第一話 変身の男
#### 第一話 変身の男
シアロアルス王国。
王都レノアオは、大陸有数の大都市だった。
石畳の大通り。
商人の馬車。
冒険者ギルド。
王城の白い塔。
少年時代の智慎太郎は、そんな街で育った。
前世の記憶を持つ転生者。
彼の夢は単純だった。
「冒険者になりたい」
未知の遺跡を探し、
魔物と戦い、
仲間と旅をする。
そんな人生を望んでいた。
しかし神から与えられた能力は少し変わっていた。
---
**スキル**
* 変身
* 男性限定
* 老人、青年、子供
* 平民、兵士、貴族
* どの階層の男性にも変身可能
* 万能武術LV5
* 剣術
* 槍術
* 弓術
* 格闘術
* 短剣術
* 斧術
すべて一定以上の腕前で扱える。
---
十八歳。
慎太郎は冒険者登録をした。
だが現実は厳しかった。
冒険者の仕事の九割は雑務。
荷物運び。
害獣駆除。
護衛。
夢見たような冒険は滅多にない。
そんなある日。
彼は酒場で偶然聞いてしまった。
「スパイ隊長が殺されたらしい」
「暗殺だと」
「王国情報局は大騒ぎだ」
慎太郎は興味本位で耳を傾けた。
その三日後。
王国情報局の男たちが彼を訪ねてきた。
---
「智慎太郎殿」
「はい?」
「少々来ていただきたい」
「え?」
---
連行された先は王城地下。
そこで見せられたのは調査書だった。
慎太郎自身の。
冒険者登録。
出生記録。
訓練記録。
交友関係。
全部調べられていた。
「怖いんですが」
「安心しろ」
白髪の老人が言う。
「お前を逮捕するつもりはない」
「なら?」
「雇いたい」
---
話は単純だった。
前任スパイ隊長が暗殺された。
犯人不明。
内通者も不明。
組織は混乱。
そんな時に現れたのが慎太郎だった。
変身能力。
これが強すぎた。
兵士になれる。
商人になれる。
貴族になれる。
盗賊団にも潜り込める。
王国にとって理想的な人材だった。
---
「冒険者になりたかったんですが」
「国家予算で世界中を旅できるぞ」
「!」
「しかも危険手当付き」
「詳しく聞きましょう」
---
こうして。
智慎太郎。
冒険者志望。
二十一歳。
職業。
**シアロアルス王国情報局・局長兼スパイ隊長**
になった。
---
初任務。
国境都市カルド。
最近、不自然な武器の流通が確認されている。
慎太郎は変身した。
四十代の武器商人。
腹の出た男。
口ひげ付き。
誰が見ても別人だった。
---
武器商人A
「最近景気はどうだ?」
慎太郎
「まあまあですな」
武器商人B
「戦争でも始まれば儲かるんだが」
慎太郎
「物騒ですな」
---
三日後。
情報を掴む。
武器の流れ。
資金源。
密輸経路。
黒幕候補。
全部見えた。
そして帰還。
---
局員たちが呆然とした。
「三か月案件ですよ?」
「終わった」
「え?」
「報告書書いたから」
「え?」
---
報告書。
三百二十ページ。
証拠付き。
地図付き。
関係者一覧付き。
---
王国情報局は震えた。
「隊長がおかしい」
「優秀すぎる」
「前任者十人分働いている」
「変身能力怖い」
---
慎太郎はため息をついた。
「冒険者になりたかったなあ」
局員が言う。
「隊長」
「何だ」
「国家規模の潜入任務があります」
「どこだ」
「隣国です」
「また旅か」
「はい」
慎太郎は苦笑した。
冒険者にはなれなかった。
だが気づけば。
世界中を旅し、
危険地帯へ入り、
秘密を追い、
様々な人間に出会う生活になっていた。
ある意味。
誰よりも冒険者らしい人生が始まろうとしていたのである。




