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ワンコイン・オンライン  作者: 鷲野高山
1章 未来よりの誘い
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28話 運まかせのダンジョンギミック <ゲーム>

 赤の村、火口ダンジョン。階段を下りてすぐに広がっているのは、エントランスエリアだ。

 審査をクリアし、作戦参加を認められたプレイヤーだけが、今この場に集結している。

 その数、60人。

 その中には、俺達はもちろんのこと、オレイガや、審査にて俺の参加を否定していた長身の男もいる。

 様子見か、見定めか。互いが互いの顔を見回しているというこの状況の中、当然、参加者である俺達にも、視線は飛んでくる。

 長身の男からは、剥き出しの敵意。騒動を見ていたプレイヤーからは、好奇、懐疑的な視線もちらほらと感じる。

 しかし、あの女性の姿は見当たらない。

 俺がここにいるのを可とした、味方をしてくれた彼女の姿は。


「じゃ、件のフロアへと突入する前に、コイツを聞いてくれ。あの野郎からのメッセージだ」


 部屋の中央には、オレイガの姿。そしてそのすぐ傍らに、淡い紅色の光を放つ大きな珠が設置されている。

 そして、なにやらオレイガがその珠に手をかざした、瞬間。


『やあ、ご機嫌いかがかね、被験者(プレイヤー)の諸君?』


 ……これは!


 部屋全体に、反響する音声。

 長らく聞いていないが、忘れはいない。この人を食ったような物言い。

 俺達が、こんな状況に陥っている現状。コイツは――。


 ――未来からやってきたという科学者、「F」。


『まずは、ここまで来れたことに賞賛を送ろう。……といっても、まだこのダンジョンの第一関門にすぎないわけだが』


 誰も声を上げることなく、その声を聞いている。


『フロアの先には、私が配置したボスモンスターがいる。今の君達には、充分な強敵となるだろう』


 何が面白いのか、「F」は、ククッ、とした笑い声を響かせている。


『しかし、全員がボスに挑めるわけではない』


 声が聞こえるのと同時に、頭上にモニターが出現する。


『ボスフロアのスタート地点からは、実に30もの通路が存在している。そのうちの10本に、当たりを用意した。つまり、もう20本は外れ。最奥に突入したと同時に、ダンジョンの外に放り出される。当たりの通路に入ったプレイヤーだけが、ボスの待ち構える部屋にワープできる仕組みだ』


 そのモニターに表示されるのは、今しがたの内容。一つの円形状の大部屋から30本の通路が伸び、その突き当たりに、〇やら☓のマークがされている。


『ただし、一つの通路に進入できるプレイヤーは2人まで。そして、当たりの通路は毎回ランダム。運の良し悪しはおいといて、最大20人がボスに挑めるわけだが、同時に戦闘できるわけではない』


 なるほど、だから60人が選ばれたってわけだ。

 と、納得する俺の前で、モニターに変化が表れた。

 モニター上、通路の突き当りの〇の位置に、数字が出現したのだ。どうやらその数は、1から10までのよう。


『当たりの通路にも優先順位があり、1番の通路をひいたプレイヤーからボスと戦闘ができる。プレイヤーの敗北、もしくはタイムアップとなれば、次は2番の通路、とまあ、そんな感じにね。仮に、3番の通路のプレイヤーが最も速く奥に到着した場合、1番と2番の通路のプレイヤーは強制的に外にワープさせられ、3番のプレイヤーから戦闘がスタートだ』


 どうだ、簡単なルールだろう? そう、嘲るように、「F」は言った。


『最後に一つ。一回の突入時のみ、ボスのダメージは蓄積される。つまり、1番から順に戦っていけば、10番のプレイヤーの時には相手は虫の息、なんてこともありえるわけだ』


 ――もっとも、全滅すればボスは全回復されるがね。


 最後にそう言い残し、声は止まった。


「「「「…………」」」」」


 沈黙が、エントランスに広がる。

 しかし、それも一瞬のこと。沈黙を破ったのは、やはりオレイガだった。


「これが、プレイヤーを選定しなければならない理由だ。そして、先に突入した者の報告によれば、ボス部屋へのワープに成功した場合、先の番号のプレイヤーの戦闘を見ることができるそうだ。そこでじっくりと観察すれば、自分の番となった時、有利にもなるだろう」


