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M-071 コンロン 2nd

 


 まるで、噴火口のようにも見える。

 大きな山並みが連なる山脈の南側に、その口は開いていた。直径は優に1km以上ありそうだ。

 コンロンを真近で望める小さな尾根で休憩を取りながら双眼鏡でコンロンの爆裂口らしい穴を覗く。


 「どうやらコロニー内部で発生した爆発とは異なるようです。推定ですが、地下2km程の所で5ktの爆裂が発生したと思われます。」

 隣で同じように望遠鏡を取り出したフラウが教えてくれた。

 「そうみたいだな。核爆弾の反応が無いところをみると一体何を使ったんだろうな。」


 明人の話では、アルマゲドンは俺の住んでいた時代から200年程後に起ったらしい。江戸時代と平成の開きがあるのだ。科学技術の発展は目覚しいものだったに違いない。

何せ、ディーと言うナノマシンで作られたオートマタまで作られていたんだ。化学技術もそれなりだったに違いない。


 「一箇所、黒く見える所があるんだが…。気が付いたか?」

 「確認しました。周囲の岩石よりも温度が低いです。穴では無いかと推測します。」


 やはりな。偶然にしては出来すぎてるけど、寄ってみる価値はありそうな気がするぞ。

 「あの、穴を目指そう。」

 俺の言葉にフラウは望遠鏡から目を離して頷いた。


 噴火口にも見える爆発跡に向かって俺達は歩き始めた。

 山麓の斜面には丈の低い針葉樹がうねる様な枝を伸ばしている。生体反応は小さなもが幾つか見受けられるが、俺達に敵意は示していない。

 とは言え、原生生物の例があるから、何時襲ってくるか判らないので先頭を行くフラウは慎重に道を選んでいる。


 「後、3km程です。爆裂跡に近付くにつれ、生体反応の数が増えています。」

 「あぁ、俺も気が付いた。先程、小さなネズミを見たが、それだけでは無いようだな。」


 フラウが俺に頷くと、杖を握り直す。臨戦態勢を取ったようだ。

 そして、更に斜面を上がる。土砂が降り注いで出来たような斜面は革のブーツの足首までが埋まってしまう。なんか、地面が浮いているような感じがするな。


 残り1km程になると、疎らに草が生えているような荒地になる。

 時間経過を考えると、もう少し草が生えていても良いような気がするが、地面は土ではなく瓦礫ばかりだから草も育たないようだ。

 

 突然フラウが立止まると杖を構える。

 前方の瓦礫が沸騰したように跳ね上がると大きな生物が現れた。

 太さが50cm程の巨大なミミズのような姿で、5m程体を持ち上げて口の周りの沢山の牙をグニュグニュと開閉している。思わず吐きたくなるようなおぞましさだ。


 フラウに向かって体を伸ばすようにして襲い掛かる速度は結構速い。それでも、フラウはその速度を上回る身体機能で、伸ばしてきた体を避けて杖を胴体に叩き付けた。

 叩き付けた反動を利用して素早くその場を離れたが、そうしなければ奴の返り血を受けただろう。黄色に光る血液は正しくミミズのものだ。


 半分になった体をばたつかせているが、気にしないで先を急ぐ。意外とミミズはしぶといのだ。


 噴火口のような縁に辿り着くと、その奥に穴がポッカリ開いているのがはっきりと判る。

 「爆発の後に開かれたようですね。爆発の中心部より50m程左にずれています。」

 「あぁ、だが、水平位置は同じに見える。爆発した階層と同じ階層から外に向かったと考えられるな。」


 「明人様の話ではリザル族は追われるようにコンロンから逃れたと言っていました。リザル族を追った種が開けた穴でしょうか?」

 「いや、その後だろう。コンロンを爆破したという事は言っていない。その後に更に別の種がコンロンを後にしたんだと思う。」


 行けば少しは判るだろう。

 俺達は、今までにも増して慎重に足を運ぶ。

 30分程掛けて、穴に辿り着いた。直径3mの真円だ。滑らかな穴の内壁は、高出力レーザーを使用したようだ。岩壁が融けている。


 「何かいるか?」

 「いいえ。全く生体反応がありません。」


 そういえば、前のコロニーにも何もいなかったな。何か生物を拒絶する働きが今も生きているのだろうか。

 

