#57 動物園満喫
9月1日(日)
朝の9時過ぎ、俺達は日野市にある動物園の前に来ていた。
「そっか、こっちだと動物園ってここなんだね」
「紗奈姉はここら辺の人じゃないの?」
「私は中野区の生まれ育ちなの」
「そうなんだー」
「だから、動物園っていうと、井の頭公園の所か上野に行ってたのよ」
「そうなんですね。この辺りだとここに来るのが一般的で、上野は偶にという感じですね」
「そうだな。井の頭はあまり選択肢に入らない人が多そうだしな」
「羽村にも動物園があってねー、そこは近所の小学校の通学路になってるんだってー」
「えっ!?動物園の園内がって事?」
「そうなんですよ。それを聞いて、2人で転校したいって親に泣きついて困らせた事がありました」
「香代さんや優佳さん達も困ったでしょうね」
「2人らしいね~」
「そうですね。簡単に想像が出来てしまいましたね」
俺と唯佳の思い出話にみんな笑顔になり、そのまま園内へと入って行く。
「さて、どういう風に回ろうか?」
ここの動物園はアジア園、オーストラリア園、アフリカ園、昆虫園の4エリアからなっている。と言っても、昆虫園は建物内にあるので、広くはない。
「アフリカ園から行きたいな~」
「いいですね、久し振りにライオンバスに乗りたいですね」
「ライオンバス?」
「ここはねー、バスに乗ってライオンエリアの中に行けるんだよー」
「えっ?そうなの?」
「ええ、車で入って行ける動物園が全国にあるじゃないですか、あれのライオンのみバージョンです。近くでライオンを見る事が出来る、ここの売りの1つですね」
「そうなんだね。早く行きましょう?楽しみだわ」
「ふふっさなさんが童心に帰ってますね」
「楽しそうにしてくれて、誘った甲斐があったね~」
「よかったねー」
「動物園なんて5年振りくらいだし、ここは初めてなんだから、童心にも帰るわよ!」
そんな紗奈さんを連れ、アフリカ園を目指す。
途中、昆虫園の近くを通ったのだが、女子達に手を引かれ、背中を押されてスルーして来た。
綺麗な蝶々とかもいるのだが、女の人の中には蝶々も駄目な人も一定数いるらしいし、無理強いするつもりはないんだけど、俺そんなに入りたそうにしていたかな?
「見えたよー。紗奈ちゃんあれがライオンバスだよー」
「確か、ここは別途料金が掛かるんでしたよね?」
「そうそう、あそこでチケット買うんじゃなかったっけ?」
「そうなんだね。じゃあ、買って来ようか」
「「「は~い」」」
ライオンバスのチケットを買い、早速ライオンバスに乗り込んだ。
「すご~い!ライオンがこんな近くにいるよ!ご飯食べてる所をこんなに近くで見れるなんて!すごいすごいすごい!」
完全に紗奈さんが子供になっている。
「これだけ喜んでもらえると、嬉しくなりますね」
「子供の頃から来ている所を気に入ってもらえると何だか嬉しくなるね~」
「うん!ホントだねー」
俺達4人にとっては、子供の頃から来ていた思い出の場所でもあるので、こうやって初めて来た紗奈さんが喜んでくれている姿を見ると、嬉しくなってくる。
「ハア〜すごかった~。大人でもこれだけ興奮するんだから、子供が乗ったら大変だろうね~」
まあ、さっきの紗奈さん程興奮している大人は見た記憶がないが、子供が喜ぶのは間違いないと思う。
その後、アフリカゾウやフラミンゴ、サーバルキャットやチーターを見て、ライオンバスの所まで戻って来た。
「1箇所1箇所が広く感じるんだけど、動物園ってどこもこんな感じだっけ?」
「上野よりは広いと思うよー」
「ここの動物園の中でも、アフリカ園は1箇所1箇所のスペースが広めだから、余計にそう感じるのかもしれませんね」
「そうなんだね~」
「因みに総面積では、上野の3.7倍くらいあるらしいですよ」
「そんなに広いの!?」
「それはアタシも知らんかった〜」
「私もです」
「じゃあ、次はこっちに行きましょうか?キリンやシマウマのエリアと、その先にチンパンジーのスペースがありますよ」
紗奈さんを案内しながら、先へと進んで行く。
アフリカ園を出て、次のエリアに向かって歩いている。まだまだ暑い時期だが、ここは影になっていて吹き抜ける風が気持ちいい。
「ここは風が気持ちいいね。ちょっと起伏が激しいけど」
「そうですね。私達は慣れていますが、慣れない方は大変かもしれませんね」
「もう少し行ったら座れるとこあるし、少し休憩しよっか」
「さんせーい」
という事で、さくら広場でトイレ休憩も兼ねて少し休憩した。
休憩後、グレビーシマウマやイヌワシ、フライングゲージで、元気に飛ぶ猛禽類などを見て、オーストラリア園にやって来た。
「こっちから来るとトナカイからになるんだね~」
「そうですね。私はいつも反対回りなので、新鮮に感じます」
「トナカイってオーストラリアにいるの?春斗くん」
「オーストラリアにトナカイはいませんね。それと、ここはオーストラリア園ではないですよ。隣のエミューのスペースからがオーストラリア園になります」
「そうなんだ~、アタシはてっきり、オーストラリアにトナカイいるんだと思ってたよ~」
「マップに描いてありますよ」
「ホントだー」
「唯佳も気付いてなかったのか?」
「うん。マップなんて見ないし」
「まあ、確かに覚えてるもんな」
「あっ!見てカンガルーだよ!」
