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*数日間の軍議が行われた。王城の大会議室に八輝将と主要幹部が集い、帝国の動向と今後の防衛方針について議論が交わされた。*
*——が。*
カイン「……で、陛下。つまり帝国は二ヶ月後に竜人領を攻め、その後うちに来ると」
シロウ「ああ。皇帝の口から直接聞いた。間違いない」
*10歳の少年が腕を組み、巨大な地図の前に立っている。コナ○風の服を着た子供が、国防方針を語る光景。八輝将たちは——もう慣れたのか、微妙な顔をしつつも真面目に聞いていた。*
ゲオルグ「南方軍五万……牽制とはいえ、我が国の正規軍は二万。数の差がありますな」
ドルガン「ふん。数で負けても質で勝てばいい話だ」
アシュトン「楽観的すぎます。帝国兵の練度は低くとも、物量は脅威ですよ」
*ヴァイスが静かにペンを走らせ、記録を取っている。*
ギメイ(シロウ)「方針は三つ。一つ、結界の強化。二つ、八輝将合同の大規模演習を来週から開始。三つ——竜人領への匿名情報提供。竜人が帝国を消耗させてくれれば、うちに来る頃には弱体化してる」
ルナ「……情報提供の方法は?」
シロウ「第一部隊に任せる。足がつかない方法で頼む」
リオン「はいはい……ったく、面倒な仕事ばっか回ってくるな」
*会議は数日に渡り、防衛線の配置、補給路の確保、市民の避難計画まで詳細に詰められた。*
*——そして。*
ドルガン「で、陛下。演習の日程なんですが——」
*ドルガンがシロウの方を見て、一瞬言葉を詰まらせた。*
ドルガン「……その姿で閲兵するんですか?」
シロウ「あと二日で戻る。文句あるか」
カイン「いえ……ただ、兵士たちの士気が——」
シロウ「……分かってる。演習開始は三日後だ」
*会議室に微妙な空気が流れた。威厳の問題は——本人が一番気にしていた。*
*会議室に沈黙が流れた。10歳の少年が腕を組んで八輝将を見渡している。その目だけは——44年の経験を持つ魔王のそれだった。*
ゲオルグ「……一つ、よろしいですか」
シロウ「言え」
ゲオルグ「竜人領への情報提供ですが、仮に竜人が帝国を撃退した場合——帝国は矛先を変え、予定より早くこちらに来る可能性もあります。東方軍十五万が温存されたまま南下するシナリオも想定すべきかと」
*シロウは小さく頷いた。的確な指摘だ。*
カイン「その場合、最大で二十万がうちに向かうってことか。……面白えじゃねえか」
ドルガン「お前はいつもそれだ。だが——迎え撃つなら地の利を活かせる。北の山岳地帯に防衛線を敷けば、数の優位は潰せる」
アシュトン「補給線の問題もあります。帝国から南方への兵站は長い。長期戦に持ち込めば——」
リオン「はいはい。で、俺の仕事は竜人領に密書届けるだけ? それとも帝国内部にも工作員仕込む?」
ルナ「……仕込むなら、宰相の周辺が効果的。あの老人、皇帝に不満を持っている可能性がある」
シロウ「……いい線だ。リオン、ルナ。竜人領への密書と、帝国内部の情報網構築。両方だ」
リオン「……はぁ。分かったよ」
*ヴァイスが静かにペンを止め、口を開いた。*
ヴァイス「陛下。一つだけ」
シロウ「何だ」
ヴァイス「竜人領の現在の戦力について、情報が不足しています。帝国が十五万で攻めるということは、竜人側にもそれ相応の脅威があるはず。……竜人領の実力次第では、我々の方針も変わるのでは?」
