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ワンコイン・オンライン  作者: 鷲野高山
1章 未来よりの誘い
29/33

29話 小鬼の通路 <ゲーム>

お気に入り登録、評価していただいた方、ありがとうございます!

 ボウッッ!!


 俺とターナが通路へと進入した、直後。背後からの音。

 同時に、むわっとした熱気が、身体を駆け抜けていく。チラッと振り返った、その先。今しがた俺達が通り抜けた場所は、大部屋と通路を遮断するように、紅蓮の炎が燃え盛っていた。


「後戻りはさせないってわけね……」


 ターナがポツリと呟く。

 これでもう、先に進むしかなくなった。

 もとより、目指すは通路の最奥。後退は、ない。

 果たしてこの先には、なにが待ち構えているか。

 軽く息を吐いて心を落ち着かせながら、角を曲がる。


 瞬間、俺の鼻先を何かが掠った。


 カッ、と音を響かせて石壁に突き立ったのは――一本の矢。

 すぐさま角の先を見る。通路よりかは、若干幅の広がった小部屋。そこにいるのは、弓を構えた二匹のモンスター。

 気味の悪い緑色の皮膚に、子供のような体格。そして、醜悪に歪むその顔は、紛れもなくモンスターであることを現している。

 ゴブリンアルシェ。下級モンスターであるゴブリンの派生型だ。

 先制攻撃を外したことを悟るや、もう一方から矢が放たれる。

 が、動体視力も上昇しているこちらの世界の身体では、それを避けることも可能。

 射線を割り出し、回避する。もちろん、ターナも当たらない。

 俺に近い方、向かって左側のゴブリンに狙いを定め、一気に距離を詰める。

 慌てて弓に矢を番えているゴブリンだが、二射目はやらせない。


「はっ!」


 矢が弦から放たれる前に、俺の拳がゴブリンの体に突き刺さる。

 もう一方のゴブリンは、仲間がやられたことに怒ったのか、グギィ、と短くうめき声を上げて弓矢の狙いを俺に定める。

 しかし――それが俺を襲うことはなかった。

 飛来する、紅い流星。

 右側のゴブリンを、ターナの投擲した朱槍が貫いたのだ。


「この調子で、どんどん行くわよ!」


 ドサッと倒れるゴブリンに目もくれることなく、俺達はただただ奥を目指した。


 

 ※※※ 



「やっぱ、簡単には奥まで行けないか……」


 あれから、いくつか部屋を突破した。

 最初の方は僅か数秒で突破できた部屋も、先に進むにつれ、突破に時間がかかってくる。


 モンスターの増加もそうだが、部屋に設置された罠の存在。

 いずれかだけではさして難関ではない。二つ同時に存在することで相乗効果が生まれ、より一層戦い辛くなる。

 罠にも、様々ある。例えば、特定の床を踏むことで、効果が発揮されるタイプ。例えば、通過することで発生するタイプ。

 一番肝が冷えたのは、天井から鋼鉄の刃が落下してきた時だ。その真下の石畳の床が抜ける仕組みとなっていたらしく、俺の右足が床に嵌って一瞬身動きが取れなくなった時に、落下してきた。

 身体だけは避けれても、右足が切断されてしまう。

 咄嗟の機転、というよりも無意識に働いた防衛本能は、魔法による防御を展開した。

 だが、俺の魔法はまだ完璧とは程遠い。

 炎の壁は、僅かばかり落下時間を稼ぎ、その軌道をずらした。しかし、それも微々たるもの。鋼鉄の刃は俺の魔法を切り裂いて、落下してくる。

 恐らく、ターナがすぐに足元の岩を破壊してくれなければ、避けれなかっただろう。

 全く、俺とは違って本当に頼りになる。


「……分かれ道ね」


 この通路に入ってから、初めての分岐点。

 ……最奥が近づいているのか、ここから先がまだまだあるのか。


「……どうする?」

「考えても埒があかないわ。どっちかに行って確かめるしか――っ!」


 ターナと話し合っていた最中、左の通路から、俺達めがけ複数の火球が飛んできた。

 会話を中断し、慌ててその着弾地点から跳び退る。

 通路の奥、ゆったりとした歩調で現れたのは、襤褸切れ(ぼろきれ)のような紫のローブを身に纏い、片手に細長い杖を持つゴブリン。下級魔法を扱うことのできるモンスター、ゴブリンメイジだ。それが一匹ではなく、五匹ほどの集団。


