表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/7

ハンバーガー

「なにするの?」


「気分転換だって言ったろ。変装してたら息抜きにならない」


「……いじわるしてる?」


「してない」


「私が素顔で街を歩いたらどうなるか知ってるよね」


 すこし怒ってるな。


「大丈夫。俺が誰か忘れたか?」


「……魔術でなんとかするってこと?」


「そうだ。だから、そのダサいバックはスタジオに置いてこい」


「……わかった」


 行って、戻って来たら移動開始。


「どこに行くの?」


「さぁ、まだ決まってない。良さそうな店を見付けたら教えてくれ」


「……うん」


 きょろきょろと周りを見て、そわそわとしている。


 芸能人の弊害か、素顔を晒して街を歩くことに慣れてないみたいだ。


 嘆かわしい。二十歳の女が自由気ままに外を出歩けもしないなんて。


「あ」


 燐花がなにか見付けたようだが、残念ながら飲食店じゃない。


 前方から歩いてくるカップルだ。


「ねぇ。あのバックに付いてるグッズ」


「燐花の?」


 頷いて返された。


 へぇ。


「あのー、すみません」


「ちょっ」


「この辺に美味い店とかありません?」


 燐花がさっと俺の背後に隠れた。


「え? あぁ、いや、ちょっとわかんないですね」


「でも、この先に飲食店が結構ありましたよ」


「そうですか。ありがとうございます。突然すみません。それじゃ」


 お辞儀をして歩き出すと、慌てた様子の燐花がついてくる。


「なに考えてるの!?」


「バレなかっただろ? あんなに近づいたのに」


「それはっ、そうだけど」


「大丈夫だ。認識阻害の結界を張ってある」


「認識阻害?」


「簡単に言うと、燐花が燐花だと認識できなくした。誰からもアイドルだって気付かれない。今この場に限ってはただの一般人ってことだ」


「……そんなことが?」


「さっき自分でも言ったろ。魔術師だぞ、俺は」


「そういうことなら……」


 燐花はなにか確かめるように、息を大きく吸い込んだ。


「あーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 思わず耳を覆いたくなるような絶叫が響く。


 さっき擦れ違ったカップルもびっくりしてこっちに振り返ってる。


 その様子を見てけたけた笑った燐花は、カップルに向かって大きく手を振った。


 引きつった顔と小さく手を振る仕草が帰ってくる。


「ホントだ。全然、バレない」


「お前なぁ」


「行こ?」


 足取り軽く、まるで雲の上でも歩いているかのように、燐花は街を歩く。


 背中に翼が生えたか、月面を移動しているか、そんな感じだ。


 楽しそうに、はしゃいでる。


 この様子だと気分転換は大成功だな。


 あとは昼飯をどうするか、だけど。


「ん?」


 考えを巡らせていると、前を行く燐花が急に立ち止まった。


 何事かと視線の先を追うと、そこはファーストフードのハンバーガー店だった。


「ハンバーガーか。いいな、それにしよう」


「ダメ。カロリー高すぎ、塩分ありすぎ。ライブ前には厳禁だから」


 とは言いつつも、視線は店のほうのまま。


 誰がどの角度からどう見ても食いたいって言ってる。


「動けばカロリーは消費できる。塩分はどうにかしてやる。ほら、行くぞ」


「どうにかって、ちょっと」


 半ば引きずるようにして店内へ。


 中に入っても渋る燐花のために自分と同じ商品を注文する。


 店内にあるテーブルに移動して、ハンバーガーとフライドポテト、ジュースが並んだ。


「美味そうだ。いただきます」


 そう言えば最近ご無沙汰だったな、と思いつつバーガーを口に運ぶ。


 美味い。慣れ親しんだジャンクな味わいが堪らない。


 たまに無性に食いたくなるのはなんの魔力なんだか。


 ポテトもジュースも最高だ。


「食わないのか?」


「……塩分を取ると浮腫むくむの。だから食べない」


 腹の音が鳴る。


 燐花が恥ずかしそうに両手で腹を隠した。


「食え。浮腫みならどうにかしてやるから」


「……魔術で?」


「んー、ちょっと違う。魔術ってほどでもないが効果は覿面だ。信用しろ」


 視線が俺から目の前のバーガーに落ちる。


 けど、まだ踏ん切りが付かないのか見つめたままだ。


 しようがない。


「わかった。いらないなら俺が――」


 手を伸ばした矢先、それよりも早く燐花がバーガーを押さえる。


「食べる」


 パッケージを空けて、露わになったバーガーが口元に運ばれる。


 けど、この後に及んでまだ躊躇う。


 唇につくかつかないかの位置で固まった。


「いらないなら――」


 かぶり付いた。


 目を閉じ、上を向いて、噛み締める。


 鼻から息が抜けて、倒れ込むみたいにテーブルに手をつく。


「美味すぎる」


「そんなにか?」


「もう何年もこんなジャンクなもの食べてないから。脳に直接響いてる。脳が食べてる」


「なんだそれ」


 そこからの燐花は凄かった。


 人目も気にせず、目の前にあるすべてをかなりの勢いで貪った。


 箍が外れたみたいに、堰を切ったダムみたいに、止まらない。


 最終的には俺の分のポテトまで食らい付くして、どっかりと背もたれに身を預けた。


「はぁー……食べちゃった。体重計が怖い。死にそう」


「感情の起伏が激しいな」


「あんたが誘惑するから。はぁ、どうしよう。明日、撮影なのに。絶対、浮腫む。ネットに書かれる。アンチが小躍りする。ブスって言われる。はぁ……」


 両手で顔を覆って特大のため息を吐く。


 その様子を見ながら、俺も自分の分を食べ終えた。


「よし。食うもん食ったしスタジオに戻るか。食った分を相殺しないと」


「戻ってどうするの。今日、休養日なんだけど」


「運動する訳じゃない。あぁ、でもレッスンウェアはいるな」


「ん? 一応、持ってきてはいるけど」


「なら後は水だな。自販機に寄って帰ろう」


「本当にどうにかなるんだよね?」


 怨めしそうに、疑い深そうに、俺を見ながら席を立った。



§


「――魔術師式デトックス?」


「そうだ。それを今からやる」


面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