表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/43

先輩と近畿旅行

「一昨日は三重、昨日は滋賀に行って修行してきたよ」

「へー。土日旅行行ってきたんですか。うらやましい」


 例の三重名物のあんこのお餅と、例の滋賀名物の青赤の線が入ったあんこのお餅がおみやげなので、今日は緑茶一択だね。


「いやだから修行だって。旅行みたいな生ぬるいもんじゃねえよ」

 またおかしなこと言い出した。旅行感丸出しのおみやげ買ってきてんのに。


「修行ってなんの」

「お前三重と滋賀だよ? そこで修行っつったらもうアレしかないだろ」


 三重と滋賀?


 あたしの第一感は、


「なんですか? 三重と滋賀って牛肉? だったらやっぱり旅行じゃん」

「いやだから違えよ! お前三重と滋賀っつったら伊賀と甲賀だろ! まあ牛肉も食ってきたけど」


「あぁ………………………………」


 これは絶対ロクでもないことになる。そんな不穏な予兆をビンビンに感じざるを得ない地名だ。


 修行とか言ってるし、なんかおみやげだけじゃなくてクソでかい荷物あるし。やべえ香りしかしないんですけど。てか肉食ってんじゃん。旅行じゃん。


「お前こないだ恋の駆け引きとか言ってたろ。だから修行してきたんだよ」


 恋の駆け引きのため忍者の里で修行。よくそんなもん混ぜたな。水と油ばりの分離っぷりだぞ。しかも牛肉食いながらだし。


 とはいえ。


 忍者といえばくノ一。


 くノ一といえばエロ。


 先輩が手裏剣投げとか畳をひっくり返すとかの戦闘系の技で挑んでくるというのなら、あたしも迎え撃ってやることはできる。


 でも、先輩がもし搦め手系のなにやら妖しい技を会得して本気で誘惑してくるというのなら、あたしはちょっとそれに抗える自信がない。


 まあ彼女のことだし万に一つも無さそうなものの、その微小な可能性にほんの少しの期待はしてみたい。


「先日のお前の話を聞いてな、ギャップどうこうのやつ。私はいたく心動かされました」

「ほお」


 なんだろう。内面もかわいくおしとやかにするみたいなことかな? でも忍者の里で?


「まあでも性格を変えるのは無理じゃん」


 いきなりそれは否定されてしまった。まあ忍者の里だもんね。そういうのは悪の組織の悪の脳外科医に頼むべきことだしね。


 でもじゃあなに?


 それよりは難易度が低そうなプランとして出した原始人をやめるのとか? でもそれも忍者関係ある?


 と、ここで先輩は瞳に不気味な光を宿らせると、


「だから私はハーレムの術を使ってお前を誘惑することにしました」


 うお!?


 やっぱりまさかのそっち系の技!?


 いやでもちょっと待って。あたしだってこんないきなりじゃ心の準備が……。


 でもそんな目で見つめられたら……。


 ってでもハーレム? 一人で? ハーレムって一人でもできんの? てかハーレムって術なん?


「お前私の友達のこと言ってたじゃん。あいつらはそれぞれの良さがあってそのままでいいみたいな」

「はあ……」


 友達?


 ???


 先輩一人じゃなくてこないだのお茶会みたいなの開いてくれるということなのかな? 確かにあれは良かったねえ。ハーレムっぽさもあった。また色とりどりの艶やかな美人お姉さんに囲まれてちやほやされるなんてのは、それはそれはたいへんに心躍ることだけど。


「だから私気付いたんだよ。私はいろんな私でお前を魅了すればいいんだ、ってな。ギャップなんてのも要するにそれと似たようなもんだろ? 同じ自分だけどいつもとちょっと違う一面の自分ってことなんだし、それだったらもういっそのこと別に分けちゃえばいんじゃねって。一粒で二度おいしいよりも違う味二粒食った方がよりお腹も膨れてお得なわけじゃん。お前の話聞いて私はそれを閃いたんだよ。だから伊賀と甲賀で忍術修行してきたんだよ」


「????????????」


 相変わらず彼女の『だから』は一切機能していない。


 何言ってんのか全然意味分かんないし、あたしそんな話をした覚えも全くないんだけど。そんなした覚えもない話で三重と滋賀行ってこられても困るんだけど。


 って、この話の内容だと忍者式ハーレムの術って……。


「まあ話だけじゃ分からんだろうから実際にちょっと見せてやるよ」


 先輩は立ち上がり、後ろの机と椅子をどかして自分の周囲に空間を作った。


 そうして、自分の目の前で左手の人差し指を右手で握って構えると、かっと目を見開き、こう叫んだ。


「忍法分身の術!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 すごい風が巻き起こるとともに、たちまちにして黒髪の美少女が二体、横並びに現れた。


 てか分身の術って言っちゃってるじゃんか。めちゃくちゃな風とスピードで髪も暴れ放題だし、色気もクソもあったもんじゃねえ。あたしの知ってるハーレムと違いすぎる。


 やがて嵐が収まり、先輩も一人になった。


「どうだい。すげえだろ」


 確かに凄いのは認めるが、ざんばらの髪で息切らせながらそんなこと言われても。


「こんなハーレムあってたまるか」


「おいおいお前早とちりすんなよ。今のは余興だよ。二人ぽっちじゃハーレムにはならんだろ」

 そう先輩はにやつくと、


「それじゃあ本番行こうか」




 先輩はいくつものでかい段ボール箱の中身を出していった。


 その間あたしは彼女に指示された通り、椅子一つを除いた全てをこの場から離れた端の方に寄せ、あんこ餅とお茶も安全なところに退避させた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