番外 四騎士の婚礼について
番外編をお読みいただき有り難う御座います。
今回ユディトは出てきません。悪魔の四騎士と呼ばれる令嬢達のお茶会話です。
「……まーさーかー、おめでたがーふたりとはねー」
「うふふ、姫様がとてもお喜びだったわよ、ミーリヤ」
「あらあら、本当にね」
「ふふぅん。まあぁ、ちょおぉっとぉ?色々ぉ思ってたのとはぁ違うしぃ?授かっちゃったぁものは仕方なぁいけどぉ」
悪魔の四騎士、と呼ばれる令嬢達……。
近々爵位を継ぐので、令嬢ではなくなるのだが、彼女達は久々に四人集まっていた。
爽やかな青のテーブルクロスに広げられた白いティーカップは6客。
彼女達と……居心地の悪そうなふたりの殿方達に用意されたものだった。
「……それで、ご令嬢方。あいつら……いやご夫君方ではなく、何故私が呼ばれる?」
「公爵家をー近々継がれる仲間のーサロ卿にもー、聞いてー頂こうと思ってー」
「うふふ、子犬ちゃんとの進展は如何?」
「ほ、放っておいてくれ」
ニマニマとした笑みを向けられ、文官の装いの大柄の男……アルサロ・メアンことサロは、体格のいい身を更に所在無さげに捩る。
昨日漸く心を開いてきた番の少女、コティと庭園を手を繋いで散歩する様はバッチリ見られていたらしい。
「世界にその名が知られるお偉いさんな高位貴族のメアン家ご当主であらせられるサロ卿は分かりますが、何故俺もなんでしょう」
「無茶苦茶言うなフランジール卿。ウチは其処迄世間に知られとらん」
そして、何時もながら飄々としながらも憮然とした表情を拵えるのは、フランジール・ノイエンドーヌことジル。
つい最近第一王女ユディトを振り回しながらも婚姻を決めた、一躍時の人……と言うか、やっとか遅いと静観されている人物である。
「あらあら、フランジール卿ったら。私達の姫様の御夫君に就任されるじゃないの」
「え?うっわあ、何ですかルーニア嬢のその笑み。
嫌な予感しかしませんね……」
「同意する。大体公爵家なら黒猫卿を」
「あらあらあらあら……御免なさいね。
アレとはもう暫く顔も見たくないし、意志疎通を半年位断ちたいの」
また喧嘩したのか。いや、黒猫卿が要らない事を言ってルーニアを激怒させたのか。
瞬時に彼らは悟ったが、命が惜しいので何も言わなかった。
ルーニアは気が長いとは言えない四騎士の中でも一等気が短い。
「それで、我々に何の御用ですか?
ご懐妊中のレトナ嬢とミーリヤ嬢は初めてのご懐妊で安静にしなければと愚考しますけどね」
「お気遣いぃ有難ぉー今の所ぉ平気ぃ」
「うふふ、わたくしも」
ふたりの笑顔が麗しくて眩しくて圧が強い。どうやら抜け出す理由にはならないらしい。
「しかし、レトナ嬢は兎も角……いえ、カータが意外と手が高速なのは驚きましたが」
「おいフランジール卿、其処迄言いたいことを言うな」
「うふふ、ま、まあ……?それも引っくるめてわたくしのカータは可愛らしいの」
「元彼女らしきーレッカちゃんのー存在にー苛ついていたものねー」
「うふふマデル、要らない事を言わないで。
過去は変えられないから、今から未来永劫わたくしの傍にカータが居るならそれでいいの。そりゃあ過去にねえ?ねええええ?」
軽く乗せている筈の手の下のテーブルは、ガタピシと音を立て続けている。
実はかなり気にしているらしい。
「まーぁぁ、レトナちぁゃんったらぁ情熱的さぁん」
「う、うふふ……ミーリヤだってどうなの?清らかな仲だったルディちゃんと急展開じゃない」
「まあまあ……それもそうね。何事かと思ったわ」
「き、聞きたくない……」
「諦めましょうサロ卿。
多分この手の話はコティ嬢に土産話としてウケますよ。まあ、あの年頃のお嬢さん向けかは知りませんけど」
ジルのいい加減な執り成しに、益々サロの目は死んだ。確かにサロの愛する少女は恋の話を好んではいるが。
「えぇー?ルディちゃんのぉ気分なんてぇ私にもぉ分からないわぁ。
突然訪ねて来てぇ、突然怒ってぇたのよねぇ」
