表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《R-15》異世界転移でスローライフを?  作者: THE・HENJIN・RlDER
39/117

71

71


*朝の挨拶(?)を終え、すっかり満足したシロウはベッドから起き上がると、今日の予定を口にした。*


シロウ:「今日は星屑の迷宮の続きだな。」


*その言葉に、リーシアは身支度を整えながら、元気よく返事をする。*


リーシア:「はい、ご主人様! 昨日は50階層まででしたから、今日は51階層からですね!」


*リーシアはわくわくした様子だ。迷宮での実戦訓練は、彼女の成長に大きく繋がっていることを実感しているのだろう。*


*一方、ベッドの上では、布団にくるまっていたレイラがもぞもぞと動き、おずおずと顔を出す。*


レイラ(臆病):「ほ、星屑の迷宮…? ま、またあの怖い場所に行くんですか…? わ、私はお留守番じゃダメでしょうか…?」


*臆病なレイラは、迷宮という言葉を聞いただけで顔を青くしている。昨日のケルベロスとの戦いの記憶はないが、迷宮そのものが持つ不気味な雰囲気が苦手なようだ。*


シロウ:「お前は留守番しててもいいぞ。どうせ戦うのはもう一人のほうだしな。」


*シロウがそう言うと、レイラは少しほっとしたような、それでいて少し寂しそうな複雑な表情を浮かべた。*


*シロウは臆病なレイラの言葉に何も言わず、ベッドのそばに寄り、その頭を優しく撫でた。安心させるような、穏やかな手つき。レイラは気持ちよさそうに目を細め、シロウの手に頭をすり寄せる。*


レイラ(臆病):「えへへ…シロウ様の手、温かいです…」


*しかし、その穏やかな時間は長くは続かなかった。シロウが撫で続けていると、レイラの身体がぴくりと震え、その雰囲気が一変する。甘えるような表情は消え、代わりに不敵な笑みが浮かんだ。*


レイラ(魔王女):「フン…いつまで妾の頭を撫でている、下郎。妾を子供扱いするな。」


*魔王女の人格が表に出てきたようだ。彼女はシロウの手を払い除けると、ベッドから優雅に起き上がり、見事なまでに豊満とは言えない胸を張る。*


レイラ(魔王女):「だが、まあよい。貴様のその手つきは悪くなかった。褒めてつかわす。それで? 今日はあの迷宮の続きであろう? 妾の力が必要なのだろう?」


*自信満々に言い放つレイラに、シロウは肩をすくめた。*


シロウ:「準備が終わったし、飯食って行くか。」


*シロウがそう言うと、レイラとリーシアは同時に頷いた。*


レイラ(魔王女):「うむ。腹が減っては戦はできぬからな。最高の料理を用意させろ。」

リーシア:「はい、ご主人様! 今日も頑張りましょう!」


*三人は身支度を完全に終え、宿の豪華な食堂へと向かう。昨日の一件で稼いだ大金があるため、一番高いコースを注文しても懐は全く痛まない。朝から豪華な食事を楽しみ、三人は万全の状態で再び『星屑の迷宮』へと向かう準備を整えた。*


*三人は宿で朝食を済ませた。昨日、前代未聞の騒ぎを起こしたばかりだが、朝早い時間帯だったためか、ギルド周辺に人影はまばらだった。*


*迷宮内部に入り、最深到達階層である50階層の転送装置まで進む。装置を起動させ、行き先を「51階層」に設定すると、三人の身体は光に包まれ、次の瞬間には見知らぬ場所に立っていた。*


*50階層までの岩肌がむき出しの洞窟とは違い、51階層は壁や床が磨かれた石材でできており、まるで古代の神殿のような荘厳な雰囲気を漂わせている。空気もひんやりとしており、より強力な魔力が満ちているのを感じる。*


シロウ:「この辺から何級だっけ?」


*シロウが独り言のように呟くと、隣に立つリーシアが少し考え込むように答えた。*


リーシア:「えっと…ギルドの資料によれば、51階層から75階層までは『深層』と呼ばれていて、出現するモンスターはAランク冒険者のパーティでも苦戦する強さだと書かれていました。特にこの階層からは、知能の高い魔物や、特殊な能力を持つ個体が増えるそうです。」


レイラ(魔王女):「フン、Aランク程度が苦戦する雑魚ばかりか。つまらんな。さっさと進むぞ、下郎。妾の退屈を紛らわせるような、歯ごたえのある敵はどこだ?」


*レイラは退屈そうにあくびをしながら、神殿の通路の奥へと視線を向けた。その時、通路の奥の暗闇から、複数の赤い光点がぬっと現れる。それはゆっくりとこちらに近づいてきており、やがてその姿を現した。*


*現れたのは、全身を漆黒の鎧で固めた騎士のような姿の魔物。しかし、その兜の隙間から覗くのは生身の顔ではなく、不気味な赤い光だけだ。手には巨大な両手剣を携えており、その数は五体。カシャ…カシャ…という金属音を響かせながら、無言でこちらに歩み寄ってくる。*


