俺も飛び立たなければならない!
次の日、俺はまだ心の中に動揺が残っていて、平静を保ったまま彩加と一緒にいる自信が無かったので、いつもより一本速い電車に乗って登校した。彩加が俺に接近してきてから、陽香と玲奈も毎日毎日、俺と同じ電車、同じ車両、同じドアに乗るようになってきていたので、今朝はあの二人もおらず、久しぶりに一人で登校した。
自由!
あの三人の事は好きだが、三人が一緒にいる状況は今は俺にとっては負担でしかない。それなら、一人の方がかなり気楽だ。思わず、俺はそう思ってしまった。
しかしなんだ。そんな気楽な気分も、一瞬の内に消し飛ばされてしまった。
三人が教室に現れると、俺に詰め寄って来たんだ。
「亮、どう言うこと」
真っ先にふくれっ面で、そう言ってきたのは陽香だった。
「そうよ。亮君。
何で、私たちを置いて行ったの?」
陽香もそう言って、俺の所にやって来た。
「いや、別において行くとか、いかないとか、そう言う問題じゃないと思うんだけど」
「じゃあさ、何で一人で違う電車に乗ったのよ?」
陽香が俺に詰め寄りながら言った。
「俺、一人で乗ったらいけない訳?
同じ電車に乗り続けないといけない訳?」
「そんな事ないよぅ。
亮の自由だよ。もちろん。
でも、彩加寂しいよ。捨てられたみたいだよぅ」
遅れて教室に入ってきた彩加が、会話に割り込んできた。しかも、その表情を見ていると、安心しろと抱きしめてやりたくなるくらいだ。
「あんたは関係ないでしょ」
「そうよ。水上さんは関係ありません」
そう言って、陽香と玲奈が俺と彩加の間に割って入って壁を作った。
「亮、私」
ちょっと怯えた表情で、彩加が握った両手で口のあたりを押さえて、言葉をそこで止めた。
「怖い」
俺の心には、そう聞こえた。
「いい加減にしろよ。
なんで、彩加にそんな言い方するんだ」
「亮君」
玲奈が困惑顔で言う。
陽香は一瞬驚いたような顔をした後、ぷいっと顔をそむけて、自分の席に向かって行く。
「陽香ちゃん」
玲奈がそう言って、陽香の後を追って行く。思わず、俺は二人に悪い事をした。そんな思いで、二人を視線で追う。
「お」
俺が二人に声をかけようとした時だった。彩加が俺の視線の先に回り込んだ。
「ありがとう。亮」
そして、彩加が両手を胸のあたりで結び、うれしそうな笑顔で俺に言った。
そんな頃、ヤマシロの政府は大騒動になっていた。エドとの国境にアイヅの陸上部隊が集結し始めたと言うのだ。攻守逆転。今度は航空戦力に大打撃を受けたエドが攻め込まれる側になったのである。
エドと同一民族国家であり、パックスエドーナの平和を享受してきたヤマシロとしては、エドが戦争に負けるような事があっては困るのである。
ヤマシロ国王は戦時体制の宣言をし、俺たちのような高校生も招集がかけられることになった。
と言っても、前線に向かうのは当然、本物の軍人さんたちであって、俺たちは予備の駒みたいなもので、基地で待機し、後方や国内で何か騒乱があった時の備えに過ぎない。
ヤマシロの東側はエド、西側はミマサカと国境を接している。過去にミマサカはさらにその西方のツワノと共に、覇権をエドと争い破れている。
その戦争の首謀国であるツワノは武装解除され、今も軍隊を保有していない。ミマサカは辛うじて、軍備の保有を許されてはいるが、その規模は小さく、俺の国に攻め込んでくる事などあり得ないが、念のための備えを怠る訳にはいかない。
俺も普段休日に勤務している空軍基地で警戒にあたっている。と言っても、エドの援軍に向かった友軍機の活躍を見守っているだけだが。
ヤマシロの援軍はほぼエドの中央に到達し、これからアイヅの航空戦力との一戦を交えようかと言う時だった。
大音響でサイレンが響き、警報が流れた。
「ミマサカより戦闘機の編隊が越境。
スクランブル発進していた我が軍の戦闘機と交戦中。
全軍、戦闘態勢。
これは訓練ではない。
繰り返す。
ミマサカより……」
俺は驚きながら、立ち上がった。エドの援軍としてアイヅとの戦いに向かった編隊が戻って来る事など、期待できない。いや、戻って来る事になったとしても、時間的に間に合わない。おそらく、ミマサカはそこも考慮して攻め込んできたに違いない。
今から戦争である。俺も飛び立たなければならない。