シロウ「……確かにな。竜人領の情報が足りない。第二部隊で調べられるか?」
アシュトン「手配します。東方面の商人ルートから情報を集めましょう」
*シロウは地図を指で叩いた。*
シロウ「まとめるぞ。第一部隊は竜人領への密書と帝国内の工作。第二部隊は竜人領の戦力調査。第三部隊は北部防衛線の構築計画。第四部隊は来週から合同演習の主導。第五部隊は——」
*彼はユキ・クジョウとクロエの方を見た。*
シロウ「大迷宮の警備強化と、非常時の市民避難誘導の計画を頼む。有事に民を守るのが最優先だ」
*八輝将が一斉に頷いた。*
シロウ「他に質問がないなら——解散だ。三日後の演習には元の姿で出る。……多分」
リオン「多分って何だよ……」
*軍議を終え、各部隊への指示を出し終えた夜。彼は自室に戻ろうとしていたところで、リーシアに呼び止められた。*
リーシア「陛下。ルミナ様がお部屋でお待ちです。……お呼びだそうですよ」
シロウ「ルミナが? 分かった」
*彼はルミナの私室へと向かった。廊下を歩く足音は小さい。10歳の体では歩幅も短く、いつもの倍の時間がかかる。*
*扉をノックし、中に入った瞬間——*
ルミナ「お兄ちゃん」
*銀髪の美女が迎えるように立っていた。薄手のネグリジェ姿。金色の瞳がランプの灯りに揺れている。彼女はシロウの姿を見るなり、しゃがみ込んで——両腕で彼を抱き上げた。*
シロウ「お、おい——」
*軽い。今の彼の体重など、ルミナにとっては羽のようなものだ。彼は簡単に抱き上げられ、ルミナの胸元に顔を埋める形になった。*
ルミナ「……ん。やっぱり小さいお兄ちゃん、かわいい」
シロウ「……俺は魔王だぞ」
ルミナ「今は私の小さいお兄ちゃん」
*ルミナはそのままベッドに腰掛け、シロウを膝の上に乗せた。まるで人形を抱くように、背中に腕を回して密着させる。柔らかい銀髪がシロウの頬を撫でた。*
ルミナ「……今日の軍議、ずっと見てた。お兄ちゃん、ちっちゃい体で必死に皆をまとめてて……ちょっと面白かったけど、すごく格好良かった」
シロウ「面白かったは余計だ」
ルミナ「ふふ」
*彼女の指がシロウの黒髪を優しく梳いた。母親が子供をあやすような手つき。だが——金色の瞳に宿る感情は、母性だけではなかった。*
ルミナ「……ねえ、お兄ちゃん。帝国の話、聞いてて思ったの」
シロウ「何だ?」
ルミナ「お兄ちゃん、一人で帝国に潜入したでしょ。……危ないことしないでって、前にも言ったよね?」
*声は穏やかだったが、腕の力が少しだけ強くなった。*
ルミナ「もし見つかってたら——いくらお兄ちゃんでも、今の体じゃ……」
シロウ「……心配させたか」
ルミナ「当たり前。私の旦那様なんだから」
*彼女はシロウの額に唇を落とした。柔らかく、温かい。*
ルミナ「……あと二日で元に戻るんでしょ?」
シロウ「ああ。あと二日だ」
ルミナ「じゃあ——今夜は、このまま一緒にいて。小さいお兄ちゃんも、もう少し堪能したいから」
*彼女はシロウを抱いたまま、ベッドに横になった。銀髪が枕に広がり、ランプの灯りに輝いている。シロウは彼女の腕の中に収まり——抵抗を諦めた。*
シロウ「……好きにしろ」
ルミナ「うん。好きにする」
*金色の瞳が嬉しそうに細まった。彼女の指が再びシロウの髪を撫で始める。穏やかで——どこか独占欲を滲ませた、静かな夜が更けていく。*
