エリスとの出会い②
ギルドに入ったアディル達一行はキョロキョロと周囲を見渡し、ギルドの活気を感じていた。
ギルド内には多くのハンター達がいる。掲示板に貼られている依頼文書を見てあれこれと話し合い、チームごとになにやら交渉をしていたり喧噪に満ちている。
「凄い活気ね」
「ああ、さすがにギルド本部だな。ハンターの数が桁違いだ」
「数だけじゃなく質もでしょ」
「だな」
アディルとヴェルはそう会話を交わしながら受付へと向かう。シュレイとアンジェリナがアディルとヴェルに続く。
「すみません。ハンターに登録したいんですが」
アディルが受付に座っている二十代前半の女性に問いかける。ピシッとしたギルドの制服を着こなす美人であり、右目にある泣きぼくろが妙に色気を醸しだしている。
「あなた達四人ですか?」
「はい」
「それではこちらの用紙に必要事項を記入してください。字は書けます?」
受付の女性がそう尋ねたのは別にアディル達を侮ったからではなく。字が書けないという者は珍しいわけではないからである。ヴァトラス王国の平民の識字率は五割そこそこである。これはヴァトラス王国の識字率が近隣諸国に対して劣っているわけではなく、むしろ高い傾向なのである。
「はい。俺は大丈夫です」
「私も大丈夫です」
「私もです」
「俺も大丈夫です」
アディル達がそう返答すると受付の女性はニッコリと微笑んで四枚の紙をカウンターに置くとインク壺と羽ペンを手渡した。
あいにくと一本しかないのでアディルから順番に書類に記入していく。記入内容は簡単なもので名前、年齢、性別だけである。ものの数分で四人はそれぞれの書類に必要事項を記入すると受付の女性はそれを受け取ると、同僚を呼び書類を手渡した。書類を受け取った同僚はそのまま奥へと引っ込んでいく。
「今、識別票を作成してますから、その間に注意事項をお伝えさせていただきますね」
受付の女性がそう言うとアディル達は素直に頷く。
「みなさんは新規登録という事ですので、最下級の“スチール”クラスとなります。階級が上がる度にギルドから斡旋される依頼の内容は変わります」
「難易度、危険度、そして報酬が上がるというわけですね?」
「はい。簡単に言えばそういう事です。階級はギルドの斡旋する依頼に設定されているポイントによって上がっていきます」
「ポイント?」
アディルの質問に女性は頷く。
「はい。先程も言ったように依頼にはポイントが設定されています。そのポイントの累計によって階級が上がっていくというシステムです」
「なるほど。それじゃあ、ついでに聞きますが、そのポイントは頭数で割るのですか?それとも各個人ごとにもらえるのですか?」
「それはケースバイケースですね。依頼文書にポイントと一緒に人数分で割るのか、個人ごとに獲得するかが設定されてるんです」
「へぇ、じゃあそれを確認しておかないといけないわけですね」
「そうですね。その辺りの確認をしておかないと後でトラブルのもとになりかねませんので注意してください」
受付の女性の言葉にアディル達は納得の表情を浮かべた。
「あの、ちょっと良いですか?」
「なんでしょう?」
「ギルドを通しての依頼だとポイントがつくと言うことですけど、ギルドを通さなかったらポイントはつかないと言うことですか?」
ヴェルの質問に女性は即座に返答する。
「はい。それどころか依頼人との間でトラブルになってもギルドは関知しません」
「え?」
「個別に受けた仕事まで面倒を見る気はギルドにはないんですよ」
「つまりギルドを通さない仕事は自己責任というわけですね」
「はい。納得しづらいでしょうけどどこかで線引きしないと際限がなくなってしまうんです」
「逆に言えばギルドを通しての仕事ならギルドが全面的に解決に乗り出すという事ですね?」
ヴェルの質問に女性はニッコリと笑って頷いた。
「そういう事です。だからこそ依頼料の5%という手数料をいただくんですよ」
「そう考えると5%の手数料は保険と考えれば納得ね」
「はい」
女性が簡潔に返答した所で先程奥に引っ込んでいた職員が戻ってきた。手には四枚の金属製のプレートがある。そのプレートを女性に手渡すとその職員は自分の机に戻っていく。
