↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンコイン・オンライン  作者: 鷲野高山
1章 未来よりの誘い
17/33

17話 奇妙な縁、憑いてきたもの <ゲーム>

 気持ち悪い。

 最初に思ったのはまずそれだった。

 喰われる直前、咄嗟に目をつぶり、気づけば、この蛇の腹の中らしき空間にいた。


 ――しかし。


「……本当にこれが、あの蛇の腹の中なのか?」


 が、それ以外に心当たりなどない。

 ところどころ下に溜まっている、ベタベタとする液体。脈動する、灰色の地面と壁。そして、それ越しに伝わる震動。俺を呑み込んだこの大蛇が、動き回っているのだろうか。

 そしてなによりここは、薄暗く、暑苦しい。


 だが、どうしてこの場所はこんなにも広い?

 腹の中ならば、もっとこう、狭いのではないのだろうか。


 だが、考えても答えなどでるはずもなく。


「くっそ……」


 丸呑みされたのは、間違いない。だが、幸か不幸か、俺はまだ生きている。

 しかし、それもいつまでこうしていられるか。

 気温は暑く、息苦しくなりつつある。

 コイツはモンスターであるから、この場で脱落となっても、真の死亡条件(コインの破壊)は適用されず、俺は蘇生できるだろう。


 ――だが。


「……こんなとこで終わってたまるかよ」


 喝を入れるかのように、決意をする。

 突破すると決めた。倒れないと決めた。

 例えそれが、ゼアンを見返してやる、というくだらない理由であったとしても、確かに俺はそう決めたのだ。

 まだ、モンスターとの戦闘によって、倒れるのはいい。

 ……いや、よくはないが、やはりそれはいつか訪れる時がくるのだろう。常に負けず、勝ち続けるなど、よほどが幸運もなければできようもない。

 だけど。

 喰われて終わる。そんな終わり方は、絶対に嫌だ。

 だから、無様であろうと、あがく。


 ――しかし。


 いくら決めたからといって、いくら諦めないからといって。

 非力な餌が一匹。体内でもがいたとて、現実はそう都合よく変わるものではない。


 今日はつくづく、己の弱さを思い知らされる日だ。


 ――こんな時に武器があったら。それがなくとも、この状況を打破できる強さがあったら。


 そう思わずにはいられない。

 しかしまだ諦めはせず、拳を握って、脈動する肉の壁を叩く。

 強固な灰色の壁は、まるで本物の岩石のよう。俺の拳など一切通らない。


 とりあえず、この空間を隅々まで調べてみるも、出口はおろか変わった場所すらない。

 その事実に、心が折れそうになる。もう無駄だ、という逃げの考えが頭に浮かぶ。


「ちくしょう……」


 やはり、俺はダメな奴だ。

 これがもし俺なんかではなく、実力のあるプレイヤーだとしたら。こんなところで死ぬことなく、無事に脱出できるのだろうか。

 己の非力さ。その悔しさを込め、ドン、と壁を叩く。

 だがやはり、なにが変わるでもなく、眼前に立ちはだかる壁はびくともしない。

 

 刹那、一際強い震動が、俺を襲った。

 咄嗟のことに対応できず、バランスを崩してドサッとしりもちをつく。


「痛ってぇ……ん?」


 倒れた拍子に、ふと、なにかが足に触れた気がした。

 何かあるのか、と視線を落としてその正体を探す。


 だが、そこにはなにもなかったようで。

 気のせいか、と落胆し、溜め息をつきながらも立ち上がる。

 だが、拳だけはめげずに振り上げ。壁に叩きつけようとした、その時だった。


『――おい』


 どこか幼さを含んだ、しかしぶっきらぼうな少年らしき声。

 驚いて周囲を見たものの、声の主は見えない。そもそもよく考えれば、こんなところでそんなのが聞こえるほうがおかしいのだ。

 遂に、幻聴まで聞こえたか?