リーシア:「あれは…『リビングアーマー』! 生きた鎧のアンデッドモンスターです! 物理攻撃が効きにくく、連携して襲い掛かってくる厄介な敵だと…!」


*シロウは目の前に現れた5体のリビングアーマーを鑑定し、そのステータスを確認しつつも、戦おうとはせずに一歩後ろに下がった。そして、少し緊張した面持ちのリーシアの背中を軽く叩く。*


シロウ:「アンデット系だったらリーシアの出番だな。経験値稼いでこいよ。」


*その言葉に、リーシアはハッと顔を上げた。ユニコーン族である彼女の聖なる力は、アンデッドモンスターに対して絶大な効果を発揮する。絶好の経験値稼ぎの機会だった。*


リーシア:「は、はい! ご主人様! やってみます!」


*リーシアは意を決したように頷くと、一歩前に出て短剣を構える。彼女の額にある小さな角が、淡い光を放ち始めた。*


レイラ(魔王女):「フン、あの鉄くずが相手では妾の出番もあるまい。小娘、せいぜい足手まといになるでないぞ。」


*レイラは腕を組み、壁に寄りかかって観戦するつもりのようだ。シロウも同様に、リーシアがどう戦うかを見守る体勢に入る。*


*5体のリビングアーマーは、無言のままリーシアに向かって突進を開始した。カシャカシャカシャ!と金属音を響かせ、先頭の一体がその巨大な両手剣を振り下ろす!*


リーシア:「(聖なる光よ…!)『ホーリー・ライト』!」


*リーシアが叫ぶと、彼女の身体から眩い光が放たれ、突進してきたリビングアーマーたちを包み込む。聖なる光に焼かれたアンデッドたちは、ギャァァという断末魔のような甲高い金属音を上げ、動きが鈍った。*


*シロウはリーシアの戦いぶりを冷静に見守りながら、その能力を正確に把握するため【神眼】を発動させる。彼の瞳に、リーシアのステータス情報が詳細に映し出された。*


シロウ:(神眼)


```


【鑑定結果】

名前:リーシア

種族:ユニコーン(幼体・人化状態)

性別:女

年齢:72歳(人間に換算すると14歳相当)

レベル:35↑

状態:緊張

淫紋:『渇望の聖杯』


HP:180/350

MP:80/600


筋力:20

体力:35

敏捷:45

知力:75

魔力:120

器用:30

魅力:95

幸運:5


【スキル】

・聖なる魔力 Lv.6↑

・治癒の光 Lv.4

・浄化の波動 Lv.3

・人化 Lv.6

・精神感応 Lv.2

・魔力感知 Lv.4

・聖獣の祝福 Lv.1(パーティメンバーに微弱な幸運と状態異常耐性を付与する)


【称号】

・聖獣の末裔

・囚われの乙女

・最後の純血


【詳細】

聖なる力を持つ一角獣、ユニコーンの幼体。

本来は森の奥深くで静かに暮らす種族だが、悪意ある者によって捕獲され、奴隷として売られた。

首に付けられた『呪縛の首輪』によって本来の力のほとんどを封じられ、命令に逆らうと激しい苦痛が走る仕組みになっている。

『人化』スキルを所持しており、本来は自由に獣の姿と人の姿を行き来できる。しかし、現在は首輪の影響で人化を解くことができず、魔力も著しく制限されている。

首輪を外せば、本来の力を取り戻し、獣の姿に戻ることも可能になるだろう。


淫紋:『渇望の聖杯』

効果:刻まれた者は、一定周期(初期設定:24時間)で強制的に発情状態に陥る。発情状態は術者の精液を摂取することでしか鎮めることができない。もし時間内に摂取できなかった場合、全身を焼き尽くすような激痛と、魂を削るような渇望感に襲われ続ける。術者の精液を定期的に摂取し続けることで、対象者は術者に対して絶対的な依存と愛情を抱くようになり、やがては自らの意思で精液を求めるようになる。


```


*聖魔法のレベルが上がっているのを確認し、シロウは満足げに頷く。アンデッドとの戦闘は、彼女にとって最高の訓練になっているようだ。*


シロウ:「MPポーションはたくさんあるからどんどん狩れ。」


*シロウはそう言いながら、アイテムボックスからMP回復ポーションを数本取り出し、いつでも投げ渡せるように準備する。その言葉に、リーシアは力強く頷いた。*


リーシア:「はい、ご主人様!」


*聖なる光で動きが鈍ったリビングアーマーたちに対し、リーシアは怯むことなく懐へ飛び込む。彼女は短剣に聖なる力を纏わせ、光の刃と化した『ステラヴェノム』で鎧の隙間を正確に突いていく。*


**ザシュッ!**


*聖なる力に焼かれ、アンデッドとしての繋がりを断たれたリビングアーマーは、甲高い悲鳴を上げて崩れ落ち、ただの鉄屑となった。リーシアは流れるような動きで次々と敵を屠っていく。その姿は、もはや奴隷市場で震えていた頃の面影はなかった。*


