35話 美波の思案
2年2組の教室。その中央には皆がうらやむ生徒会長神崎美波が佇んでいた。美しい黒髪は見る者を魅了し、男女問わず差別せずに話しかける姿は多くの者の心を打ち、全ての生徒からの尊敬を受けていた。
そんな彼女は考えに耽っていた。恐らく周りにいる生徒たちは美波が恐らく世界経済の事でも考えているのだろうと思っているのだろうが、現実そこまで高尚なことを考えているわけではない
(淳志くんだったかしら……可愛かったわねあの子……)
そう海城淳志に一目ぼれしていたのだ。そのまま手元のスマホに視線を落とす。
(確か彩香があのクラスにいたわね。少し情報を集めようかしら)
そのまま彩香にメッセージを送る。
「おや?美波は何か思案に暮れているようだね」
そのまま前に宝塚の男役のような凛々しさを持った女子が座る。大内優香、美波の友人の一人にして生徒会副会長である。
「あら?思案に暮れていたように見える?」
「そうだね。僕にはそう見えるよ」
「ビンゴよ。ちょっと私の心を大きく動かすことがあってね」
美波がそう言うと優香は少し考えてから言った。
「予想してみてもいいかい?」
そう言うと優香は美波の耳元で囁く。
「あの淳志くんとかいう後輩のせいだろう?」
「はぅ?!」
美波は動揺する。常に感情を表に出さない美波だが、優香だけはその穴を突いてくる。
「わ、私があの可愛い新入生のことを気にすると思っているのかしら?」
「もう可愛いって言っているじゃないか。そうか~今までタイプじゃないですって断ってばかりだったけど。美波の好みってあぁ言う感じか~」
優香はニコニコ笑う。
「何よ。あなたも武史と離れてダメージを負っているかと思ったのに」
「ぼ、僕が何であのエセ野郎と同じクラスにならなければならないんだい?」
優香も慌てる。二人とも他人から憧れられたり相談を持ち掛けられたりすることは多くとも、自分自身のこととなると弱点が露呈する。こうしたところが惹きあったのかもしれないが。
「でも僕も話してみたいなあの新入生、子犬みたいだしね」
「それは的を射ているわねぇ……」
するとじわじわ他の女子生徒も集まってくる。
「もしかして会長たちあの新入生代表の話してるんですか?」
「あの子可愛いですけど、あのタイプはもう彼女がいるんじゃないかなぁ……」
「あれで意外に夜乱暴そうかも。まぁそれもギャップですけど」
すると美波は冷静に答える。
「あらそれは無いわ。さっき彩香に聞かせたら彼女はいないらしいもの」
「情報網が速い……流石神崎財閥。やることが一枚も二枚も上手だ」
優香は感心と呆れが半々な答えをする。
「まぁ一度会ってみようよ。知り合わないと何も始まらないよ?」
「それもそうね。でも急に話しかけたら驚かせてしまうわ。誰か仲介できる人がいればいいのだけれど……」
美波は周りを見回す。美波と淳志共通の知り合いなんて都合のいいものがいるのか……
「まぁ僕も出身中学は違うし、知らないなぁ……他の子は誰かいるのかな?」
「知らないです……」
「あの人は東仙石中の出らしいですよ?」
他の女子に聞いても芳しい答えは出ないので優香は困惑する。
「東仙石……東仙石……そう言えば武史の出身中学ってここじゃなかったかい?」
「確かにそうね。一年違いだからもしかしたら知り合い同士かもしれないわ!」
美波と優香は思いっきり握手をしてしまう。
「じゃあ早速聞きに行ってみよう!」
急に教室に押しかけられた武史はやや困惑するも押し負けた。
「淳志……まぁ知っとるけどな。ワイ中学バスケ部やったし」
「バスケ部?淳志君はバスケ部だったのかい?」
「いいや、アイツや……あいつの親友の啓馬がバスケ部の後輩でな。年中連れ歩いてたねん。だから自然と交流も増えたんよ」
「なるほど!じゃあ紹介してくれるかい?」
「へ?ゆ、優香お前まさか……ダメや。アイツは見た目小学生やぞ!何らかの法律に触れるわ!」
「武史?」
優香が少し威圧すると武史は白旗を上げてしまった。
「わ、分かったから……どうせ後で挨拶しようと思ってたしな……」
こうして淳志と美波は初対面することになるのだった。