 頭を振り、拳を握ったのだが。


 ブォン、という聞きなれた音と共に、ステータス画面が勝手に表示される。

 だが、こんな状況だというのに。それを忘れ、俺は画面を思わず凝視してしまった。

 出てきたものはしかし、見慣れたもの(画面)ではなかったのだ。

 ステータス表示の初期画面。項目を選択すれば、その説明が表示される部位であり、逆に選択していなければ空欄となっているはずの画面。

 そこには――。


『おい、って言ってんだろうが、人間!』


 黄土色を基調とした、どこかの民族衣装らしきものを纏った少年の姿があったのだ。

 ……どうやら、いよいよ俺は危うくなってきたらしい。幻聴に続いて、白髪の少年の幻覚まで見えてくるとは。

 暑さに頭がまわらなくなっているのだろうか。


『ふっざけんな! オレがオマエの幻覚であってたまるか!』


 口に出ていたらしい俺の言葉を聞いて、その少年が激昂し、眉を吊り上げる。


「……じゃあ、一体なんだよ」

『んなことは後だ! それより、外で戦ってんの、オマエの仲間か?』


 困惑しながらも、コクリと頷く。

 そうか、仲間! 彼らが、この状況を打破してくれれば――。

 ……いや。


 それで、いいのか。


 俺には所詮、どうすることもできないのか。

 そうして俺は、顔を俯かせ――。


『――首の付け根だ』

「……え?」


 少年が、ポツリと呟いた言葉。

 反応して、顔を上げる。


『だから、首の付け根を狙えって言ってんだよ! なんでか知らねぇが、オマエの仲間の男が、そう言ってんだ!』


 男……少年のいうことが真であるなら、それはゼアンのことだ。

 だがなぜ、首の付け根を――。

 そう疑問に浮かべた時、脳裏に閃光が走った。


「……そうかっ! <バーサーカー>の特性!」


 バーサーカーのクラス特性、理性ある狂戦士。弱所を見抜く眼。

 つまり、ゼアンがそこを狙えというのは――コイツの弱所がそこだということ!


 だが、狙うべき箇所が分かったというものの……問題がある。

 その肝心の、首の付け根がどこかが分からないのだ。

 折角のヒントも、すぐさま絶たれた――かに思われた。


『ああもう、使えない奴だな! そこだ、そこ! そこだけ壁の色がおかしいだろうが!』


 罵倒と共に、少年が俺の真上を指さした。

 使えない発言に、ムカッとしたものの、指の先を辿る。

 上方。そこを注視してみれば。

 パッと見ただけでは分からない。が、確かにそこは、周囲と比べて微かに色が違った。

 そこで、ふと思う。

 なぜコイツは、ゼアンのことも含め、それが分かったのか。

 ……そもそも、コイツは一体なんなんだ?

 そんな俺の疑問が顔に出ていたのか。


『ハッ! オレの感知能力を舐めんなっ!』


 画面に映る少年は、ニィッ、と自慢げな笑みを浮かべた。

 だが、それも一瞬のこと。


『いっ、いいからさっさとどうにかしろよな! オマエと一緒にコイツの餌になるなんて、オレは真っ平だぜ!』


 まくしたてるように、ソイツは怒鳴った。

 その声で、我に返る。


 ……そうだ。まだ何も解決していない。


 絶望しかない状況から、不確かといえども、道が開けた。それをやったのは、正体は未だに謎の、画面に映るこの少年。

 俺じゃ、ない。そもそも、俺はまだなにもやっていないではないか。

 身体は、動く。拳だって、まだ握れる。……まだ、終わっちゃいない。

 

