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マガツモノ  作者: しータロ(豆坂田)
第一章(後半) 光の射す場所

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第27話 積み上がる面倒ごと

 二人の交渉が決裂した瞬間、ヤジマが懐から拳銃を取り出す。当然のようにマキアは反応し、ヤジマが取り出した拳銃へと手を伸ばす。

 三番街と何があってもいいように、今のマキアの装備はそれなりに充実している。

 ただ今回ばかりは、自らが持っている拳銃を取り出す暇はなく、代わりにヤジマの動きを阻害することにした。

 

「所詮はただのハンターだな」

「ッチ」


 行動を予測していたヤジマはマキアよりも先に半歩身を下げる。それにより伸ばしたマキアの手は空を切り、代わりに銃口が向けられた。


(くそッ――)

 

 間髪入れずヤジマは引き金を絞る。

 撃ち出された弾丸を避けることはできず、マキアの腹に命中した。しかし弾丸がマキアの身体にめり込むことは無かった。防護服を着ていたため阻まれたのだ。しかし動じず、ヤジマは頭部へと狙いを定める。

 ただ一発分無駄に撃ったせいで隙が生まれていた。一秒にも満たない僅かな時間の中でマキアは一歩前へと進み、ヤジマの拳銃を掴んだ。その瞬間、ヤジマの表情が歪む。


「コイツッッ、イカれてやがる!」


 聞いていた限り、マキアという人物は一か月前まで解体作業員として働いていたはずだ。レイダーになったのはここ最近。その間に急成長したとしてもマガツモノとの戦闘には慣れているだろうが、対人戦闘はまるでしていないはずだ。

 セルバンたち三人を殺した事実があるため弱い、という評価はしていなかったが――


(――撃たれるってのに進んできやがった!)


 普通の人間ならば撃たれると思ったのなら一歩身を退くか、避ける。しかしマキアはそうしなかった。撃たれることが分かっていても一歩踏み出し、ヤジマとの距離を詰めることを選んだ。

 防護服があるにしろ強い衝撃と共に激痛が襲うはずだ。

 いや、そもそもとして撃たれることが分かっていて進めるのは頭のネジがどこか外れているとしか考えられない。しかしその常軌を逸した行動のおかげでマキアは命を取り留めた。 

 もし一歩踏み出さずに退いたり避けていたらヤジマが頭部に弾丸を撃ちこんでいた。

 マキアの己の身を顧みぬ選択がヤジマを追い詰める。


「なん――」


 拳銃を握り締めたマキアを振りほどこうとしても離れない。


(なんつう馬鹿力だ)


 マキアはそのまま拳銃を握りつぶして破壊すると、ヤジマの腹部に拳をめり込ませた。

 瞬間、マキアの手に嫌な感触が染みわたる。


「こいつ——」

「ご名答」


 マキアの手に伝わったのは硬い感触だった。それこそ鉄骨のような、そのような感触。

 この感触が意味するところは、つまりヤジマは機械で強化された身体拡張者だということ。

 驚きで一瞬行動が止まったマキアの鳩尾みぞおちにヤジマの膝がめり込む。

 頑丈な体を持つマキアと言えど身体拡張者の膝蹴りをまともに受ければ負傷する。膝がめり込んだ瞬間、衝撃と共に視界が一瞬だけ白く染まり赤黒い血を吐き出した。


「っあが」


 体から力が抜けてまともに立ち上がることができない。

 ヤジマはそのまま懐に忍び込ませたナイフを取り出しマキアの首元に当てる。


「対人戦闘はド素人だったな、結局」


 マキアはやはり対人戦闘に関しては素人。レイダーとしての稼働履歴を見るに良くて駆け出しが良いところ。奇襲でもなんでもない真正面からの戦闘でヤジマに勝てるはずが無かった。

 無駄に抵抗されるのも困る。

 ヤジマはナイフを首に差し込む――瞬間、マキアがナイフに噛みついた。

 

