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その少女は殺されたい  作者: おじさん
あの人はいつも唐突に
12/17

3-3

「それで〜これも聞きたかったんだけどさ〜」


喫茶店からの帰り道。今日のショッピングで購入した大量の戦利品を後部座席に積んだ車は夕焼けが差し込む街を緩く走っている。


運転者は当然沙紀だ。助手席には買ってもらった可愛い帽子を嬉しそうに抱える麗花の姿がある。


「何ですの?」


「ここだけの話、誠一郎とはどこまで行ったの〜? もうヤっちゃったり〜?」


不意に沙紀がとんでもなく下衆な話をしだした。だが、麗花にはそれがどういう意味か分からなかったようで首を傾げる。


「…? まだ私は逝ってないですし、殺られてもないですのよ?」


「んー、なんか字が違う気がするけど…。そういう反応するってことは、全然そういうことはないってことなのね…」


「そういうこと、ってどういうことですの?」


「うんー? いやー、麗花ちゃんと誠一郎はどういう関係なのかなーって気になってね」


「今は雇い主と助手ですわ! いずれは違くなりますけど」


「…なるほどー。いずれ違くなるってのも多分クライアント的な意味なんだろうなー…」


麗花の回答に何故か残念そうな顔をする沙紀。どうやら2人の関係が進展しているかどうかずっと気になっていたようであるらしい。


進展しているどころか始まってすらいなかった、という事実に少しだけ悲しみを覚えるが、この2人であれば仕方ないとも思えてしまう。


特に…隣にいる少女に関しては、『色恋沙汰そういうもの』に疎いとかいうレベルじゃないからだ。


「じゃあさ、麗花ちゃんは誠一郎のことどう思ってる?」


「誠一郎様ですの? 勿論私の恩人ですわ! そして私を恐怖から解放してくださる、私だけの救世主…。私の人生は誠一郎様無しでは有り得ませんわ!」


「わーお、恋は盲目とはよく言うけど…これもまた盲目と言えるのかもしれないなー。言葉だけ聞けば誠一郎を好きとも取れるけど」


「?? 誠一郎様は好きですわよ? 勿論お姉様も!!」


「当然私も麗花ちゃん大好きだけど!! 多分それは『LIKE』だねー」


「好き、にも種類があるんですの?」


幼い頃から、常に破綻した思想を思い描いていた麗花はそれ以外の当たり前のことをよく知らない。


これまでの人生で彼女が考えていたのは『どう死ぬのか』ということ。つまり、これから先死ぬのは決定しているため、『恋愛それ』を知らないのも無理はないかもしれない。


「あるよ。その人のことずっと考えちゃうとか、ずっと一緒にいたいとか思っちゃうんだって。それを恋愛って言うらしいよ。ま、私も知識として知っている程度なんだけどさ」


当然、『生きていく理由が無い』と豪語した沙紀もそれについては詳しくない。だが、それが必要なことであるのは知っていた。特に、麗花のような年頃の女の子にとっては尚更に。


「…よく、分かりませんわ。考えたこともないものですし…きっと、私には必要無いものですわ」


「それはどうだろうね〜。確かに麗花ちゃんはおかしな娘だけど、それを必要無いってことは無いと思う。もし知りたかったら、私の持ってる少女漫画貸してあげるよ」


「…ちょっとだけ、気になりますわ。知らないことを、知らないままにしておくのは嫌ですもの」


「うんうん、やっぱり麗花ちゃんいい子だわ。誠一郎のとこに置いておくのが勿体ないよ本当。うち来ない?」


「お姉様の職場…がっつり『警察』じゃないですの…。しかも相当上の方の…」


「まぁね〜。じゃないと、弟が色々殺っても揉み消せないし? 上に行けば行くほど、あいつの需要は高くなるってのが笑えるよ」


「本当腐ってますわね世の中は…。でも、私にとっては最高ですわ!!」


冠城沙紀。彼女は警察本庁の敏腕警部である。それに加えて、色々な偉い人とのパイプがあるとか。


基本的に、冠城の仕事は彼女が回してくるのが多い。だからこそ、彼は余程のヘマをしなければ捕まることは無いのである。


「あはは!! 麗花ちゃんはブレないね! そういうところ、誠一郎にちょっと似てるのかも」


「そうですの? 私的にはやっぱり誠一郎様とお姉様はよく似ていると思うのですけど」


「えー、それは…無いとも言い切れないかも。何だかんだ姉弟だしね」


沙紀は、麗花と誠一郎が似ていると。曰く、どちらも根っこの部分でどこか似通ったものがあるという。


麗花は、沙紀と誠一郎が似ていると。麗花が受け取った優しさが、恐らく彼女にそう思わせているのだろう。


もうすぐ日が沈む。夜になる頃には、麗花と沙紀は誠一郎の待つ自宅に帰れることだろう。


それが嬉しいのかどうか定かではないが…家に近付く毎に頬が緩んでいるのを、沙紀は見逃さなかった。

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