第八魚 医師
闇ありし所にサンマあり。
死をもたらす災厄の化身。
サンマの前にあるのは絶望による死のみであった。
だが、人は希望の光を手に入れた。
人を守り、人を導く存在。
人は彼らを称えてこう呼んだ。
『日魔星』
(前奏)
ゆけ〜さんまの戦士〜
魔を討つ戦士よ〜
秋刀魚を掲げて〜
(オォォォォ~)
鳴り渡るサンマの咆哮
終わりを告げる魔笛
散りゆく人の運命
響く
慟哭を聞け
さんまの戦士よ
叫べ!
怒りの声
振るえ!
怒りの秋刀魚
戦え!
怒りの戦士
正しき心
秋刀魚の一太刀
魔を討つ戦士 三魔〜!!
『戦え!日魔星』
サンマウンテンバイクで駆ける。
景色は流れ、海から山へ。
潮風の匂いから、木々の匂い。
移ろいを感じながらも、心は焦っていた。
やがて、母秋刀魚に教えられた診療所がある山に着く。
サンマウンテン。
もう夕方に差し掛かっており、薄暗い。
この山を登った先に、三魔さんを救うことが出来るサンマッドドクターがいる。
一層ペダルに力を入れ、漕ぎだす。
薄っらと、頂上付近に三界が見える。
おそらく、そこにサンマッドドクターはいるのだろう。
サン魔力で強化された車輪はぐんぐんと加速し、山を登っていく。
さんまの体のように凸凹の無いスッキリとした山道なのだけど、何故頂上付近に診療所を作るのだと文句を言いたくなる。
サンマが営む診療所に訪れようと思う患者がいるかどうかは置いといて、山の頂上にあるのは如何なものか。
私のように、一分一秒が惜しい、とにかくすぐに治療したい人間だっているだろう。
そんな風に悪態をつきつつも、登り続け、遂に三界まで辿りつく。
後もう少しだ。
緩んでしまいそうな気持ちを締め直し、三界へ入る。
と、同時に上空からサンマが現れた。
数は二体。
「なっ-ー!?」
気を取られた私へ向かって一体のサンマが鉤爪を振り下ろした。
間一髪の所で、サンマウンテンバイクから飛び降りて躱す。
そのまま振り下ろされたサンマの鉤爪の直撃を受けたサンマウンテンバイクは粉々になった。
粉々になったサンマウンテンバイクから鉤爪を引き抜くと、サンマは私の方へ向いた。
明らかに、敵意がある。
どういうことだ?ここはサンマッドドクターがいる場所。
人間に友好的なサンマイルドの土地だと言うのに、何故敵意を持ったサンマが?
混乱する思考。
しかし、すぐに振り払う。
サンマウンテンバイクは失った。
これからは徒歩で、なるべく早く登らなければならない。
そのためには…
秋刀魚銃を引き抜く。
弾は装填してある六発と予備の六発。
計十二発と、心持たない。
いや…サンマは二体。
一体に六発。
それで十分だ。
覚悟を決めると、最初に攻撃してきたサンマの頭を狙って一発放つ。
音ともに炸裂した弾丸は、サンマの頭目掛けて飛んでいくが、左に体を逸らされ躱されてしまう。
私の射撃を受けて、サンマは地面を蹴り飛びかかってきた。
直ぐに後ろに退かなければ。
頭によぎる。
だが、私は逆に前方へと飛び込んだ。
右前方より振り下ろされるサンマの鉤爪。
私は、サンマの右肩へと狙いをつけ引き金を引く。
炸裂した弾丸は真っ直ぐサンマの右肩へと飛来し、肉を抉る。
その衝撃で、振り下ろされる鉤爪は大きく逸れる。
私はその隙へ転がり込み、サンマの背後へ回る。
背後を取られたサンマは、直ぐに体勢を整え私へ向き直ろうとする。
しかし。
私が照準を絞る方が早かった。
無慈悲に引き金を引く。
弾丸は容赦なくサンマの頭を貫通し、一体の死体へと変えた。
一匹殺った。
だが、気を抜けない。
もう一体のサンマに向き直ると同時に、またもや鉤爪が振り下ろされる。
今度は引き金を振り絞る時間などない。
後方へと飛ぶ。
鉤爪は私の目の前の宙を切り裂き、なんとか躱すことが出来た。
そう思った、次の瞬間。
胴体へと衝撃が走る。
サンマが振り下ろした鉤爪は虚偽。
本命は、蹴りであった。
まんまと騙された私は、サンマの蹴りをくらい弾き飛ばされる。
そのまま後方へ飛ばされ木に叩きつけられる。
「うっ…!!」
腹部と背中、前後より痛みが走り意識が飛かける。
が、気合いで耐え、目を開く。対敵を見据える。
サンマはトドメとばかりに鉤爪を唸らせる。
重い体を無理やり動かし、左前方へと転がり込むと何とか躱すことが出来た。
しかし、咄嗟のことで秋刀魚銃を手放してしまった。
取りに行かなければ!と気が焦るのだが、今飛び込んだら確実に鉤爪の餌食になってしまう。
何とか、サンマに隙を作らなければならない。
どうすればいい…?