(何してやがんだこい――)


 ナイフに噛みついたのならばそのまま頬を切って喉を抉ればいい。

 だがマキアが食いしばるとナイフが砕け散る。


「ほんとに人間かおま――」


 普通の人間がナイフをかみ砕けるはずがない。だがマキアが生態拡張者だという情報はなかった。

 ヤジマの脳内を疑問が埋め尽くし、行動が僅かに遅れる。

 その一瞬が命取り。

 直後、ヤジマの顔面に拳がめり込んでいた。


「……ったく」

 

 顔面を殴られ吹き飛ばされたヤジマが壁にぶつかると共に、マキアが拳銃を発砲し頭部を撃ち抜く。

 続けてマキアは胸部にも撃ち込む

 相手が身体拡張者である以上、脳を潰しても自動報復プログラムが作動することで完全破壊されるまで終わらない戦闘人形と化す場合もある。その前に脳と心臓を潰す。


「……ぺっ、ぺっ」


 口の中に残ったナイフの破片を吐き捨てながらヤジマに近づいて死亡確認を行う。


(はぁ……面倒だな)


 三番街だけでも面倒だというのに江東社まで絡んできた。

 カイルのこともあるというのに、そちらに意識が割けないほどに問題が積み上がっている。


(さてどうするか)


 江東社が出て来た以上、事態を把握するまでは無理に動けない。

 かといって三番街の問題を放置することはできない。

 ヤジマを殺したことで、江東社からの攻撃が激しくなるのか、収まるのか分からない。

 であるのならば、今の内に問題を減らしておきたい。

 特に三番街の問題は最優先で対処しなければ。

 メーテラは事務所にさえ居てくれれば安全。


「……んでこうなったんだ?」


 悪態をつきながらヤジマの死体を背に、マキアは歩き始めた。


 ◆


 カイルの生首と共に送られてきた手紙にはジャンの連絡先と『いつ会えるか』についての日程も載っていた。

 マキアはすぐジャンに連絡を返し、今から会うことになっている。

 場所は大通り沿いの店だ。

 大通り沿いであれば行政が目を光らせているため、三番街であろうとも勝手なことはできない。だからと言って危害を加えられないというわけではないのだが。取りあえずジャンに会うにあたって最善ではないにしろ、良い条件を整えることができた。


(……余裕だな)


 落ち合う予定の店につくとテラス席でジャンが優雅にティーカップを飲む姿が見えた。

 見える範囲でジャンの周りに三番街の構成員はいない。

 

「用件はなんですか」


 テラス席にいるジャンに近づきながらマキアが尋ねる。彼は気づいていないフリをしていたが、マキアが店に近づいた時からこちらの存在を把握していたのだろう。後ろから声をかけたというのに驚かず、すぐに目線を傾けてマキアを見てから返事する。


「お土産をあげてすぐ連絡をくれたな、気に入ってくれたか?」

「……」


 マキアは返事せず対面の席に座る。

 そして一方的に口を開く。


「手短にお願いします」

「せっかちだなぁ~。まあいい、俺も端的なのは嫌いじゃない」


 ジャンはカップを置いてすぐ結論を出す。


「三番街に来い。加工屋スミスのメーテラってやつもだ」

「……」


 ジャンの提案は予想できていた。

 三番街が地下都市で急速に力を付けたのは、有望なレイダーを強引に引き入れていた部分が大きい。最高の待遇を用意し、有望なレイダーもとい将来邪魔になるであろう同業者レイダーを刈り取る目的もある。

 そのため、もし提案に乗らないようであれば徹底的に嫌がらせを行い、三番街に入るか死ぬまでそれは終わらない。

 

 マキアも女王討伐によって有望格のレイダーだとジャンに認識されたためだろう。

 もしここで提案を断ればマキアたちは三番街に目をつけられる。

 取れる選択肢は一つだけだ。


「ありたい提案だが、承諾することはできない」


 マキアはすでにこの提案を却下することを決めていた。女王討伐という実績、そしてジャンからの連絡、勧誘の話を受けることは事前に予想できる。そういうこともあって事前にメーテラと話し合い、この結論を出した。

