↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンコイン・オンライン  作者: 鷲野高山
1章 未来よりの誘い
11/33

11話 疑惑 <現実>

 昼食である弁当は、味もろくに分からず、ただただ機械的に口の中へと流し込み。

 思考の海に沈みながら午後の授業を聞き流していた俺は、ホームルームが終了した同時に、教室を飛び出した。

 慌てたように後ろから呼び止めるユウに、「用事がある」と短く返して、廊下を見渡す。

 すでに、俺のクラス以外は、ホームルームが終わっていたようだ。廊下は、帰宅を始める生徒で溢れ返っている。

 だが、その中に目当ての人物はいない。

 急ぎ階段を駆け下りて、下駄箱へ向かう。


 ――いた。


 視線の先、一年生の下駄箱。

 そこに彼女、柊の姿はあった。ポニーテイルの髪を揺らし、丁度校舎を出ていくところ。

 周囲には当然、他生徒の姿もあったのだが、どうしてか、すぐに彼女だと分かった。

 すぐさま靴を履き替え、校舎を出る。

 校門。俺がいつも使用しているのは、左の道。しかしどうやら彼女の家は反対方向のようで、柊は右へと曲がった。

 その後に続き、俺も右に曲がる。


 やっていることはただのストーカー。だが、いかんせんこちらにも事情というものがある。

 あの言葉から推測するに、彼女がプレイヤーであることにほぼ間違いはないだろう。

 だというのに、あのようにあからさまな言葉を俺にかけてきた。そして、何をするわけでもなく、普通にコインを返してきた。俺がプレイヤーだと知った上で、だ。


 ――彼女の真意が知りたい。


 というのは、建前であったかもしれない。

 同じ境遇にある人間を、1人でも知っておきたい。俺は、心のどこかでそう考えていたのだと思う。

 現実において他プレイヤーと接触したくないとしていながらも、そう思っていたのは明らかに矛盾している。

 だが、そこに――柊が、プレイヤーである可能性が高い彼女が現れた。


 柊と一定の距離をとりつつ、帰宅中の生徒に紛れながら、様子を窺う。

 最悪友好な関係は築けずとも、彼女が敵なのかをはっきりさせればそれでよかった。

 彼女と話す必要がある。それも、あまり人目のない場所で。


 そう考えている合間にも、どんどん周囲の景色が変わっていく。こっちの方面は自宅と反対側。滅多に通ることはないので、正直迷いかねない。だが、彼女の歩みは止まらない。

 かなり歩いたと思うが、まだなのだろうか。徐々に他生徒の姿もなくなっていく。

 なにも、家を突き止めたいわけじゃない。それでは本物のストーカーだ。いらぬ誤解を招く前に、そろそろ話しかけたいが……。


 前方を歩いていた柊が、十字路の角を曲がる。

 もう、ほとんどといっていいほど、他生徒の姿はない。距離を開け、そろそろと近づき、壁から顔だけを出して様子を窺う。


 だが――彼女の姿はどこにもなかった。


「……あれ?」


 目を瞬いて確認しても、やはりない。

 まさか、見失ったか!? 

 弾かれたように走り出す。が、それでも柊の姿を捉えることはできなかった。


「マジかよ……」


 ……学校で機会を待つしかないか。

 まったくの徒労であったことに肩を落とし、踵を返そうとする。

 だが、そこでふと、この道の脇にあった公園が目に入った。


「公園、か……」


 自然、足がそちらに向いていく。

 そして、公園へと足を踏み入れた時。俺はちょっとした違和感に気づいた。

 なんだか、初めてきたような場所ではない感覚。

 ……ああ、そうか。

 

