M-047 ダーム狩り
次の朝、俺達は朝食を取るとギルドに向かった。
ギルドのホールには先客のハンターが掲示板の前で今日の依頼を吟味している。終るまで、テーブルで待っていると、2人連れの少年が近付いてきた。
「お姉さん達は、今日の狩りを決めたんですか?」
「一応決めている。」
「それは、残念です。西の森にガトルを狩ろうと思っていたのですが…。」
「悪かったな。今日は無理だ。俺達は、ダームの成虫を狙う心算だ。」
その言葉に、少年達も吃驚していたが、掲示板を見ていた3人組みのハンターも俺達に振り向いた。
そして、改めて依頼書を眺めている。
「ダームですか…。そこまでレベルが開いていたとは申し訳ありません。」
「構わないさ。ガトルなら昨年随分狩ったものだ。ここでも狩れるなら次には付き合うよ。」
そう言って、ハンターが去った掲示板に歩いてダーム狩りの依頼書を探す。
「これではないでしょうか?…成虫とは書いてありませんが、他にはダーム狩りの依頼書がありません。」
「成虫になったのを見たのが昨日ならそんな所だろう。幼虫でも問題がありそうだ。俺達で狩るのに問題はないと思う。」
俺の言葉に、フラウが依頼書を剥ぎ取ると、カウンターに持っていく。
何か、ギルドの職員と話しているのは、場所の確認だろうか?
「やはり、この依頼書で間違いはなさそうです。成虫ならば報酬を追加すると言っていました。」
「場所は確認できたのか?」
「村の西門を出て農道を歩いていけば分かると言っていました。2本の立木があるところで目撃例があったそうです。」
俺達がギルドを出ると、先程の少年達も俺達の後から付いてくる。ガトル狩りの方向が同じなんだろうな。
通りを少し歩くと、釣り橋があった。
村の真中に吊り橋があるなんて凄いな。そんな事を思いながら吊り橋を渡ると、新たな村の家並みが広がる。
どうやら、川を挟んで村を作ったみたいだな。
村の東は深い森だがこっちには荒地が広がっているようだ。
西の門と言っても、門の向きは来た向きだ。門番さんに片手を上げて挨拶をすると、西に大きく曲りながら続く野良道を歩いて行く。
少し歩くと、南に砦が見えてきた。砦の周辺は農地が広がっている。
「ギルドで聞いた開拓団でしょうね。数百人の規模で働いているようです。」
「結構規模が大きいな。ここから西に行けばカナトールだけど、どうなってるかな。東で大きな戦があったと聞いたけど、たぶんこの辺りになる筈だ。だが、そんな気配は全く無いぞ。」
「あれから1年以上経っています。両国とも軍を引いたのではないでしょうか?」
たぶん、そんな事だとは思うけどね。その後のカナトールが少し気になるところだな。
どんどんと西に向かって歩いて行くと、少年たちが道を反れて北の山裾にある森に向かって歩いて行く。
ガトル狩りは森の近くか…2人のレベルはどの程度なんだろうか。最低でも赤5つ以上は欲しいところだな。
そんな事を考えながら歩いていると、遠くに2つの立木が見えて来た。
あれが、ダームの目撃例がある所だな。
その少し手前で、潅木の茂みから薪を取って焚火を作る。フラウが直ぐにポットをとりだして水筒の水を入れてお茶を沸かし始める。
「虫ですから、生体反応は小さいですし、サーマルモードも役に立ちません。そして周囲の動体反応ですが半径1kmにはラッピナより大きなものは見当たりません。」
フラウがお茶を飲みながら俺に告げた。
「確かに静かだな。幼虫なら芋虫だから目撃地点近くにいるかもしれないが、成虫になると羽根があるから移動しているのかもしれない。」
そう入っても、あの立木付近から渦巻き状に探索範囲を広げれば良いだろう。
成虫は肉食らしいから、獲物が近付くのをジッと待っているのかもしれない。
お茶を飲みながらパイプを楽しむ。何時の間にかスモーカーになってしまったが、何時もパイプを咥えているようなヘビイではないから、大丈夫だろう。それに、俺にはタバコの害は一切無いし…。
焚火にお茶の残りを掛けて火を消すと、いよいよ狩りの始まりだ。俺達は、ヘッドディスプレイに生体感知機能と動体検知機能を作動させて周囲の反応を調べながら、ゆっくりと立木に向かって歩き出した。
「やはり反応がありません。移動したものと考えます。」
「となれば、大きく回りながら調べよう。先ずは南東方向に歩いて、時計回りに探す事にすれば、その内に出会う事になる筈だ。」
そう言って一気に南東へ2km程走ると、今度は時計回りに先程より速度を落として走り始めた。
30分程掛けて1周したが、ダームの姿は見つけられなかった。更に2km南東に移動して同じように荒地を走る。
「このまま走ると森の中に入ります。」
「仕方無いけど、このまま行こう。目撃地点から外側に向かって調べているんだ。森も調査の範囲と考えて良い。」
そして俺達は森の中に入った。流石に走る訳には行かないから早足で森を歩いてく。
突然フラウが立止まる。ヘッドディスプレイをチラリと見た俺もその原因が分かった。俺達の前方にギルドで出会った少年が狩りをしているようだ。
2人の少年に赤い光点が数個集まっていく。次々と光点が消えていく所を見ると、少年達のレベルは赤の上位だと思える。
あれなら、俺達を誘う事も無いだろうに…。
「少年の左先を見てください。動体反応は皆無ですが、小さい生体反応が確認出来ます。サーマルモードの反応なし。間違いなく虫の反応です。」
