ストーカー、神使として頑張る
基本、アヤネコの優しさは推しと推しの大事な人に極ぶりしています。
他への優しさは。優しさ(っぽいもの)です。
だからみならいのまんま。
推しをストーキングする毎日を過ごしていたら、やたらプリティな幼女用マスコット先輩に怒られた。
「おまえ、ちったぁ神使らしいことしろや」
だが私が愛して信仰しているのは推しだ。
神様は放任主義の上司的な感じだ。
あれやれこれやれとは指示はない。でも、うっかりちょっと広い場所を更地にしたらお叱りメールが来る。ある程度個々の世界のルールは守るが、基本フリーダム。
新たな宗教が誕生しようが、中身がオッサン性職者の魔法少女がいようが、螺髪の皇妃と股間が水色パオパオゾウさんの皇帝がいようが容認している。
私は善行という名のTPを貯めて、推しに貢ぐために全力投球。
だが、私の善行は基本推しに利益があるかどうかのもとに行っている。
それ以外どうしろと?
とりあえず、隣国の王子様やらその幼馴染の騎士や宰相子息の夢に入り込んで、アヤネコブートキャンプを決行。
ゲームでは攻略対象。こいつら弱いと攻略失敗でバッドルート。つまり、推しに迷惑が掛かる。ヒロインはどっかの村娘か町娘なんだよ。今は。探せないわー。
というわけで、身元がはっきりしている奴らから扱くことにした。
ケツにハリセン振りかざし「走らんかワレェ」と体力増強、頭にピコハンを振りかざし「魔力絞り出さんかワレェ」と魔力増強。
お坊ちゃん育ちはグダグダと悪態をつきまくる。うるせえ雑魚どもだ。
これだからよぉ、甘ちゃんは嫌いなんだよ!
ワシの推しは同年代でありながら、可愛い弟妹を庇いながら健気に生きてたんだぞ? 今頃は高級グリフォンフェザー百%のオフトゥンと特注ベッドでぐっすり寝てるだろうけど。
めんどくさいから、大体ボンボンらと同じサイズの『ヤツ等』で追い回しコースにした。
触角をギチギチちょいちょい動かし、カサカサと機敏に動き、時に飛行する。台所や水回りに、特に温かい季節に現れ活発化する。頭文字Gである。
アイツらは泣き叫びながら走り回った。あれ小さくてもきもいけど、デカいとなおさらだよな。あれか、黒や焦げ茶系がいやなのか? パステルピンクにしたらどうだろうか。それとも水玉やストライプにしたら変わる?
いじってみたら余計きもくなった。マジ警戒色やん。
「イヤアアアアアアアァアアアっ!!!!」
「マッマァ、ぐすっ、虫……ムシコワイ……ひぐっ」
「あ”あ”う”あ”あばあばば!! ぎゃーっ!」
なんだ、この知性を失ったチンパンジー以下の小僧どもは。
泣き叫んでえづいている暇があれば剣や拳の一つや、魔法の一つでもぶっ放せ。
「ぁっあああああああ! 切ったらヌルヌルするー!」
「殿下ぁああ! ぎゃー! 足だけがカサカサ動いてるっ!」
「こういうときは首を……! ああああああ! 体だけで逃げたああああ! もうやだーっ!」
黙れチンパン小僧ども。もっと優雅になれ。オメーら特権階級のお坊ちゃんだろ。
この世の終わりのように泣き喚く高貴なジャリどもを眺める。
なんでワシはこんなところでションベン小僧の世話をしとるん?
推しに会いたい……推し……推しをくれ。
昼間はロイヤルやノーブルぶって茶をしばいてスカしてやがったのに、ちょっと突いた程度でこの頽落。
お前らが、ハエの魔物やカマキリの魔物に手間取っている冒険者や騎士たちをディスってたから、そのリクエストに応えてやったんだぞ!
自分ならできるってスカしまくりだったじゃねーか!
夢の中ですら走り込みもすぐにサボるし、魔力もすぐに尽きる軟弱野郎が。
お坊ちゃまどもの悲鳴は一層に甲高い。うるせえ、てめぇらいつプリンセスにジョブチェンジしたんだ。
挙句、床に転がってスンスンすすり泣きを始めた。乙女か。むしろ幼女なんか、貴様ら。
戦意喪失したボンボントリオの周囲に出来上がる家庭内害虫系の群れ。
じりじりと捕食されそうなほど近づいていく。
ゴキブリって共食い上等なほど食欲旺盛なんだよな……リアリティを追求しすぎたかな?
バシィンと尻尾で握ったハエたたきでGどもを叩き殺す。
デカすぎたのか? じゃあハーフサイズからスタートだ。その分、量は増やすが。
また絶叫が上がった。
悪夢のブートキャンプにより騎士ボンボンは何か魔法剣みたいなのが使えるようになり、宰相ボンボンはそれなりに魔法が使えるようになり、マセガキ王子は他人と信頼して連携することを覚えた。
G退治ができるようになるころには、あのボンボントリオには謎の連帯感と友情が芽生えていた。
いや、お前らでっけーGに追い回されてただけやん。
まあ、神様からの試練的なギフトを贈呈してやろう。一応試練はクリアだし。
虫で繋がれた友情かぁ。
あ、あいつら失禁してるわ。やべえ、リアルのベッドも湿った歪な世界地図が出来上がってらぁ。
根性なってねーな。
我が愛する推しはお母様が毒殺されても、泣く間を惜しんで双子を守っていたんだぞ。周りがどんどん裏切っていく中、辛い思いを耐えてお兄ちゃんをしていた推し。
推し……やっぱり推しは幸せになって欲しい。
なので、やっぱりこのボンボントリオはシバきまくり、鍛え上げる。
温室でぬくぬく育ったのがムカつくとか思ってない。
図体と一緒に育ったその鼻っ柱をへし折って丸めて折りたたみたいと考えてないゾ。
ホントだヨ?