 上方、件の箇所を見据える。

 ――高い。果たしてあの場所まで届くだろうか。


 ――否。

 届くか、じゃない。

 届かせるんだ。


 それができなきゃ、俺はここで終わるだけ。

 ならば……。


 ――やるしかない。


 ギュッと拳を握りしめる。

 あそこはどう見たって、普通のジャンプでは絶対に届かない場所に位置している。

 この世界での身体能力は、現実世界より格段に上昇しているが、それでもなお、届かない位置だ。

 普通のジャンプでは届かない。

 だから俺は、助走をつけると、対面の壁めがけて、跳んだ。

 壁を踏み台に、足をばねの如く利用しての、壁蹴り。

 現実世界では到底できないことだが、この世界での身体能力は、それを可能としていた。


 色の違う箇所目掛け、思い切り拳を振りかぶって、殴りつける。


 ――微かにだが、当たりはした。だが、それだけだ。

 直撃するには距離が届いていなかったし、貫通させようともなると、威力が全く足りていない。


 そのせいか、壁にも全く変化は見られない。


『……おい、どうなんだよ?』

「いける」


 しかし俺は、少年からの問いに即答していた。そして言ってから、己の口が言葉を紡いでいたことに気づいた。


『…………』


 あまりの即答が不信だったのか、少年が疑わしげな目で俺を見ている。

 だが、今の結果を見ていれば、それも仕方がないことだろう。

 しかし俺の言葉は、断じて強がりなどではなかった。


 もう一度、跳躍してみる。

 しかしやはり、届かない。


『…………』


 もはや画面の中の少年は、諦めたかのように、そして呆れたかのように着地した俺を見ている。


 俺とて、分かってはいるのだ。今のでは、足りない。あの壁を突き破ることなど、到底できない。

 もっとパワーが必要だ。先程よりも更に、勢いが、力が。

 さっきのだって手を抜いていたわけではない。全力を出して、あの結果。それ以上の力を引き出すのは、現状厳しい。

 いや、厳しい云々ではなく、不可能だ。確かに、もう少し工夫をすれば飛距離は伸びるだろう。だがそれは、微々たるものでしかない。

 つまり、あの壁を突き破るということは、すなわちこの身体能力の限界を超えて跳躍、そして攻撃をするということに等しい。

 己の限界など、長く時間をかければ超えることはできようが、この一瞬で超えるなどというのは、言うまでもなく無理なのだ。


 再び、最悪の状況になった――かと思えた。


 ……だというのに、どうしてだろうか。


 まったくもって――。


「――できない気(・・・・・)が、しない」


 そうして笑う俺を、少年が怪訝な目で見ている。絶対にできないのに、それでもまだやろうとする俺の行動は、きっと無駄なものとして映っているのだろう。

 しかし俺が発した言葉は、自らにかけた暗示でも、ましてや慰めでもない。

 本当に、そう思った。

 今までは、届かなかった。それならば――もっと高く飛べばいい。


 簡潔な答え。だが、そう簡単にいけば苦労はしないのが現実だ。

 しかし、俺にはどうしてか、届くビジョンしか見えなかった。


 高く……高く!


 力を込め、足を踏み出す。

 跳んだ先は、先程とほぼ同じ場所。壁に、ググッと足が沈み込む。

 どれくらい沈んでいるかは分からないし、見る必要もない。

 俺に今見えているのは、弱所である壁、その一点のみだから。


「おおおぉっ!!」


 足に力を込め、弾丸の如く飛び出す。

 肩を、拳を、ギリギリまで後ろに引き、空中で体勢を整える。


 飛距離は……少々心許ない。

 それでも俺は、全力で右手を突き出した。


 ドゴッ!!


 響き渡る鈍い音。拳が、壁にめり込む。

 だが、いくら弱所といっても、それほど脆くはないようだ。

 むしろ壁が、俺の拳を押し返してくる。


「くっ……」


 ……まだだ。まだ、足りない。

 感触で、なんとなく分かる。

 力を込めろ。もっと強く、もっと高く。


 この壁を突破する力を、高さを――。


「――もっと!!」


 全身全霊をこめて、叫ぶ。


 瞬間、まるでそれに呼応するかのように、身体に力が満ち溢れた。

 そして、ポーン、とどこか場違いな電子音と共に、メッセージウィンドウが表示される。


 ――スキル<エア・アクセル>を獲得しました。


 脳内に、イメージが流れ込んでくる。

 エア・アクセル。空中で一度、任意の方向転換を行うことができる汎用型スキル。

 その獲得条件は――より高きを目指した者。


「これは……」


 一見すると地味だが、かなり使えるかもしれない。

 空中、というのはかなり無防備な体勢となる。だが、このスキルなら、それに対処も可能となるわけだ。


「っ……!」


 俺が、初めて獲得したスキルに気をとられていると、突如視界に眩しいものが映った。

 見れば、壁の一部に小さく穴が開き、そこから僅かばかりの陽光が差している。

 あと一押し。それで、おそらくぶち破れる。直感だが、俺はそう確信した。


 しかしそれとは反対に、勢いが失速した俺の身体は、ゆっくりと落下しつつある。


 だというのに、フッ、と思わず笑みが浮かんだ。

 

 ――どうやら、早速このスキルを使う時が来たようだ。


 脳内に、イメージを描く。

 イメージするのは、空を駆ける自分。

 両足に、光が宿る。

 向かう先は、当然!