 フラウが、焚火用に持っていた薪を使って松明を作る。火を点けて穴に投げ込むと、生体反応が無い理由が直ぐ判った。

 投げ込んだ松明が直ぐに消えたのだ。穴は15度程の緩やかな下り坂だが、酸素が無い酸欠状態らしい。

 俺達は生体ではないから関係ない。フラウに頷くと穴の中に足を踏み入れる。

 

 真っ暗な穴は、額のLED機能と暗視モードで奥まで見通す事が出来た。

 真直ぐに続く穴を、2人で下りていく。

 途中に鳥や、獣の干からびた残骸が落ちていた。

 

 「酸素濃度は1%以下です。窒素濃度も同じです。この空間は99%以上が二酸化炭素になっています。」

 「何らかの原因で…、と言う事だな。人為的とも限らないか。」


 コロニーの壁に亀裂が生じて、地下からガスが漏れ出したとも考えられる。少しは危険の度合いが減ったととりあえず考えれば良い。高度な生体の殆んどが酸素を呼吸するから、ここで活動出来るのは俺達のようなオートマタと嫌気性の生体だけだ。嫌気性の生命は多細胞生物にまで進化したものはいなかった筈だ。

 

 大規模なコロニーでアルマゲドンを乗り越えたそうだから少しは期待出来るな。

 コロニー内で暴動が起きたらしいが、少しは何か残ってるに違いない。

 まぁ、期待はずれと言う事もありえるから、ガッカリするかもしれないが、何か秘密基地に先入するような感じでちょっとワクワクするな。


 ひたすら歩いて1時間。やっと広場のような場所に着いた。

 大口径の大砲が目の前に現れた時は驚いたけど、どうやらこれで、穴を開けたのだろう。穴の直径より少し大きなその大砲には太いケーブルが付属して複雑なパイプやケーブルが砲身を取り囲んでいる。


 「ガス励起型のレーザー発生装置です。これで穴を開けたんですね。」

 「そうだな。だが、この空間は誰かが掘ったらしいぞ。ツルハシの跡が残ってる。」


 体育館よりも小さい感じのこの場所は、手で掘ったように見える。このレーザー装置を据え付ける為に掘ったんだろうが、たいへんな労力だと思うぞ。

 そして、この場所に掘った土砂が残っていないところを見ると、土砂をどこかに運んでいる事になる。

 それを運んだのは…、あれか。

 

 「先に行こうか。あそこに扉がある。」

 俺の指差した扉を見てフラウが頷くと、そこに向かって歩き出す。

 扉は、2枚扉だが片側は半分程度の横幅だ。何か、会議室の扉のようだな。鍵は掛かっていなかったから、少し硬くなっている扉を力任せに開くと、長い通路が奥に続いている。

 

 塵の積もった床には沢山の足跡があるぞ。その足跡も塵に半ば埋もれている。かなり時間が経っているな。

 そして、断面が3m程の通路には、弾痕が至る所に残っている。

 黒い染みのような汚れは飛び散った血潮なのだろう。

 

 通路の両側には一定距離毎に扉があった。

 その扉を開けると殆んど扉付近まで、天井近くまで土砂が積み上げられている。レーザー装置を据え付けた空間を作る為の土砂を積み上げたようだ。

 そんな部屋の1つに、ぼろぼろになった工具が置いてあったから、確かに手掘りで行なったんだな。


 更に進むと通路が鉄の壁で閉じられている。

 レーザーで壁を焼き切り、更に先に進む。

 そんな壁を3つ程越えて通路を進むと、今度の鉄の壁は中央が少し膨らんでいる。通路の壁も鉄の壁付近はひび割れが無数に走っていた。


 「内圧の上昇にどうにか耐えたようです。」

 フラウはそう言いながらレーザーで壁を切断し始めた。

 内圧の上昇と言ったら何かが爆発したって事だよな。

 