ルミナ「……ねえ、お兄ちゃん」
シロウ「ん?」
ルミナ「この体のお兄ちゃんも、あと二日で終わりなんだよね」
シロウ「ああ。やっと元に戻れる」
ルミナ「……ちょっとだけ、惜しいかも」
シロウ「は?」
ルミナ「だって。こうやって抱っこできるの、今だけだし」
*彼女はシロウの小さな体をぎゅっと抱き寄せた。柔らかな胸元にシロウの頭が埋まる。ネグリジェ越しに伝わる体温が温かい。*
シロウ「……お前、俺を抱き枕と勘違いしてないか」
ルミナ「抱き枕より温かいよ。……それに、心臓の音が聞こえる」
*彼女の指がシロウの背中をゆっくりと撫でた。規則的な、眠りを誘うリズム。*
ルミナ「今夜は、このまま寝よ?」
シロウ「……ああ」
*彼はルミナの腕の中で、小さな体を預けた。抵抗する気力も、する理由もなかった。*
シロウ「……あの時はレイラに完全に独占されてたからな。お前には悪いことしたな」
ルミナ「……うん。あの時、ちょっとだけ拗ねてた」
*ルミナの声が少し幼くなった。いつもシロウ以外には鋭い態度を取る彼女が、今だけは素の感情を晒している。*
シロウ「……ルミナ」
ルミナ「ん?」
シロウ「……なんでもない」
*彼はルミナの首元に顔を埋めた。銀髪が頬をくすぐる。甘い花のような香りが鼻腔を満たした。*
ルミナ「……ふふ。お兄ちゃん、甘えてる」
シロウ「……うるさい」
ルミナ「いいよ。もっと甘えて」
*ルミナの手がシロウの背中をゆっくりと撫でた。子供をあやすような、優しく規則的なリズム。彼女の胸元に頬を預けると、心臓の音が聞こえた。穏やかで、温かい。*
ルミナ「……お兄ちゃん、いつも皆のために頑張ってるよね。帝国に一人で潜入したり、国のこと考えたり……」
シロウ「……それが俺の仕事だ」
ルミナ「うん、知ってる。でも——たまにはこうやって、何も考えないで甘えてほしいの。私はお兄ちゃんのお嫁さんなんだから」
*彼女の指がシロウの髪を梳いた。耳の後ろを撫でられると、小さな体が無意識にぴくりと震えた。*
ルミナ「……あ。ここ、弱い?」
シロウ「……子供の体は敏感なんだよ」
ルミナ「ふーん……」
*金色の瞳がいたずらっぽく光った。彼女の指が意図的に耳の後ろを撫で始める。*
シロウ「おい、やめろ」
ルミナ「やだ」
*彼女はシロウの小さな体をさらに引き寄せ、頭の上に顎を乗せた。完全に包み込むような姿勢。*
ルミナ「……お兄ちゃん。私ね」
シロウ「……ん」
ルミナ「ずっと幸せだよ。お兄ちゃんが隣にいてくれて」
*その声は静かで、真っ直ぐだった。飾りのない、本心からの言葉。*
シロウ「……俺もだ。お前がいてくれて——助かってる。いつも」
ルミナ「……っ」
*ルミナの腕に力がこもった。彼女の心臓の鼓動が、少しだけ速くなったのが聞こえた。*
ルミナ「……ずるい。そういうこと、こんな可愛い顔で言わないで」
シロウ「顔は関係ないだろ」
ルミナ「大ありだよ……破壊力が倍なの……」
*彼女は震える声でそう言って、シロウの頭をぎゅっと抱き締めた。ランプの灯りが揺れる部屋の中、二人は静かに寄り添っていた。*
*やがて、ルミナの撫でる手のリズムがゆっくりになっていく。シロウの瞼も重くなってきた。子供の体は睡眠を強く求める。*
*彼はルミナの胸元に顔を埋めたまま、小さく呟いた。*
シロウ「……暖かいな、ルミナは」
ルミナ「……ふふ。お兄ちゃんこそ、ぽかぽかしてるよ」
