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あたしを正しくしたい義姉と、されたくないあたし  ~スパダリと結婚させたんだから放っておいて!~  作者: マンムート


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9/9

9 ここがあたしのパラダイス

最終話です。


 化け物が出て行っても、あたしはしばらく動けなかった。


 まだ髪には、ぬるっとした感触がこだまし。


 手の中には、不気味に光る大きな指輪がはりついてるみたいだった。



 入って来た保安官さんが、あたしの顔を見て、


「大丈夫か? 真っ青だぞ。アレになんかされたか!?」


 首をふって否定するのが精いっぱい。



 なにかされたわけじゃない。


 いや、アレはあたしに何かする必要があるとすら思っていなかった。


 自分の一部として帰ってくるかを、確かめただけ。


 だけど、アレは自分の正しさだけを信じているせいで、結局、あたしを見なかった。


 鏡を見て、確かめたつもりになって、帰って行った。



 アレは、待ち続けるだろう。あたしが帰ってくるのを、死ぬまで。


 だから、もう、ここには来ない。



「だいじょうぶ……」



 大丈夫に決まっている。


 あたしは会話をしただけ。


 なにをされたわけでもない。



 なのに。

 

 ちょっとふらっとした。


 きっとこれが悪酔いってやつだ。



 だめ、立てあたし!


 まっすぐ、自分の足で!



 なんとか立ったけど、脚が震えていた。



 保安官さんは、何か察してくれたのか、


「……アレは、あのまんま真っすぐ港まで護送して、そのまま船に放り込んでやる」


「……そりゃありがたいや」


「ついでに、上の方に、あの奴隷商人の奥方で共犯の可能性ありってことにして、二度と入国できないようにしてやる。礼はいらない」


「……国家権力をふりまわしていいの? 袖の下ももらってないのに」


「振り回したい気分なんだよ」


 保安官さんは、不器用なウィンクをした。


 似合ってねー。


「あんたみたいな腕のいい美容師がいなくなったら、カミさんが泣くからな」



 保安官さんと入れ違いに、スバルが、駆けこんで来てくれた。


 今のあたしの名前を呼んで、ぎゅっと抱きしめてくれた。


「こわかったんですね?」



 あたしは黙ってうなずいた。


 いつもなら、ぜんぜん、とか言うんだけど。


 今は、いいやって思った。



 それに、スバルが名前を呼んでくれた時。


 初めて、今の名前が、あたしの本当の名前になった気がしたんだ。



 同居してから飽きるほど嗅いで慣れてしまったスバルのにおいがする。


 彼女が相棒でよかった。



「貴族ってこわいですからね……あいつら、すぐ陰謀めぐらすし、陰険ですし」


「そういうスバルだって元貴族じゃん」



 相棒は、あたしから離れると、


 いつものように、偉そうに胸を張って腕組みして。



「元王族です! 貴族よりえらいんです! そのうえ世が世なら王様ですよ王様! あんな田舎の国の侯爵夫人なんか足元にも及ばない高貴な存在ですから!」


「銀の髪以外は、ぜんぜんそれっぽくないくせに……しかもあたしがいないとボサボサなくせに」


「あくまで元ですからね。わたしのことは例外だと思って見逃してくださいね。あれ?」


 スバルは、あたしが握ったままの指輪を見た。


「それは?」



 あたしは、あらためて握らされた指輪を見た。


 赤い輝石。親指くらいある巨大さ。



 それは血の赤に似ている。



「一族の証だって……」



 ああ、一族の血の色だ。


 からめとろうとしてくる。


 あの化け物は、キラキラした宮殿であたしを待ち続けるだろう。


 でも、この指輪が、いつかあたしをからめとって――



「ちょっと見せてください」



 あたしはスバルに指輪を渡した。


 受け取ってもらえた瞬間、心が軽くなった気がした。


「……ふむ。石は見事ですけど、ずいぶんと出来が悪い指輪ですねこれ」


「え、そうなの?」


「カットが甘いです。200年前くらいの技術ですね。わたし、これでも元王族ですから。宝石見慣れてたから判ります。なんせ元王族ですから!」



 元王族って二度言うなよ。


 そういうところが、ウソくさいんだよ!

