第61話 地下道
「まあ、こんな感じかな」
機械系マガツモノの死体を運搬用ロボットに乗せながらエマが呟いた。エマもチュフォンも地上で活動しているレイダーというだけあって実力が高い。使っている武器は、地上から地下に個人で持ってこれる武器のランクに制限があるため、マキアが使っているLK-MOTO『R』と同等程度のものを使用していた。
加えて、車両や運搬用ロボットなどを彼女たちが持ってきているはずもないので、マキアがいつも使っているものを使用していた。
「こんな旧式の運搬用ロボット見るの久しぶりだよ。地下都市は旧型で溢れてて面白いね」
凸凹の地面を、大量のマガツモノを乗せて走る運搬用ロボットをエマが眺めている。
確かに、彼女が言うように地下都市は旧型で溢れているのかもしれない。運搬用ロボットに限らず、設備類や車両、考え方に至るまで旧型だ。地上に住むエマには新鮮に見えるだろう。
オンボロの運搬用ロボットが壊れないか少しだけ心配しながら、マキアは二人の方を見る。
「どうしますか、この辺で終わりにしておきますか?」
素材の回収はほとんど済んだ。後は、より上質な素材を求めて前哨基地の内部に行くか、それとも帰るか。
マキアとしてはどちらでも構わないため、二人の意見を伺った。
するとエマが情報端末を取り出して、画面を一緒にチュフォンと見る。
「情報端末の自動マッピングで、ここら辺に地下道があるらしいんだけど、行ってみない?」
エマとチュフォンが所有している情報端末は、前回の『B-1』探索の際にレイダーズフロントから渡された物と同じで、音波や振動を用いた自動マッピング機能と索敵機能を備えていた。
マキアたちが機械系マガツモノを狩る際中にも情報端末は起動し続け、周囲の地図を作り続けていた。
前哨基地跡は自動修復機構によって自己増殖を続けているが、記録されている設計図が不安定なこと、周囲の粗雑な素材を代用品として使っているため、建物は作られたとしても歪な形であったり、建築資材が違うため勝手に崩れることが多い。
現に『B-1』は自動修復機構が活きているとは思えないほどに荒れ果てていた。
その中にあって、情報端末が記録した地下道は崩れず、設計図通りの形を保っている。
本来は、こうした明らかな異常には近づくべきではない。
しかし地下の探索場所ということもあり、地上に比べてマガツモノが弱い。その上、より上質な素材が欲しいこともあって、エマとチュフォンの二人は地下道を探索することを提案した。
(地下道か……)
危険性が高い場所であるため、マキアは慎重に思考を巡らせる。
『B-1』はすでに一階と二階部分が瓦礫によって完全に埋め立てられていた。三階部分は新たな壁が作られ、侵入がより困難に。さらに四階を作ろうと天井と浸食しながら建物を作っている。
地図を見る限り、地下道へは二階から入ることができる。つまり、『地下道』と言ってはいるが、一階の通路ということだ。
(一階か)
一階はまだマキアも足を踏み入れていない。発電機が稼働していた場所だ。
アメリアの説明で、電力の異常供給はすべて自動修復機構のせい、ということになっているが、なかなか腑に落ちない。加えて一階を探索するということは、自動修復機構を稼働させている基幹システムのある場所に向かうということ。
もし自動修復機構が防衛システムを再構築していて、防衛システムがマキアを敵だと認識するような状態ならば、安易に立ち寄るべきではない。
(ただ……)
マキアはアメリアから『B-1』を探索を探索し、情報を集めてくるよう新たに依頼されている。
その際、自動修復機構を稼働させている基幹システムを見つけ次第、破壊するよう伝えられていた。もし自動修復機構を破壊できれば、多額の報酬が支払われる。加えて今はマキアよりも実力、経験共に高いエマとチュフォンもついている。
マキアから地下道の探索を提案するならばまだしも、二人からの提案だ。
時間はまだ十分にある。
「分かりました。少し休憩してから向かいましょう」
ただ、とマキアは続けた。
「おれからの説明を聞いた後、また判断してください」
二人とマキアとでは『B-1』に関しての知識に差がある。二人が『上質な素材が欲しいから』という理由だけで、マキアが考慮しているリスクすべてを受け入れて探索するのならば、その時は地下道へ向かおう。
地下道の探索は二人とマキアの知識と認識を合わせてから決断を下すべきだ。
マキアはそう考えると、話し始めた。
◆
地下道へと行くための行程自体はあまり危険ではない。
自動修復機構による改築の結果、二階へと繋がる道が多くなったためだ。
以前、マキアが探索していた時は二階へと繋がる道が少なく、また二階は機械系マガツモノの住処となっていた。しかし今は――機械系マガツモノの数こそ変わらないものの――二階へと入るための入り口は広くなっているし、数も増えている。
