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よくある縁談

私の名前は工藤優菜。

降下探偵社所属、密偵員。探偵だ。


探偵。

聞こえだけはいい。


推理して事件を解決するわけでもなければ、大声で相手の間違いを指摘できる職業でもない。


そんなスカッとするものじゃない。


人間が隠し持ってるモンを取ってくるだけ、それが探偵だ。


今回の依頼は浮気調査じゃない。


結婚前の人物調査。


聞こえは上品だ。


実際は結婚前の最終点検。


相手がどういう人間なのか。

本当に言っていることは正しいのか。

変な借金はないか。

嘘はないか。


依頼人は二十八歳の女性。


婚約者がいる。


「悪い人には見えないんです。でも少しだけ、不安で」とかナントカ


私は適当な微笑で聞き流していた。


こういう「少しだけ」が、一番長引く。


疑い切れていない。

信用し切れてもいない。


中途半端な濁りほど、厄介なモノは無い。


せいぜいぐうたら稼がせてもらう。


対象は三十一歳男性。


会社員。


酒も煙草もやらない。(ふん)

趣味はランニング。(ほーん)

大手勤務。(チッ)


プロフィールだけなら優等生だ。

顔写真を見たが。そんな清廉潔白な面じゃ無いぞ、



調査開始三日目


朝七時二十分、自宅を出る。

その姿を陰ながら応援して、運動会の親みたいにビデオカメラで撮る。


駅。

満員電車に浮かされながらも、対象者を捉え続ける。

周りに気を遣われて()されていないOLに殺意を抱く。


会社。

その入りをビデオ、先回りして構える。


昼休み。

立ち食い蕎麦屋で950円のかつ丼セットを頼む指先を、ズーム機能で捉える。


コンビニ。

『これを買ったらクーポン貰える』といったキャンペーンの対象商品を購入、

あまり整頓されていない財布にクーポン付きレシートをがさつに突っ込んだ。


ちなみにこの工藤優菜。しれっとレシート捨て場のクーポンをかっぱらっている、



退勤。

19時過ぎに早歩きで出る姿を撮り、早歩き。

これが厄介。

対象と同じく歩調を早めると尾行()けているのが悟られやすい。

複数人居ればやり様があるのだが。今回の依頼にその価値はない、

「まぁバレないだろう」の精神でやる。


帰宅。

実際何事もなく撮れた。


繰り返し。


変な動きはない。


繰り返し。


女の影もない。


繰り返し。


借金取りも来ない。


、、こんなクソみたいな案件で俺の貴重な時間を妨げてんじゃねぇよ、工藤優菜はそう思った。


四日目。


タコが、さっさとボロ出せや。と思う工藤優菜は今日も今日とてビデオ撮影。


退勤後、対象が途中下車した。

クセェ。脳が弾けそうな匂いだ、


チェーン店の喫茶店。


探偵の嗅覚がある種の異臭を感知した。


店の奥に座った男へ近づく。

歩き方に警戒の色は無い、親密――打ち解けた、その類。


五十代くらい。

友人の線は薄い。だが、妙な、


スーツ姿。

闇バイト特有の着慣れて無いです感は無い。


二人は書類を広げた。

大っぴらに広げる、警戒ナシ。


聞こえない。

ただ、対象の顔が妙に固い。


三十分後。


別れ際。


茶封筒を受け取った。


その瞬間だけ、少し空気が変わった。


嫌な仕事を終えた人間の顔だった。


その顔をズーム機能で捉え、ゆっくりと拡大し店舗看板を収める。


そうやって記録を積み上げていく。

一個ずつ。


私以外にも、この案件で稼いでいる人間がいる。

そいつが暴いた。


浮気じゃない。

借金でもない。

対象の父親だった。


数年前に事業だかで失敗し、多額の負債を抱えているとかナントカ、


婚約者には言っていない。

理由としては後ろめたいとか、そのあたりか?

そこまでは調べない。

私の仕事は秘密を持ち帰るところまでだ。


旨い悲鳴が聞こえそうなら、

終わっても私事で首を突っ込むが、

生憎その香りはしない。

よくて縁談破談、

つまんねぇよ。


これから先は他の役が、依頼者が、そう言うよくある着地をするだろう。


それが降下探偵事務所。


それが探偵――『工藤優菜』。

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