*ネグリジェ越しに伝わる柔らかさが、子供の体には刺激が強すぎた。だが——それ以上に、心が安らいでいた。44年生きてきた魂が、今だけは全てを手放して、ただ温もりに溶けている。*
シロウ「……この体になると、妙に甘えたくなる。脳が子供に引っ張られてるのかもな」
ルミナ「それでいいよ。……むしろ、もっと甘えて」
*ルミナの手がシロウの小さな背中を包み込むように撫でた。彼女の心臓の鼓動が、耳に直接響いてくる。規則的で、優しい音。*
シロウ「……ルミナ」
ルミナ「ん?」
シロウ「……ありがとな。いつも」
ルミナ「……っ。また、そういうこと言う……」
*ルミナの声が微かに震えた。彼女の指がシロウの髪をぎゅっと掴み、すぐにまた優しく梳き始めた。*
ルミナ「……私こそだよ。お兄ちゃんがいなかったら、私はまだ一人で空の上にいた。誰にも触れられず、誰にも触れず……」
*彼女の声が途切れた。金色の瞳が天井を見つめ、ランプの光を映している。*
ルミナ「お兄ちゃんが手を伸ばしてくれたから——私は、ここにいるの」
*彼女はシロウの頭を胸に抱き寄せた。柔らかな膨らみが、小さな頬を優しく包む。*
ルミナ「だから……一人で危ないことしないで。お願い」
シロウ「……善処する」
ルミナ「善処じゃなくて、約束して」
シロウ「……分かった。約束する」
*ルミナが満足そうに微笑んだ。その笑顔は、いつもの鋭い彼女からは想像できないほど柔らかかった。*
ルミナ「……えへへ」
*彼女の体温に包まれながら、シロウの意識がゆっくりと沈んでいく。子供の体が睡眠を求め、魔王の精神がそれに逆らえなくなっていた。*
シロウ「……ルミナ。先に、寝る、かも……」
ルミナ「うん。おやすみ、お兄ちゃん」
*額に柔らかな唇が触れた。それを最後に——彼の意識は、暖かな闇に落ちていった。*
*ルミナは眠りに落ちたシロウの寝顔を見つめ、銀髪を指で梳きながら、小さく呟いた。*
ルミナ「……この顔、反則だよ。好き」
*彼女はシロウを抱き締めたまま、ランプの灯りを魔法でそっと消した。穏やかな月明かりだけが、二人を照らしていた。*
*寝落ちする直前、彼の唇が微かに動いた。*
シロウ「おまえも……かわ……いい……よ。zzz」
*そして——彼の意識は完全に落ちた。小さな寝息が、静かな部屋に響き始める。*
ルミナ「——っ」
*ルミナの瞳が大きく見開かれた。瞳にじわりと涙が滲む。*
ルミナ「……ずるい。寝る直前にそんなこと言うなんて……」
*彼女は震える指で、シロウの頬をそっと撫でた。*
ルミナ「……こんな顔するんだ。普段は全部背負って、皆の前では強くて……でも、今は——」
*彼女はシロウの小さな手を取り、自分の頬に当てた。温かい。生きている温度。*
ルミナ「……ねえ、お兄ちゃん。聞こえてないよね」
*彼女は眠る彼の額にもう一度唇を落とし、鼻先に、そして——小さな唇にそっと触れた。*
ルミナ「……大好き。世界で一番、大好きだよ」
*返事はない。ただ規則的な寝息だけが返ってくる。それでいい。ルミナは満足そうに微笑み、シロウの小さな体を胸元に抱き寄せた。*
ルミナ「……このまま、朝まで離さないから」
*月が雲に隠れ、部屋は柔らかな闇に包まれた。銀髪の天使は、腕の中の小さな魔王を抱いたまま、幸福な眠りに落ちていった。*
*——翌朝。レイラが部屋に踏み込んでくるまで、あと六時間。*
