第17話 大規模攻略作戦②
巣へとつながる通路は、マキアが発見したのを含め計五つ発見された。おそらく、女王を逃がすために逃げ道を作ろうとしたドロクマの先行部隊が道を誤って非保護区域に出てきてしまったのが原因とみられる。
討伐部隊はマキアが見つけた通路を通り巣へと直行。
処理部隊は四つのグループに分かれ、新たに発見された道を通りながらドロクマを殲滅し、巣へと到着次第、残党を処理する予定だ。
処理部隊に配属されたマキアはミケと別れた後、指定された通路の前にいた。
「なんでお前がここにいるんだ」
大規模攻略作戦の指揮は三番街に任せられているため、討伐部隊だけでなく処理部隊を取りまとめるのも三番街のレイダーである。運悪く、マキアが配属された第三部隊はカイルが取りまとめる部隊であった。
「駆け出しが受けられるはずがないだろ」
カイルの他にも三番街所属のレイダーはいた。しかしそこには取り巻きのハイディンの姿はない。
周りの様子を確認した後、マキアが口を開く。
「受けたからここにいるんだ。名簿にも載ってるだろ。それでも信じられないようだったらレイダーズフロントからの依頼受諾メールも見せる」
「……ッチ」
すでにカイルはマキアの姿を見た瞬間に名簿を確認し、そこに名前があることを確かめている。
マキアに声をかけたのは、ただ気に入らなかったからだ。
昔から事あるごとに比較され、負け続け、やっとレイダーになって上に立ったかと思えば、駆け出しのくせして特別待遇で大規模攻略作戦に来ている。
また追い抜かされる。
また負ける。
その焦燥感をカイルは自覚しながらも、内に抑えることができない。
「なにがあっても自己責任だ。てめぇが死にかけても知らねぇ」
「もともとそのつもりだ。レイダーは自己責任がモットーだろ」
「……」
癪に障る返答にカイルは表情を歪めて怒りをあらわにしながらも、手元の時計を見て冷静さを取り戻す。
「聞いてくれ!」
場に集まった数十名ほどのレイダーにカイルが告げる。
「リーダーを務めるカイルだ。この中には俺よりも強い奴もいるだろうが、指示系統が乱れると面倒だから、形上だけでも俺をリーダーとして扱ってくれ。巣にたどり着けば、部隊単位での動きから処理部隊単位での動きにシフトする! それまでは、俺に従ってくれ!」
カイルは三番街に所属し、レイダーとしての実力も申し分ないが、この場にはカイルと同等程度の実力があるレイダーも数人いる。だからと言って独断専行で動かれると他の処理部隊と動きがかみ合わなくなる。
その結果、討伐部隊にまで影響をきたせば最悪の状況になりかねない。
あくまでも、作戦成功のため自分をリーダーとして扱ってほしい、カイルはまずそう告げた。
その上で幾つかの注意事項を上げていく。
「仲間内での争いは三番街《俺ら》がいる限りは許されない。敵をなすりつけるぐらいは……してもいいだろうが、やりすぎれば俺から上に報告する。基本、自己責任だ。何があっても責任はとらん」
消耗品の費用保障や細かい作戦の動き。
それらをカイルは手短に説明して、手元の時計を見るとちょうど作戦開始の時刻だった。
「三番街《俺ら》が先頭で入る。後ろから続け」
通路は洞窟のようになっており、場所によっては岩が露出している。横幅や縦もかなり広く幾つもの道に分岐している。
まるで迷路のようだ。
しかし事前に女王の巣へと繋がる道は調べてある。加えた道中に動体認識で作動するタイプの明かりが設置してあるため、ドロクマかマキア達が通れば通路が光る。
それでも道中は暗いので全員が暗視ゴーグルを使用することは当然のこと、状況に合わせて臨機応変に動きを変えていく予定だ。
「ドラクマは見つけ次第処理しろ」
洞窟の中を進みながらカイルが告げる。
今回はマガツモノに隠れて隙を狙い討伐するような通常のやり方じゃない。どうせドロクマにはバレる。
そのためカイルの指示なしに、見つけたら各々が勝手に処理することになっていた。
通路を少し進んだところで、先頭を歩いていたカイルが発砲音を鳴らす。
壁に張り付いていたドロクマを撃ち殺したのだ。
そしてその発砲音を境に岩の隙間や前方の通路からドロクマが湧き出る。
集まったレイダーは皆がある程度の実力者ということもあり、一切動揺せずに「キタキタァ!」と叫ぶ者もいた。
おそらく、今相手にしているドロクマの数はマキアがあの通路で相対した時よりも遥かに多い。
人数の差や装備の差、事前情報の有無などにより、部隊は押されずに処理を続ける——マキアを除いて。
(んだよこれッ!)