「お待たせしました。身分証が出来ましたのでお渡ししますね」
女性はアディル達それぞれにプレートを手渡していく。手渡されたプレートには、名前と階級の“スチール”文字が刻まれている。
「そのプレートは身分証となっています。もし、紛失した場合は犯罪などに使われる可能性がありますので細心の注意を払って下さい」
「はい」
「手続きは以上になります。もし何かありましたら遠慮無く職員にお尋ね下さい」
「わかりました」
アディル達は職員の女性に頭を下げるとカウンターから離れた。
「さて、それじゃあ、早速依頼をっと」
「なぁ君達」
「え?」
アディルが掲示板をのぞきに行こうとすると二十代前半ぐらいの男が声をかけてきた。短く刈り込んだ頭髪に精悍そうな顔つき。かなりの美青年である。
「なんでしょうか?」
アディルが男に微笑を浮かべて返答する。男は柔和な笑みを浮かべつつアディルに言う。
「君達を雇いたいんだ」
「どういうことですか?」
ここでアディルは意味がわからないというような表情を浮かべつつ言う。これは演技ではなく本心からの問いかけである。
「実は今度攻略しようとしているダンジョンがあるんだけど、ギルドの規定で人数を確保しなくちゃいけないんだ」
「数合わせというわけですか?」
「まぁ簡単に言えばそんな所だよ。もちろん報酬も払うからどうだい?」
「そうですね……みんなどうする?」
アディルがヴェル達に問いかけるとヴェル達も考え込む様子を見せる。
「人数を揃えなければならないようなダンジョンは私達には荷が重いんじゃないかしら」
「確かに俺達の実力じゃそんなダンジョンに行っても足手纏いになるだけじゃないか?」
アンジェリナとシュレイが即座に不安を口にする。これが本心からのもので無い事はアディルもヴェルも察している。しかし、男はそれを見破ることは出来ない。これは初対面であり、アディル達がどのような人生観を持っているか知らない以上仕方のない事である。
「大丈夫だよ。基本的には君達は後方で俺達の支援をしてくれれば良いんだ」
「どういうことです?」
「今回ダンジョン探索に参加するのは俺達のチームとゴールドクラスのチームが一つずつ、そしてゴールドクラスの治癒術士が一人だ。君達が戦闘に参加する可能性は限りなく低いと思ってくれれば良いよ」
男の言葉にアディルはヴェル達に視線を移した。アディルの視線を受けて三人は小さく頷いた。男からは角度的に見えないがヴェルが、さりげなく人差し指を折り曲げ親指の先に乗せていた。これはアディル達が密かに定めていたハンドシグナルであり、アディルに任せると言う意思表示であった。
「わかりました。参加させてもらいます」
「そうか、そうか。助かるよ」
アディルの返答に男はニッコリと笑う。
「それじゃあ仲間達の所に案内するから来てくれ」
男はニコニコと微笑みながらクルリと踵を返すと歩き出した。アディル達はそれに続く。
男の進む先に数人のハンター達がいる。男が全部で十人、そしてもう一人は黒髪のショートカットの少女で目鼻立ちも整っており美少女と称して反対意見が出ることはまずないと容姿の少女だ。
少女は青いシャツに革の胸当てを装着し、短いスカートから黒いスパッツが覗いている。手には手甲を着け、杖を背負っていた。
「オグラス、その子達か?」
(オグラス……ね)
アディルはここで自分達を連れてきた男の名がオグラスである事を知る。アディルは情報というものを軽視する事は決してしない。むしろ、父アドスから情報収集を怠る事はないように仕込まれているのだ。
「ああ、これで十五人。ギリギリだがギルドの提示した人数はクリアだな」
「確かにそうだな。君達よろしくな。俺はムルグ、灰色の猟犬のリーダーだ。ランクはミスリルだ」
ムルグがそう名乗ると他のメンバーも名乗った。そして最後に黒髪の少女が名乗る。
「初めまして、エリス=リートよ。私もあなた達と同じ数合わせだからよろしくね」
エリスと名乗った少女はニッコリと微笑んだ。
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