 そこで一時言葉を区切った後、そして、とオレイガが言葉を続ける。


「当たり外れや、どの番号の通路であるかは、気にするな。とにかく、速く最奥に辿り着く。目下、それが一番の方法であると、我々は考えている。通路にはモンスターや罠(トラップ)も数多くあるが、最小限に被害を止め、迅速に最奥を目指してほしい」


 ……確かに。

 どの通路がどうなっているかは、最奥に行くまで分からない。

 仮に1番であれば、遅くては駄目。しかし、10番であれば、速くては駄目。

 つまりは、完全な運。

 ならば、慎重かつ迅速に最奥を目指すしかないだろう。


「では、通路に突入する二人組を決めてくれ。その後、問題のフロアまで、こいつでワープする」


 そう言って、オレイガは、傍らの珠をポンポン、と叩いた。


 ……二人組、か。


 三人の方へと向き直る。

 中距離、槍と魔法を使う、クイーン(女王)のターナ。近距離、斧使いでバーサーカー(狂戦士)のゼアン。遠距離、弓兵(アルシェ)のエレーナ。

 俺は、誰と組むのだろうか。


「……ま、決めるまでもないね」


 ……え?

 突然ゼアンが、ふっと相好を崩しながら言うのを聞いて、俺は耳を疑った。


「そうだね」

「ええ」


 しかし、エレーナとターナも、それに同意するように頷く。


「……えっと、誰と誰?」


 どうやら、分かっていないのは俺だけのようだ。

 ターナはあからさまに溜め息を吐き、エレーナは呆れたような表情を見せている。


「誰と誰って……そりゃ、もちろん君とターナだよ」

「そして、エレーナとゼアン」


 ……いつの間にそんなこと決まってたんだ?


「……なによ、私と組むのは不満なわけ?」

「い、いや、別に……」


 じろり、とジト目を向けるターナに、慌てて否定する。


「決まったプレイヤーから、中央にきてくれ」


 オレイガの指示に従い、紅色の珠へと近づく。

 そうして、時がきた。


「じゃ、全員、ワープするぞ!」


 オレイガが大声を張り上げた瞬間、周囲に紅の光が満ちた。

 そして、その光が全身を包んだかと思うと、ぐっ、と引っ張られるような感覚。しかし、それもすぐには消え。

 顔を上げれば――。


 先刻のエントランスホールが、あちこちに通路を伸ばす、巨大な部屋へと変貌していた。


「…………」


 4つの十字路でさえ、広く感じるのだ。

 今は、それをはるかに上回る30もの通路を目の前にしている。

 言葉など、何も出なかった。


「各々、自分の進むべき通路を選択してくれ。だが、まだ入るなよ! 俺の合図で一斉に突入だ! 目印など、なにもない。余計な争いごとは起こさないでくれよ!」


 その言葉を皮切りに、一斉にプレイヤー達が四方に散開する。


「ま、余った通路でいいでしょ。残り物にはなんとやらってね」


 そのターナの一言で、俺達は中央に留まることにした。

 やがて、プレイヤー達によって通路が決定されていく。


「じゃ、ゼアン、エレーナ。運がよければ、ボスの部屋で」

「ああ。そっちも、しっかりね」


 俺とターナは、ゼアンとエレーナに一時の別れを告げ、歩き出す。

 わざわざ、隣同士の通路になる必要はない。どうせ、隣同士になったところで意味はないだろうから。

 プレイヤーのいない通路の前に、陣取る。

 通路を覗いてみるも、あいにく、すぐに曲がり角。この場所から、通路の先を見せないようにしているのだろう。


「ハヤト、集中を途切れさせないように。後ろから、なるべく援護するから」

「分かった」


 接近戦の俺が先に突入するのは、当然だ。それに、後ろにターナがいれば、心強い。


 この先に待ち受けるのは、モンスターと罠(トラップ)。

 モンスターは想定のしようがない。しかし、こういう場所に仕掛けられる罠となれば――地面、壁、天井。もしくは、感知型のもの。

 各所に目を配りつつ、モンスターの相手をする。

 それは、今の俺には難しいことだが、やるしかない。

 慎重かつ、迅速に。


「よし! 各々、準備はできたな?」


 オレイガの声が、部屋中に響き渡る。


「行くわよ、ハヤト」

「ああ」


 俺達は、いつでも走り出せるように、足を開いて僅かに腰を落とし――。


「では行くぞ……スタート!!」


 合図を聞いた瞬間、通路へと飛び出した。

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