「怒る?どういう事なのミーリヤ。まさかルディちゃんが貴女に乱暴を」
「あらあら落ち着いてレトナ。ミーリヤが乱暴を許す訳無いでしょう」
「……それもそうね」
そもそも彼女達に口でも手でも勝てる者はそう居ないからなあ、とは誰も突っ込まなかった。
未だに実力を計りかねるルディなら可能……本気の搦め手でもミーリヤ相手なら難しいやもしれない。
サロとジルは彼らが夫婦喧嘩にならないことを祈るばかりだった。
「ショーン王子殿下に対する信頼が酷いな……」
「そぉよぉ?サロ卿の言う通りぃ。基本、ルディちゃぁんはぁご婦人に優しい風をぉ装ってるしぃ?」
他国の王子への不敬を咎めたサロの突っ込みは、全く響かないようだ。
「それもーどうなのかしらー。あの子のー境遇からしてー分からなくはーなーいけどー」
「愛し合うふたりの合意の上なんでしょう?取り敢えず素晴らしい事ですよね」
「おいフランジール卿、言い方……」
「お気遣いぃどぉもぉ!気に食わないけどぉ、そぉだしぃ!?」
つん、と顎を上げたミーリヤにクスクス笑いながら、ルーニアが先を促す。
「あらあら、それで?結局ルディちゃんが怒っていたのは何なの?」
「何でもぉ、私達に似せた娼館がぁ有ったそうでぇ。それに憤ってくれたみたいなのぉ」
「…………はあ!?何だと!?それは無許可……だよな!?」
「え、ルディ様がですか?お怒りに?ほーう……意外ですね。あの方がねえ。かなり、意外です」
まさかそんな物が存在するとはと驚き、サロとジルは度肝を抜かれた。ジルはと珍しくパチパチと瞬きを繰り返している。
「あらあら、全くね……。面白がりそうな感じなのに」
「愛されてるーわねー。ミーリヤー」
「うふふ、ルディちゃんも案外可愛いところが有るのね」
「いやいやいや!!貴女方もサーッと流したが、大問題では!?」
無駄に冷静なメンツの中で、サロだけが気の毒な程慌てている。
「うふふ、お近くでもあったものね。打ち落として潰しましたけど」
「そうねー、地元でもー有ったわー。舌を切っちゃったけどー」
「あらあら、少し離れた他国でも薪が少なくてもよく燃えたわね」
既に処理……いや、話はついていて手配済みだったらしい。しかも外国まで。
まあ、彼女達が何時までもそのような施設を放置しておく訳がないか……とサロは遠い目になった。
「今回のはぁ、ルディちゃんがぁ始末してくれるそぉよぉ」
「あらあら、そうなの?」
「うふふ、愛されてるのね」
「ま、まぁぁ?微妙ぉねぇ……」
「へー、微妙なんですね。ルディ様もお気の毒に。流石ルーニア嬢のお見立てですね。美味しいです」
「あらあら、どうも?どういたしまして?フランジール卿」
これ以上突っ込んでも不利だと思ったのか、ジルは目の前のお茶を褒めてそっとその場を流した。
「それで、本題は何なんだ!」
「そぉねぇ、そぉろそろぉ?」
「あらあら、私を除く皆の結婚式をしようと思って」
「ルーニアもーよー」
マデルが指摘すると、ルーニアはきっと彼女を睨む。
「普通にあのダメ黒猫と結婚だなんて、嫌になってきたのよ!!
大体我がドロキア侯爵家とヤンシーラを混ぜるのは本当にどうかと思うわ!!止めた方がいい!!」
「まぁぁ?濃ぉい事にぃなりそぉよねぇ」
「相手が死骸動かし王子のミーリヤに言われたくないわよ!!」
激昂するルーニアの発言に、カチンと来たミーリヤが血色のいい頬を膨らませる。
「酷ぉいルーニアちゃんったらぁ!なぁによぉ!
仕方ぁないでしょぉ!ルディちゃんはぁ噂以上に可愛いかったんだぁからぁ!!」
「普通に!!ミーリヤの趣味が悪いのよ!!」
「酷ぉい!!ルーニアちゃんのチョロさがぁ黒猫卿をのさばらせるのよぉ!」
「ええい、止めんか!貴女方の喧嘩は洒落にならんのだぞ!!」
とうとう中庭は彼ら以外無人になってしまった。
最早遠巻きに伺うように通行していた人々すら居ない。鳥すらも飛んで居ないので鳥獣人も居ないようだ。
「……マデル嬢?