「カンガルーって横になってる時、何か面白いよね~」
「分かります。なんだか人間ぽい寝姿ですよね」
「あっ!あそこのカンガルーおじさんみたいだねー」
カンガルーって見ていて飽きないんだよな~
結局、わいわいと賑やかな声を上げつつ、20分も見ていたらしい。
「動物園って、時間を忘れて見入っちゃうね」
「そうだね~」
「もう、11時なんですね」
「時間過ぎるの早いよねー」
「もう少し見て回って、みはらし広場でご飯にしようかと思ってるんだけど、それでいいか?」
「「「さんせーい!」」」
「ふふっ紗奈さんも息ぴったりですね」
コアラ館を覗いてみたけど、コアラはみんな寝ている様で動かなかった。
その後、ワラビーエリアも見て回り、みはらし広場まで移動して、ワライカワセミを見ながら昼休憩をとった。
「お〜!豪華なお弁当出て来た~!」
「お祖母様には、きちんとお礼をしないとですね」
「ホントね。今度何か持って行かないとな」
「美味しいー」
「あ~!唯佳っち早いよ〜」
「ふふっでは、私達も頂きましょうか」
「そうね。唯佳ちゃんに食べられちゃう前にね」
「こんなに食べないよー?」
「唯佳っちは、意外と食いしん坊だからな~」
「そうですね」
「ふぇーっ!?私そんなキャラじゃないよー!」
その時、ワライカワセミが鳴いた。
名前通り、まるで笑っているかの様に。
「唯佳ちゃん、笑われてるわよ」
「あ、あれは、ああいう鳴き声なの!」
「あのワライカワセミ、いいタイミングだったね~」
「ホントですね。こちらの会話を理解してるみたいでしたね」
賑やかにお弁当を食べていると、不意に声を掛けられた。
「あれ?雛ちゃんじゃん。ていうか、クローバー全員いるじゃん」
声を掛けて来たのは、以前ダンジョンで助けた、ノーブルローズの斥候兼弓担当の風間先輩だった。
「あれ?莉央先輩じゃん!どうしたの?って、デートか〜」
「うん。そうだよ~」
風間先輩の後ろには、大学生くらいの男性が立っている。
「真宙くん、この子達が前に話した恩人のクローバーの子達だよ」
「ああ、命の恩人だって言っていた」
「そうだよ」
「その節は莉央が助けてもらったみたいでありがとう。お陰でこうして一緒にいる事が出来ているよ」
「いえ、困ってる時はお互い様なので」
「それにしても、雛ちゃん達のお弁当、凄い豪華だね~。持って来るのも大変だったんじゃないの?」
「スキルがあるから平気だったよー」
「あっ!そうか、唯佳ちゃんのスキルがあればそうだよね」
「ん?何か便利なスキルを持っているのかい?」
「真宙くん、スキルの事は詮索したらダメだよ?」
「ああ、そうだったね。ごめんごめん。好奇心でつい」
「食事中にごめんね。私達は行くわね」
「は~い。デート楽しんでね~」
「ありがと。雛ちゃん達も楽しんでね」
そう言って風間先輩達は離れて行った。
「彼氏いいな~」
「そうですね。でも、あと少し頑張れば」
「うん。私達も」
女子達が、何やらコソコソ話し始めたので、俺は1人ワライカワセミの側まで移動して来た。
「春くーん、片付け終わったから次に行くよー」
いつの間にか、片付けまで終わらせていたらしい。
「ごめん。片付け任せ切りにしちゃって」
「大丈夫だよー」
「こちらこそ、気を使わせてしまってすみません」
「春斗っち、ありがとね」
「春斗くん、気を利かせられる所が偉いわね」
片付けを任せ切りにしてしまったのに、謝られたりお礼を言われたり褒められたりして、何だかおかしな感じがしてしまう。
「それにしても、莉央先輩いいな~。アタシも彼氏欲しいな~。春斗っち、腕借りるね。えいっ!」
「えっ!?雛!?」
「あー!雛ちゃんずるーい!私もー!えいっ!」
「それでは私は背中に、えいっ!」
「へっ?ど、どうしたんだ?ちょっ、歩きづらいってば」
「春斗くん、両手に花どころじゃないモテモテぶりですね~」
「いや、紗奈さん?誂ってないで助けて下さいよ!」
「馬に蹴られて死にたくはないので、ごめんね?」
「な、何ですかそれ?」
「あれ?知らなかったか。ジェネレーションギャップとかじゃないよね?」
結局その後は、俺の両腕を交代交代彼氏の腕に見立てて組んで来て、3人はとても満足そうな顔をしている。
そんな顔されてたら、止めてとも言い出せず、そのまま見て回るしかなかった。
折角オランウータンがスカイウォークを歩いていたり、ユキヒョウが近くに来たりとアジア園でも見どころ満載だったのに、ほぼ両腕に意識が行っちゃって、それどころじゃなかったよ。
幸せな感触を感じられて嬉しかったけどさ。
「それはよかったね~春斗くん」
また、声に出ていたらしく、紗奈さんに誂われてしまった。
他の3人からは何も言われなかったので、聞こえなかったのだと思い、ホッとして3人の方を向いたのだが、3人共これでもかというくらいに、顔を真っ赤にさせていた。
「春斗っち〜アタシのでも、幸せな感触は感じられた〜?」
「はい...」
「ならよ~し。えへへ~」
雛にしっかりと確認を取られてしまった。
雛もさっきより更に、顔を真っ赤にさせてしまっている。
恥ずかしいならわざわざ聞かないで下さい。
そんなこんながありつつも、動物園を満喫した俺達は、動物園を後にして転移で紗奈さん以外の2人は家に送り、紗奈さんは学校の協会支部に送り届けて、俺と唯佳は歩きで家路に就いた。




