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M-046 カイナル村

 


 ハンターの仕事は色々あるようだが、王都となると面白みに欠けるように思える。

 掲示板に張り出された依頼書は、貴族の旅や商人の護衛や近くの薬草採取が殆んどだ。

 それでも、1日に1度はギルドを訪れ、面白い出物は無いものかと探してしまう。


 そして、とぼとぼと帰りの道の途中にある喫茶店でお茶を飲んで時間を過ごすのが日課になってしまった。

 そんな喫茶店で酒を飲まないハンターの噂話に聞き耳を立てるのも面白い。

 幾ら、店の端に俺達がいても教室程の店内での会話は全て聞く事が出来る。


 「…それで、リザル族はカイナル村の北に移動したんだな?」

 「あぁ、カイナル村のハンターから聞いた話だ。間違いない。あの村も一昨年だったか、酷い目にあったらしいぞ。それが元で移動したらしいがな。」


 「ゼルダニ達はまだ戻らないのか?」

 「キルメラもそうだ。何でもマケトマムの方に出稼ぎに行っているらしいがな。」

 「戦には加わっていないんだろうな。」

 「戦は兵隊達だけらしいぞ。監視の仕事に就いたと聞いている。」


 このモスレム王国はどこかで戦をしているようだな。

 王都のハンターもレベルが低い者ばかりだし、何となくハンター達が浮き足立っている。

 早いところ王都を去った方が良さそうだ。

 

 そんなある日の事である。

 何時ものように喫茶店でハンター達の会話を聞いていたのだが…。

 

 「お前はリザル族を見た事があるのか?」

 「いや、話に聞いただけだ。何でも石槍でグライザムを倒すと聞いたぞ。」

 「それだけか…。いいか、良く聞けよ。リザル族とはな、2本足で歩くトカゲだ。粗末な衣類を着て火も使うらしいが、見た目はトカゲという事らしい。古い種族で、俺達と話も出来ると聞いたぞ。