その上、地下道の入り口はは前哨基地跡の中心部にあるわけではない。
改築を繰り返し迷路のようになった『B-1』は中心まで向かうだけでかなり疲弊する。その上、そこから地下道へ向かうというのは、すでに素材の回収のため戦闘をしたマキアたちには重労働すぎる。
その点、地下道までの行程に機械系マガツモノが少なく、距離も離れていないことは、エマとチュフォンの『地下道を探索しよう』という意見の後押しとなった。
「ここから二階だね~」
すでに一度探索したこともあり、エマとチュフォンは止まらずに前哨基地跡の中を、二階への入り口に辿り着いた。
二人はそれでも道中、軽快に進みながらも気を付けなければならない場所には意識を配っているし、機械系マガツモノの処理も完璧だった。
マキアはついていくだけで精一杯だ。
「少し休む?」
「いや、大丈夫です」
エマもチュフォンも思ったよりも他者を見ている。マキアが彼女たちについていくので精一杯で、かなり疲労していることも見抜いていた。
しかし、すべて自己判断で、自己責任で動くレイダーが自らの状態を鑑みて『大丈夫』と発言したのならば、それまでのことだ。
「分かった。じゃ、向かおうかな」
階段は横に広く、天井は狭い。幸いにも自動修復機構が活きているおかげで部分的に明かりが点燈している。
足元や壁、天井に至るまで凸凹であり、改築のミスで生まれた欠陥だろう。
三人は順調に階段を下り、踊り場に辿り着く。
踊り場の壁は崩落しており、ホール場のように開けた二階を上から見下ろすことができた。
(変わってんな)
場所が違うとはいえ、マキアが前に見た二階の光景は横も縦も狭く、迷路のように入り組んでいる場所だったはず。このようなホール場のような場所は無かった。三人は踊り場で立ち止まり、ホール場の空間を見る。
地図の表記ですでに開けた空間があることは分かっている。
地下道への入り口はここからかなり近い場所にある。
ホール場に降りて一分ほど進めば辿り着く。
だが、ホール場を散歩してたどり着けるほど甘くはない。
「あのシミみたいなのは機械系マガツモノです」
「おー、あれね。言ってたやつ」
「索敵に引っかからないという話は本当だったのね」
二階には変わらず、壁に張り付く機械系マガツモノが大量に生息していた。
地下道へ行くためにはまずは掃討する必要がある。
もし取りこぼして地下道へ向かったら、生き残った個体に後ろから奇襲されでもしたら面倒だ。それどころか、地下道で目の前から敵が現れた場合、挟み撃ちになる可能性もある。
三人は一度、装備の状態を整えて万全の状態にしてから、エマが銃を構えた。
「では、行きますか」
チュフォンとマキアの二人はエマに続いて階段を下る。
基本的に三人ともやることは変わらない。
一番前をエマが、真ん中にマキアが、最後尾にチュフォンが来るように進む。基本的にマキアは二人に比べて実力が足らないため、中央に配置してフォローしやすい形になっている。
ただ、今回はホール場で待機しながら機械系マガツモノを掃討する必要性があるため、進む際に使っていたこの隊列は使わない。
踊り場からひたすらに機械系マガツモノを撃ち殺すだけだ。
まず最初に引き金を引いたのはエマだ。
小銃の弾丸が壁のシミに擬態していた機械系マガツモノを一発で打ち砕く。その瞬間、ホール場にいた機械系マガツモノが一斉に動き始める。だが特別硬い装甲を有しているわけではなく、小銃とチュフォンが使う散弾銃によって近づくことすらできずに破壊される。
マキアはLK-MOTO『R』で遠くにいる個体を優先的に討伐していく。
放っておけば機械系マガツモノが銃弾や爆薬の類を飛ばしてくるため、奥で固まっている個体も優先的に破壊しなくてはならない。近くにいる個体はエマとチュフォンさえいればまず脅威にならない。
一人だけではこの数を相手にすることはできなかった。
近くの個体に対処を追われ、奥からは銃弾を浴びせられ。
(……ッチ)
二人とマキアは使っている武器の種類こそ違うものの、性能や価格帯はほぼ同じ。装備も環境も状況も、ほぼ同じ条件ということもあり、彼女たちの細かい射撃制度や判断の精度がマキアよりも優れていることが如実に分かる。
地下で女王を倒し、懸賞首を討伐し、ジャンを殺した。しかしこれだけでは地上で戦うレイダーには遠く及ばない。レイダーランクの最高位『7』に到達したレイダーや、最高品質の武器にのみ与えられる『壱』の禍具を持つレイダーなど、上を見ればキリがない。
『地上に出る』ことを目標にしているようなレイダーやテイカーロッジでは足元にすら及ばない領域だ。
それでも、絶対に辿り着けない場所ではない。
だが尋常ではない努力が必要だ。
エマとチュフォンとの差を自覚し、受け入れ、成長する。
(まだやれる)
マキアはより深く集中し、照準器を覗き込む。