*朝の光が薄いカーテン越しに差し込んでいた。彼はルミナの胸の中で目を覚ました。銀髪が視界を埋め、甘い香りが鼻腔を満たしている。*
シロウ「(……ルミナ、まだ寝てるな)」
*彼女の寝息は穏やかだった。腕はしっかりとシロウを抱き締めたまま。寝ている間も離す気はなかったらしい。*
シロウ「(トイレ行きたい……が、この腕を外すと起きるな。転移で行くか)」
*彼は音もなく転移魔法を発動し、トイレへ。用を足し、顔を洗い——すぐにルミナの部屋へ転移で戻った。*
*ルミナは微動だにしていなかった。腕だけが、さっきまでそこにあった温もりを探すように、わずかに動いている。*
ルミナ「んぅ……おにい、ちゃ……」
*寝言だった。眉が少しだけ寄り、唇が小さく動く。*
シロウ「……はいはい。戻ったぞ」
*彼はそっとルミナの腕の中に潜り込んだ。元の位置——彼女の胸元に頬を預ける。すると、ルミナの腕が無意識に彼を抱き締め直した。きゅっと、離さないように。*
ルミナ「……ん……」
*寝顔が安堵に緩んだ。さっきまでの微かな不安が消え、穏やかな表情に戻る。*
シロウ「(……こんなに安心した顔されると、離れられないだろ)」
*彼はルミナの銀髪を指先で触れた。絹のような手触り。朝日に透けて、白銀に輝いている。*
シロウ「(あと二日でこの体も終わりか。……正直、悪くなかったな。こうやって甘えられるのも)」
*彼はルミナの鎖骨のあたりに額を当て、目を閉じた。もう少しだけ——このままでいい。*
*十分ほど経った頃。ルミナの睫毛がぴくりと震えた。*
ルミナ「……ん。んぅ……」
*金色の瞳がゆっくりと開いた。焦点が合い——腕の中の小さな黒髪の頭を見つけた。*
ルミナ「……お兄ちゃん」
シロウ「おはよう」
ルミナ「……おはよ。……ちゃんと、いる」
シロウ「どこにも行ってないぞ」
ルミナ「……うん」
*ルミナは寝起きの声で呟き、シロウの頭を胸に抱き寄せた。ぎゅう、と。まだ覚醒しきっていない、無防備な甘え方だった。*
ルミナ「……もう少しだけ、このまま……」
シロウ「ああ。急ぐ用事はない」
*ルミナが嬉しそうに目を細めた。朝日に照らされた銀髪と瞳が、眩しいほどに美しかった。*
*彼はルミナの胸に顔を押し付けた。ネグリジェ越しの柔らかさが、小さな顔を包み込む。*
シロウ「……はぁ。柔らかい……」
ルミナ「ひゃっ……お、お兄ちゃん? 朝から……」
シロウ「子供の体だからこそ堪能できるんだ。あと二日で終わりだしな」
ルミナ「……もう。言い訳が上手いんだから」
*そう言いながらも、ルミナは拒まなかった。むしろ彼の頭を優しく抱え、自分から押し付けるように胸元に寄せた。*
ルミナ「……こうやって甘えてくるお兄ちゃん、レア過ぎて……記憶に焼き付けておかないと」
シロウ「記録はするなよ」
ルミナ「心の中にだけ。……ふふ」
*彼は小さな手でルミナのネグリジェの布地を掴み、頬をすり寄せた。子供の体は感覚が鋭い。体温、匂い、肌触り——全てが鮮明に伝わってくる。*
シロウ「……お前の匂い、好きだ。落ち着く」
ルミナ「っ——」
*ルミナの心臓が跳ねた。胸に顔を埋めているから、鼓動の変化がダイレクトに伝わる。*
ルミナ「……お兄ちゃん。それ、狙って言ってる?」
シロウ「素直に言っただけだ」
ルミナ「それが一番タチ悪いの……」