 厚さ20cm程の鉄板に開いた穴を通って通路を先に進む。

 200m程歩いた所にあった鉄の壁は壁を破壊して通路に倒れている。その表面は高温で一度熔けたようだ。


 そんな俺達の探検は不意に終了となった。

 通路の先が無いのだ。ポッカリと巨大な空間が開いている。

 俺達のLED光源では全く反対側の壁が見えない。

 

 「直径1kmはあります。微量の放射線を観測しました。γ線のみですから、核融合反応と推定します。」

 「核融合弾を使ったという事か?」


 フラウが首を振る。

 「いいえ。それならFPフィッションプロダクトの残滓が確認できます。その形跡がありません。核融合炉の暴走と考えられます。」


 確か、軍事用の核融合弾は融合反応を作るために核分裂弾を使うと聞いた事がある。核分裂なら分裂した物質がある筈だが、ここにはその反応が無いという事か。

 最後にここを出た者達は、コンロンを完全に葬ったという事だな。


 しかし、コンロンを消し去る事も無かったろうに…。

 子孫達に自分達の文明を知らしめようと、残す事が普通ではないか?

 そして、地上への出口は閉じていない。コンロンを消し去るというなら、レーザー発生器をそのまま残すというのもおかしな話だ。

 まるで、何かから逃れるように、そして、それを抹殺するかのように…。


 「フラウ、途中にあった部屋は土砂で埋まって無かったよな?」

 「4つ程ありました。何か?」

 「あぁ、ちょっと気になってな。調べてみよう。」


 俺達は通路を戻ると、そんな部屋に入ってみる。

 部屋の中も、銃弾の跡があちこちに残っているな。暴動が起ったのは間違い無いな。

 散らかった部屋には破壊された家具があるだけだ。

 

 2つ目の部屋も同じような残骸だけだが、そんな残骸の中に数枚のぼろぼろになった写真を見つけた。


 「それは何ですか?」

 「これが原因らしい。…リザル族は他の種族に追われたようだが、追って行った者もそれ程姿は変わっていなかったと思う。だけど、こいつは別だ。」

 

 どう見ても、三葉虫だよな。リザル族よりは人間に近い体を持つ者達がその三葉虫を調べている。他の写真は拡大したものと、裏返しにしたものだ。


 この連中が明人達と同じ身長だとすれば、三葉虫大きさは50cmを超えている。そして、裏返しの写真にはイソギンチャクに似た口が頭の下にあった。イソギンチャクと違うのは口の回りにあるのが触手ではなく、針のような細く鋭い牙が密集している事だ。ということは、こいつは肉食なのか?

 足は蜘蛛のような細くて長い足が体の中心部から左右に10本近く伸びている。


 「こっちにもありました。」

 フラウが部屋の隅のほうから1枚の写真を持って戻って来た。

 そこには銃を乱射する住人に向かってくる無数の三葉虫の姿が映っていた。


 「出よう。ここには何も無い。危機は動力炉の暴走で根絶やしになったようだし、この無酸素状態では、暴走の熱から生き残った奴がいても生存は不可能だ。」


 明人によると、コンロンが遺伝子変異の発生源に近いと聞いたから、その原因が判るかと思っていたが、その変異に人類が追従出来なかったようだな。

 三葉虫が何から変異してあのような姿になったかは、もう誰にも分からない。しかし、人類を襲うものであるならば、それが取り除かれるのが先になる。

 コンロンを破壊した者は、最後までコンロンに残った者達。そう考えれば良い。

 人類への脅威を排除して、自らもコンロンを去って行った。

 明人にもそう教えておこう。

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