 


「200年かぁ……伝統の指輪らしいから……」


「伝統ですか……」


 スバルは、少しだけさみしそうにつぶやいた。


「伝統っていうのは、単に古臭いだけだったりするものですから」



 あたしは指輪をもう一度見た。


 なぜか、単なる古ぼけた指輪にしか見えなくなっていた。 



 石は見事だけど、カットは古臭い指輪。



「……質屋で売ったら、どれくらいになるかな? できれば高く」



 そう口に出すと。


 指輪は単なる骨董品になっていた。



 いつもと同じように息ができる。



 考えてみれば。


 あたしはあのバカ父親の娘。


 つまり、あの化け物の一族の血は、一滴だって入ってない。



 最初から血に絡みつかれてないじゃん!



「それならカットしなおしてから宝石屋で売ったほうがいいと思いますよ」


「そうだ! スバルの名前で売ってくれない? 元王族でしょ」


 スバルは、ぽん、と手を叩いた。


「おお! なるほどです! わたしが売れば、滅びた王家の伝来の宝石ってことになりますね! なんか血なまぐさい因縁話もくっつけておきましょう! ああ、もちろん、売った代金は貴女に渡しますよ!」


「わざわざ言うところがねー」


「逃げ回ってるあいだに、金に汚くなりましたので。なんせ王族といっても、元王族なので」



 あたしたちは顔を見合わせて笑った。



「じゃ、そのお金で店のみんなにおごっちゃう! 余ったら、店の正面をもっと豪華に改装!」


「ああ、それいいですね! 有効利用って奴です!」 



 異母姉のくれた指輪を売り飛ばす。しかも、なるべく高く!


 しかも、パァっと使っちゃう!


 うん。それが、あたしらしいや。



「帰ったらさっそくデザインを考えましょう!」


「あ。そういうの任せる」


「なにを言うんですか! 貴方は共同経営者なんですから一緒に考えるんです!」


「ええっ。面倒! それにあたしには店を回す仕事があるし!」



 そう言ったら、なぜか、スバルは胸を張って、



「今日は休みにしました! 相棒のピンチでしたから!」


「ええっ!?」


「一日くらい休んでも店は潰れません! わたしの王国だって、父上も母上も兄上も無能どころか害悪でしたけど、革命で倒れるまで続きましたから!」


「だめじゃん!」



 くだらないいつもの会話。


 いつのまにか足取りも軽くなっていた。



 保安官事務所を出ると、店のみんなが待ってくれていた。


「先輩! どこにも行かないでください!」


「ここで店長がいなくなったら、お店つぶれちゃいます!」


「わたしがオーナーなんですけど……」


「ボスは目を離すと派手にお金使おうとするから!」


「この前だって、勝手にクルマ買おうとして……カタログに印までつけてたじゃないですか」


「うわ。それ言っちゃだめです! 不敬ですよ不敬! 世が世なら縛り首ですよ!」



 あたしは笑っていた。


 なんか、あの化け物のことはどうでもよくなっていた。



「心配かけてごめん! あたしがいる場所はここだから! これからも一緒!」



 あたしがいる場所はここ。


 あの人にとってはいつわりでも、ここがあたしのパラダイスだから。



たくさんある作品の中から、拾って読んでくださってありがとうございました。


誤字脱字、稚拙な文章ではございますがお読み頂けたこと幸いでございます。


少しでも心に残るものがあったり、何かを感じていただけたなら、


評価や感想をいただけるととても励みになります。



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― 新着の感想 ―
ホラー過ぎてゾクゾクが止まらないー けど、やめられない止まらない ハマる作品に出会えて…幸せです
スバル、おっとこまえ!(女子だけど) くわばらくわばらはらえたまいきよめたまえまもりたまいさきわいたまえ お酒まいときます
完結おめでとうございます 前作ではよくいるドアマットヒロインだと思っていた義姉が、今作だとホラーテイストなラスボスになって帰ってきた気持ちになりました 何を言っても糠に釘な義姉、こっわ……!! …
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