アレンジ
「6番テーブルからオーダーです"フライドポテト"と"カマンベールチーズの盛り合わせ"キッチンよろしくお願いします」
黄色のインカムから聞こえてきた自分の仕事であるフード調理のオーダーに、インカムをこちらも使い応えた後に冷凍庫の中から"業務用皮付きポテト"と書かれた袋を1度摘み上げると、4秒~5秒ほど袋を見つめた後、袋を摘んでいた指を離すと袋は冷凍庫の中へと"ドサリ"と音を鳴らして落ちた。
そして、冷蔵庫に入れておく必要の無い野菜類の置き場から"メイクイーン"と呼ばれる少し細長い品種のジャガイモを、1つ1つ形を見るように手に取り、丁度良さそうなジャガイモを2つ選び出した。
"野菜洗い用"にと、新品のタワシを1つ下ろしていた氷室は、選び出した2つのジャガイモをタワシで擦り、綺麗に洗っていく。
皮ごと口にしても問題が無いぐらいにジャガイモを綺麗に洗った後、文化包丁の根元を使いジャガイモに出ている"芽"を綺麗に削り抜いた。
洗い場から調理台の上に移したジャガイモを、まな板の上に乗せると、ジャガイモを割り箸で挟むようにしてしっかりと固定させた。
そして包丁を手に取ると、ジャガイモの端から3mm程の厚さで真っ直ぐに"切れ目"を入れていく。
両端を割り箸で挟んでいる事により、下まで切れる事無くジャガイモは"切れ目"だけを入れられていく。
そして、端から端まで3mm間隔で真っ直ぐに切れ目の入ったジャガイモを今度は"180度"ジャガイモ自体を回し、要は切れ目を入れた面の丁度"真裏"の面に同じように割り箸を使い下まで切り落とす事が出来ないようにした後、今度は真っ直ぐでは無く"斜め"に包丁で同じように3mm程の幅で切れ目を入れていった。
全く同じような切れ目を入れたジャガイモを2つ用意した後に、大きめのボウルに水を張り細工を施したジャガイモを入れ、余分な"デンプン"を水に溶かし抜いていく。
ジャガイモの水晒しの時間を使い、食器棚からフチにオレンジ色の細い線の入った白い皿を1枚取り出すと、冷蔵庫の中から市販品の6Pに切られているカマンベールチーズの箱を開け6P入っている中から3Pだけ取り出すと、生ハム。イチゴジャム。マーマレード。ブルーベリージャム。も一緒に冷蔵庫の中から出しておく。
包装紙を剥いたチーズを包丁を使い更に半分に小さく切る。
生ハム3枚を半分の長さに切ると、チーズに生ハムを巻き付けていく。
そして、オレンジのラインの入った白い皿に一見アンバランスに見えるよう、しかしちゃんと計算された配置に生ハムを巻いたチーズを6欠片置いていく。
その生ハムが巻かれたチーズの上にこちらも同じ物が隣り合わせにならないように、イチゴジャムとマーマレードとブルーベリージャムを乗せていく。
最後にミルを使い細かく砕いた黒コショウを、少しだけ散らして。
"カマンベールチーズの盛り合わせ"
を完成させた。
カマンベールチーズの盛り合わせを作り終えた氷室は、水に晒しておいたジャガイモを丁寧に、キッチンペーパーを使い水気を切りながら、インカムを使い。
「えーキッチン。とりあえず1品出来たから持って行って、カトラリーはフォークでいいんじゃないかな?」
――フロア表カウンター前――
美濃重治は丁度、店内を巡りアイスペールの交換作業を終わらせたタイミングだった。
自分の片方の耳に挿しているインカムのイヤホンから、キッチンよりフードが"1品"だけ完成したから持っていくようにと指示が出た事に、まず真っ先に思った事が。
(何で1品だけ? オーダーはチーズの盛り合わせとフライドポテトだろ? いつもならこの組み合わせなら同時に仕上がるはず)
とりあえず自分が今居る場所がキッチンから1番近い場所である事を認識している、美濃重治は言われた通りにカトラリーケースの中に、姫の使う物。担当ホストの使う物。ひょっとしたら食べさせて貰えるかも知れないヘルプのホストの使う物。と3本のフォークを入れ、数枚の白い紙ナプキンを被せて用意した。
