒に行くのは、ばあちゃんと俺と唯佳それに凛と智佳姉と母さんの6人だ。
うちと唯佳のうちの墓は、家と同じく隣同士なので、よく一緒に墓参りに行っている。
うちのじいちゃんが三男、唯佳のうちのじいちゃんが七男で、自分達で墓を用意しないと行けなかった為、生前に隣同士で購入したらしい。
仲良過ぎだろ...
女性陣の準備を待っている間、テレビを点けてみたら、俺達の事を取り上げている番組が放送されていた。
写真はいつもの3人と可憐さんの物だったが、メンバー紹介の時には俺の事も紹介されていた。
顔を出さない謎に包まれたリーダーって言われてた。
顔は出してるから!そっちが俺の写真も映像も使わないだけだから!怪しい人みたいなキャラ付けしないで欲しい。
そうこうしてる内に女性陣の準備も整った様で、全員リビングに来ていた。
「春斗お待たせ〜どう?似合ってる?」
「うん。似合ってるよ」
「春くーん私はー?」
「唯佳も似合ってるよ」
「えへへー」
「どっちにもいい顔してお兄ちゃんキッモ!」
「ハアッ!?そういう事じゃないから!」
「凛ちゃ〜ん、自分も褒められたいなら素直に言った方がいいよ~」
「ち、智佳姉!?べ、別にそんなんじゃないし!」
「そうな〜ん?春斗〜ちょっと凛ちゃんの事も褒めて上げて〜」
「い、いいから!私は褒めなくていいから!」
「春斗〜?」
凛に怒られそうだけど、このテンションの智佳姉に逆らうとしつこいからな~許せ妹よ。
「凛も似合ってるし可愛いぞ」
「な、な、何言ってんの!?お兄ちゃん!」
凛は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
やっぱり怒らせちゃったか〜
「ニシシシシ、凛ちゃんよかったね~」
智佳姉が小声で凛に何か言っているけど、これ以上関わるのは危険と判断してテレビを消して玄関に向かった。
八王子駅までは唯佳の転移で移動し、その後は高尾駅まで中央線で移動して来た。
「みんなで電車移動って久し振りだねー」
「そうだね~大体車だもんね~」
「1人で電車に乗る事はあるんだけどね~」
「智佳ちゃんは大学行く時は電車だもんね」
「春斗達は唯佳ちゃんの転移で移動しちゃうんでしょ?」
「うん。行った事がある所はね」
「これからはお墓参りの時も転移で来れるよー」
「それは助かるわね」
「そうですね。唯佳ちゃん、お墓参りに来る時はお願いするわね」
「うん!任せてー」
みんなでわいわいと会話をしながら北口のバス乗り場までやって来ると、お母さんらしき女性とバス乗り場にいた小さな女の子が唯佳を指差して大きな声で叫んだ。
「あー!テレビに出てたお姉ちゃんだー!」
その声に近くにいたおばさんとおじさんがこちらを振り向いて、唯佳に気が付いた様だ。
「こ、コラ。すみません。大きな声で」
女の子のお母さんが慌てて謝って来た。
「大丈夫ですよー。お姉ちゃんが出てたテレビ観たのー?」
「うん!観たー!みんなが凄いって言ってたよー」
「そっかー」
俺達はバスを待っている間、女の子と仲良く話をしていた。
女の子のお母さんはばあちゃんと母さんと話していて、聞こえて来た内容から女の子のおじいちゃんの家に行く途中らしい。
乗るバスも同じだったので、バスの中でも会話は続き、大東京霊園の最寄りバス停まで楽しく移動出来た。
「鈴ちゃん可愛かったな~」
「ねー」
「産むならああいう娘がいいな~」
「まずは彼氏かr」
「春斗〜何か言ったかな〜?」
「いいえ。何も言ってません!」
思わず口が滑ってしまった。
「ふふっ智佳ちゃんも含めてみんなはまだ早いわよ」
「そうね。ゆっくりいい人を探しなさい」
「「「は~い」」」
話をしながら歩いている内に、じいちゃん達のお墓の前まで辿り着いていた。
みんなで両家のお墓の掃除をして、お花をお供えして、お線香をあげてから手を合わせた。