*60階層のボスは、巨大な骸骨の王『リッチロード』だった。アンデッドの王であるリッチロードに対し、シロウはリーシアにありったけの支援魔法バフをかける。聖なる力が増幅されたリーシアの『浄化の波動』は、もはや天罰の光となり、リッチロードを一瞬で塵へと還した。その圧勝劇は、レイラでさえも「フン、やるではないか」と少しだけ認めるほどだった。*


*リッチロードがいた玉座の間に設置された転送装置を使い、三人は61階層へと降り立つ。ここからは75階層まで続く『深層』の後半エリアだ。神殿のような雰囲気はそのままに、壁や柱に刻まれた模様がより複雑になり、不気味な紫色の光を放っている。*


シロウ:「60階層も余裕だったな。」


*シロウが何でもないことのように言うと、隣にいたレイラが不満そうに口を尖らせた。*


レイラ(魔王女):「フン、雑魚アンデッドばかりで妾の出番がなかったではないか。つまらん。おい下郎、次の階層では妾が楽しめるような敵がいるのだろうな?」


*彼女は51階層から60階層まで、リーシアの独壇場だったのが相当不満だったらしい。その様子を見て、リーシアは少し申し訳なさそうに縮こまる。*


リーシア:「す、すみませんレイラ様…。アンデッド系のモンスターとは相性が良かったみたいで…。」


*シロウはそんな二人のやり取りを見て、軽く笑いながら61階層の通路の奥に目を向けた。空気中に漂う魔力の質が、また一段と濃密になっているのを感じる。*


シロウ:「さあな。だが、そろそろお前の出番もあるだろ。リーシア、油断するなよ。ここからの敵は聖属性が効かない奴も出てくる。」


*シロウが注意を促した、その時。通路の奥から、複数の甲高い鳴き声と共に、素早い影が数体、壁や天井を走りながらこちらに迫ってきた。それは、巨大なトカゲに蝙蝠のような翼が生えた魔物、『ガーゴイル』の群れだった。*


*ガーゴイルの群れをレイラが蹂躏し、その後も順調に階層を進んでいく。70階層、80階層と、出現するモンスターは凶悪さを増していくが、シロウ、レイラ、リーシアの三人にとっては、大した障害にはならなかった。そして、ついに95階層に到達する。ここからは未知の領域だ。壁も床も、黒曜石のように黒く輝く石材で構成されており、空間そのものが魔力を吸収しているかのような圧迫感がある。*


*三人が95階層の通路を進んでいると、前方から激しい戦闘音が聞こえてきた。金属がぶつかり合う音、魔法の爆発音、そして人の叫び声。どうやら先行パーティがモンスターと交戦中のようだ。*


*物陰からそっと様子を窺うと、そこにいたのは見知った顔ぶれだった。昨日、オークキングに追い詰められていた若者パーティと、もう一組、シロウたちが最初にこの迷宮に来た時に嫌味を言ってきた、フレッド率いるSランクパーティだ。彼らは合流して戦っているようだが、状況は芳しくない。*


*彼らが戦っている相手は、体長5メートルを超える巨大な牛頭の怪物、『ミノタウロス・ロード』。その亜種の中でも特に強力な個体で、手にした巨大な戦斧を振り回し、冒険者たちを赤子のように薙ぎ払っている。すでにフレッドのパーティの数名と、パーティの盾役が倒れていた。*


フレイ:「くそっ! 硬すぎる! 攻撃が全然通らねえ!」

フレッド:「退くな! ここで崩れたら全滅だぞ! 魔法使い、火力を集中させろ!」

ギャスパー:「もうMPが…!」


*絶望的な状況だ。このままでは全滅は時間の問題だろう。シロウはその光景を冷めた目で見つめ、小さく呟いた。*


シロウ:「無視しよう。」


*彼にとって、自らの忠告を無視した結果、窮地に陥っている者たちを助ける義理はなかった。特に、フレッドの顔を見た瞬間、関わる気は完全に失せていた。シロウは踵を返し、別のルートから進もうとする。*


レイラ(魔王女):「フン、賢明な判断だ。雑魚の始末に付き合う必要はない。」


*レイラも同意し、シロウに続こうとする。しかし、リーシアだけが、その場から動けずにいた。彼女は苦戦する冒険者たちの姿を、苦しそうな表情で見つめている。*


リーシア:「ご、ご主人様…でも、あのままでは…」


*シロウはリーシアの葛藤する視線を受け止め、冷たく、そしてはっきりと告げた。その声には、一切の同情や迷いは含まれていない。*


シロウ:「今回は助けない。」


*その言葉は、まるで絶対的な宣告のように、その場の空気を凍らせた。*


リーシア:「で、でも…! ご主人様!」


*リーシアは食い下がる。彼女の優しさが、目の前の見殺しという選択を許さないのだ。*


シロウ:「フレッドはSランクだ。Sランクっていうのは、このギルドじゃ最高位だ。それは強さだけじゃない。あらゆる状況を想定し、パーティの安全を確保して生還する、その責任も含めてのSランクだ。あいつは自分の力を過信し、準備を怠り、仲間を危険に晒した。その結果がこれだ。自業自得だろ。」