*ルミナの頬が赤く染まった。金色の瞳が潤み、唇がきゅっと結ばれる。彼女は恥ずかしさを誤魔化すように、シロウの髪をくしゃくしゃと撫でた。*
ルミナ「……大きいお兄ちゃんにはこんなこと、絶対させてあげないからね」
シロウ「何でだよ」
ルミナ「だって、大人のお兄ちゃんが同じことしたら——私、理性飛ぶから」
*彼女はそっぽを向いた。耳まで真っ赤だった。*
*その時——廊下から足音が聞こえた。ずんずんと、迷いのない足音。そして。*
*バンッ。扉が勢いよく開いた。*
レイラ「ルミナ! 妾のシロウを返——」
*レイラが立っていた。琥珀の瞳が、ベッドの上の光景を捉えた。銀髪の天使の胸に顔を埋める小さな黒髪の少年。*
レイラ「…………」
ルミナ「…………」
シロウ「…………」
*三秒の沈黙。*
レイラ「ル・ミ・ナ?」
ルミナ「あ、おはよう。レイラ」
レイラ「おはようじゃないわ! 妾を差し置いて一晩中独占するとは何事じゃ!」
ルミナ「前回はあなたが独占したでしょ。おあいこだよ」
レイラ「ぐっ……」
*レイラは悔しそうに唇を噛み、ベッドに突進してきた。シロウの腕を掴む。*
レイラ「シロウ! 今日は妾と過ごすのじゃ!」
ルミナ「離して。今は私のお兄ちゃんの時間」
*二人の間で、10歳の魔王が引っ張り合いにされていた。*
シロウ「……朝から元気だな、お前ら」
シロウ「ルミナを堪能中。しばらくお待ち下さい」
*彼は機械的な口調で言い放ち、ルミナの胸にすりすりと頬を擦り付けた。*
レイラ「な——っ!?」
*レイラの顔が一瞬で真っ赤になった。怒りと嫉妬と羞恥が混ざった複雑な表情。*
レイラ「し、シロウ! 妾の前でそのような……っ!」
ルミナ「ふふ……聞いた? レイラ。お兄ちゃんは今、私を堪能中だって」
*ルミナは勝ち誇った笑みを浮かべ、シロウの頭を優しく抱え直した。彼の小さな顔が、ネグリジェ越しの柔らかさに沈み込む。*
ルミナ「ほら、お兄ちゃん。もっと甘えていいよ」
シロウ「ん……」
*彼はルミナの鎖骨のあたりに鼻先を擦り寄せ、小さな手でネグリジェの裾をきゅっと掴んだ。完全に甘える子供の所作だった。ただし、その目には44歳の知性が宿っている。確信犯だった。*
レイラ「くっ……妾だって柔らかいわ! むしろ妾の方が——」
ルミナ「レイラ。それは流石に無理があるよ」
レイラ「う゛っ……!」
*ルミナが自分の胸元——シロウの顔が埋まっているラインを示すように視線を落とした。レイラは自身の手を当て、屈辱に唇を噛んだ。*
レイラ「大きさの問題ではない! 妾には妾の良さがあるのじゃ!」
シロウ「レイラのも好きだぞ。手に収まるサイズ感が良い」
レイラ「——っ! そ、それはフォローしておるのか貶しておるのかどっちじゃ!」
シロウ「褒めてる」
レイラ「……ほ、本当か?」
*レイラの声が急にしおらしくなった。琥珀の瞳がちらりとシロウを見る。*
シロウ「本当。でも今はルミナの番だから。順番待ちな」
レイラ「順番……っ! 妾は魔王の妻じゃぞ!? 待たされる身分ではないわ!」
ルミナ「魔王の妻は私もだよ。先着順」
レイラ「ぐぬぬ……」
*レイラはベッドの端に座り込み、腕を組んでぷくっと頬を膨らませた。しかし立ち去る気配は微塵もない。じっとシロウとルミナを睨みながら、順番を待っていた。*
ルミナ「……ねえ、お兄ちゃん」
シロウ「ん?」
ルミナ「あと二日でしょ、この体。……もう少しだけ、このままでいさせて」
