1話 僕がチビだといろいろ不便
身長149cm…
今年も学年最低身長更新か…いや多分学園の歴代でもそうなのかもしれない…。
「淳志~どうだった?」
そう聞いてくるのは僕の同級生にして幼稚園からの幼馴染の浅香啓馬だ。彼はバスケ部に所属していて身長も180台ある。
「うん……今年も史上最低身長だよ」
「ハハハ…まぁいいだろお前俺よりずぅぅぅぅぅっと成績いいんだしさ」
「座学の成績ね!運動となると啓馬のが何倍も上だから!」
「まぁな!俺はバスケ部のエースだからな!」
そう言って啓馬は高笑いする。イケメンな顔が映える。僕は可愛い系だけど。
彼がバスケ部のエースだがおつむのせいで進級がやや危ぶまれていることは知らない。知ってても言わない。
と言うか自己肯定感が高くて羨ましいよ…僕にプライドなんてものはないに等しいから…
僕の名前は海城淳志。低身長意外普通の高校生。今は廊下を歩いている。
向こう側から女子たちが歩いて来る。
「でさぁ~。この間の彼氏とはどうなの?」
「別れた。つまんないし。昔の武勇伝擦りまくってんの。今は昭和じゃないよ。令和だよ?」
女子たちはいわゆるギャルで髪は染めてるし化粧もしている。スカートは短いし今時な流行をしっかりと抑えている。
そしてデカい…二人とも165cmは越えていてしかもおっぱいも…僕の頭くらいはある。絶対に僕みたいなチビより力もある。もしいじめられたりでもしたら…
絶対に関わりたくない…という僕の願いが叶ったことなど一度もない。
その内ぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさい」
僕はそう謝る。そして顔を上げた時、彼は固まった。何故なら…
「あ、ごめ~んwwちっちゃくて見えなかった~ww」
「あ、あの……すいませんでした」
「え~?何々~?ちっちゃくて聞こえな~いw」
そう言って彼女は僕の小さな頭を撫でて来る。
そう、彼女の身長は僕より数十センチ高いのである。そのせいで僕は何をされるか分からなく怖いのだ。
「す、すみません!じゃ、じゃあ行きますね!」
そう言って僕が逃げるように走りだそうとしたら、制服の襟を片手で掴まれて戻される。
「は?逃げんな…」
僕が全力で走ろうとしたのを片手で止めた時点で力の差などはっきりしていよう。
「あ、あの……は、離してください……」
僕がそう言うと彼女はニヤリと笑って言った。
「え?やだよwwだってアンタ小動物みたいで可愛いもん」
そう彼女はニヤニヤして言う。
「あ、梨奈じゃ~ん!」
すぐに後ろからその娘の友達が来た。
「ん~?どうしたん?」
「淳史くん捕まえた~」
「え?マジ?この子いつも逃げるのに捕まえられたんだ~」
「簡単だよ~。ほらこうやってギュってするだけでフリーズしちゃうんだもん」
そう言って仲間のギャルは淳史に顔を近付かせる。ずっと可愛らしくて…でも僕より少なくとも人権がある彼女に見つめられて僕の顔は赤くなる。
「え、えっと……は、恥ずかしいです…」
すると梨奈たちは笑って
「まさか、淳史くんウチらみたいなギャルと話すの初めて?」
「そうだよね~♪いつもウチらのこと避けてるもんね~。怖いんでしょ?ウチに何されるか分かんなくて」
そう図星を突かれ、僕は何も言い返すことができない。すると梨奈さんは僕の前に屈みこんだ。
「これで目線も一緒になったね♪」
それから僕の耳元で
「淳史くんてさ…童貞でしょ?」
と囁いたのだ。
「へ?」
「だよね~。この子まだ下の毛も生えてなさそうだもんね」
「てか逆に生えてたら解釈違いだし」
「え、えっと……その……」
僕がしどろもどろに答えると、梨奈はまた笑う。
「じゃあアタシが貰ってあげよっか?」
こころなしか僕の身体を掴む力が強くなった。
「い、いやいいです…僕そういうこと‥‥」
「wwキスもしたことなさそうじゃん♪ウチらがしてあげよっか?w」
「え、いや、そ、それは……」
すると梨奈さんの顔が怖くなった。
「まさか…うちら以外のメスにもう初めてを奪われてるの?」
「え、いや、……違います」
僕は慌てて否定する。すると梨奈さんは僕の腕をつかむ。
「じゃあ……淳史くんウチらと遊ぼっか。カラオケ行こ?」
「ちょっ…」
「怖くないよ?ほら」
僕は周囲に目線で助けを求めるが。誰も我関せずの状態である。当然だ。彼女たちはいわゆるギャルで扱いが大変だ。要は触らぬ神に祟りなし、僕に助け舟を出そうという酔狂な人はいないのか。啓馬ならまだマシなんだけど…
僕があわあわしていると助け船が来た。
「何やってるのかしら?」
そう声を掛けられる。思わず僕が振り返るとそこには生徒会長がいた。
「え?生徒会長じゃん」
彼女は黒髪ロングで顔も背も170cm越えでスタイルも良い。運動も勉強もできる男女問わず憧れの存在でしかも生徒会長と言う完璧人間のお嬢様神崎美波である。雲を突き抜けたさらに上の存在で僕の憧れの人…
「あら?この子は嫌がってるみたいだけど?」
そう美波さんは言いながら近づき、僕の腕を掴んでいた女子の腕を掴んで離させた。さっきのギャルよりも大きい手に包まれる。そしてそのまま僕を聖母の用に抱きしめる。大きな胸が僕の顔に当たる。
す、すごい…いい匂いする…頭も優しく撫でられている。
「とりあえずこの子を困らせちゃダメよ。早く帰って勉強しなさい。この前の試験も悪かったでしょう」
「え~でもぉ~」
ギャルたちが不満そうに言うが、美波さんは続ける。
「今度この子に迷惑を掛けたら。どうなるか分かってるわよね?」
そう言ってギャルたちを威嚇する。どことなくすごくすごい覇気を感じる気がする。
「か、会長…まさか…」
「止めなよアリサ!分かった。今日は勘弁してあげる。じゃあね淳志くん」
そう言って女子たちはそそくさと帰っていった。
「大丈夫?何もされてない?」
「え……あ、大丈夫です。ありがとうございます」
美波さんは僕の前に屈みこんで話してくる。無論豊満な胸も…
「良かったわ。もしも先に手を出されていたら……私何するか分からないところだったわ」
そう笑顔で言う美波さんだが、その笑顔はとても怖かった。ん?先に?
「全く。嫌なら抵抗しなきゃダメじゃない」
美波さんはそう言って僕の頭をコツンと叩く、
「ごめんなさい…」
僕は恥ずかしくてうつむいてしまった。
「ウフフ、素直な子は大好きよ」
そう言って僕の頭を撫でると続けて言った。
「もう帰る時間かしら?良かったらあなたのお家まで送るわよ?」
「だ、大丈夫です!」
僕は羞恥心に耐えられなかった。一瞬で飛び上がると僕が考えうる最高速度で下駄箱まで走っていった。