壁の隙間から、天井から、前から、後ろから、様々な場所から襲いかかるドロクマの対処にマキアは悪戦苦闘していた。
周りのレイダーが積極的に処理してくれている分、一人で戦うよりも遥かに楽だが、彼らはあくまでも自分なためにドロクマを殺しているだけであり、マキアを助けるためではない。
自分の元に襲いかかってくるドロクマはその度に適切な判断、適切な対処、的確な射撃によって仕留めなくてはならない。
絶え間なく襲いかかるドロクマのせいで、弾倉を交換する時間はほぼない。
以前に通路でドロクマの大群に襲われていたおかげで、絶え間なく敵が押し寄せながらも隙間を縫って弾倉を交換する術を身につけた。
そのおかげでどうにかなっているが、あの体験がなければ今頃対処が間に合わず、自己犠牲の名の下に、誰にも助けられず殺されていた。
(なんとか、やれてはいるが)
僅かにできた余白で周りを横目見た。
カイルは一切動揺することなく、的確にドロクマを仕留めている。他のレイダーも同じだ。武器の性能差は当然あるものの、単純に経験と実力、そして判断力が違いすぎる。
洞窟の終盤に来て、ドロクマの数がさらに増えても尚、笑いながら殺し続けるレイダーもいるほど。
「っいいねぇ! こいうのだよ、こういうのをま———」
上機嫌だったレイダーの顔面に、壁に擬態していたドロクマが飛びついてくっ付くと、そのまま鼻や眼球と共に顔の皮膚を食いちぎる。
それは三秒にも満たない時間で起きたことだった。
視力を失い、激痛に駆られたレイダーは叫び、暴れながら銃の引き金を強く押し込む——よりも早く、近くにいた三番街所属のレイダーが射殺した。
もしあのまま正常な判断を失って銃を乱射していれば、ドロクマだけでなく近くのレイダーにも被害を負わせていた。
どのみち顔を食い破られ脳の一部が露出していた以上、彼に生き残る道は残されていない。
同時に巣に近づいたことで、さらに道幅が広がった。
新たに、人と同程度かそれ以上はある大型のドロクマも通路を塞ぐように押し寄せる。
「……ったく」
弾倉を交換しながらマキアが舌打つ。
レイダー一人が死亡しただけでも処理速度が大幅に落ちる。本来カバーしなくても良い範囲まで意識を向けなければいけなくなる。加えて大型のドロクマは飛び掛かるだけの単調な攻撃手段から、口元から粘着性の糸を射出する。
性能の高い武器を持つ三番街所属のカイルなどのレイダーが、優先順位の高い大型のドロクマを処理し、その他は雑兵を始末していく。
「――ッチ」
対処しきれず、マキアのもとに一匹のドロクマが飛び掛かる。
すでに弾倉内は空になっており、引き金は重くなっていた。
咄嗟にメーテラから貰った小型斧を引き抜くと、そのままドロクマの口から斜め上に振り抜いた。
(すげぇ)
メーテラは解体用と言っていたが、性能は対マガツモノ用の装備を上回っている。これが解体用ということは――やはり地上は地下都市とは別格の基準でモノが動いているのだろう。
解体用ナイフのおかげで作れた隙でN-41ガルディンの弾倉を交換すると、すぐにドロクマに照準を向ける。その際、すぐ近くにいたレイダーが発砲音やドロクマの叫び声でうるさいながらも、確かに聞こえる声でマキアに一言告げた。
「おいおい、あぶねぇな。あんちゃん一人でも死なれたら、こっちは大変なんだぜ?」
マキアが討伐しているドロクマの数自体は他のレイダーと比べた時にかなり少ない。
しかしながらマキアは『討伐する』というより『食い止める』方に力を割いていた。武器でも実力でも経験でも劣るため大型のドロクマを討伐することや押し寄せる大群相手に弾幕を張るのは難しい。
マキアは大規模攻略作戦が始まってすぐにその事実に気が付くと、壁の隙間や擬態しているドロクマを撃破することに意識を割いた。今自分ができること。それを考えた結果だ。
最初こそは他のレイダーは明らかに装備や実力の面で足らないマキアに不信感を抱いていたが、今はない。カイルでさえも、マキアが部隊の中で役割を見つけ、役立っていることを理解していた。
「ッチ、外した」
ただ、実力で足りないのは事実。
至近距離からの発砲であってもそう少なくない回数外す。少し離れた場所にいるドロクマや動き回る個体であればさらに数は増える。討伐しているドロクマの数が少ないというのに、周りのレイダーよりも弾丸の消費が早いのはそのせいだ。
それでもマキアや他のレイダーの努力によって、ドロクマの屍を踏みつけ越えながら、巣が見える場所まで来た。
するとカイルは立ち止まり、マキア達に告げる。
「数十秒ほど待機する」
他の部隊の突入準備が整うまで交代で防衛だ。どうやらマキアたちは他の部隊がたどり着くよりも早く来てしまったらしい。
すでに横や背後から来ているドロクマは殲滅しつくし、前方から押し寄せる巨大なドロクマのみ。
「十秒間隔で交代だ」
他の部隊が準備を完了するまでの数十秒の間、マキアたちは前衛と後衛を交代しながら、準備を済ませる。
後衛の時にバックパックから弾倉を取り出し防護服に詰め込む。
そしてすぐに前衛と交代し、マキアが前に出ると――ここで初めて大型のドロクマの処理を直接的に担当した。
(これは……)
N-41ガルディンは優秀な対マガツモノ用の装備であり、大型のドロクマを殺せるだけの力がある。しかしあくまでもそれは大型のドロクマが一体のみの場合。波のように押し寄せてくるのならば別だ。
まず処理が間に合わない。
明らかに火力不足なマキアはできるだけ急所を狙って射撃を行うが、単純に実力不足で弾を外す。
すると誰かが後ろからマキアの肩を掴んで引っ張った。
「使えねぇな」
マキアを退かすとカイルが前に出て代わりに処理を担当する。
「……」
自分の実力が足りていないことを自覚していたマキアは、カイルの言葉に悔しさを覚えながら引き下がる。
そしてその後、数回ほど前衛と後衛の交代を繰り返し、他の処理部隊の準備が整った報せを受け取ると、マキアたちは巣の中へと本格的に足を踏み入れた。