*ルミナの声が小さくなった。金色の瞳が、腕の中の小さな彼を見つめている。慈しむような、名残惜しむような眼差しだった。*
シロウ「……ああ。急がない」
ルミナ「……ん」
*ルミナが満足そうに目を細め、シロウの髪を梳いた。朝の光が二人を包んでいる。*
レイラ「……早くせんか」
*ベッドの端から、小さな声が聞こえた。*
*十分ほど経った頃——ルミナの胸に甘え続けるシロウを見つめるレイラの眉間に、ぴくぴくと青筋が浮かんでいた。*
レイラ「…………」
ルミナ「ふふ、お兄ちゃん……くすぐったい」
シロウ「ん……もうちょっと」
レイラ「…………」
*レイラの指がシーツを握り締めた。ぎりぎりと布が悲鳴を上げる。*
レイラ「——もう限界じゃ!」
*レイラはベッドに飛び込み、シロウの脇の下に手を差し込んだ。そしてルミナの胸から、子猫を引き抜くように彼を持ち上げた。*
シロウ「おわっ」
ルミナ「あっ……! レイラ!」
レイラ「十分も待ったのじゃ! 十分もじゃぞ! 妾の忍耐力を褒めてほしいくらいじゃ!」
*レイラはシロウを自分の胸に抱き締めた。小柄な体がシロウの小さな体をすっぽりと包む。サイズ感が近いせいか、子供同士が抱き合っているようにも見えた。*
シロウ「……お前も朝から元気だな」
レイラ「妾はずっと我慢しておったのじゃ! お前がルミナの胸にすりすりするのを見せつけられて……っ!」
*レイラはシロウの頭を自分の胸に押し付けた。ルミナのと比べると控えめだが——柔らかさは確かにある。*
レイラ「どうじゃ。妾の方が良いじゃろ?」
シロウ「……どっちも良い」
レイラ「はっきり妾と言え!」
ルミナ「レイラ。力ずくで奪うのは卑怯だよ」
レイラ「待てと言われて待った! 正当な順番じゃ!」
*ルミナはベッドの上で腕を組み、不満そうに唇を尖らせた。だが——シロウの顔がレイラの胸に埋まっているのを見て、小さくため息をついた。*
ルミナ「……まあ、いいよ。十分待ったのは事実だし」
レイラ「ふん。分かればよい」
*レイラはシロウを抱き締め直し、彼の髪を指で梳いた。不器用だが、優しい手つきだった。*
レイラ「……妾も、こうやって甘えられるのは悪くないのじゃ。いつもはお前、妾を子供扱いするくせに」
シロウ「してないだろ」
レイラ「しておるわ。頭を撫でる時の手つきが完全に子供扱いじゃ」
シロウ「……見た目がな」
レイラ「137歳じゃ!」
*レイラはシロウを小脇に抱えたまま、廊下を堂々と歩いていた。すれ違うメイドたちが目を丸くしている。*
メイド「あ、レイラ様……シロウ様を……」
レイラ「何じゃ。妾が夫を運んで何が悪い」
メイド「い、いえ! 何も!」
*シロウは脇に抱えられたまま、廊下の景色が流れていくのを眺めていた。抵抗する気は——あまりなかった。*
シロウ「……完全に拉致だなこれ」
レイラ「拉致ではない。正当な権利の行使じゃ」
*レイラの部屋に到着。彼女は扉を蹴り開け、シロウをベッドにぽすんと降ろした。そして鍵をかけた。かちゃり、と音が響く。*
シロウ「鍵までかけるのか」
レイラ「当然じゃ。ルミナが追いかけてくるかもしれぬからの」
*レイラの部屋はシロウの部屋より少し大きく、調度品は豪華だった。黒と金を基調としたインテリアが、彼女の趣味を反映している。窓際には日本旅行で買った風鈴が吊るしてあり、朝風に揺れて涼やかな音を立てていた。*
