第55話
政府から私たちに直接依頼。その契約内容を読んで私は愕然としていた。
(どうしてそうなるのよ!私を巻き込まないでよ!こんなの断ったらソレはソレで今後の人生ヤバいじゃない!受け入れてもヤバいじゃない!詰んでるじゃん!)
どちらを選んでもダメ。どちらも選びたくないのに。どちらかを選ぶしかない。
しかしそこで私は見た。アンデッドナイトが首を横に振っているのを。それは希望だった。
(よっしゃぁ!そうヨ!断れ!アンタが私たちの同行を拒否すればこの話はお流れよ!)
しかしこの考えは甘かった。直ぐコレにダンジョン庁長官がまた新たな紙を取り出してこちらに渡して来たからだ。
「黒騎士殿に断られてしまっては仕方が無いな。しかし、それならこちらも少々強引にやらせて貰わねばならなくなってしまうね。すまないが、コレが国の立場と言うモノでね。」
そう言って渡された紙に書かれていたのは少々契約内容が変更されただけの新たな「私たちへの」依頼要請、指名依頼だった。
(嘘でしょ?まさかアンデッドナイトが拒否る事も想定内?どんな展開に転んでも私たちをこのアンデッドナイトの監視に使う心算で?・・・あ、コレ、死ンダワ・・・)
パーティからまだ脱退手続きをしていないので四人全員にこの指名依頼は発動している。私だけ「イヤです」と言えない。
(どうして私はダンジョンから出て真っ先にパーティ脱退手続きを行わなかったんだ・・・いや、そもそもそんな事できる様な状況じゃ無かったわ、ダンジョンから出て来た時って)
そして私がそもそもに今コレに反対しても三人は。
「別に中身全然変わってなくない?あ、でも細かいトコ違うねー。まあこんなの無くてもアンちゃんと一緒に私は行くけどね。」
「まあ悪く無い金額、って言うか、これ、お値段一桁間違ってませんかね?それだけの「お仕事」として長官は捉えてるって事ね。あー、うん、重いわー。けど、受けない訳にはいかないね。いっちょやりますか。」
「ソースカツ丼うめうめ。ふーん、まあ良くね?お金ガッポリじゃん。やろやろ。」
賛成しているので「三対一」で私の意見など通らない。と言うか、最初っから通る見込みなど無い。
(何時の間にマリエはどんぶり飯食ってたのよ・・・はぁー、もうどうでも良い。お先真っ暗だわ)
目の前に軽食が並んでいたのだが、どうにも食指が動かない。ちゃんとお腹が空いているはずなのに。
私たちは政府、ダンジョン庁からのバックアップを受けてこれからずっとコイツ、アンデッドナイトに文字通り「張り付いて」その動向を調査する事になるのだ。重い、重過ぎる。
どう考えても私たちがやる様な仕事じゃ無い。幾らアンデッドナイトとここまでずっと行動を共にしていたとは言え。
そこでふと冷静になってみれば分かった。
(他のパーティにも声を掛けてるわよね、絶対に。それらのパーティと順次交代するとか、複数で監視体制を敷いてるのよね?私たちだけって事は無いハズ。って言うか私たちだけであって堪るか!)
ダンジョン変動に遭って脱出するまでに分かった事などがある。
このアンデッドナイト、私たちに対して滅茶苦茶、気を遣っていた。
(もう分かってんのよ、好い加減に私にもさ。コイツ、めっちゃ良いヤツなのよね。けど、ソレとこれとは話が違うの、違うんだよ・・・)
他のパーティでもアンデッドナイトの監視や追跡はできる。私たちである必要が無い。何で長官が私たちにこんな依頼を出してくるのか。
(最初に長官はアンデッドナイトを試した。そして私たちを連れてダンジョン変動から脱出して来た事を加味して「見捨てたりしない」と、きっと「見殺しにするなど無い」と、そんな腹黒い意図があるんだわ)
そこで気づく。私たちがアンデッドナイトの行動をコントロールする為の「首輪」として選ばれた事を理解してしまった。
ニコニコしている裏でエグイ事を考えている長官を相手にして、私みたいな面白みの無い小娘が勝てるはずが無い。
ついでに言えば、恐らくは私たちパーティの実力も精査した上でこの指名依頼は出されている。
(もっと私たちが弱かったら、多分この依頼は出されていない・・・あぁ・・・諦めが肝心かぁ・・・)
この短時間でどれだけの準備をして来ていると言うんだろうか?私はダンジョン庁と言うモノを舐めていた事に気付かされる。
(協会長・・・あ、ダメだこりゃ)
縋り付きたい対象、協会長も首を左右に振って「諦めて」と、声を出さずとも口が動いているのが見えてしまった。
こうして最後の、僅かな、薄っすらとした希望も、打ち砕かれた。
三人が書類にさっさとサインを入れているのを恨みを込めた横目で見つつ、私も依頼了承の証としてせめてもと怒りを込めて自身の名を殴り書きした。