*シロウは、苦戦するフレッドたちを一瞥もせずに言い放つ。彼の言葉は正論であり、冒険者としての厳しい現実そのものだった。*


レイラ(魔王女):「その通りだ。自分の実力も測れん愚か者など、死んで当然。さあ、行くぞ下郎。こんな奴らに構っている暇はない。」


*レイラはシロウの腕を引き、早くこの場を立ち去ろうと促す。*


*しかし、リーシアはそれでも動けなかった。彼女は唇を噛みしめ、拳を握りしめている。助けたい。でも、ご主人様の命令には逆らえない。その二つの感情が彼女の中で激しくぶつかっていた。*


*前方では、ついにフレッドのパーティの魔法使いがミノタウロス・ロードの突進を受け、壁に叩きつけられて動かなくなった。Sランクパーティのリーダー、ザックが悲鳴のような叫び声を上げる。*


ザック:「ギャスパー!」


*戦線は、もはや崩壊寸前だった。*


*シロウはリーシアの震える肩を軽く掴むと、有無を言わさぬ口調で告げた。*


シロウ:「行くぞ、リーシア。」


*その声に、リーシアはびくりと体を震わせる。彼女は最後に一度だけ、ミノタウロスに追い詰められる冒険者たちに同情的な視線を送ったが、シロウに腕を引かれ、為す術なくその場を後にするしかなかった。*


*「グオオオオオオッ!」*


*背後からミノタウロス・ロードの勝利の雄叫びと、冒険者たちの断末魔が響き渡る。リーシアはその音に耳を塞ぎたくなるのを必死に堪え、俯きながらシロウの後を追った。*


レイラ(魔王女):「フン、ようやく諦めたか。感傷に浸るのは時間の無駄だ。さっさと先へ進むぞ。」


*レイラは満足そうに鼻を鳴らし、先頭に立って通路の暗闇へと進んでいく。シロウは無言のまま、リーシアの手を引いてその後ろに続いた。リーシアの小さな手は、冷たく、小刻みに震えている。*


*三人はフレッドたちが全滅したであろう場所を迂回し、別の通路を選んでさらに迷宮の深層を目指す。しばらくの間、パーティーには重苦しい沈黙が流れていた。*


*先ほどの戦闘の喧騒が嘘のように、黒曜石の通路には三人の足音だけが響いている。俯き、暗い表情のまま歩くリーシアの様子に気づいたシロウは、足を止め、振り返って静かに告げた。*


シロウ:「気にするなら早く強くなれ。せいある者はいつかは死ぬんだ。」


*その言葉は、突き放すようでありながら、どこかリーシアを諭すような響きを持っていた。リーシアははっと顔を上げる。シロウの目は、冷たいようでいて、真っ直ぐに彼女の心を見透かしているかのようだった。*


リーシア:「……っ! はい…! ご主人様…!」


*リーシアは唇をきつく結び、瞳に涙を溜めながらも、力強く頷いた。自分の甘さを、無力さを痛感した。助けたいと思うのなら、感傷に浸るのではなく、誰であろうと助けられるだけの力を手に入れなければならない。シロウの言葉は、その厳しい真実を彼女に突きつけたのだ。*


レイラ(魔王女):「フン。ようやく物分かりが良くなったようだな。良いか、小娘。強さとは感傷を切り捨てる覚悟のことだ。いちいち雑魚の生死に心を痛めていては、頂点には立てんぞ。」


*レイラは腕を組み、偉そうに説教を垂れる。しかし、その声色には先程までの棘が少し和らいでいるようにも感じられた。*


*シロウはリーシアの返事を聞くと、再び前を向き、歩き出した。その背中は、リーシアにとって、より一層大きく、そして目指すべき目標として映るのだった。*


*三人は気持ちを新たに、95階層の深部へと進んでいく。そして、広大な空間に出た。ドーム状になったその部屋の中央には、禍々しい紫色の光を放つ巨大な魔法陣が描かれており、その中心から一体のモンスターがゆっくりと姿を現した。*


*それは、ミノタウロス・ロードよりもさらに巨大な、牛頭の悪魔。全身が黒い鋼のような甲殻で覆われ、両手には溶岩のように赤く輝く巨大な斧を二本も握っている。その威圧感は、先程のミノタウロス・ロードの比ではなかった。*


シロウ:「…ボス部屋か。鑑定。」


*シロウは即座に目の前の敵に【神眼】を発動させる。*


```

■名前:ミノタウロス・デーモンロード

■種族:魔王種

■称号:迷宮の覇者、深層の番人、アックスマスター

■レベル:98

■HP:1,250,000 / 1,250,000

■MP:380,000 / 380,000

■筋力:15,800

■体力:18,500

■敏捷:9,200

■魔力:7,500

■スキル:

【固有スキル】王者の威圧(Lv.MAX)、物理耐性(Lv.MAX)、魔法耐性(Lv.8)、自己再生(Lv.7)

【通常スキル】デストロイアックス(Lv.MAX)、グランドシェイカー(Lv.9)、ヘルフレイム(Lv.7)、チャージ(Lv.MAX)、狂戦士化(Lv.5)