みんなでばあちゃんがじいちゃん達と話し終えるのを待って、お墓の前を後にした。
「お腹空いたね〜」
「そうね。おばあちゃんお昼どうする?」
「取り敢えず、高尾駅まで戻ってからね」
「そうですね」
「じゃあ、転移で戻ろー」
という事で、高尾駅まで唯佳の転移で戻って来た俺達は、駅の近くにある和食屋さんで昼食を食べる事にした。
「私は海鮮ユッケ丼定食ー豚汁に変更でー」
「あっ!私も〜」
唯佳と凛は同じ物を注文する様だ。
「じゃあ、私は出汁まき玉子定食を下さい」
「私は焼き鯖定食で」
「私はどうしよっかな~春斗はどれにするの?」
「俺は鰻とろ丼定食で豚汁に変更しようかな」
「う〜ん、じゃあ、私は海鮮とろろ丼定食でお願いします」
「智佳姉は豚汁に変更しなくていいの?」
「うん。春斗、豚汁とお味噌汁シェアしようよ。そうすれば、どっちも食べられるよ」
「ああ、いいね。そうしようか」
智佳姉の提案はとても魅力的で、俺は即オーケーした。
普通の味噌汁も美味しそうだったんだよね~
「しまった!その手があった!」
「失敗したよー」
俺と智佳姉のやり取りを聞いていた凛と唯佳が、テーブルに突っ伏している。
「ふふっ2人共、私のお味噌汁とシェアしましょう?」
「私もシェアしていいわよ?」
「「ホント!!」」
ばあちゃんと母さんの提案に、唯佳と凛が勢いよく顔を上げた。
結局、味噌汁だけじゃなくメインも一口ずつ交換して、賑やかに食事を終えた。
「うるさくしてしまってすみませんでした」
「いえ、大丈夫ですよ。また来て下さいね」
会計の時に、ばあちゃんがお店の人に謝っているのを見てみんなで反省し、お店の人にみんなで謝っておいた。
「ちょっと、高尾山口駅の方まで行ってもいいかしら?七味唐辛子を買いたいのだけど」
「ああ、ここまで来たんですし、あそこの七味唐辛子は買って行きたいですね」
「私もあそこの七味唐辛子好きー」
「自分の好みに調合してくれるのがいいわよね~」
「柚子効かせて〜」
「じゃあ、京王高尾線だね」
高尾山の麓にある七味唐辛子屋さんは、色々な種類の材料から、客が指定して調合してもらえるシステムで、うちでは凛の要望で柚子を効かせて辛さ控えめに調合してもらっている。
まだまだお子様である。
「お兄ちゃん?誰の事をお子様だって言ったのかな~」
また、声に出ていたらしい。
「ん?俺自身の事だぞ?」
「ホントに〜?」
「ホントホント、ホントに俺自身の事だよ」
「ふ~ん。まあ、今回は見逃して上げる」
何とか危機は去ってくれたみたいだ。
みんなに苦笑いをされながらも、無事に高尾山口駅に着いた俺は、みんなと共に七味唐辛子屋さんに向かった。
「私、久し振りに来たかもー」
「私も〜」
「私はこの前おばあちゃんと一緒に来たわ」
「そうだったわね。前回は智佳ちゃんと2人で買いに来たんだったわね」
「智佳ちゃんの運転が上手くなっていたって言っていた時ですね」
「そうそう、本当に上手になっていたわよ」
「おばあちゃんにそう言ってもらえて自信が付いたの!」
なるほど、智佳姉の運転が急に上達したのはばあちゃんに褒められて、自信を持てたからだったのか。
七味唐辛子屋さんで、凛好みに調合してもらった七味唐辛子を買い、唯佳の転移で帰宅した。
「ホントに唯佳の転移は便利ね」
「唯佳姉〜毎朝学校まで送って〜」
「こ〜ら、凛?中学校までくらい歩いて行きなさい!」
「...は~い」
まあ、1度転移の便利さを知ってしまったら、楽したくなるのも分かるけどな。
母さんに怒られ残念がっている凛を見て、そんな事を考えながら手洗いうがいをしに、洗面所に向かうのだった。
因みに、自分用にこっそりと青のりとごま、唐辛子多めの別配合の七味唐辛子を買って来たので、使う機会が来るのが楽しみだ。




