第三十四章の第一節:泥濘の黎明(朝の點呼と常態化せる打擊)
ジリリリリリリ!!!
最下層の濕ったコンクリート壁に響き渡る起床のブザー。それは、何かが變わる豫兆を孕んだ音では最早なく、完全に固定され、安定した支配の齒車が回り出すことを吿げる、冷酷な「每日」の合圖であった。
首席の處刑と舊管理體制の瓦解を經て、ガルシアらが築き上げた新帝國は、もはや內部の動搖を一微塵も殘してゐなかった。
美波、エレーナ、クロエ、そして母と姉の五人は、データ管理のための符號ではなく、ただこの最底邊の檻で消費され續ける、名もなき「共同の玩具」としての日常に完全に同化してゐた。
「おい、時閒だ。ぐずぐずすんじゃねえ」
新體制の看守たちの、怒號ですらない事務的な聲とともに、鐵格子が警棒で叩かれる。
衣服を一切與えられず、鐵錆と排泄物の臭氣が立ち込める床の上に重なり合って眠ってゐた五人は、手枷と足枷がアンカーボルトに固定されたままの姿勢で、泥濘のなかから重い頭を上げる。
朝一番のルーティンは、彼女たちの肉體に「ここは最底邊の奈落である」という現實を固定するための、手加減を失った打擊の時閒であった。
前章の最後の戰いによって顏も、胸も、尻も完全に潰され、原型を失った五體の傷口を狙うように、重厚なゴム警棒が容赦なく振り下ろされる。
バチィィン! ズガァァン! と肉を打ち据える不快な音が、檻の中に規則正しく反響した。
「あ、がぁっ……! ああぁっ……!」
美波の喉を潰した呻き。すでに精神の去勢を完了し、機械人形のようになってゐる母と姉は、聲すら上げず、ただその打擊を受け止めてゐた。この朝の暴力は、罰ではなく、新組織の安定した統治を維持するための「每日の檢分」として淡々と執行されていった。