「また、コイツ達か……」


 このゴブリンメイジ、先に通過してきた部屋でも遭遇している。

 そして、確定ではないが、ほぼ間違いないといえる仮説が一つ。


 ――おそらくこの通路は、ゴブリンの派生型モンスターしか出現しない。


 現に、最初に出会ったゴブリンアルシェを初め、剣を扱うゴブリンナイト、アンデッドタイプのゾンビゴブリンなどなど。そして、このゴブリンメイジ。


 はっきりいって、大した相手ではない。

 もっと難敵が現れることも覚悟していたが、少々拍子抜けだった。


「ふんっ!」


 すぐさま接近して、一当て。近くのゴブリンメイジを撃破する。

 ゴブリンメイジの特徴は、魔法における遠距離攻撃。他のモンスターと交戦中であれば少々面倒だが、ここにいるのはゴブリンメイジのみ。接近戦ならば、すぐに撃破できる。


 ――しかし。


 一体が俺に撃破されたのを見るや、残りの4匹は慌てるように踵を返し、出てきた左の通路に戻っていく。


 その光景に俺は、追いかけようとしていた足を止めた。

 これまでのモンスターとは、違う反応。今までのモンスターは皆、逃亡などはしなかったからだ。


「逃げる……か。私達を間違った道へ行かせたいのか、もしくはそっちが本当の道なのか」

「どうする?」

「……ハヤトは、どう思う? 直感でいいわ」

「俺は……」


 現状、とりうる行動は、三つ。追うか、避けるか、変化が現れるのを待つか。

 しかし、最後のは駄目だ。目的は、迅速に最奥に辿り着くこと。いつ訪れるかもしれない変化を待っていては、時間の無駄。

 ならば、残るは二択だが――。


「……左、かな」

「そう。なら、左に行くわよ」

「えっ? ターナも左なのか?」

「……まあね。考えて分かるものじゃないし、それにさっきの奴らが後ろから襲ってくるのも面倒だしね」


 ターナはそう言って髪を弄ぶと、左の通路へ入っていく。

 なるほど、そういう考えもあったか。と若干感心しつつ、俺もその後に続く。

 俺の場合、確かに直感の部分もあるが、一番の決め手は、モンスターが罠を仕掛けるか、ということである。

 ましてや、相手はゴブリンの派生型。

 本能的に、正解に続くルートに逃げたのではないか。そう、思ったのだ。

 もっとも――。


 その考えが誤りであると理解させられたのは、すぐのことであったわけだが。


「……うわ」


 左の通路を抜け、出たのは大部屋。

 部屋に進入した瞬間、背後からは鉄格子がせり出してきて、退路を塞ぐ。

 そして、前方には――部屋を半分以上覆う、ゴブリンの大群。


 アルシェ、ナイト、ゾンビ……そしてその最前列には、先程のらしきゴブリンメイジ4匹。こちらを見て、まるで馬鹿にしたように笑っている……ように見える。


 向こう側に、通路はない。つまり、行き止まりだ。


「なるほど……さっきのは囮。佯敗(ようはい)だったってわけね。で、私達は見事にそれに嵌ったと」

「……悪い」

「しょうがないわよ。ただ、運が悪かっただけ。とにかく、一刻も早く撃破するわ」

「ああ、そうだな」


 そうして、モンスターの群れに突っ込もうとしたのだが。


「待って。ここは、私がやる」

「へ?」

「任せなさい」


 俺を片手で制し、ターナは前に進み出る。

 そんな俺達に、一斉に突撃してくるゴブリンの群れ。

 それを前にしながら、ターナは手にもった朱槍を、ガッ、と地面に突き立てた。


「流石に、一体一体相手にしてるのは時間が惜しい。だから――」


 ――一気に撃破するわ。


 直後、ターナの雰囲気が変わった。

 俺は、その変化にビクリと身体を震わせる。

 まるで、首筋に刃を突き付けられているような感触。冷たい空気が、部屋一体を侵食していく。

 今にも動き出そうとしていたモンスターの群れは、動かない。……いや、動けないのだろう。

 そこにあるのは、明確な実力差。彼らは、今まさにそれを実感しているのだろう。


「ボスまでは、魔法を使わないつもりでいたけど――」


 この部屋中、空気までも支配しているといっても過言ではないターナは、ゆっくりと右腕を天へと伸ばしていく。と同時に、ゆらゆらとした金色の粒子が、ターナの身体から噴き出した。

