第79話
飛んで来た砲弾の速度など私には遅過ぎる。対応するのに即断即決、「虚」の中に砲弾を収納するのに充分に間に合った。
しかしその砲弾が飛来して来た際の衝撃の余波が周囲に広がっていて、この場に居た他の冒険者たちがその風速で尻もちを付いたり驚愕で逃げ惑ったりとしていた。
混乱、これに乗じてまた私を狙って来る第二の襲撃があるかと警戒を強めたのだが。
(攻撃をして来た者は既に撤退したのか、気配が遠のいているな。手で担いで持ち運び出来る大砲か。脅威だな)
今後にずっと襲撃を四六時中警戒しなければならないとなるのは、精神を削られかねない。いや、確実に削られる。
コレは早々に問題を解決せねば何処かでヘマをしかねない。このままではいずれ致命傷を負わされる。
(奴らを追跡するべきか?・・・無理だな。いずれ相手が痺れを切らして大群で攻めて来た所を徹底的に潰した方が効率が良いか?ふむ、そうなると他への被害が深刻になりかねないか。何処かに釣って周囲に迷惑が掛からぬ様な場所に誘い出す事は出来るか?)
もしかすると敵が逃亡したのはこちらを何処か別の場所に誘い出して罠に嵌める算段があるかもしれないのだ。迂闊には動けない。
そう考えている間も警戒は怠らずにジッと気を張り続ける。ついでに魔力も広範囲に展開して少しでも違和感を逃さぬ様にと集中をし続けたが。
「うみゅー!またアンちゃんとの時間に横槍入れられたー!もう!邪魔者全部ぶっ飛ばしてやりたい!」
ヒジリがどうにもこの混乱騒ぎに憤りを感じているらしい。
私と共に居る時間を台無しにされたと思っている様だ。
そこにエミコが疑問を飛ばしてくる。
「で、さっきのロケット弾、何処に消えたの?まさか、空間魔法の中?何でもやりたい放題じゃない?それ、犯罪に使わないでね?何でも出来ちゃいそうで恐ろしいわ。それにしても良くあんなタイミングで対応できたわね。凄いを通り越して呆れるわ。とは言え、それで私たち、助かってるのだけれどもね。」
エミコはそんな事を私に向かって言って来るが、そんな犯罪になどこの魔法を使う気は一切無い。
寧ろ人としてその様な事をする気は起きない。いや、もう人と言うか、私は「アンデッド」なのだが。
とは言え、ソレを伝えようと思っても私は相変わらず喋っても「ぼがぁ・・・」とか「ぐぁぁ・・・」とか「ヴぉぉぉ」などと唸る事しかできないのでどうしようも無い。
そこで受付嬢が青褪めた顔で気絶寸前と言った具合に口を開く。
「今、いま、いま、い、今、私、走馬燈が見えかけたんですが?・・・もうやだー!危険が危な過ぎる!もしかしなくてもヤバいじゃないですか!死にかけてんじゃないですか!危険手当を倍プッシュする!そうじゃ無きゃやってられねーよ!金よりも命の方が大事だよ!いきなりこんな目に遭うとか想像できるか!何で狙われてんのコイツ!?もう勘弁して!関わりたくねーよぉぉぉぉぉ!近寄りたくねぇんだよぉ!」
と、そこまで騒いで言い切ってから受付嬢の顔から表情が消えた。突然に。
どうやら感情が昂り過ぎて「底」が抜けたらしい。許容量を超えた様だった。
「では、またのお越しをお待ちしております。ダンジョン探索、御無事で戻ってきてくださいね。」
今度は先程とは打って変わってのキラキラした笑顔でそう言った受付嬢は、さも先程の事など何も無かったかの様に仕事に戻っていく。
「行きましょう。どうやらロビーに居るよりかダンジョンの中に居た方がよっぽど安全らしいわ。」
ここでエミコがそんな提案を出した所にヒジリがソレを心配する。
「えー?大丈夫かなぁ。協会長に許可取ってからの方が良くない?ソレに長官も呼んでるんでしょ今。イチカが交渉したいって言ってたし?待たなくて良いの?」
「ここに留まっていると他に迷惑が掛かるでしょ?イチカも多分「しょうがない」って言うと思うわ。この件も後で上乗せして請求するって事にしましょう。あ、マリエが多分お腹を空かせるでしょうから売店で食事を多めに買ってからダンジョンに向かいましょうか。」
「まあそうだねぇ。建物ごと爆破とかされるのが一番最悪な展開かぁ。アイツらやりかね無さそうだねぇ。うん、そうと決まれば動くのは早い方が良いね。それじゃあアンちゃん、行こ行こ!」
私の意思や意見などはお構いなしと言った感じだ。とは言え、別にコレに反対意見は私には無い。
(エミコの言う通りか。どうやら私を排除したい奴らは周囲の事など構い無しな、手段を問わ無い方法での襲撃をして来るらしいからな)
まだ混乱が収まらない冒険者たち。中には先程の砲弾を放った者を追うべきだと主張する者も居た。正義感の強い者なのだろう。
しかしここで大きな声で周囲へと自己の意を伝える別の者が現れる。
「あいつのせいだ!あいつが狙われていた明らかに!アレのせいで俺たちも危うく死にかけたんだぞ!あいつを殺せ!あのアンデッドを殺せ!」
どうやら私を全ての元凶と決め付けたいらしい。
その者はこちらを指差して厭らしい笑みを浮かべて勝ち誇った様な態度をとった。