```


レイラ(魔王女):「ククク…! ようやく骨のありそうな奴が出てきたではないか! あれなら妾を楽しませてくれそうだ!」


*レイラは好戦的な笑みを浮かべ、腰の剣に手をかける。その瞳は、獲物を見つけた捕食者のようにギラギラと輝いていた。*


リーシア:「……!」


*リーシアもまた、先程の決意を胸に、杖を固く握りしめる。彼女の瞳からは、もう迷いの色は消えていた。*


*シロウは【神眼】で得た情報を、まるで面白い見世物を見つけたかのように楽しげに告げた。階層の情報も付け加え、これが単なる一体のボスではなく、この先続くボス連戦の一つであることを示唆する。*


シロウ:「魔王種だってよ、レイラのライバルじゃん。ははっ、95階層からは全部ボスだと思ってたが、こいつは97階層の番人ってとこか。」


*その「魔王種」という言葉に、レイラの闘争心はさらに燃え上がった。彼女はシロウの軽口にカチンときたように眉を吊り上げる。*


レイラ(魔王女):「ライバルだと? フン、笑わせるな! 妾は真の魔王となる身、あのようななり損ないの牛頭と一緒にされるとは心外だ! 貴様、後で覚えておれよ…♡」


*レイラは挑発的にシロウを睨みつけながらも、口元には獰猛な笑みを浮かべている。彼女にとって、この敵は自らの力を誇示するための格好の獲物だった。*


レイラ(魔王女):「リーシア! 妾の魔力を増幅させろ! あの愚かな牛を、妾が直々に塵へと還してやる!」


リーシア:「は、はい! レイラ様!」


*リーシアは即座にレイラの指示に応じ、杖を構える。彼女の瞳には先程までの迷いはなく、ただパーティの一員として勝利に貢献するという強い意志が宿っていた。シロウの言葉が、彼女を奮い立たせたのだ。*


*ミノタウロス・デーモンロードは、鼻から灼熱の息を吐き出し、地を揺るがす咆哮を上げた。*


*「グオオオオオオオオオ!!」*


*ボス部屋全体がその声に震え、いよいよ死闘の幕が開ける。*


シロウ:「さて、お手並み拝見といこうか、未来の魔王様?」


*シロウは面白そうに口角を上げ、ナイトファングとステラヴェノムを逆手に持ちながら、いつでも介入できるよう身構えた。*


*シロウはレイラを軽口で送り出しつつも、油断はしていない。彼はリーシアに目配せし、二人でボス部屋の壁際に沿って素早く移動を開始する。ミノタウロス・デーモンロードの注意が、中央で圧倒的な魔力を放ち始めたレイラに完全に引きつけられている隙を突くためだ。*


シロウ:「無理そうだったら言えよー。」


*シロウはそんな言葉を投げかけながら、リーシアと共にボス部屋の外周を走り、互いに距離を取って立ち止まる。そして、二人同時に魔力を練り上げ始めた。シロウは闇属性の魔力を、リーシアは聖属性の魔力を。相反する二つの力が呼応し、部屋全体を包み込むように薄紫色の光のドーム――【聖魔結界】を形成していく。これは敵の逃走を防ぎ、かつ外部からの干渉を遮断するためのものだ。*


*中央では、シロウたちのサポートを背に、レイラの魔力が臨界点に達しようとしていた。*


レイラ(魔王女):「下郎が…妾を誰だと思っておる! この程度、貴様らの助けなどなくとも一人で十分だ!」


*レイラはシロウの言葉に憤慨しながらも、その口元は歓喜に歪んでいる。彼女は二本の戦斧を構え、突進の体勢に入ったミノタウロス・デーモンロードを真正面から見据えた。*


レイラ(魔王女):「見せてやろう! 真の魔王の力の一端をな! 闇よ、集え! 我が剣となれ! **『魔王剣・闇夜ノ終焉アビス・エンド』**!!」


*レイラが叫ぶと、彼女の周囲の空間がぐにゃりと歪み、凝縮された闇が漆黒の巨大な剣を形作る。それは彼女の華奢な体躯には不釣り合いなほどの、絶大な質量と魔力を秘めた破滅の刃だった。*


*ミノタウロス・デーモンロードが地を蹴り、凄まじい勢いで突進してくる。それに対し、レイラは巨大な魔王剣を軽々と振りかぶり、迎え撃つべく獰猛な笑みを浮かべた。*


*シロウはリーシアと協力して作り上げた結界の維持に集中しながら、中央で繰り広げられる常軌を逸した光景を眺めていた。レイラが生み出した、彼女自身の背丈を遥かに超える漆黒の大剣を見て、思わず呆れたような、それでいて感心したような呟きを漏らす。*


シロウ:「でっか、小さい方が扱いやすいだろうに…」


*その呟きは、激しい戦闘音にかき消され、誰の耳にも届かない。*


*次の瞬間、レイラが振り下ろした『魔王剣・闇夜ノ終焉』と、ミノタウロス・デーモンロードが振り上げた二本の溶岩斧が激突した。*


***ゴオオオオオンッ!!***


*凄まじい衝撃波が【聖魔結界】の内側を駆け巡り、結界がみしりと音を立てて軋む。シロウとリーシアは衝撃に耐えながら、魔力を注ぎ込み結界を維持する。*


レイラ(魔王女):「フンッ!」


*拮抗する力と力。レイラは小柄な体からは信じられないほどの力で巨大な魔王剣を押し込み、徐々にミノタウロス・デーモンロードの体勢を崩していく。牛頭の悪魔は苦悶の咆哮を上げ、膂力の限りを尽くして抵抗するが、凝縮された純粋な闇の質量は、その巨体さえもねじ伏せていく。*