「昔、ここで遊んだことがあったな……」


 懐かしいもんだ、と公園内を見回して呟く。

 道理で、見たことがあるような光景なわけだ。俺は、前に何度かこの公園を訪れたことがあったのだから。

 かなり昔、まだ幼稚園、小学校低学年だった頃の話だ。

 様相は少々変わってはいるが、俺は確かにこの公園に来たことがある。

 久しくこちらの方まで来ていなかったから、すっかり忘れていた。

 なにやら昔よりかなり豪華な遊び場となっているが、砂場やブランコなどはまったく変わっていない。


「あの時は確か雫花も一緒にいたっけ。……懐かしい」


 そうして俺が、過去の記憶を掘り返していた時だった。


「……やっぱり」


 ズザッ、と誰かが土を踏む足音が、間近に聞こえた。同時に、聞こえてきた声。驚き、慌てて声の方へと振り返る。

 だが、振り向いた先を見て、俺は更に驚くこととなった。


 何故ならそこには――先程見失ったはずの柊が――ジト目でこちらを見ていたのだから。


「貴方、『1-B』組の浅堂君よね?」


 ズイッ、とこちらに顔を近づけ、柊が問いただしてくる。


「そ、そうだけど……」


 そんな彼女の勢いに、そしてそれ以上に、僅か数センチという距離に迫った柊の整った顔を見て、俺はどもりながら答えた。

 それを聞いた彼女は、はぁ、と溜め息をつくと、その場で腕を組んだ。


「で、一応聞いておくけど、ここいるのはなんで? 偶然、とは言わないわよね?」


 柊は、笑顔だった。だが、その綺麗な笑みも、俺にとっては不吉な予感しかなく。


「……後をつけてきました」


 正直に、白状する。彼女の様子を見るに、どうやらバレていたようだったからだ。下手に嘘をついても意味がない。


「でしょうね。……すぐに分かったもの」


 折角忠告したのに、と口を尖らせ、柊は呆れたように俺を見ている。

 そんな彼女の視線に、俺は空笑いを浮かべ、目を逸らすことしかできないでいた。

 だが、ふと疑問に思ったことが一つ。


「……なぁ、なんで俺のこと知ってるんだ?」


 ほとんど初対面なのに馴れ馴れしいとは思うが、口に出して聞いてみる。

 俺が柊のことを知っているのは、別におかしいことじゃない。彼女は学内でかなり有名であり、知らぬものはほとんどいないからだ。

 だが、彼女にしてみれば俺は、クラスの違う同学年の一生徒でしかない。

 柊が俺のことを知っているとは思えないのだが――。


「……あぁ、それね。今日、昼休みに食堂で会ったでしょ? あの後、貴方の側にいた――小早川君、だったかしら? 彼に聞いたら、色々と教えてくれたわよ」

「……あいつ」


 脳裏に、あの馬鹿(ユウ)の顔が浮かび上がる。

 確かにユウならば、やりかねない。

 憧れである「姫(柊)」に話しかけられて、狂喜しながらペラペラと要らぬことまで喋るユウ。そんな光景が、容易に想像できた。


「で、私の後をつけてきたのはなんで? 興味本位ってわけじゃないでしょ?」

「あ、ああ。……聞きたいことがあるんだ」


 ふぅん、と柊の顔が真面目な顔つきに変わる。


「それは――モルスの事って考えていいのかしら?」

「そうだ。できるだけ、人目のない場所で話がしたい」

「…………」


 柊は無言のまま、ただ真っ直ぐに俺を見てくる。その漆黒の瞳は、一体何を映しているのだろう。

 長い沈黙。

 だが、その均衡にもやがて、変化が訪れた。


「……ぷっ……くくっ」


 柊が、プルプルと体を震わせる。

 なんだ、と困惑しつつもそれを見守る。


「……あはははっ、もう我慢できない!」


 突如、柊が笑い出した。目の奥には、微かに涙のようなものさえ見て取れる。

 見た目からは想像できないその姿に、俺はポカンと口を開けた。


「……は?」

「いいわ、私の家はここからすぐだから、そこで話しましょ」


 しれっと言うと、柊はさっさと公園の入り口を目指して歩いていく。

 その急激な変化に俺は全くついていけず、呆然とその姿を見送る。

一体なにが彼女の笑いを誘ったのか、さっぱり分からない。


「ほら! なにしてるの、さっさと行くわよ」

「……いや、でも」

「いいから早くっ!」


 有無を言わさない雰囲気。仕方なく、ついていく。

 公園を出て柊が歩いていくのは、俺がさっき彼女を見失った十字路からさらに先の方だった。

 会話をするでもなく、俺と柊は歩いていく。

 だが不思議と、気まずい空気ではなかった……と思う。


「ああ、そうだ。ちょっと怖い同居人がいるけど、あんまし気にしないで」


 顔だけをこちらに振り返り、柊は物騒な言葉をさらりと放った。


 ……怖い同居人? 親ではなくてか?


 そんな俺の混乱をよそに、柊はマンションへと入っていった。

 明るい緑色の外壁で、高層とはいかないまでも、なかなかの高さと大きさを有するマンションだ。


 エントランスに入り、管理人室の前とオートロック扉を通過して、エレベーターに乗り込む。


「……なぁ、怖い同居人って……」

「ふふっ、会ってからのお楽しみよ」


 恐る恐る口を開いてみるも、笑って濁される。

 ピンポーン、と音が鳴って、エレベーターが9階に到着した。


 長い廊下。次々と各室の扉の前を通過し、柊が立ち止まったのは、突き当りの部屋だった。

 扉横に備え付けられたインターホンに、柊が手を伸ばす。


 ……一体どんな相手が出てくることやら。

 無駄に緊張しながら、扉が開かれるのを待つ。

 そして、その時はやってきた。


「はぁい」


 その声が聞こえた瞬間、俺はぶっ、と吹き出してしまう。


 ちょっと待て。怖いってそういうことか。

 俺は恨めしさを視線に込めて、隣を見やる。そこでは、クスクスと柊が笑いを噛み殺していた。


 ゆっくりと、扉が開いていく。

 そこにいたのは――。


「あらぁ、ちゆちゃん。お帰りなさぁい」


 若干甲高くも、男性的特徴のある野太い声を発する――坊主刈りで、がたいのいい体格を持つ男性だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。