きっとそれが必要なことだから
「帰ったわよ!!」
「んな大声出さんでも車停めた音で分かるわ。…おかえり、麗花に沙紀姉」
「はい、ただいまですの!」
なんというか、ちょうど半日前くらいに起きた光景に酷似していた。大きく違うのは、入ってきた人物に麗花が付いているということだろう。
あまり仕事以外では外に出ないからか、今回のお出かけは麗花にとって貴重な体験になったことが帰ってきた時の表情でよく分かる。
なんだかんだ言っても、麗花はまだ15歳の少女なのだ。少しだけ…根底が少し違うだけの普通の少女。
「それじゃ、晩御飯の準備しますわ。良かったらお姉様も食べていってくださいな」
「わー、麗花ちゃんの手料理!! 楽しみだな〜」
「美味いぞ。正直毎日食っても飽きない」
「もう…褒めても何も出ませんことよ!」
とは言いつつも、褒められて満更でもないのか足取り軽そうにキッチンへと向かう麗花。今にも鼻歌でも唄い出しそうなくらい御機嫌だった。
麗花が居間から少し離れたキッチンに移動したのを見て、誠一郎もいつも通り寛ごうとソファに座る。
「…何ですか、沙紀お姉様」
「んー、そういえばまだ誠一郎とはちゃんと話してないと思ってね〜」
…のだが、すくさま隣に沙紀が座る。こんなに人が密着してると寛ぎにくいと言わんばかりの冠城の表情を、沙紀は意に返そうともしていない。
「はぁ…何だよ。仕事は順調だし、何も問題は…」
「そんなのよく分かってるわよ。私が聞きたいのは、麗花ちゃんとのこと」
「麗花の話か? さっき出かけた時にたくさんしただろうに」
「麗花ちゃんの話は聞いたわ。じゃなくて、あんた目線で見た麗花ちゃんの話を聞きたいの」
今日のお出かけで麗花自身の事は更によく理解出来たという沙紀。そして、麗花から見た冠城の話も聞いてきたとなれば。
「単刀直入に聞くわ。あんた、麗花ちゃんのことどう思ってるの?」
冠城から見た麗花の話も聞いておかなければならない。四六時中一緒にいるのだから、何かしら思うところはあるはずだろう。
「どう…って。見目麗しく頭おかしい少女って感じか?」
「そんなの私だって分かるわ!! 好きかどうか聞いてるの!」
注意しておくが、麗花に聞かれたらあまりよろしくないので双方共に小声である。その質問を受けた冠城は、何やらうんうんと考え込んでしまう。
「好きかどうか…? そりゃ、嫌いじゃないわな。こんだけ世話してもらって、一緒に暮らしてんだから。でも、だからといってなぁ…」
「どうなのよ?」
「…正直分からん。少なくとも、人間としちゃ好きな方に入るんじゃないか?」
「…呆れたわ。あんなに可愛い子とひとつ屋根の下で暮らしてて、分からんて…」
「仕方ないだろ、分からんのだから。それに、麗花は『普通じゃない』。そして当然、俺も。そういう考えは今まで浮かんでこなかった」
どうやら、冠城は沙紀かは受けた質問を真剣に吟味したようだった。その上で、今まで考えたことがないから分からないと答えた。
「(…やっぱ似てるわ〜。『知らない』と『分からない』、か。でも傍から見たら確実にお互い好き合ってると思うんだけどな〜…特に麗花ちゃんが)」
「だから今は分からん。これじゃ不満か?」
「んふふ、今はそれでもいいよ〜。なんか面白いことになりそうだし」
「その気持ち悪い笑いをやめろ…。何だってそんな気になるんだ」
「そりゃそーよ。あんた、人嫌いだから初めて麗花ちゃんがここにいるの見た時びっくりしたもの」
「……」
「ま、お姉ちゃんのお節介とでも思っておきなさいな。私的にも麗花ちゃんが妹とか最高だし?」
「…台無しだよ、この姉は」
今日来た目的を全て達成したようで、満足気な表情を浮かべる沙紀。どうやら解放されたようだ、と安堵の表情を浮かべる冠城。
キッチンには今日のことを思い返し、少しだけ思案顔を浮かべながら料理を作る麗花の姿が。
彼女はいつも思いつきで動く。生きる理由も死ぬ理由も無いからこその自由さで。
いつだって2人が心配で大切で…昔より1人増えた理由候補の元に、彼女はまた唐突にやって来ることだろう。




