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スタンピードの主

「姉貴!」


 私が全身でモフモフを堪能していると、弟くんの方がその素晴らしい三角耳をぴくぴくと動かしながら叫ぶ。


「ええ、聞こえたわ」


 ルナがぎゅっと一度優しく抱き締めると、そっと離れてこちらを見おろしてくる。


「アルマちゃん、これはまずいかも。あなた達だけでも逃げて。……出来たらゴンタも連れていってくれると嬉しいけど」


 優しげな笑み。しかし瞳には絶望の色が浮かんでいるように、私には見えた。


「だから姉貴はまた。僕が姉貴をおいて逃げるわけないだろう」


 私は気丈にぴんと立てられたルナのふわふわな三角耳を見ながら、たずねる。


「ルナ、何がくるの?」


 それに答えたのは、クローだった。


「あれですな。スタンピードの主──」


 クローの詠唱魔法剣の指し示す先。

 一軒の建物があった。

 次の瞬間、それが吹き飛ぶ。破壊され、舞い上がる砂塵の中から、現れた。


「やっぱり、スケルトン?」


 しかし、ただのスケルトンではなかった。それはドラゴンの形をしていたのだ。


「ボーンドラゴンですか」


 クローの苦々しげな声。

 それに応じるゴンタ。


「ああ、くる!」


 ゴンタが目に求まらぬ速さで、矢を放つ。

 一射、二射、三射。


 立て続けに放たれた矢が全て同じ軌跡を辿り、ボーンドラゴンの頭部の一点に立て続けに命中していく。


 素人の私からみてもわかるぐらい素晴らしい腕前だ。

 しかし、その効果は限定的だった。矢じりのあたったボーンドラゴンの額部分が、削られている。ほんのわずかに。


 ただ、それでもゴンタの放った矢は、ボーンドラゴンは注意をそらすことはできたようだ。

 前に飛び出したルナとクローがその隙にそれぞれの武器を振るう。


 その結果は、意外なものだった。ルナの大鎚が、ボーンドラゴンの前足にわずかにヒビをいれたのに対し、クローの詠唱魔法剣は、ボーンドラゴンの前足に触れた瞬間、刃がふっと消えてしまった。


「あれが、ドラゴン特有の種族特性──魔力吸収。やはり、アルマさんとクローさんは逃げてください」


 そう告げるゴンタに私は首を横に振るう。


「ルナ、悲しそうだった」

「っ! それはっ……。そうですが」


 ──モフモフが悲しいんでいるのを、そのままにするわけにはいかない。


 私は決意を新たに、詠唱を開始した。

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