第57話 100万の価値
メーテラが作った防護シールドは100万リムという、破格の値段で売れた。
オークションに参加したのは二人のみ。その二人の購入者が競うように金額を釣り上げた結果だ。
「こんな高く売れるんですね」
やっと事態を飲み込めてきたマキアは、壁に寄りかかりながら改めて取引画面を見ていた。
今回の取引で得た100万リムと未探索領域の探索報酬である200万リム。計300万リムを数日で稼いでしまった。
(金銭感覚バグるな……)
加えて機械系マガツモノの売却代金も追加される。
というより。
「あの防護シールド一枚でこんな値段がつくもんなんですか?」
元は機械系マガツモノの装甲だ。売るのならば1万か2万リム程度にしかならない。
加工することでそれが100万リムで売れる防護シールドとなった。
にわかには信じがたい。
作った本人であるメーテラもマキアと同じ感想を抱いていた。
「うーん、せいぜい、私が作ったやつは高くても30万リムぐらいにしかならないはずなんだけど……」
メーテラは防護シールドの相場をあまり知らない。しかし他に出品されている製品などを見た時、自分が作った防護シールドの素材や強度を考えて、高値がついたとしても30万リムが良い所だろうと考えていた。
「なんでだろ……私も分かんない」
「メーテラさんが作ったから付加価値で高値がついたとか?」
メーテラはもともとレイダーズフロントに勤めていた腕利きの加工屋であり、本人も『ファンもいる』と言っていたことを思い出し、二人の購入者が競ったのではないか、とマキアは推測する。
100万リムはさすがに高すぎるかとも思うが、付加価値で値段がつり上がること自体は不思議ではない。二人の購入者が競い合って、引けに引けなくなってこの値段になってしまった、そう考えることもできる。
だが、とメーテラが説明を付け加える。
「私の名前で書いたけど、たぶん地上の時は別の名義で売ってたんだよねー」
商品の説明欄に製造した加工屋の名前として『メーテラ』と記入したが、レイダーズフロントにいた時は別の名義で売っていたこともあり、過去の実績は反映されないはずだ。
ならば以前使っていた名義を使えばいいだけの話。
しかしメーテラは根本的な問題を抱えていた。
「分からないんでしたっけ」
「そうなんだよねぇ」
「普通、知りません?」
「昔の私は……色々と無関心だったからねぇ」
レイダーズフロントに勤めていた頃のメーテラは、加工できればそれだけでよかったから名義のことなんて気にしたことが無かった。加えてレイダーズフロント側は貴重な加工屋であるメーテラの存在を隠しておきたかった。
もし存在が公になれば引き抜きは当然のこと、誘拐や殺害などの被害が出るかもしれない。
お互いにとって良い関係だった。
「聞いてみないんですか?」
「うーん」
レイダーズフロントにどのような名義で売っていたかを教えて貰えれば、遡って自分が作った禍具のことを調べられる。
「もしかしたら、契約で以前の名義を使うことができないかもしれないんだよねぇ」
レイダーズフロントと交わした契約の中に、『レイダーズフロント外で活動する場合に、同名の偽名を使用することを禁ずる』のような一文があった気がしたことを、メーテラは思い出していた。
聞いてみても答えてくれないかもしれないし、今更もう一度関係を持つもの面倒だし、知れたとしても契約で使うことができないかもしれない。
「ま、もういいかな」
『メーテラ』という名前で出したことで防護シールドが高く売れたのか、それとも別の要因があったのかは分からない。
しかし一つだけはっきりしたことがある。
「心機一転。新しく加工屋『メーテラ』として活動しますか!」
過去に縛られることなく、ここから再スタート。
加工屋『メーテラ』……そしてレイダーズフロント『テイカーロッジ』が本格的に始動した瞬間だ。
◆
次の日、メーテラが持ち帰ってきた機械系マガツモノを使ったバンバン加工屋として働いている時、マキアは前哨基地跡『B-1』を訪れていた。
前回探査を終えてアメリアは、前哨基地跡『B-1』を禁止区画から解放する決断を下した。これにより、機械系マガツモノを討伐し、さらに稼ぎを得るために多くのレイダーがこの前哨基地跡を訪れることになるだろう。
マキアはその前に発電機の所在をもう一度確認するために派遣された。
昨日の探索を終えて幾つかのことが分かった。その中でもやはり大きかったのは、『発電機が停止した可能性がある』ということだ。マキアとアメリアが二階の探索を終えて地上に出る際、それまで灯っていたはずの街灯が一つも点燈していなかった。
それに加えてこれまで稼働が確認されていた発電機の信号も消え失せていた。
(きな臭くはあるが)
マキアとアメリアの二人が二階に足を踏み入れたことで発電機が停止した……というわけでもないのだろう。
偶々《たまたま》にしてはタイミングが良すぎる気がする。
アメリアも同様の疑問を抱いており、結果として、『B-1』を探索する前にマキアがもう一度調べることになった。アメリアからは『できれば発電機を見つけて欲しい』と言われているが、あくまでも必須の条件ではない。
一階に入れそうならば発電機を見つけるために赴くが、何かしらの危機を感じ取れば探索はその時点で終わる予定だ。
「さてさて」
いつもと同じように鉄の門をくぐり非保護区域に入る。
数分ほど通路を進めば前哨基地跡『B-1』が見えてくるはずだ。
「……?」
少し進んで違和感を感じた。
発電機が停止したことで、通路をある程度進んだ場所に設置されている街灯は電力が供給されずに灯ってないはず。しかし本来ならば消えているはずの明かりが点いていた。
それだけではない。
「……なんだこれ」
いつもより手前で車両と止める。
その理由は、昨日見た時より前哨基地跡『B-1』が巨大化していたからに他ならない。
「……おい、は?」
傍から見ても分かるほど『B-1』は変化していた。
壊されたはずの外壁は一部修理され、舗装された地面が土の地面を侵食して広がっている。
「こりゃ……」
緊急事態だとすぐに察知し、マキアは車両を逆に向けて走らせた。