 何より、メーテラはレイダーハブ『テイカーロッジ』を大事にしている。


「……そうか、残念だ」


 目の前にいるマキアが自らにひれ伏さない者だと分かった瞬間、ジャンは先ほどまで浮かべていた作り笑いを消した。

 それまで隠していた威圧感が溢れ出し、周囲を巻き込んで空気をどんよりと重いものへと変える。

 ここまでの威圧感を出されれば言葉を失い、黙り込むのが普通のこと。

 しかしマキアはあえて提案する。


「交渉させてくれ」

「お前、舐めてるだろ」


 提案を受けることはできないが、話し合うことができるはず。

 そんなマキアの甘い考えはジャンに一蹴された。

 

「交渉? 交渉ってのは対等な者の間でのみ行われる儀式だ。俺がお前と交渉するってことは、こっちが譲歩してやるってことだ。てめぇらがいくら魅力的な条件を出そうと関係ない」


 力づくで奪える。

 その上で、マキアをこの場に呼んだのはあくまでも有望な同業者レイダーを刈り取るため。


「レイダーハブ同士がやりあえばレイダーズフロントが何か言ってくるかもな。だがそれがどうした」


 三番街は地下一階に出たマガツモノの対処も担当している。もしレイダーズフロントが彼らを罰し、その業務がおろそかになれば地下都市全体が被害を被る。そうなった時、テイカーロッジと三番街のどちらを優遇するかと問われれば、まず後者を優先する。

 

「話し合いは終わりだ。久しぶりだぜ? 俺の提案を蹴った奴は」


 ミケ以来か? とジャンは呟きながら席を立つ。


「お前は自分の行動を後悔することになる」


 そのままマキアに吐き捨てると立ち去る。

 マキアはその後ろ姿を見ながらため息をついた。


(災難だ、何かしたか、おれ)


 こいつら意見を飲む飲まないで殺す殺さないを決めている。一か百かしかないのか。

 三番街といい江東社といい、なぜ殺す選択肢が出てきて交渉という選択肢が出てこない。交渉は結果的に、立場が上のものが譲ることが多い。しかしそれは下のものが魅力的な案を提示できたからだ。

 上のものが下のものよりも払う対価が多いのは当たり前のこと、それでもギブアンドテイクの関係にあることは変わりない。

 マキアは魅力的な提案を出来た。

 しかし聞かずに突っぱねたのはジャンの方だ。


(ったく、あいつ払ってけよ。ちっちぇえ奴だな)

 

 ジャンの方から呼び出したというのに店の代金を支払っておらず、マキアが出る際に支払った。 

 そしてテイカーロッジへと戻る際中にメーテラに電話をかける。


『メーテラさん?』

『はいはい。無事でよかった』

『こっちこそ。今ジャンと話してきたんですけど、交渉すらさせてもらえませんでした』

『そっか、じゃあ仕方ないね』

『申し訳ないです』


 メーテラはマキアに武器や衣食住を保証してくれたというのに、当のマキアは迷惑をかけてばかり。 

 江東社の件も三番街の件も、すべてマキアのせいだ。


『いいよ。逆に、私が何も出来ていないから申し訳ないぐらいだよ』


 いや、最近斧を加工したかな、と付け足してから苦笑する。

 同時に、マキアは江東社の件を話していないことに気が付いた。

 取り合えず問題が増えたことだけでも報告しておかなくてはならない。

 そう思って口を開いた瞬間、路地裏に入ったマキアは懐に収められた拳銃に手をかける。


(三番街か? ……いやこの感じは江東社か)


 気が付くと、マキアの周りを江東社が手配した刺客が囲んでいた。


『すいませんメーテラさん。帰って来てからまた詳しく話します』

『分かった。無事に帰って来てね』

『はい』

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