未成年ということを加味し、温情として起きている間はノータッチだ。奴らが時々、パパやママたちに泣きついてヒンヒン泣いているのは知っている。殺されるって言ってやがる。ひでーな、名誉棄損。殺さない程度の情はある。
私のことを悪魔とかほざいているが、違う。私、神使。
なんで先輩といい、あのハイソサエティークソガキどもといい悪魔や邪神扱いするんだ。
いいもん。神様はみてたし!
『なんか色々やりすぎだし、間違っているし、極大の黒歴史増産機になっているけれど努力は認めるよー』
どういうことだ!?
アヤネコの善意溢れる労働げふんご奉仕なのに!!
アイツらめきめき力をつけてるよ!
ニチアサマスコット先輩だって頷いている!
「そりゃ必死だもん。死に物狂いだもん。悪夢から逃げたくて」
なんだそりゃ。ちょっとスパイシーで刺激的か夢かもしれないが、メンタルは鍛えられるし肉体も鍛えられるし、でも怪我はしないというオールオッケーな修行法だろう!
……確かに推しを見つめることのできない生活にむしゃくしゃしてちょっと八つ当たりしたかもしれない。だが、可愛いもんだろう。解せぬ。
ムカつくからそこの国でこっそりガルシア帝国と内通している公爵とその一家が、ボンボントリオにGに見えるようにした。
権力を笠に着まくった滅茶苦茶高慢チキチキレースなご家族だから、近づかれるとあれだしね。
結果。
婚約者を決める予定だったのが大破綻。
お茶会で泣き叫ぶ王子、発狂する宰相子息、失神する騎士坊ちゃん(こいつも貴族)。
名家のロイヤル&ノーブルの継嗣たちが一斉に拒絶。周りはあまりの凄まじい反応に戸惑った。ボンボントリオの無礼を謝るべきかと思う反面、(一応は)未来を有望視される小さな貴公子たちのあまりの状態に疑いの目がGな公爵家にもかかる。
阿鼻叫喚にお偉い様方大集合。国家の魔法とか政治などのトップをかき集め首脳会議となった。
「……もしや、なにか精神干渉の魔法を使用したのでは?」
「あの凄まじい反応……もしや精神支配でもしようとし、抵抗したのか?」
「あそこには近い年頃の令嬢がいる。魅了系では?」
「かの王子殿下もそうだが、公爵子息も伯爵子息も同年代とは一線を画した能力を御持ちだ」
「ええ、騎士団でも特にここ数か月の能力の向上ぶりは目覚ましいといっていた」
「宰相のご子息ももともと優秀だったが今までにない程、勉強に熱心に取り組んでいたと……」
「王子も鬼気迫る勢いで、剣術にも魔法にも打ち込んでいたと聞きます。あと悪魔祓いの本や聖書をお読みになることが増えたと」
「もしや公爵家は悪魔と契約を!?」
「それは禁忌ですぞ! あれらは莫大な力を与えまするが……」
結論、監視の目が厳しくなったG公爵家は内通がバレて、スッパ抜かれた。
あと、あれ以来王子たちがやたら虫系の魔物を目の敵にするようになったらしい。
冒険者や騎士など、魔物討伐をしている下っ端の立場の人たちにも敬意の念を持ち、大分大らかになったそうだ。
「あれ、あの外交官捕まったんだ」
「隣国と内通していたそうだ。まあ、この記事がどこまで本当かは不明だがな」
カーッ、推し……うちゅくしい。いっぱいちゅき。
植木の茂みからヌッコスタイルでストーキング。
久々の生推し……潤う……心が潤う……ひゃー! 推しの美しさに心臓が痛い! 心臓があるか分からないけど!
あっちの国で見つけたドイツ風のカップが推しに似合う……推しが綺麗。綺麗が推し。むしろ美が推し……
なんか落ち目の工房のおじいちゃんが作ってたから意外と安く手に入った。なんか老眼がキツイとか言ってたので、目薬っていって万能薬もどきを水で希釈したのをあげた。
あれ、アリエッタの目を治せねーかと思ったけど精々白内障とか乱視や弱視くらいにしか効かないんだよなー。
ガサツだからか調合とか苦手なんだよ。
それに比べてステゴロは楽だよな。大抵殴り続ければ何とかなる。ストレス発散で目に付いたのをボコっていたら、なんかいっぱいになった。
なので、カップの代金とあとテキトーにその辺で狩った魔物の角だの鉱石だの顔料になりそうなの置いていった。
今度、フルのティーセット作ってくれるんやて。
是非とも推しの好みで推しに似合いそうなモンを量産してくれ。
数年後、隣国に留学したエルストン。
ブティック街で目に入った、たまたま通りすがりに見たとある工房直営店舗。そこはあまりの人気ぶりで、王侯貴族ですら注文しても数年待ちだという名店だった。
だれもが知るほど超高級ブランドの陶器専門店で、己の愛用カップによく似た作風のカラーオニオンのティーセットを見て戦慄することとなる。
読んでいただきありがとうございましたー!