 それらは、まるで意思を持っているかのように、天へと昇っていく。

 そして――。


「ハヤト、よく見てなさい」


 ターナの頭上。そこには――空間一帯を覆い尽くすかのような、無数の金色の輝きがあった。


「少しでも、魔法を上達すればね――こんなことだって可能になる」


 ゆっくりと、前方を指すように振り下ろされた腕。

 瞬間。


 ――部屋中に、ゴブリンの悲鳴が木霊した。


「「「グギャァッ!!」」」


 例えるなら、金色の雨。雷の銃弾の嵐。

 それらは絶え間なく、石畳の床を砕き、ゴブリンの群れに殺到する。

 その光景を呆然と見守る俺の傍らで、ターナは徐(おもむろ)に地に突き立つ朱槍を手に取った。


 彼女の視線の先には、部屋の奥、運よく生き残った数体のゴブリンの姿。

 射程距離から外れていたのか、たまたま当たらなかったのか。

 ターナは、瞬きすることなく、朱槍を両手に持ち、上段に構える。


「これで、ラストッ!!」


 そして、全身をバネのように使い――上空に、投擲。

 打ち出された朱槍は、発射されずに宙に揺蕩っていた雷の粒子を纏い、その全てを金色に染めていく。

 くるり、と自動で穂先をゴブリンへと向ける槍。

 凄まじいスピードで一直線に飛来する槍はまさに――。


「稲妻纏いし長槍(トルデオン)!!」


 稲妻。その言葉以外に、言い表せるものはない。

 着弾、そして。


「うわっ!?」


 轟音と共に発生した爆発が、地面を揺らす。

 巻き上がる砂塵。粉砕され、吹き飛ぶ石畳の破片。それらがすべて晴れた頃には――そこに、ゴブリンの姿は一つもなかった。


「……凄ぇ」


 それしか、言葉が出ない。


「ほら、あんまりぼーっとしない。行くわよ」


 ターナの言葉でようやく我に返る。

 気づけば、退路を塞いでいた鉄格子は、いつの間にか開いていた。


「お、おう……」


 ターナには絶対逆らわないようにしよう。

 俺は、そう心に決めて、来た道を戻った。



 ※※※


「どうやら、ここが最奥のようね」


 今、俺達は通路の最奥らしき部屋にいる。というのも、部屋の中央に紅の光を放つ魔法陣があり、その中心に「6」という数字が浮かんでいるからだ。

 つまりこの通路は、ボスに6番目に挑戦できる、当たりだったということだ。


「余計な時間をくったけど、間に合ってよかったわ」


 結論からいうと、あの分かれ道からこの最奥までは、一つの部屋を挟むだけだった。

 しかも、その部屋にあったのは、さほど危険性の少ない複数の罠のみ。

 要するに、あの分岐点が、最後の大罠。ものの見事に、俺達はそれに嵌ってしまったわけだ。


「準備はいいわね、ハヤト?」


 ターナの、問い。

 対して俺は、大きく息を吸い込む。

 とうとう、ここまで来た。

 この先に待ち受けるのは、一体どんなボスか。

 不安がないわけはない。それはきっと、ターナも同じだろう。

 でも――。


「……ああ」


 ここまできて、尻込みするわけはない。あの時、覚悟は決めたはずだから。

 ターナと歩調を合わせ、紅の魔法陣に足を踏み入れる。


 輝きを増す、紅の光。

 そのあまりの眩しさに目を瞑り。

 そして、ようやくその光が止んだ時。


 ――グルァアアアアアアッッ!!


 鼓膜を震わせる、咆哮。


「な……あれが……」

「……ボス」


 灰色の巨体をもつ悪鬼が、そこにはいた。

ちなみに、1章はもうそろそろで終了します。

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