急いで、生体反応を見る。距離は200m程度だな。確かにサーマルモードでは確認できない。
そして、動体反応が急激に強くなった。ジッとして動かなかったものが行動を開始した事を俺達に告げる。それでも、サーマルモードの変化は無い。
素早く少年達に向かっていく。その動きは芋虫には見られないものだ。羽根を持つものの動きだな。
「フラウ。ダームの成虫だ。俺が強襲する。フラウは少年の前で待ち構えてくれ。」
そう告げると、一気に体を加速する。5倍モードで重力勾配を前方に設定すると更に加速が増した。
少年達に20m程に迫ったダームの成虫に新しい長剣で一撃を与えると加速モードを通常に戻す。
振り返った俺の目に映ったものは、蒼い血をぱっくりと口を開けた胴体上部から溢れだした大カマキリのような昆虫だった。
大カマキリは見た事があるけど、非常に良く似た形状だ。これが、ダームの成虫なのか。
胴体を狙った心算だが、両断には至らなかったようだ。それでも片方の羽根は半分ほどに斬り裂かれて短くなっている。あれではもう空は飛べないだろうな。
再度長剣を振り上げてダームに肉薄して、先程傷を付けた腹にもう一撃を加える。と同時に、ダームの頭部に回りこんだフラウが、長剣を振り回してダームの鎌となる腕を切断した。
ドサっと音がして千切れた腹の後部と両方の鎌が地面に落ちる。
それでも、ダームは俺達を睨んで顎をガチガチと鳴らしている。
残りの足もあるし、胸と頭部には傷が無い。致命傷を受けてはいるが、まだまだ息の根が止まるまでには行っていないようだ。
長剣を仕舞うと、ベレッタを抜いて、胸に2発素早く撃ち込んだ。
フラウも頭部に向けてベレッタを1発撃った。
流石にそこまですると力なくダームが地面に這いつくばる。追い討ちを掛けるようにフラウが長剣で頭を落とした。
そんな俺達の戦闘を10m程離れたところで食い入るように少年達が見ていた。
フラウが触角を切り取ったところで、俺達に近付いてくる。
「助けて頂き申し訳ありません。狩りに夢中で気が付きませんでした。」
「無事で良かったな。そして気にするな。お前達の狩りの腕は中々だった。もう直ぐに黒じゃないのか?」
「はい。赤の8つです。今年中には黒になろうとこの村に来ました。」
そんな少年達と焚火を作って少し遅い昼食にする。
少年達はお弁当を持ってきたようだけど、俺達は簡単なスープだ。鍋に乾燥野菜と干し肉、それに水を入れて焚火に掛ける。
俺達がのんびりとスープを味わっていると少年達はポットでお湯を沸かし始める。
俺達の簡単な食事が終ると、シェラカップを水筒の水で洗って、ポットのお茶をご馳走になった。
「俺はガリク、こっちはアリオンと言います。先程言ったように赤8つでサナトールから来ました。」
「俺は、ユング。そしてフラウだ。黒3つだが、実力はそれ以上だ。幾ら狩りをしても俺達のレベルは上がらない。エントラムズの将軍が気の毒がって黒3つにしてくれた。」
「話には聞いた事があります。でもそんな人を見るのは初めてですね。確かに、さっきは驚きました。やっと狩りが終ったと思ったら突然ダームが現れましたからね。そして次の瞬間にフラウさんが俺達の前に現れて、あっという間にダームの鎌を落としてくれました。あの時フラウさんが来てくれなければと思うとゾッとします。」
「俺達の身体能力はネコ族並みだ。」
「それにしてもです。俺達も【アクセル】は使っていましたが、あれ程の移動は出来ません。」
俺は、笑って彼等に答える。身体機能5倍増しだからな。【アクセル】と言う奴は精々2割程度の上昇だと聞いている。彼等が驚くのも無理は無い。
そんな話をしてお茶を飲むと、皆で村に帰る事にした。
焚火の始末には念を入れて、残ったポットのお茶を撒いておく。森だから、万が一にも山火事を起す事が無いようにしなければならない。
「それにしても長剣を片手で扱うんですか…。」
「俺達は、こう見えても力はある。両手で握っても良いが、片手の方が使いやすいんだ。」
俺達の長剣を見ていたのだろう。アリオンが俺に聞いてきた。
「俺も長剣を使いますが、とても片手で扱う事は出来ません。少し長剣の使い方を教えて貰おうとしたんですが、片手で扱うんではダメですね。」
「教える事は無理だよ。俺達も長剣を使って戦う事は余り無いんだ。…普段は杖を使ってる。今回は新しく長剣を作ったんでその調子を見るためさ。」
是非見せてくださいと言うので、長剣を抜いて彼に渡した。
しきりに握ったり、構えたりしていたが、最後に溜息をついて返してくれた。
「やはり、数打ちとは違いますね。そして、この長剣は俺には無理です。この長剣、長くないですか?」
「あぁ、少し長めに作った。斬るために特化したんだが切れ味はまあまぁってところだな。」
それでも凄いとアリオンが感心していた。黒になったら、長剣を作ろうと考えているらしい。どんな長剣を作るか悩んでいるとの事だが、やはり今の長剣と同じような形になるだろうと言っていた。
「片刃の剣は初めて見ました。使いづらくないですか?」
「それ程気にはならないぞ。包丁だって、鍬だって片刃だろう。それと同じだよ。」
どうも、彼には剣は両刃という観念があるらしい。
俺はどっちでも良いと思ってる。最初の長剣は両刃だったからね。