俺、緩衝もなりませんが、要ります?」
「えーえー。それでー、会場の設えも日を開けるとーたーいへんでしょー?」
「よくこのまま話せるわねマデル」
レトナの視線を辿るでもなく、ルーニアとミーリヤの言い争いは止んでいない。帰りたいと言外にも視線にも乗せるジルにも構うことなく、マデルは続けた。
「それでー日を追う事に派手仕様にするー日替わりー結婚式はーどうかってー」
「いや、待ってください。
何ですか?日替わり!?定食じゃ無いんですから」
「そうよね……わたくしもそう思うわ。大体何で日替わりなの。合同とかなら分かるけれど」
「会場を一緒くただとーお互いのー好みがー違うでしょー?拘りとかー有るでしょー」
「……まあ、そうですね。
特に控えめな装飾が好みのルーニア嬢と、可愛らしさ全開なご趣味のミーリヤ嬢は合いませんね」
四人揃うと纏まって見えるのに、服やその他の趣味は結構違う。ジルは幼馴染みの傍に長くいるお陰で服飾やご婦人の趣味嗜好拘りには結構詳しいつもりだ。普通の一般的な男には大した違いには見えないだろうが大分違う。
でも、この話題をこの下手につつくと、個性のぶつかり合いで死人が出そうだが……とは口にしないでおいた。
「まーあー、会場入りする馬車とかはー私とーミーリヤはー作っちゃったのよねー」
どうせユディトのワガママ……いやご意向で会場は王宮になるのだろう。
それなのに、馬車?城内に部屋持ちの彼女達に何故会場入りに馬車が必要なのだろうか。
ジルの胸に嫌な予感と嘗ての新聞の見出しが去来する。
「まさかユール公爵の馬車を模されたヤツとかじゃないですよね?
あのやたら童話みたいな見た目の割に素材に凝り捲ったバカ高……高価そうな造りの模造品ですか!?」
「そーれよー、白くてー正方形にしたのー。装飾は銀色よー。可愛くー出来たわー」
ルディはいい。あのキラキラな王子様なら、童話だろうが牧歌的だろうがミーリヤ好みの可愛らしい馬車に乗るのは似合うだろう。本人の意向は知らないが、招待客の視界は麗しい。
ジルは以前演習で見た、オーフェン・バルトロイズ……2m近いゴツイムサめの騎士の大男が白くて可愛い馬車にミッシリ押し込められている光景を想像し、半目になった。
絶対、事故になる。間違いない。滅茶苦茶乗り付けた会場の空気が重くなる。
「さいあ……ご夫君のご意向は組まれてるんですか?」
「オーフェン様はー好きなようにしろってー。愛よーねー」
「それ一番ダメなヤツですね。結婚式はふたりで作るものです。馬車は乗り心地が一番ですよ」
「あらあら、直前でゴネたフランジール卿が言うの?」
「……うふふ、ルーニア。ご機嫌は治って?」
はい、とレトナは互い違いで色付けられた花の形のクッキーをルーニアに渡す。受け取るルーニアの唇は未だ尖っていたが、は憮然としつつも頷いた。
ジルの隣の席のサロはぐったりと椅子にもたれ掛かっている。
「……友なんだから一緒に祝えて良いだろう。合理的だし予算も縮小出来るってサロ卿が言うから」
「お疲れ様です。流石サロ卿」
「思ってもない顔で言うなフランジール卿」
「仲良しだしぃ?意見の相違はぁ仕方無ぁいものぉ」
その割に殺気に満ちていたが何時もの事なので、ジルは突っ込まなかった。
「ですが、どういう順序で行うんですか?どうせ会場は王宮の大広間ですよね?」
「個人的に小会議場でいいわ、私。設営も片付けも早く済むし人も来なくて良いわ」
「またーそーんなことをー。ルーニアが最初でー、私がー次かしらー」
「わたくしでも良いわよ。そんなに飾りに凝らないから」
「じゃぁあぁ、ルーニアちゃん、レトナちゃん、マデルちゃんで、私ぃ?どぉ?サロ卿ぉ」
「何故私に聞く。それで良いんではないか」
「じゃあぁ、予算組むのぉにぃお手伝いぃ宜しぃくぅ」
軽く放たれたミーリヤの発言に、サロはギョッとした。
「……待ておい。貴女方が率先してやるのでは?」
「うふふ、お金勘定がキッチリしてないと四で割り切れないでしょう?」
「……流石サロ卿ですね。数字に強い頼れる次期メアン公爵」
「私を巻き込まんでくれ!!」
色々進展が有ったようですね。