武器になるようなものは他に携帯してきていない。
どうやって隙を作ればいい?
サンマと距離を取りながら、考える。
諦めという言葉は一切考えない。
必ず、あのサンマを打倒してサンマッドドクターの元に向かわなければならない。
どうする…?どうする…?
思考が巡る。
三魔さんであれば…どうする?
逡巡する。
そして。
私はサンマへ向かって飛び出した。
決して無謀ではない。
サンマは飛び込んできた私に対して、鉤爪を振り下ろす。
瞬間。
私は懐から七輪を取り出す。
そして、それをサンマの顔目掛けて力強く投げつけた。
回避すること叶わず、顔に勢いよく七輪がぶつかり、サンマは揺れる。
その隙に駆け出して、秋刀魚銃を拾う。
七輪をぶつけられたショックから立ち直ったサンマは振り返り、私へと迫る。
しかし、それは冷静さをかいていた。
真っ直ぐ。直線上に迫る対敵に決して外すことは無い。
私は引き金を引き、二体目のサンマを撃ち殺した。
計四発。
十二発で足りるかと考えたのは結局、杞憂だった。
七輪を拾い、懐にしまう。
「申し訳ないであります、三魔さん。七輪を…」
精一杯の聖衣でお詫びする。
三魔さんが目を覚ましたら改めてお詫びしよう。
一応、四発の弾を装填すると頂上目掛けて駆け出す。
サンマウンテンバイクがないから、時間はかかるのだけど。
迷わず、休まず、走り続けた。
やがて、視界が開け、木造の小さな診療所が見えた。
荒い息をどうにか静め、中へと入る。
「こんばんはーであります。日魔星のサン・マリアンヌであります!!サンマッドドクターはいっらしゃいますかーであります!!」
気持ちがはやり、ついつい大きな声を出してしまう。
「やれやれ、元気な子だねぇ」
声は、背後から聞こえた。
振り返ると、そこには白衣を着たサンマ…サン魔が立っていた。
「騒がしいと思ったら、日魔星かい。何のようだい?いや、その前に酷くボロボロだねぇ」
「き、傷は外でサンマに襲われて…そんなことより」
「いいや、待ちな。まずはあんたさんの治療だ」
有無を言わさず、サンマッドドクターは私の手を引くと、奥へと引っ張って行った。
奥の治療室まで連れてこられると服を脱ぎ、施術台に横になるよいに言われる。
渋々と従い、横になるとサンマッドドクターが私の体を見回す。
「ほう…見た目ほど酷くないね。あんたさん、運がいいのか、実はやるのか…まぁそんなことはいい。これならサン麻酔がなくても大丈夫さね」
サンマッドドクターは私の体の上で手を合わせると、何か呪文のようなことを呟く。
「サンマイクロウェーブ」
瞬間、体の中を何が波打つ。
それは、最初はちょっとした違和感だったのだけど、すぐに痛みと変わった。
しかし、痛みに驚いているうちに痛みは収まり、同時にサンマとの戦いで受けた傷も無くなっていた。
「うんうん。女の子の体に傷は良くないねぇ」
「ありがとうであります…」
「いいってことよ。おまえさんを傷つけたサンマはあたしが研究用に飼ってたやつが逃げ出したものだからねぇ。いやぁ、面倒くさくて放置してたのを倒してくれてありがたいよ」
…無性に腹が立ったのだけど抑える。
「それで?あんたさんは何でこんなところまで来たんだい?」
「助けて欲しい人がいるであります」
「ほう…?詳しく聞かせてみな」
私は三魔さんの状態を伝えた。
「そうかい…サン魔剣かい…。また厄介なものを」
「治して…くれるでありますか?」
「そうさねぇ…。一つ聞くよ。あんたさんは何でここへ来た?」
「三魔さんを助けたくて。であります」
「あんたさんにとって、その三魔とやらを助けることは、こんな信用ならないサン魔の元へ来るほど…それも、二体のサンマに襲われながらも、諦めずに来るほどの動機になるものかい?」
「はいであります」
「三魔さんがだね?」
「間違いないであります」
「かっ~~~~〜」
サンマッドドクターは奇声を上げ、目を手で押えた。
「どうしたでありますか?」
「これが泣かずにいられるかい。こんな若くて可愛い子が、愛する男の為に命張って駆けつけたってんだい。泣かずいられるかい?」
「あ、愛する…なんて…自分と三魔さんはそんなんじゃ…」
「大好物だよ!!あんた!!気に入ったよ!!」
「で、では三魔さんを助けてくれるでありますか?」
「あぁ。助ける…いや、助ける手伝いをしてやろうとも」
「手伝いさ。…あんたさん、もうひとつ聞くよ」
サンマッドドクターは神妙な顔つきをして、私へ向き直った。
「あんたさんは、三魔とやらを助けるために命をかけられるんだね?」
「もちろんであります」
即答だった。迷いはない。
「無粋だったねぇ…。それじゃ、行くよ。まずは患者のとこさ」
サンマッドドクターは三魔さんを助ける手伝いに応じてくれた。
三魔さん…必ず助けます。
あと少しの辛抱であります。




