第54話 加工と探索と
「おお、すごいですね」
テイカーロッジの事務所に帰って来たマキアは、まず最初に加工場に足を運んでいた。
中ではメーテラが機械の試運転を称して、機械系マガツモノの加工を行っていた。
油圧プレス機からベルトコンベヤーが垂れ下がり、オイル類が循環している。
一目見ただけでは絶対に構造を理解できない尋常の機械だ。
「見てよマキア。作ってみました」
そう言ってメーテラがマキアに見せたのは防護服の中に入れる防護シールドだった。
機械系マガツモノは一枚の盾のようなものへと加工され、跡形もない。しかし表面の僅かな光沢などから、基となったマガツモノの輪郭がのぞいている。
「このぐらいなら、マキアの持ってるLK-MOTO『R』だっけ? その弾丸なら三発ぐらい同じ場所に当てても防げるよ」
「え、そんな硬いんですか?」
「衝撃とかは逃がしきれないけどね」
LK-MOTO『R』は機械系マガツモノの装甲を一発で貫く火力を誇る。メーテラが加工した防御シールドは、確かに分厚いが、LK-MOTO『R』はそれよりも遥かに分厚い装甲を貫いてきた実績がある。
「まあそりゃ、私が作ったからそのぐらいはあるよ」
「作った人でそんなに変わるんですか?」
加工用機材は完全に自動化された機械に見える。人間の手が加えられる部分には限界があるため、生み出せる『違い』にも限度があるはずだ。しかしメーテラの口振りでは違うようだった。
その訳をメーテラは自信満々に説明する。
「マキアはさ、解体斧の力を引き出す時、自分の中の『何か』が解体斧の力と繋がったような気がしたでしょ?」
「うーん、まあ、言われてみれば?」
「それと似たようなもの。私はマガツモノを加工する時に力を引き出したり、加工しやすいよう性質を変化させたり、言葉で言っても伝わり切らないかもしれないけど、そういう特別なことをしてるんだよ」
そして、加工時にマガツモノの素材に手を加えられる技能を持った者は少ない。
だからこそ、それができる加工屋は貴重なのだ。
「どう、久しぶりにしてはいい出来だと思うんだよね。使う?」
「いや、一回売ってみましょうよ」
もう防護服を買ってしまったし、マキアには必要のないものだ。
「え~、これ売るの? あんまり出来よくないんだけど……」
「さっきは『出来いい』って言ってましたよね」
「そりゃそうだけど、販売用はもっとちゃんとしなきゃ」
「まま、いいじゃないですか。一回やってみるってことで」
何事もやってみなければ始まらない。
取っておいても仕方ないし、メーテラが許可を出すなら売ってしまってもいいだろう。
「うーん、まあいいけどさ。だけどもう少し手直ししてからね」
「分かりました。じゃあ今のうちに聞いておきますけど、値段はどのくらいにしますか?」
「ね、値段かぁ。どのくらいなんだろ」
「なんで知らないんですか」
「私さ、前にも話したと思うけど、レイダーズフロント勤めの加工屋だったから、作るのは私、売るのは別の人、みたいな感じで私は作るだけだったから、あんまり他のこと知らないんだよ」
「なんで知ろうとしなかったんですか……」
「あの時はねぇ……いい作品が作りたくってねぇ……他のことはあんまり気にしてなかったんだよねぇ。ファンがいる、ぐらいのことは聞いてたけど」
「おれが調べてもどのくらいで販売してたか分からないし、まあ適当に決めるしかなさそうですね」
メーテラが作っていた装備はレイダーズフロントで勤めているレイダーに渡されたのかもしれない。そう考えると同じ組織内で完結しているため、値段の話が出てこないのも納得だ。
それか、完全に秘匿された取り引きをしていたか。
「じゃあどのくらいの値段にします?」
「うーんとね。5万リムぐらい?」
「じゃあ10万リムにしときます」
「え?! なんでぇ?!」
「売れる値段の上限が知りたいので、取りあえず高めで」
メーテラの言っていることは正確ではない可能性が高い。取りあえずその倍で売ってみて様子を見よう。
「じゃあ出品の準備は任せてください」
解体作業員時代、毎日のように見ていたフリマサイトがあるので、そこを利用すればいいだろう。
「わかったー。じゃあ最終仕上げをして……明日ぐらいになるかも」
「分かりました」
取り合えず話がまとまったところで、シャワー上がりのリディアが加工場に姿を見せる。
「あ、マキア服戻ってる」
マキアの服はすでにリディアのものではなく、レイダー用の動きやすい服に代わっていた。
「残念だったな」
もうお遊び人形ではない。
「えー、ざんねん。可愛かったのに」
リディアがため息をついて落胆したような表情を見せる。
ナカムラアームズの更衣室を貸してもらって着替えた後、街を歩いている時に、なぜかすれ違う人にもリディアと同じ視線を向けられた気がするが、気にしないのが一番だ。
「あ、てかそれおれのアイス」
「……ふん」
「『ふん』じゃないよ」
リディアはマキアの足の先から頭まで見て、アイスを軽く噛みながら笑った。
「でも月一ぐらいで服装戻してね」
「『戻す』ってなんだ。今が戻ってる状態だろ」
「わーわー煩いわね」
「それに変な噂が立ったら嫌だ」
マキアはまだ知らない。
大規模攻略作戦で女王を倒し、懸賞首を討伐したマキアというレイダーが、『実は女だったのではないか』『やっぱり女だった』といった噂が広まることになることを。
◆
次の日、マキアは未探索領域『B-1』に行くための通路と安全区域と隔てる分厚い扉の前で待機していた。
アメリアから連絡があり、明日、未探索領域把握のために『B-1』を探索するから来て欲しいとのことだった。その際、安全と調査情報の保証のためにレイダーが一人派遣されるとも聞いている。
車両で来る必要はない、と事前に連絡されていたので、マキアは前哨基地跡探索に行ける装備だけを整えて待機していた。
(……あとすこし……)
約束の時刻まであとわずか。
マキアが通信端末で時刻を確認するとちょうど、一台のトラックが目の前で止まった。
運転席の窓を開けて姿を現したのはハンドルを握り締めたアメリアだった。
「アメリアさん、おはようございます」
「はい。おはようございます。時刻通りですね。では乗ってください」
アメリアはマキアに助手席に座るよう促す。
「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いいたします。『B-1』に向かうまでの間に、事前にお送りいたしました資料について、改めて説明させていただいてもよろしいですか?」
「はい……」
周りを見渡しながら、疑問混じりな声色のマキアを見て、アメリアは首を傾げる。
「何かありましたか?」
「あの……確かレイダーが一人同行するって話でしたよね? 後から来るんですか? それとももう先に?」
「あ、はは。確かに分からないですよね」
アメリアは最初こそマキアの質問に『意味が分からない』といった様子だったが、すぐに意図に気が付くと、口元に手を当てて軽く笑った。
「同行するレイダーは私です」
「え……」
「服装を見て分かりませんか?」
防護服を着ているせいで分かりづらかったが、よく見てみるとメーテラはタイツのような黒色の戦闘用スーツ……強化服を着ていた。
「これでも今の仕事に就く前はレイダーだったんですよ。今回は私と同行し、前哨基地跡の情報を記録するのがマキアさんの仕事です。詳しい説明を始めてもよろしいでしょうか」
「あ、はい」
アメリアがレイダーという事実をまだ飲み込めていないまま、マキアは説明を受けた。




