第62話 見えない意図
「あ、忘れてた」
マガツモノの素材を加工していたメーテラが、途中であることを思い出す。
今日の朝に来たエマとチュフォンに言われて『フリマサイトのメッセージ欄を開放していなかった』ということを思い出す。
もともとはマキアから詐欺の連絡があるかもしれないからとメッセージ欄を閉じていた。しかしそうすると製作依頼の受注が出来なくなり、商品に関しての細かい交渉もできなくなる。
当然、詐欺の連絡もあるだろうがこれからのことも見据えて解放するべき。
エマとチュフォンにそう言われたことを今思い出した。
「こういうのは忘れないうちにやっちゃわないとねぇ~」
メーテラは独り言を呟きながら通信端末を開き、メッセージの欄を開放する。
「うわ、いっぱい来てる」
製作依頼から詐欺っぽいのまで、メッセージ欄を見るとずらりと並んでいた。中にはエマとチュフォンがしたと思われる製作依頼もあり、他にも特に関係のないメッセージなどがある。
「……ん?」
その中に一つ、メーテラの目に留まったものがあった。
製作依頼でもない、詐欺にしては他と毛色が違いすぎる内容だ。
「オークション?」
カルロスという男から『私が主催するオークションに参加してみませんか』という旨のメッセージが届いていた。
◆
「よーし、じゃあお楽しみの地下道探索だ」
ホール場のマガツモノを殲滅した後、一度回収できそうな死体を車両に運び込んでから地下道の入り口にマキアたちは戻ってきた。
情報端末に目を向けながら地下道の入り口に最初に足をかけたのはエマだ。
地下道への入り口は案外綺麗で、壁や天井はひび割れていなかった。
他の場所とは明らかに違う状態であるため、マキアはさらに警戒しつつエマのあとをついていく。
階段はあまり長くなく、すぐに地下道へとたどり着いた。
「うわぁ……」
「うわ、なんですか、これ」
「うーん」
地下道に一歩足を踏み入れた時、三人とも声を漏らした。
共通していたのは、そのすべてが好感的ではない、ということだ。
まず先に足を踏み入れたエマが一歩さらに踏み出してみて、地下道の様子を確かめる。
地下道はとても前哨基地跡とは思えないほどに綺麗な状態を保っていた。
ひび割れ一つないく、シミすらな純白の天井と壁、地面は大理石のような素材でできており、わずかに透けている。壁に埋め込まれた証明が地下道をずっと先まで照らしていた。
かなり長い地下道だ。
しかし照明が等間隔で置いてあるため、道の終着点までしっかりを確認できる。
「あれは……扉かな?」
エマが歩きながら呟く。
地下道の終着点には扉らしきものがあった。
ホログラムで扉が表示されているだけかもしれないし、そもそも地下道自体が今見ている姿とは実態が異なるかもしれない。しかし視認できる情報でも、情報端末に映る情報でも、確かに地下道は一本の道で終着点には扉があった。
マキアの後ろを歩き背後を警戒しながら情報端末を見ていたチュフォンが声をあげる。
「そうだね、確かに扉に見える」
情報端末は音波探知によって壁の一つ奥まで把握することができる。その結果得られた情報は、地下道が一本道であることと終着点に扉があること、そしてそれ以外に何もないことを映し出していた。
ただ、一つ気になる点がある。
「扉の先は……駄目みたい。情報が取得できないわ」
扉は離れた場所にあるものの、探知範囲内だ。
チュフォンが持つ情報端末のであれば扉の奥まで索敵できるはず。
しかし、情報端末は扉から先の情報を取得できていない状態だ。
「不気味ね」
扉の先の情報が取得できないだけじゃない。
そもそもとして、地下道がここまで綺麗なことが不気味だ。
自動修復機構によって改築された部分は大抵、劣化した設計図によって不格好な形で修復される。新しく作られた建物が血管を抱えているため崩壊するのや、歪な形の建物ができあがるのもそのせいだ。
しかし、地下道には一切の欠陥がない。
その上でさらに不気味な点がある。
まず気が付いたのは先に地下道に足を踏み入れたエマだった。
「いや~いったい、どんな設計図が組み込まれてたんだろうね」
自動修復機構は設計図の劣化や建築資材不足などの要因によって勝手に設計図を変えて建物を作ることや、設計図通りに作り歪な建物を作ることが多々ある。
しかし、設計図にない建物を作ることはない。拡大解釈されることはあれど、無いものを新しく設計することはない。つまり、この地下道はもともと設計図の一つとして自動修復機構の中に組み込まれていたということになる。
いったい、レイダーズフロントはどういう目的があってこの場所を設計したのか。
「ま、気にしてもしゃーない。行くっきゃないっしょ」
エマは楽観的に考えて足を進ませる。
どれだけ気にしたところで対処できない問題というものはあるし、地下道の不気味さについて議論したところで答えが出る状況でもない。今は最低限配慮できるだけの危険性気を付けて進むしかない。
すでに扉との距離は縮まって、もうすぐでたどり着くところだ。
「……ん、空いてるっぽいね」
扉に近づいてドアノブに手をかけたエマが呟く。
半開きになった扉からは中の様子が少しだけ見えた。
エマは注意深く中を見てから振り返ってチュフォンとマキアを見る。
マキアとチュフォンはそれぞれ無言で準備が完了していることを、それぞれ視線とジェスチャーで訴えた。
エマはそれを見てから、合図を出して扉を開ける。
「……」
中に機械系マガツモノの姿はない。
一面が白い壁に囲まれ、鬱陶しいほどに明るいライトが灯っている。
「これは、手術台?」
部屋の中心には手術台が置かれていた。
エマが手術台に近づくと、マキアとチュフォンも周囲を警戒しながら近づく。
そして手術台を覗き込んだ時、言葉を失った。
「……きな臭いとは思ってたけど」
エマが呟く。
手術台には一つの遺体が落ちていた。身体はいびつに切り開かれている。腕や足、腹や頭蓋に至るまですべてだ。血液は一切流れ出ておらず、何かを切り開いて取り出した跡だけが残っている。
しかし、内臓は抜き取られていない。
臓器が目的ではない。
かといって切り開かれた場所を見てみても、何を目的にしていたかを予測するのは難しい。
少なくとも今わかるのは、異常事態が起きていることだけだ。
三人が言葉を悩み、対応を遅らせた。
その瞬間、部屋の奥にある扉が開く。
三人が一斉に銃器を向けた。
「ん? んんん?」
そんなマキアたちを見て《《扉の先から現れた人間》》は唸った。
瘦せ型で眼鏡をつけ、白衣を羽織った男だった。
男はマキアに一度、集中的に視線を注いでから他の二人に視線を向ける
それから口を開いた。
「まさか客人が来るとは」
男がしゃべったことで緊張感が増す。同時にエマが声をあげた。
「誰? お前」
「わたし? 私ですかな?」
男はバッと両手を広げる。
「あいあーむ! マッドドクターッ!」
突然のことにマキアたちが固まる。その姿を見た男――マッドドクターはお辞儀をしてから、改めて自己紹介をした。
「あ、失礼。マッドドクターと申します」




