9話 始動する世界 <ゲーム>
さて、この話は、ゲームの現状となります。
一話から主人公が回想していましたので、始まりから一か月間に起きたこととなっています。
後書きも見てみてください。
では、どうぞ。
ゲーム、という名の実験が開始してから、一ヶ月。
俺達プレイヤーは、人質の詳細な人数も、誰が人質となったかも知らない。被験者は何人なのか、実際に死んだ人間がいるのか、ということでさえ、知らされていない。
が、人質に関しては、テレビで発表されているのを見る限り、何十万、何百万とかなりの数に昇っているらしい。そして、当然のことながら、未だ解決はされていない。
男の話が事実であったと証明され、赤の村はたちまち大混乱となった。
あたり構わず怒鳴り散らす者、泣き喚く者、呆然とする者、そして――歓喜の声をあげる者。そう、むしろこの現状を喜んでいる節があるプレイヤーもまた、確かに存在したのだ。
この時点でバラバラだったが、どうにか全員、無理矢理にも現状を呑み込んだようだった。というより、呑み込まざるを得なかったのだ。
なぜなら、この世界に来るのはプレイヤーの意思ではなく、強制的に連れてこられるからだ。反抗しようともできず、気づけばこの世界にいる。
誰かに助けを求めようにも、どうしようもない。プレイヤー以外には、証明のしようがないのだから。
だが、問題なのはここからだった。
それは、今後の方針であり、各々が務める役割の決定。
プレイヤーがプレイヤーを殺せるというということもあり、話し合いは難航。
実際にプレイヤーキルこそなかったものの、互いが互いを警戒しているならば、なおさらである。
そしてどうやらここ、モルスという世界では2日間、つまり48時間過ごさなければ現実に戻れないというのが判明した。そして、現実に戻ったとしてもその翌々日にはモルスに来なければならないことも。
要するに、プレイヤーが現実での2日間を過ごすと、モルスに来て2日間を過ごす。そして現実に戻って2日経過すると、再びモルスへと来る、といった具合だ。
つまり通常の人間が1週間7日だとすれば、俺達プレイヤーは、その倍近くの日数を1週間で過ごすこととなる。
だが、モルスでの2日間は現実世界における1秒未満であり、現実になんの影響もなく、モルスでの出来事は、プレイヤー全員が共通して見ている妄想のようなものだ、というのが男の言だ。
初めの数日こそ、ほとんどの進展はなかったが、やがては大まかなグループが決定されていった。
まずは、拠点である赤の村で、プレイヤーの支援、補助を目的としたグループ。
男との対話から、初期ステータスは皆一律ではないことは知っていた。だが、プレイヤーの中には、<専門クラス>というのを与えられている者がいたのだ。
クラス、というのは職業のことで、この専門クラスの中には、武器職人や防具職人などのありふれたものから、薬剤師、神父といったものまで多種多様なものが含まれている。
専門と名のつく通り、誰もがなれるものではなく、限られたプレイヤーで構成されたグループだ。
次に、解放条件である、赤の民が取得しなければいけないアイテム、<紅蓮の璧>を探索するグループ。グループの規模が一番大きいのが、ここだ。
そしてこのグループは、その中で更に二分される。
赤の村の外に広がる、フィールドを主として行動しながら紅蓮の璧の手掛かりを探す<フィールド攻略組>。ここが、俺の所属しているグループだ。
もう一つが、赤の村内で発見された地下ダンジョンを主として行動する<ダンジョン攻略組>。
紅蓮の璧に関する情報が一切与えられていないので、一番効率のよい探し方を模索した結果が、これだ。
この二つの組に共通しているのは、基本的に専門クラスを持たないプレイヤーで構成されていることと、紅蓮の璧の情報を掴むという目的だ。探索する場所が違うだけで、特に差異はない。
そして、最後。少数派ではあるが、これが一番厄介な奴ら--このゲームの存在を良しとし、紅蓮の璧探索に非協力的なグループである。
この状況から一刻も早く解放されたいと考えるプレイヤーが大多数を占める中、当然彼らの存在は浮いた。そして彼らは、赤の村から放逐されると、反抗組織<rebel>と名乗り、ゲームの進行を遅らせようと、攻略組の妨害を始めたのだ。
その被害を多大に受けるのは、俺達フィールド攻略組である。
殺されたプレイヤーは確認されていないが、襲撃をうけて大怪我を負った者もいれば、フィールドのどこかにあるrebelの本拠地に連れ去られた者もいるらしい。
しかし、rebelというイレギュラーはあれど、本来ならこれほどすんなりとは決定しなかっただろう。なぜなら、この世界において他人を信用するのは愚の骨頂。はっきり言って他のプレイヤーは、同じ境遇にある味方ともとれなくはないが、同時に、命を脅かす敵でもあるのだ。
それに、協調性がなく、自分勝手な行動をとり始めるやつらも絶対にいたはずである。
下手すれば、殺し合いへと発展していたかもしれない状況で、まともに話し合いをできたのは、とあるプレイヤーの存在があったからこそだ。
圧倒的なカリスマでプレイヤー達を導き、自らのクラスを王であると名乗った、一人のプレイヤー。
なぜだか知らないが、ほとんどのプレイヤーは彼に不平を言うことなく従った。と言っても、俺とて、異を唱えることはしなかった。それが得策であると判断したからだ。
従わなかったのは、rebelの連中と、現状から目を背け、この場から脱兎のごとく逃げ出した数名のプレイヤーのみであった。
そうして、ゲームという名の実験は男の思惑通りに進み。この世界はとうとう本格的に始動しはじめた。
――だが。
俺にとっては、ここからが問題だったのだ。
俺の所属するグループ――フィールド攻略組だが、なにも総員で行動するわけではない。
気の合う仲間、共に背中を預けて戦える仲間を見つけ、少人数で探索するチーム制。それが基本となっていたのだ。
故に、武器を装備できないという致命的な制限を持っていた俺や、あまりに低いステータスだったプレイヤーは単独行動とならざるをえなかった。
だがそれは、当然といえば当然だったのかもしれない。ただのゲームならまだしも、これは命のかかったデスゲーム。
足手纏いは、己の命を危機に晒す枷でしかないのだから――。
ややこしいのでこちらにて記載しますが、<rebel>は反逆、反抗などの意味のレベルです。
レベル1などの<level>ではないのでご注意を。
もう少し先の話で説明になりますが、このゲームではレベルのシステムではなくランクのシステムになります。ややこしくなりそうなので先に説明させていただきました。
次回は、一話の回想を終えてでの現実サイドからとなっている予定です。
よろしくお願いします。