銀の丸いトレーの上にカトラリーケースを乗せ、キッチンに向かうと確かに調理台の上には、1品フードが出来上がっているようだ。
しかし、それはこの店で働き始めてから初めて目にする程にカラフルな見た目で、確実に"女性ウケ"する料理が置いてあった。
「あっ、美濃くん先ずはカマンベールチーズの盛り合わせから持って行って、ポテトは後は揚げるだけだから5分程で出来上がるからさ」
そう言って声を掛けてきた新しい"キッチンの主"は、何やら竹串のような物をジャガイモのように見える物に刺していた。思わず(何してんだ? この人は?)とフードを運ぶと言う本来の目的も忘れ、氷室吾郎の行っている調理に釘付けになる。
「うん? どったの? いいよー先持って行って、出来たらまた呼ぶから」
氷室から声を掛けられた美濃重治は、調理台の上に置かれた今までと全く見映えの違う、チーズの盛り合わせをトレーに乗せてキッチンから出ていった。
そして氷室は"何でこの店にこんな物が?"と疑問に思っていた大型の業務用調理器具である、フライヤーの中へと竹串に刺した2本のジャガイモを投入して揚げていく。
――The Aegeanフロア――
銀の丸いトレーに1枚の皿とカトラリーケースを乗せた内勤の美濃重治は、オーダーをしてきた姫の座るテーブルに近付き、何時ものように片方の膝を床に着き片膝立ちになると、静かにカトラリーケースを先ずはヘルプの座る前に置き、その後で皿を姫の目の前に置いた。
その"赤"と"オレンジ"と"紫"のジャムの乗せられている皿を見た時に、担当ホストである司とヘルプに着いていた光秀は、大いに驚き声を張り上げ。
「すごい! こんなの初めて見た!」
等と興奮して"早速味を確かめよう"としたが姫の
「食べちゃダメ!」
の一言でフォークを持つ手を止める。
そして、姫である桜は自分の持つハイブランドのバッグの中からスマホを取り出すと、何枚も画像の撮影をし始めた。
――キッチン――
時おりフライヤーの油の中で踊るポテトをひっくり返したりしながら揚げムラの無いようにしっかりと揚げた後、トングを使いフライヤーから上げた2本の。
"ハッセルバックポテト"
木製の丸皿に油を吸い取るペーパーを下に敷き、串に刺さったポテト2本をバランス良く盛り付けた後に、ほんの少量だけ口にした時にほんのりと"塩気"が感じられる程度の塩をまぶす。
陶器で出来た白い小さなスフレにケチャップを入れると最後に皿の隅に、彩り用のパセリを飾り料理を完成させた。
「キッチン。ポテト出来たよーカトラリーは……なんだろ? まぁ紙ナプキンがあればいいんじゃない?」
氷室吾郎は串に刺さっていて、串を手に持ち食べたら汚れるのは串を持つ指先だけだと、カトラリーは必要ないナプキンだけでいい。とそう考え軽い気持ちで指示を出した。
その指示の内容をインカムを通して聞いた全ての内勤とマネージャー。今までの油ギトギトでとてもじゃないがフォークなりを使用しないと食べられない、山本作の"フライドポテト"が脳裏を過ぎり、ナプキンだけでいい。と言うキッチンからの指示に疑問符を浮かべた。
そして内勤の播磨孝高がキッチンにフードを取りに行こうとしていたのを、無理やり「俺が行く」と美濃重治がキッチンへと入っていった。
キッチンの調理台の上には、串に刺さった"蛇腹状"に伸ばされた物体が2本置かれていた。
美濃はそれを見た瞬間に思わず氷室に声を掛けた。
「氷室さん! これなんですか?」
「え? ポテトだけど?」
「ちゃんと油で揚げてあるから"フライド"ポテトだよ、焼いてないから"ベイクド"ポテトじゃないから」
「いや……そう言う事では無くてですね……」
「早く持って行ったら? 冷めるよ?」
(この子は何を憤ってんだ? ほんのちょびっとアレンジしただけだろうに)




