第56話 本来の価値
「確かに、変わっていますね」
前哨基地跡『B-1』の三階部分を探索し終えた時、アメリアが情報端末片手にそう呟いた。
三階はマキアが言っていたように、一年半前の記録と異なる部分が多々みられる。加えて前回探索ではいなかった機械系マガツモノの存在も含め、『B-1』には異常が数多く発生しているようだ。
「このまま二階に行きましょう」
「はい」
実力や経験はおそらくアメリアが上だ。しかし立場上、マキアが先導して前哨基地跡内部を歩いていく。
向かったのは二階へと繋がる入り口だ。
前回と同じように、二階へと繋がる入り口は狭く、暗がりに閉ざされている。
階段を下る前に一度周囲を確認し、崩落によって入り口が埋まってしまう可能性を考慮した。そして入り口が絶対に塞がらないことを確認すると、マキアが先導して二階を下った。
特に何も起きず二階へと到達する。
光景は変わらない。
幾つもの通路が複雑に絡み合った空間が広がっていた。
だが、以前と一つ異なることがある。
(電気が……)
壁に等間隔で埋め込まれていたライトが光っていない。加えて、機械系マガツモノが潜伏しているように思えない。
「報告では、機械系マガツモノ、それからノイズ混じりの音楽が流れているはずですが」
情報端末の探査レーダーに生体反応はない。加えて、マキアが前回の探索の際に記録した、ノイズ混じりの音楽というのも聞こえない。
「少し探索してみますか」
「分かりました」
一階への階段を見つける目的も兼ねて、マキアたちが二階の探索を開始する。
幾つもの通路を歩き回り、時より機械系マガツモノを処理しながら突き進む。
情報端末には逐次、新しい地図が作られ、二階部分の全貌が明らかになっていく。
「……これですかね」
二人が一時間ほど歩き回ったところで、マキアたちは一階への階段を見つける。
三階から二階へと繋がる階段をとは違い、一階へと通じる階段は横幅がかなり広い。
五人程度が横に並んで一緒に下ることができる程度だ。
「どうします、下りますか」
マキアがアメリアに指示を仰ぐ。
「もうすぐで探索予定の三時間になるため無理に進む必要はないのですが……まあいいでしょう」
アメリアは一階へ向かうことにした。
「わかりました」
二階の探索をまだ完全には終えていないが、一階もやはり気になる。
「いや……」
だが、階段を下った先は瓦礫で埋まっていて、それ以上先に進むことができなくなっていた。
アメリアが高性能な情報端末を用いて瓦礫の向こう側を把握しようとするが、一切の情報が得られない。
「困りましたね、これは」
「穴はないですね」
「いえ、そういうことではなく……」
「……」
情報端末を見ながらアメリアが呟く。
「これ、発電機起動してないですね、今」
「え……」
「探知情報に存在が確認できません。それから二階部分に電力が供給されていない点から、おそらく発電機は動いていません」
「え、なんでいま」
「分かりません……ただ、今日確認できる限りで、この前哨基地跡『B-1』の脅威度をある程度測れました」
アメリアは一度時間を確認してから、最後に告げる。
「この様子だと、前哨基地を解放してもいいかもしれません」
もともと、前哨基地跡『B-1』を立ち入り禁止にしていたのは機械系マガツモノの存在と前哨基地に保管されていた機密情報の保護の観点が大きい。今日の探索で機械系マガツモノの脅威度や機密情報の有無に関しても確認できた。
『B-1』にレイダーズフロントの部隊を投入して、一気に制圧するのも選択肢の一つだが、地下都市で活動するレイダーに新鮮な狩場を用意する必要がレイダーズフロントにはある。
高難易度探索場所として『B-1』はちょうどよいのかもしれない。
「ということで、予定の時刻も来てしまいましたし、ここらで探索を終えましょうか」
◆
「あ、メーテラさん」
前哨基地跡『B-1』から無事に帰宅したマキアが、リビングに行くと夕食を作るメーテラの姿を見つけた。
メーテラも横目でマキアの姿を確認すると、顔を向けた。
「おかえり、リディアは今シャワー浴びてる」
「そうですか、おれは少しやることがあるので」
「そっかー、大変だね」
今回の探索依頼の件で、幾つかの契約書の確認や手続きをしなくてはいけない。加えて今日の探査報告をまとめて、アメリアに連絡する必要もあった。面倒なことは早めに終わらせてくつろぐに限る。
さっさと終わらせてしまおう、とマキアが自室へと向かおうとした時、何かを思い出したメーテラが呼び止めた。
「あ、そう言えば前に言ってたフリマサイトに出品したよ」
「防護シールドをですか?」
「うん、オークション形式で締め切り時間が……」
時計を確認するとオークションの終了時間が来ていた。
「っと、もう時間だから確認してみる?」
「メーテラさん見てなかったんですか?」
「いやぁ、なんか忙しくて」
笑いながら頭の後ろをかいて、メーテラが通信端末を取り出す。
そしてフリマサイトを開く。
「どのくらいで売れたと思う?」
「10万行けばすごいんじゃないですか?」
この10万リムという金額も、メーテラの『ファンがいる』という発言を信用した上での発言であり、現実的には1万リムから5万リム、それか売れない可能性もある……とマキアは考えていた。
「私もそのぐらいだと思う」
メーテラはマキアの予想に同意しつつサイトを開く。
「あ、売れてる」
商品が売れていた。
詳細を確認すればいくらで売れたのか確認できる。
「……」
「……? どうしたんですか?」
固まったメーテラを見てマキアが首を傾げて、横から通信端末を覗き込む。
するとマキアも固まった。
「え……」
「え……」
二人して困惑の声を漏らす。
防護シールドは約100万リムで売れていた。