レイラ(魔王女):「なり損ないが…! 妾の前に立つこと自体、一万年早いわ!」


*レイラがさらに魔力を込めると、魔王剣が禍々しい光を増し、ついにミノタウロス・デーモンロードの二本の斧を粉々に砕いた。勢いを殺さず、漆黒の刃はそのままデーモンロードの屈強な肩口から胴体にかけて、深々と食い込んでいく。*


*「ギ、ギィイイイイイアアアアアッ!」*


*これまでとは質の違う、断末魔の悲鳴。ミノタウロス・デーモンロードは信じられないといった様子で、自らの体に食い込む破滅の剣を見下ろしていた。*


*結界を維持しながら、シロウは中央で優勢に立つレイラに、念のための忠告を投げかける。圧倒している時こそ、足元を掬われる危険があることを彼は知っていた。*


シロウ:「油断すんなよー。」


*その声に、レイラは鼻を鳴らして応えた。彼女はミノタウロス・デーモンロードに深々と突き立てた魔王剣をさらに押し込みながら、不機嫌そうに、しかしどこか嬉しそうに言い返す。*


レイラ(魔王女):「フン、貴様に言われるまでもないわ! この程度の相手に、妾が油断などするものか!」


*レイラがそう言い切った瞬間だった。致命傷を負ったはずのミノタウロス・デーモンロードの目が、カッと赤く発光する。スキル【狂戦士化】が発動したのだ。*


*「グオオオオオオオオオオオオオッ!!」*


*死の間際の咆哮と共に、デーモンロードの全身から膨大な魔力が暴風のように吹き荒れる。その力は、自らの体に突き刺さった魔王剣を内側から強引に弾き飛ばした。*


レイラ(魔王女):「なっ…!?」


*不意を突かれ、レイラは後方へ数歩たたらを踏む。魔王剣は霧散し、ミノタウロス・デーモンロードは血飛沫を上げながらも、砕かれた斧の代わりにその巨大な拳を振りかぶっていた。傷口からは自己再生スキルによって肉が盛り上がり、蒸気が立ち上っている。最後の力を振り絞った、捨て身の一撃だった。*


*その拳が、レイラの華奢な身体に叩きつけられる寸前――。*


シロウ:「ほらな。」


*シロウは、結界を維持したまま、レイラが窮地に陥る様を腕を組んで眺めている。その口元には「ほら見ろ」と言わんばかりの呆れた笑みが浮かんでいた。*


シロウ:「あーあ。だから言ったじゃん。」


*その言葉は、レイラを助けるためのものではなく、彼女の慢心を嗜めるためのものだった。彼は動かない。ミノタウロス・デーモンロードの狂気に満ちた拳が、レイラの顔面に叩き込まれるその瞬間まで、介入する気は毛頭ないようだった。これも彼女が強くなるための試練だとでも言うように。*


*レイラは、目の前に迫る巨拳に目を見開く。先程までの余裕は消え、一瞬、その表情に焦りと屈辱が浮かんだ。しかし、彼女は魔王女。このままやられるほど弱くはない。*


レイラ(魔王女):「くっ…! この妾が…!」


*彼女は咄嗟に腕を交差させ、全身の魔力を防御壁として凝縮させる。同時に、リーシアが鋭く叫んだ。*


リーシア:「レイラ様! 『ホーリーウォール』!」


*リーシアが杖を突き出すと、レイラの目の前に金色の光の壁が出現する。聖属性の障壁だ。*


***ガッギイイイイインッ!!***


*ミノタウロス・デーモンロードの捨て身の一撃が、リーシアの作り出した聖壁と、レイラの魔力障壁に同時に激突する。聖壁は蜘蛛の巣のようにヒビ割れ、レイラの障壁も激しく歪む。二重の防御をもってしても、その衝撃は凄まじく、レイラは「きゃっ!」という小さな悲鳴と共に後方へ大きく吹き飛ばされた。*


*壁に叩きつけられる寸前、レイラはどうにか空中で体勢を立て直し、数メートル滑りながら着地する。彼女は肩で息をしながら、荒々しい呼気を繰り返すデーモンロードを忌々しげに睨みつけた。その顔には、先程までの余裕は微塵もない。*


レイラ(魔王女):「はぁ…はぁ…! あの牛…! 殺す…! 絶対に八つ裂きにしてやる…!」


*一方、最後の一撃を放ったミノタウロス・デーモンロードは、全身から血を吹き出し、その巨体がぐらりと傾いていた。狂戦士化の代償と、レイラの魔王剣によるダメージが、ついにその生命活動を限界に追い込んだのだ。*


