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ヤツガレの所望。  作者: 坂戸樹水
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幕・終


(地下トンネルが古くなっていたらしい。

工事の予定を立てた矢先、崩落したそうだ。

電車は1両目以外の全てが瓦礫に埋もれたんだと、

報道レポーターの金切り声が風に乗って聞こえて来た。

ソレから、生存者は俺達2名以外 確認されていないとも……)


「コレ、誰のスマホだっつの……?」


 ボトムのポケットから抜き出した携帯電話の持ち主に心当たりが無い。

暫し考え、中のデータを確認する。持ち主が分かれば届けてやれるだろう。

見やれば、携帯電話のトップページにメモがショートカットされている。

試しにコレをクリックすれば、メモは大きく拡大される。


「ぇ……?」



『斡真――』



(何だ、今、フラッシュバックした……)


 何かが一瞬 脳裏を過ぎったのだ。

ソレは、穏やかな笑顔だった様に思う。頼りなくも勇敢な背であった様にも思う。


(電車を降りて、中から見送ってくれた……コレは、いつの事だった?)



『やっぱり……戻ったら皆、お互いの事を忘れちゃうのかな?』



「何だ、この記憶……」



『斡真は もうとっくに――』



(最期の言葉……)


 聞き取れなかった最期の言葉が、携帯電話のメモ画面に記されている。




【斡真はもうとっくに優しい人だよ】




(由、――嗣……?)


 目を見開き、背を伸ばす斡真の肩から毛布が落ちる。



「由嗣、お前……」



『僕のスマホ、預かってて。落しそうで怖いから』

『なーんだ、そりゃ』

『良いじゃないか。役に立つかもよ?』



「わざと俺に、預けたのか……?」



 何処までも抜け目の無い男。


 否、全てを悟っていたのだろう。

いつ、何が起こっても、伝えたい言葉を言いそびれる事が無いよう努める由嗣の生真面目さが、随分と以前の事の様に感じられる。


 斡真はギュッと携帯電話を握り締める。

そこに手を伸ばし、落ちた毛布を拾い上げるのは、問診を終えて戻る結乃だ。


「……どうか、しましたか?」

「ぃゃ……」

「コレから病院で検査をするそうです。2人とも救急車に乗るようにと」

「……あぁ、」


 斡真は車両で見かけた、眠るように安らかに息絶えた奇麗な面立ちの青年を思い出す。



(お前みてぇなお人よしが、黄泉に堕ちるわけねぇもんな?)



「良かった……」



(ちゃんと思い出したぞ、お前の事……)



 安らかな死に顔は、相応の場所へ向かったのだと信じられる。

目頭に滲む涙を服の裾で拭い、斡真は結乃に手を差し伸べる。



「そいじゃ行くぞ、チビ!」



 何処か懐かしい響きに、結乃は頬を赤らめて笑う。



「はい、斡真サン!」



 さぁ。奇跡を生きよう。





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