「っけぇっ!!」


 再度、壁に突撃し――全力で拳を振るう。

 ――そして。


『……嘘……だろ』


 とうとう突き破った。

 ドガァッ、と崩れていく、大蛇の一部。


 ようやく外へ出た俺の目に入ってきたのは。

 大蛇と相対しながらも、目を丸くしてこちらを見ている、三人の姿。


「「「…………」」」


 そんな彼らの前に、タン、と軽やかに降り立つ。

 一拍遅れ、後ろから、ドスン、という地響き。


 振り返れば、俺を呑み込んでいた大蛇が、木々を薙ぎ倒して横たわっていた。

 だが、その目にはまだ光が宿っている。

 ――と思ったのも束の間、大蛇はゆっくりと目を閉じると、その全体を光の粒子に変え、サーッと消えていった。


『……あの<アナコンダ・フェルス>を……』


 ウィンドゥの中の少年が、驚きを隠さずに大蛇の消えた場所を見つめている。


「アナコンダ・フェルス?」

『……は!? オマエそんなことも知らないで戦ってたのかよ!?』


 少年が、ありえないものを見るような目を向けてくる。


「……アナコンダ・フェルス。……本来このフィールドには生息しておらず、更に言うと、この次のフィールドでも滅多に出てこないモンスターよ。恐らく、ブラックトードが逃げたのも、モンスターの襲撃が少なかったのも、アイツの存在のせいね」


 驚きから回復したのか、ターナが近づいて口を開く。


「こんなこと言うのは、あれだけど……よく脱出できたわね、ハヤト」


 ターナもまた、大蛇の消えた後をチラッと見てこちらに視線を向けた。

 ……そんなにヤバい奴だったのか。どうにも、未だに実感がない。

 今は、それよりも。


「結局、お前はなんなんだ?」


 ウィンドゥに姿を現す少年に疑問を投げかける。


『ん、オレか? ……フフン、聞いて驚け。オレは、フェリヴィア! 妖精族のフェリヴィアだ!』

「はあ……」


 堂々と、それでいて自慢げに、その少年はフェリヴィアと名乗った。

 だが、俺としてはなにがそんなに凄いのかが分からない。

 確かに、妖精族というのは興味深いが……。

 そんな俺の反応が不満だったのか、フェリヴィアが俺に噛みついてくる。


『なんだ、その反応は! 妖精族だぞ、妖精族!』

「……あー、オーケーオーケー。で、その妖精族がなんで俺のステータス画面にいるんだ?」

『そんなのこっちが聞きたいぐらいだ! でも、なんでかこの中から出られねぇんだよ!』


 ぶすっ、とした顔で、フェリヴィアが吐き捨てると、一人でに画面が消失した。

 とはいっても、俺にもなにがなんだかさっぱりだ。

 ターナならば、なにか知っているだろうか。そう思って、彼女に聞いてみたのだが。


「ターナ、コイツについて何か知ってるか?」

「……いえ。見たことも、聞いたこともないわ」


 どうやら、彼女でさえ知らない謎の存在らしい。


「ま、ここでこうしていても仕方ないわ。ひとまず中継地点へ急ぎましょう」


 ターナの提案に、頷く。

 そうして、アナコンダ・フェルスの体内で服についてしまった微量の液体を、手で払っていたのだが。


「……ハヤト」


 おずおずと声をかけてきたのは、ゼアンだった。

 いつもとは違った声色。そちらに顔を向ける。

 そんなゼアンの傍らでは、エレーナがその脇腹を肘でつついていた。


「その…………」


 罰が悪そうに、言い淀む。

 しかしやがて、ふぅ、と大きく深呼吸をすると、頭を下げて、ゼアンが言った。


「ゴメン、悪かった」

「…………」


 その態度に、面食らう。

 こうして素直に謝られるとは、露程も思っていなかったからだ。

 恨み言を述べようとしていたわけではないが、こう素直に言われるとなんと返してよいか瞬時には浮かばず。

 気づけば、ああ、と返事をしていた。


 ただそれだけのやり取り。

 だが、なんとなくではあるが、ゼアンというプレイヤーのことが少しだけ、分かった気がした。

ちなみにですね、文中にあった、エア・アクセルのスキル獲得条件ですが、簡潔に言うと、高く跳ぶことを目指し、限界を越えた者、です。


と、まあ後書きはこんなところでしょうか。

では、次話もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。