終章 最後の保管者
## 終章 最後の保管者
最終保管庫が宇宙へ帰還してから数年後。
智慎太郎は複製された資料を改めて整理していた。
膨大な記録の中には技術書もあれば農業書もある。
歴史書もある。
行政書もある。
その中に、一冊だけ妙に簡潔な文書があった。
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題名もない。
著者もない。
ただ数行。
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> 水を守れ
> 土地を守れ
> 流通を守れ
> 情報を賢者のごとく守れ
> 四つの秘密防衛組織で国家を守れ
> 修羅の世界の人間には決して広げるな
> 信用できなければ人工知能付きのロボットに守らせよ
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慎太郎は何度も読み返した。
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「これが結論か」
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何万冊。
何十万冊。
何百万冊。
古代文明の知識を読み解いた先に残された要約。
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水。
土地。
流通。
情報。
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どれも派手ではない。
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だが文明の土台だった。
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水を失えば飢える。
土地を失えば住めない。
流通を失えば都市は死ぬ。
情報を失えば同じ失敗を繰り返す。
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古代文明はそれを知っていた。
だから何千年も残した。
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慎太郎は王へ提出した。
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国王は読み終える。
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沈黙。
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そして言った。
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「単純だな」
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慎太郎も頷く。
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「だが難しい」
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「その通りだ」
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宰相も同意した。
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「結局、国家運営の本質かもしれませんな」
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その後。
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王国は四つの保全機関を設立した。
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第一。
水資源監察院。
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第二。
国土保全院。
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第三。
流通監督庁。
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第四。
情報保存院。
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いずれも派手な組織ではない。
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だが国家の基盤を守る役目を持った。
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しかし問題があった。
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人間だった。
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百年。
二百年。
三百年。
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制度は変質する。
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権力争いが起きる。
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私欲も生まれる。
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慎太郎は歴史を学んでいた。
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どんな優れた制度も。
どんな立派な理念も。
人が継ぐ以上は揺らぐ。
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だから悩んだ。
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信用できる後継者はいるか。
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十年考えた。
二十年考えた。
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そして結論に至る。
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「いない」
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悲観ではない。
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人は善にも悪にもなる。
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それが自然だった。
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だからこそ。
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慎太郎は古代文明の資料を再調査した。
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天空知識院。
ネレイス。
アルグラード。
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その結果。
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古代文明が残していた自律管理技術を発見する。
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知識管理用人工知能。
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教育補助用人工知能。
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長期監視用人工知能。
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そして。
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管理ロボット。
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慎太郎はそれらを復元した。
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数十年を費やして。
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完成。
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四体の管理者。
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水を守る者。
土地を守る者。
流通を守る者。
情報を守る者。
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彼らは王にも従わない。
貴族にも従わない。
商人にも従わない。
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ただ使命だけを守る。
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後年。
人々は彼らをこう呼んだ。
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**四守護機。**
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千年後。
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王朝は変わった。
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国境も変わった。
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言葉も変わった。
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だが。
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河川管理記録は残っていた。
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土地台帳も残っていた。
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流通網も維持されていた。
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知識庫も残っていた。
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その背後には。
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無言で働き続ける管理機械たちがいた。
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人々は神話だと思っていた。
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夜の図書館を巡回する銀色の人影。
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誰もいない水門を整備する管理者。
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百年前と同じ顔の監察官。
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誰も正体を知らない。
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ただ一つだけ伝説がある。
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遥か昔。
一人の冒険者がいた。
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宝を求めず。
知識を求めた男。
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その男が。
文明を未来へ渡したのだと。
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そして四守護機の最深部には、
慎太郎が最後に残した短い命令が今も保存されている。
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> 人を支配するな。
> 人を導き過ぎるな。
> ただ守れ。
> 未来へ渡せ。
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それだけだった。