 それでだ、面白いのは確かに狩りの腕は一流以上だが、戦を好まないらしい。」


 面白い種族がいたものだ。これは1度会って見たいな。

 勇猛だが戦を好まぬと言うのであれば人間よりは精神レベルが高そうだ。

 話が出来るのであれば、それなりに面白い話も聞く事が出来そうだぞ。

 何がしかの贈り物を持って訪れれば追い返されることは無いだろう。そして彼等の反撃もそのような種族であれば無いと考えられる。


 「フラウ、聞いたか?」

 「はい。でも、そのような形態に分化するのでしょうか?…確かに、ネコ族やトラ族等はいますが、余り人間と代わりが無いように思えます。」


 そうだよな。ネコ族だって、ネコが立って歩くような姿ではない。人間的な姿で耳と尻尾が付いているだけだ。顔は至って人間的だしね。

 だが、先程の話ではトカゲが立って歩く姿に近いと言っている。これは、今までの常識が当てはまらないぞ。

 やはり、1度会っておくべきだろう。原因が何かも気になるし、この王都の人間だって将来はどんな姿に変わっていくか判らないからな。


 その足で、武器屋と雑貨屋に寄って、槍の穂先と鉈を数丁、それに日持ちする乾燥野菜と干し肉を2kg、鍋を1つ手に入れた。

 部落にちょっと寄らせて貰い話を聞く程度なら、この位の贈り物で満足して貰えるだろう。


 武器屋の言った10日後に俺達は宿を引き払い、武器屋に寄る。

 「今日は。前に依頼したユングですけど長剣は出来てますか?」

 「はい。これになります。」


 娘さんが、カウンターの下から2本の長剣を取り出した。

 通常の長剣より20cm程長いが俺達の腕力では片手で扱える。そして身が薄い。成るほど斬る事に特化した作りだな。柄の長さも20cm以上あるから、両手でも使えるな。

 刀身の先端は鈍角で背に向かっているが、その角度にも刃が付いている。

 しっかりした鞘は上下に金属の輪が付いているから、俺達の装備ベルトのスリングに取り付けられる。


 「代金は金貨2枚で良いんだよね。」

 「はい、それで結構です。それと、これはオマケです。」

 そう言って娘さんが目の細かな砥石を付けてくれた。

 にこりと微笑みながら、フラウが砥石を受取ってバッグに仕舞いこむ。


 次はギルドだな。

 ギルドに行くと、王都を去ることを告げて、いよいよリザル族を求めてカイナル村に出発する。


 カイナル村は王都の北にあると言う。

 王都に流れる用水路を辿ると、目的の村があるとギルドのお姉さんが教えてくれた。そう言った後で、王都から北に伸びる道を辿ったほうが、回り道になるけれどその方が速いとも言っていた。

 

 そんな訳で、俺達は王都の北に向かう道を進んでいる。

 道は街道と比べると石畳で舗装されているわけでもなく、轍の後がしっかり残る踏み固めた道だ。

 余り通る人もいないらしく、1日歩いても誰にも会うことは無かった。

 日が落ちても、俺達は歩みを止める事はない。ひたすら道を北に向かって進んでいく。


 次の日には荒地が森に変わる。山裾の入ったようだ。左手遠くに水音が聞えるから、例の用水路の水源である川が流れているのだろう。

 2日目の夜に俺達は休憩を取る。

 疲れてはいないが、活動源である水の補給は必要だ。

 小さな焚火を作ってお茶を沸かす。


 「周囲に攻撃的な獣はおりません。」

 そう言いながら、フラウは木製のカップでお茶をゆっくりと味わい始めた。

 俺も、一口飲んで、今度はパイプに焚火で火を点ける。


 疲れはしないが、たまにのんびりとお茶を味わうのは良いものだ。ナノマシンベースの体ではあるが、しっかりと食感と味を感じる事が出来る。

 これが無ければ、ただの燃料補給になりかねない。長い時を生きる上では、こんな楽しみも必要だ。

 

 「今後の予定はどうなりますか?」

 「そうだな。とりあえずリザル族に会う事になるだろうが、その後は未定だ。ここまで来たからには、モスレムの東にも行って見たかったが、何かきな臭そうだ。最初の村は、あの通りだし、エントラムズに行ってトリム達と過ごそうか?」


 一体どれ位の寿命なのか判らないが、殆んど不死の存在じゃないかと思う時がある。

 気の合った仲間達と暮らしながら、この世界に片隅で生きていくのも悪くない。

 

 一晩で数杯のお茶は人間では飲みすぎだろうが、俺達の方は問題が無いようだ。お腹がガボガボ鳴るような事も無く、次の日の朝早く俺達は出発した。


 森の道が段々と上り坂になってきた。そして、森を抜けると村が見えてきた。

 それ程大きな村には見えないが、この村の北にリザル族がいるのであれば、この村で情報を仕入れた後にした方が良いだろう。


 「今日は!」

 何時ものように村の門番に挨拶して村に入る。

 「若い娘2人のハンターとは珍しいな。ここはカイナル村だ。ギルドはここから西に伸びる通りにあるぞ。」

 挨拶をするだけで、必要な情報を与えてくれる。

 ちゃんと挨拶をするようにと母が何時も言っていたのを思い出した。

 まさか、こんなところで役に立つとは思わなかったが、やはり挨拶はコミュニケーションの基本だと思う。


 人通りの少ない村の通りを歩いて行くとギルドの看板を見つけた。

 村と同じように小さなギルドだな。

 「今日は!」

 そう言って扉を開けると、カウンターに歩いてお姉さんに到着の手続きをお願いする。


 「黒3つのユングさんとフラウさんですね。この村のハンターも4人残っているだけなんです。長くいてくれると助かります。」

 チラリと掲示板を眺めると、なるほど沢山の依頼書が貼り付けてあった。


 「余り長居する気は無かったんだが、10日位は逗留するか。依頼は、明日からするとして、宿を教えて欲しいんだが…。」

 「村の宿は2つあります。通りを西に向かって橋を渡った先に1つと、東の門の直ぐ北側に1軒です。どちらも料金は同じですが、東門に近いほうが静かに眠れますよ。」

 

