第二話 「空間の魔女」
「これで素材の回収が楽になった。ネア、空間で頼むね」
「はいはい、分かってますよ」
すると、ネアは空気を裂くように固有魔術「空間」を作り出し、オーガの身体を包み込むように飲み込んだ。
「にしても、相も変わらずチートですね。師匠の固有魔術「転換」。」
「いやいや、元々、やってる事は変わらないよ。「物と物の入れ替え」。ネア君も努力の大切さが分かったかい?」
「……努力の大切さ、ですか。生憎、師匠程の努力はしていませんでして…魔術とは深いですね」
「あぁ…この世は魔術に溢れている!……魔術はね、可能性なんだよ」
「可能性…?」
「うん、可能性の塊。それが「魔術」だ。それは誰にも否定させない。出来ない」
「……ふふ、師匠らしいですね」
「あ!笑ったな〜!……でも、これぐらい笑えるのが魔術には丁度いい」
「……その笑顔が、私の魔術の原動力なんですよ」
「ん、なんかいった?ついさっき小声で」
「………いや、なんでも無いです」
「?」
「……さて、帰ろうか。ギルド登録、初の戦いは終わった事だしね」
「はい、今準備します」
ネアはそう言うと、再び大きな空間の門を作り出した。
「オーガ討伐。終わったよ~」
「え!?まだ数分後しか……」
受付嬢はそう驚くと、ふと横のSランクを見る。そして、納得したように頷いた。
「なるほど。では、素材を証明出来る品物を確認させて下さい」
「はい、こちらです」
ネアは空間の中をゴソゴソという効果音を出しそうな雰囲気で探し、オーガの角を取り出した。
「はい、確かに確認致しました。即日ですが、Eランクであればオーガの討伐はランクを一つ上げるを持ちます。ランクを上げますか?」
「うん。そうしようかな」
「分かりました。では、こちらで待機を」
そうして、私達は木造の椅子に座る。即日ランク上げ、か。まぁ、EランクとSランクがパーティを組む事自体が珍しいのだろう。受付嬢さんも少し驚いた表情を見せていたしね。
「出来ました。フェイさんはDランクに昇格となります。おめでとうございます!」
「うん、ありがとね」
そうして、私は受付嬢からDランクと書かれた白いカードを受け取る。同時にネアのカードに書かれていた物を思い出す。
「やっぱりカッコいいよね。「空間の魔女」ってヤツ。ちょっとだけ嫉妬しちゃう」
「まぁこれでも周りから見ればギルド最強ですからね」
「これが年上の特権というヤツか…くっ…」
「年上って言っても2歳差ですけどね」
そして、私達は街道を歩き出す。
「よし、じゃあ行こうか。次の国、バルディア王国へ」
「はい。…にしても、バルディア王国ですか?何故あそこに?」
「バルディア王国には他の国とは違う、一つの特徴があってね、ギルド主催のトーナメント大会があるんだ。強さを競い合ってね」
「強さを競い合う…ですか。それで、優勝景品とかはあるんですか?」
「あぁ。優勝景品はね、「奇跡の羽」だよ」
「奇跡の羽?なんですか、ソレ?」
「「奇跡の羽」は、何があっても一回きり、「願いを叶えてくれる」優れものだよ。使うのに魔力の消費が必要不可欠だけどね」
「成就祈願ですか。大分チートですね。ちなみに消費する魔力は如何ほどに?」
「…んーとね、全魔力の半分くらい?」
「かなりですね。完全回復に一日以上はかかりますか…」
「そうだね。でも、成就祈願の奇跡の羽を一日だけの代償で使えるって考えたら安いモンだよ」
「…そんなもんなんですかね。師匠はよく分からない」
「んな、面と向かって言わなくても…」
「師匠の側に居続けた弊害か、普通の人とは違って、感覚がバグってる気がするんですよね」
「いやいや、私も凡人だからね!?普通の人だからね!?」
「うーん…」
「そこは悩むなよ。私、普通でしょ?」
そうこうしている間に、すっかり日が暮れ、山の中でも地形が安定した所に来ていた。
「そろそろテントを立てようか。今日はこの辺で終わり。続きは明日からだ」
「分かりました。完成済みのテントを出すので離れてて下さい」
「分かってるよ。「空間」は便利だね〜」
「それ程でもないですよ」
「またまた〜、謙遜しちゃって〜」
◇◇◇
月が沈み、朝日が辺り一面を赤く照らす。
「…ん〜、おはよう…」
ネアが何処かで爆発が起きたかのような顔を見せ、内容を告げる。
「師匠が…早起き……!?どうしたんですか!?具合でも悪いんですか!?熱ですか!?風邪ですか!?」
「ネアは私の事をなんだと思ってるんだ。地形だよ。山はやっぱりゴツゴツしてるからね。いつまで経っても痛いものは痛いんだよ。早起きはたまたま」
「なんだ、良かった〜。本気で病気を疑いました…」
「病気て、こっちは昔から病気は起こさないんだ。知ってるだろ?」
「知ってはいますが…。師匠も人ですから」
「まぁ心配はありがとう。気持ちだけでも受け取っとくよ」
「よし、それじゃあ再開だ」
ネアがテントを空間に入れたのを確認し、私も必要な物を転換する。今日のパンティーは赤色でした。そして、バルディア王国へと歩を進める。
「そういえばなんですが、奇跡の羽って効果を引き上げたらどうなるんですかね?」
「いや〜、私もした事はないから分かんないな〜。あくまでも噂話だからね、優勝景品が復活の羽って事自体」
「え?あ、そうなんですか?」
「うん。元々、奇跡の羽は伝説級のアイテムだ。簡単には手に入らない物なんだよ」
「貴重ってことですね。師匠はそれが欲しいんですか?」
「ん〜…まぁどっちかといえばだけどね」
そんな理由も他愛も無い会話をしている内に、二人は平原と国を分ける境、大きな門に辿り着いていた。