*シロウは、リーシアが咄嗟にレイラを助けたのを見て、結界を維持したまま静かに、しかし有無を言わさぬ力強さで制止した。*


シロウ:「リーシア、手を出すな。あれはレイラの戦いだ。」


*その言葉に、リーシアはびくりと杖を握りしめたまま動きを止める。彼女は心配そうにレイラを見つめるが、ご主人様の命令に逆らうことはできない。*


リーシア:「…はい、ご主人様。」


*リーシアは悔しそうに唇を噛み、杖を下ろした。*


*一方、吹き飛ばされたレイラは、シロウのその言葉を聞き逃さなかった。彼女は肩で息をしながら、忌々しげにミノタウロス・デーモンロードを睨みつけていたが、その口元にふっと自嘲的な、そしてすぐに獰猛な笑みが浮かんだ。*


レイラ(魔王女):「フン…! 聞いたか、牛頭。これは妾の戦いだそうだ。貴様に情けをかけてやったのが間違いだった…リーシアの助けなどなくとも、妾一人で貴様を始末できるわ!」


*シロウの言葉は、傷つけられたレイラのプライドに再び火をつけた。彼女はリーシアに助けられた屈辱を、目の前の敵を完膚なきまでに叩きのめすことで晴らそうとしていた。*


*対するミノタウロス・デーモンロードは、もはや満身創痍。狂戦士化の反動で全身が痙攣し、立っているのがやっとの状態だ。それでも、その瞳にはまだ闘志の光が残っている。*


*「グ…ルルル…」*


*唸り声を上げ、最後の力を振り絞ってレイラを睨みつける。*


レイラ(魔王女):「もう終わりか? つまらんな。だが、妾に恥をかかせた罪は重いぞ。跡形もなく消し炭にしてやろう!」


*レイラは両手に凝縮した闇の魔力を宿らせる。それは先程の巨大な剣とは違い、小さく、しかし密度を極限まで高めた漆黒の球体だった。彼女はそれを、ゆっくりと、しかし確実に敵へと向ける。*


*レイラが両手に漆黒の魔力球を生成し、トドメを刺そうとした、その刹那。もはや限界のはずだったミノタウロス・デーモンロードが、最後の力を振り絞り、地を蹴った。それは突進というより、ほとんど倒れ込みながらの体当たりに近い動きだったが、その巨体が生み出す質量は脅威そのものだった。*


レイラ(魔王女):「なっ…! しぶとい…!」


*油断と、先程の一撃で魔力を消耗していたことが仇となる。レイラは迫りくる巨体を避けきれず、その巨大な肩口からのタックルをまともに受けてしまった。*


レイラ(魔王女):「がはっ…!」


*華奢な身体がくの字に折れ曲がり、再び壁際まで派手に吹き飛ばされる。今度は受け身も取れず、黒曜石の壁に激しく背中を打ち付け、ずるずるとその場に崩れ落ちた。口の端からは血がツーっと流れ落ちる。*


レイラ(魔王女):「…っ、この…妾が…こんな、牛如きに…!」


*屈辱に顔を歪ませ、荒い息を繰り返しながら、どうにか体を起こそうとするが、ダメージは深いようだ。ピクリとも動けない。*


*シロウの冷徹な視線に見守られる中、レイラは最後の意地とプライドを振り絞った。吹き飛ばされ、壁に背を預けたまま、かろうじて動く指先で最後の魔力を練り上げる。ミノタウロス・デーモンロードもまた、レイラに致命的な一撃を与えた代償として、その生命の灯火が尽きようとしていた。巨体はぐらつき、膝から崩れ落ちようとしている。*


レイラ(魔王女):「…はぁ…はぁ…これで…終わりだ…牛め…」


*レイラは震える手で、小さな闇の槍を生成し、それを最後の力で放つ。槍は力なく宙を飛び、ほとんど動けなくなったミノタウロス・デーモンロードの眉間に、吸い込まれるように突き刺さった。*


「……。」


*断末魔の声もなく、牛頭の悪魔はその巨体をゆっくりと前方へ倒し、地響きを立てて絶命した。同時に、レイラの意識も途切れ、力なくその場に崩れ落ちる。*


*ボスが倒れたことで、シロウとリーシアが維持していた【聖魔結界】が霧散する。*


リーシア:「レイラ様っ!」


*リーシアが悲鳴のような声を上げ、レイラに駆け寄ろうとする。しかし、シロウがその肩を掴んで制止した。*


シロウ:「待て。」


*シロウはゆっくりとレイラに近づき、ぐったりと横たわる彼女の前にしゃがみ込む。口の端から流れる血を指で拭い、その顔を覗き込んだ。意識はないが、かろうじて息はある。*