 西は酒場に開拓民が良く来るそうなので、煩いという事だった。

 わざわざ煩いところに休む事は無い。

 カウンターの娘さんに礼を言って、再び東門の方に歩いて行く。

 「マスター。あの家では?」

 フラウが小さな看板の下がった家を指差した。

 丁度門の内側の広場に隣接した場所にある。あの大きさなら部屋は5つも無いんじゃないのかな…。


 とりあえず、「今日は!」と言いながら扉を開けるが、カウンターには誰もいない。

 フラウと首をかしげながら、再度大きな声で「今日は!」と声を掛けると、カウンターの後ろにある扉が開いて、お婆さんが現れた。


 「はいはい。お客さんじゃな。ちょっと手を離せなくてのう。部屋は空いているから何時までも泊まれるよ。」

 「とりあえず、10日お願いします。」

 

 「10日じゃと…、夕食と朝食付きで銀貨2枚になるよ。夕食は日暮にそのテーブルに座ってくれれば持って行くよ。村人が酒を飲みに来るから、夕方は少し賑やかになるけど、夜には静かになる。朝も同じように座って待っていて欲しいね。」


 俺が頷くと、フラウはバッグから銀貨を2枚取り出してお婆さんに手渡した。

 引換えに2階の部屋の鍵を渡してくれる。


 早速部屋に行くとベッドに座り込む。

 部屋にはベッドが2つだけだ。前の世界の俺の部屋より狭いぞ。

 

 「ここで狩りをするんですか?」

 「あぁ、ギルドに沢山依頼書が貼ってあった。少しは減らしてあげたい。」


 幾ら辺鄙な村でも、ハンター4人は少なすぎる。

 レベルの高いハンターが国に雇われているなら、残ったハンターは赤レベルの筈だ。危険度の高い依頼を片付ける位の事はしてやろうと思う。


 「出来れば、これを試す事が出来る依頼が良いのですが…。」

 フラウがそう言って、王都で作った長剣を取り出した。

 確かに、作っただけでは意味は無い。切れ味に特化した作りが、どれ程の威力かを試すことは必要だろう。


 「そうだな。そんな依頼があると良いな。」

 

 夕食前に、明日の準備を整える。

 と言っても、装備ベルトに新しい長剣を取り付けて、ベルトに真鍮の水筒を取り付けただけだが、食事を必要としない俺達にはこれで十分だ。


 夕食は黒パンに野菜たっぷりのシチューだった。

 ついでに、小さな木製のカップに蜂蜜酒を貰う。アルコールは直ぐに分解してしまうから酔う事は無いが、ちょっとした甘味を久しぶりに味わった。


 俺達が食事をしていると、村人が数人入ってきた。

 安酒を注文して、仕事の後の一杯を楽しんでいる。酒で饒舌になった村人の会話を聞きながら、村周辺の状況を分析するのも面白い。


 「…それで、畑にいたダームは蛹になったようだ。明日には成虫だから危なくて近寄れねえ。」

 「村のハンターは赤8つと5つだったか、奴等じゃちょっと無理だな。黒が来てくれれば良いんだが…。」

 「何でも、黒の連中はマケトマムの東に行ったらしいぞ。国の召集では無さそうだが、それなりの金額を国が提示したらしい。」

 「なら、あの畑は今期は使えねえ事になりそうだな。…良い畑なんだが。」


 ダーム?初めて聞く名前に、記憶槽の図鑑を開く。

 「ありました。虫の一種ですね。幼虫には毒があり、成虫は両手に鋭い鎌を持っているようです。」

 俺も該当する頁を見つけたぞ。

 芋虫の化けもんだな。成虫はどう見てもズングリした蟷螂だ。

 討伐証は触角か…。面白そうだな。

 フラウに頷くと、俺に頷き返してくれた。これで明日の狩りの獲物が決まったぞ。

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