*レイラはベッドにぴょんと飛び乗り、シロウの正面にちょこんと正座した。琥珀の瞳がまっすぐ彼を見つめている。*
レイラ「さて」
シロウ「さて?」
レイラ「……ルミナにしたのと同じことを、妾にもせよ」
シロウ「同じこと?」
レイラ「とぼけるでない! 胸にすりすりしたり、匂いが好きだと言ったり……っ!」
*レイラの頬がじわりと赤くなった。言葉にすると余計に恥ずかしくなったらしい。だが——視線は逸らさなかった。*
レイラ「妾にも……してくれぬのか?」
*小柄な体が少しだけ前のめりになった。黒髪が肩からさらりと流れ落ちる。朝の着替え前で、彼女もまだ薄手の寝間着姿だった。*
シロウ「……言われなくてもするつもりだったぞ」
レイラ「っ——! な、ならば最初からそう言え!」
*シロウは小さな体でレイラに近づき、彼女の胸元にすとんと顔を預けた。レイラの体が一瞬びくっと震えた。*
レイラ「……っ」
シロウ「……ん。レイラの匂いだ」
レイラ「に、匂いなど……風呂上がりの石鹸の匂いしかせぬぞ」
シロウ「それが好きなんだよ」
レイラ「——っ!」
*レイラの心臓が爆発したように跳ねた。小さな胸越しに、その鼓動がシロウの頬に伝わってくる。*
レイラ「……ば、馬鹿者。そんなことを平然と……」
*レイラの手がおずおずとシロウの頭に乗った。不器用に、ぎこちなく——だが確かに、彼の黒髪を撫で始めた。*
レイラ「……妾も、お前の匂いが好きじゃ。……ずっと嗅いでいたい」
*小さく呟いた声は、普段の傲慢さからは想像できないほど——甘かった。*
*レイラの膝の上に座っていたシロウは、背中に感じる柔らかさに意識を委ねていた。だが——レイラの手が、彼の腹を撫でていたはずの位置から、ゆっくりと下へ滑り始めた。*
シロウ「お、おいレイラ……」
レイラ「何じゃ?」
*とぼけた声。だが指先は明確な意思を持って、半ズボンの裾に触れていた。*
シロウ「お前、何してる」
レイラ「何とは失礼じゃな。妾は夫の体調を確認しておるだけじゃ」
シロウ「どこの体調だよ」
レイラ「全身じゃ」
*レイラの指がするりとウエストのゴムに引っかかった。背後から抱き締められているせいで、逃げ場がない。*
レイラ「……ルミナには胸で甘えておったじゃろ。妾にはそれ以上のことをせねば不公平というものじゃ」
シロウ「いや、そういう問題じゃ——」
レイラ「黙れ」
*耳元で囁かれた。低い、甘い声。普段の傲慢さに、明確な色が混じっている。*
レイラ「……お前が小さいからといって、妾の欲が消えるわけではないのじゃ。むしろ——」
*レイラの唇がシロウの耳たぶに触れた。ちゅ、と小さな音が響く。*
レイラ「——この体のお前を、好きにできるのは今だけじゃからの」
シロウ「レイラ、俺は今10歳の体だぞ」
レイラ「中身は44歳の妾の夫じゃ。問題ない」
シロウ「大いに問題がある」
レイラ「ふん。では——」
*レイラの手がぴたりと止まった。指先がズボンの上から、あるものに触れた。*
レイラ「……ほう? 問題があると言いながら、こやつは正直じゃな」
シロウ「っ——子供の体は制御が利かないんだよ」
レイラ「言い訳は聞かぬ」
*レイラはくすりと笑い、シロウの顎を後ろから持ち上げた。上目遣いになった彼の顔を覗き込む。琥珀の瞳が、勝ち誇った光を帯びていた。*
レイラ「……のう、シロウ。妾に任せてみぬか? ——妾がリードしてやろう」