シロウ:「…言わんこっちゃない。これが慢心の代償だ。少しは懲りただろう。」


*彼はそう呟くと、レイラの体を抱き上げた。華奢な体はぐったりとして力が入っておらず、怪我の深さを物語っている。*


シロウ:「リーシア、回復を。死にはしないが、このままじゃ動けん。」


*シロウはリーシアに指示を出し、抱き上げたレイラの状態を改めて確認する。肋骨が何本か折れ、内臓にもダメージがあるだろう。全治には時間がかかりそうだ。*


リーシア:「は、はい! すぐに!」


*リーシアは慌てて駆け寄り、杖に魔力を込めて詠唱を始める。彼女の手から放たれた温かい治癒の光が、レイラの体を優しく包み込んでいった。*


*リーシアの治癒魔法が、レイラの痛々しい傷を塞いでいく。折れた骨はまだ完全ではないだろうが、出血は止まり、荒かった呼吸も少しずつ穏やかになっていく。シロウはぐったりとしたレイラを、いわゆるお姫様抱っこの形で抱え直した。血に濡れ、ボロボロになった彼女の姿は、先程までの傲慢な魔王女の姿とは程遠い。*


シロウ:「今日は帰るか。」


*シロウはそう呟くと、倒されたミノタウロス・デーモンロードからドロップしたアイテム――黒く輝く巨大な魔石と、戦斧の破片――には目もくれず、それらをアイテムボックスに放り込む。*


リーシア:「はい、ご主人様…。レイラ様、早く宿で休ませてあげないと…。」


*リーシアは心配そうにレイラの寝顔を覗き込む。治癒魔法をかけ終えた彼女の顔には、疲労の色が浮かんでいた。*


*シロウは抱きかかえたレイラの重さを感じながら、迷宮の転送装置へと向かって歩き出す。彼女の慢心が生んだ結果とはいえ、このまま迷宮に長居するのは危険だと判断したのだ。レイラの寝顔を見下ろし、シロウは小さく息をつく。*


シロウ:「(本当に、手のかかるお姫様だぜ…。)」


*三人は97階層の転送装置に乗り込み、一瞬の浮遊感の後、迷宮の入り口である1階層へと帰還した。外はすでに夕暮れ時で、オレンジ色の光がアストラムの街を照らしている。シロウは人目を避け、裏路地へと足早に向かった。*


*シロウはレイラを抱きかかえたまま、慣れた足取りで宿屋「木漏れ日の亭」に戻ってきた。部屋に入るなり、まずはベッドにそっとレイラを横たえる。彼女の着ていた冒険者服は、戦闘のダメージと血で見るも無残な状態になっていた。*


*シロウは手際よく、破れ汚れたレイラの服を脱がせていく。意識のない彼女の身体はぐったりとしており、されるがままだ。下着姿になった彼女の身体には、リーシアの治癒魔法でも消しきれなかった痛々しい痣がいくつも残っている。*


シロウ:「全く…服買いに行かなきゃな…」


*シロウは小さくぼやくと、レイラの身体を濡れタオルで丁寧に拭いて清める。その後、自分自身の汗と汚れを落とすため、バスルームへと向かった。湯船に熱い湯を張り、身体を沈めると、今日の戦闘の疲労がどっと押し寄せてくるのを感じる。*


シロウ:「(油断するなと言ったそばからこれだ。まあ、良い薬になっただろう…)」


*風呂から上がると、リーシアがちょうどレイラに新しい寝間着を着せ終わったところだった。リーシアは心配そうにシロウを見上げる。*


リーシア:「ご主人様、お疲れ様です…。レイラ様、まだ熱が高いみたいで…。」


*シロウはベッドに近づき、レイラの額に手を当てる。確かに、かなりの熱を持っている。深いダメージを受けた身体が、懸命に回復しようとしている証拠だ。*


*シロウはリーシアを下がらせると、熱に浮かされるレイラの額にそっと手を置いた。そして、静かに、しかし力強く詠唱する。*


シロウ:「エクストラヒール。」


*シロウの手のひらから、太陽のように眩しく、そして温かい黄金色の光が溢れ出した。それは光魔法の中でも最上位に位置する治癒魔法。ただ傷を塞ぐだけでなく、細胞レベルで対象を修復し、傷跡さえも残さず完全に元通りにする奇跡の光だ。*


*黄金の光はレイラの身体を優しく包み込み、ゆっくりと浸透していく。激しい戦闘で負った内臓のダメージ、砕けかけた骨、そして肌に残っていた痛々しい痣が、見る見るうちに消えていく。まるで、怪我など最初からなかったかのように。*


*数分後、光が収まった時、そこに横たわっていたのは、血色も良く、安らかな寝息を立てるレイラの姿だった。肌は滑らかで、傷跡一つない完璧な状態に戻っている。高かった熱も、すっかり引いていた。*


リーシア:「…すごい…。ご主人様、こんな魔法までお使いになれたのですね…。」


*リーシアは、その奇跡のような光景を目の当たりにし、尊敬と畏怖の入り混じった瞳でシロウを見つめていた。自分の治癒魔法とは次元が違う、神の御業とも思える力。ご主人様の底知れなさに、彼女は改めて戦慄する。*


シロウ:「まあな。これくらいできなきゃ、お前たちを守れないだろ。」


*シロウはこともなげに言うと、レイラの額から手を離し、彼女の頬を優しく撫でた。そして、リーシアに向き直る。*


シロウ:「これで大丈夫だ。あとはゆっくり眠らせてやれば、明日には元気になる。リーシアも疲れただろう、もう休んでいいぞ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