第49話 宇宙戦艦
「声優」と言うお仕事の存在を知らなかった女子高生が声優を目指して奮闘する、笑いあり涙ありの……いえ、ほとんど笑いだらけの楽しい青春ストーリーです。
声優の井上喜久子さんが実名で登場しますが、ご本人と所属事務所のアネモネさんには快く承諾をいただきました! ありがとうございます!!
第1話と第2話を井上さんに朗読していただきましたが、このたび第16話と17話も、朗読していただきました!
朗読を聞くには下のURLをコピペして飛んでください!
謎の対談も、聞いていただけると幸いです(笑)
https://x.gd/9kgir
更新情報はXで!「@dinagiga」「@seitsuku」
「それでね大和くん!」
麗華や結芽と同じテーブルに座った大和に向かって、メイド姿の凛がずっと前からの知り合いのように、馴れ馴れしい声音で話しかけた。
「麗華お姉ちゃんって、高校生なのにどうして一人暮らししてるのかな? かな?」
近くのテーブル席で会話の成り行きを見守っていた英樹が、姫奈にパッと顔を向ける。
「先輩、今の!」
「そうね。語尾の“かな”を繰り返す……竜宮レナの口癖ね」
「そう! 笑顔で言ってるのに、絶対にウソは許さないという恐怖の問いかけ! 『ひぐらしのなく頃に』の名ゼリフです!」
姫奈がひとつうなづいた。
「いびつに首をかしげながらの、かな? かな? は、夜の闇が迫りくる夕暮れに響くヒグラシの鳴き声“カナカナカナ”を思い起こさせて背筋が凍ったものだわ」
その時、凛と同様にクラシックメイド服姿の雫が、あわてて大和との間に割り込んだ。
「凛ちゃん! いきなり何聞いてるの!?」
「え? 雫も前から不思議だって言ってたじゃん」
麗華と大和の顔を交互に見てしまう雫。
「だって、きっと何かデリケートな理由がありそうだから、聞かないようにしようって、凛ちゃんもそう言ってたのに!」
結芽がボソリと言う。
「本人に聞きにくいから、宇宙戦艦に聞いた?」
「正解! だから、そのヤマトじゃないっちゅーの!」
雫が呆れたように肩をすくめた。
「それって、本人の前で聞いたら意味ないよぉ」
同時に麗華の顔を見つめる雫、凛、結芽。
クスッと笑顔になる麗華。
「皆さん、わたくしに気を使ってくれていたのですね。大した理由でもないので、大和さん、教えてさしあげても大丈夫ですよ」
「はい。でもその前に……ボクって、宇宙戦艦なんですか?」
不思議そうに首をかしげる大和が実に可愛い。
「あちゃー」
凛が右手のひらを自分の顔に当てる。
「アニメなんだけど、さすがに大和くんには古すぎたかぁ」
「それは聞き捨てなりません!」
それまで静かにことの成り行きを見守っていた姫奈が、すっくと立ち上がった。
「部長! 言ってやってください!」
「もちろんですとも! 確かに、初代のテレビアニメ『宇宙戦艦ヤマト』はすでに50周年を超えている名作です。ですが! 2012年にスタートしたリメイクシリーズ『宇宙戦艦ヤマト2199』は、その後も『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』、『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』、『ヤマトよ永遠に REBEL3199』と、現在も続いているのですっ!」
そこまで一気にまくし立てると、姫奈はハァハァと肩で息をしていた。
「よっ! 会津姫奈! アニ研部長の鏡!」
英樹がそうはやし立てる。
「なるほど」
大和が納得したようにうなづいた。
「宇宙戦艦ヤマトというアニメ作品は、皆さんをそんなに熱くさせる名作なんですね。そんなに素敵なものに例えてくださって、とても光栄です」
ニッコリと、大和の笑顔が眩しい。
凛が再び、麗華の背中をバシバシと叩く。
「やっぱり理想の弟じゃん! ねぇ大和くん、私の弟にならない?」
四人席に追加された学校用の椅子にちょこんと座る大和に、とんでもないことを言い出す凛。困ったように、麗華の顔を見上げる大和。
「どうしましょうね?」
優しい笑顔で首をかしげる麗華。だが大和は、凛の顔を真剣に見つめてきっぱりと言い切った。
「ごめんなさい。ボクは、お姉様の弟なのです!」
「うきゃー! やっぱり可愛い!」
そんな悲鳴を上げた凛だったが、その場にいた女性陣は皆同じ思いでうなづいていた。
その時、結芽がボソリと話題を元に戻す。
「それで、麗華が一人暮らししてるのはなぜ?」
そうだった。その話の最中だった。
このメンバーが集まると、いつもこうして話がどんどんズレていくよなぁ。まぁ、それが楽しいんだけど。
と英樹は、ニヤニヤしながら胸中でつぶやいた。
「それはですね」
「それは!?」
この場の全員が、大和に注目する。
「おばぁ様が、学校の近くにお部屋を借りてくださったからです」
一瞬の静寂に包まれる昭和レトロ喫茶。
「えーと大和くん? そういうことじゃなくて……」
そう凛が言いかけた時、結芽が大和を見つめて言った。
「おバカ様」
「結芽ちゃん!」
あわてて大和と結芽の間に割り込む雫。
「おばぁ様よ! おばぁ様! いくらなんでもそれは失礼だって!」
なぜか、相席中の放送部部長、正広に顔を向ける結芽。
「おい、桜田くん! おバカ様は僕だって言うのか!?」
結芽がお気に入りのいつもの表情で、ニヤリと笑った。
「それは聞き捨てならないな! 本当は声優になりたいのに、うっかり我が放送部に入ってしまった君こそ、おバカ様なんじゃないのか!?」
「部長! 言い過ぎですよ!」
放送部副部長の真希が、大あわてで正広をたしなめた。
だがその時、一連のやりとりをずっと傍観していた演劇部部長の青島香澄が、縦ロールの金髪を揺らしながら言い放つ。
「それを言うなら、本当は声優になりたいのに、うっかり我が演劇部に入ってしまった伊勢さんも、同類ではないかしら?」
今度は同じ演劇部の志幾ひなたが止める番だった。
「部長! ちょっと気になるから、声優部の様子を見に行こうって言ったの部長ですよ! いきなりライバル心メラメラさせてどうするんです!? 伝統ある演劇部の部長なんですから、落ち着いてください!」
ふっと息を抜く香澄。
「あら、私としたことが……この方がいると、ついこうなってしまうのよ」
そう言って正広に一瞥をくれる。
「それはこっちも同じだ!」
放送部と演劇部、創造祭では伝統のライバルなのである。
「それはそうと、この子は伊勢さんの弟くんなんですよね?」
「はい、わたくしの弟で、大和と言います」
大和の顔をじっと見つめる香澄。
「中学を卒業したら、この高校に入って、演劇部員になる気はない?」
「ええーっ!?」
凛を始め雫も、そして正広や真希も目を丸くした。
「あなたの可愛らしさは、演劇でスターになれる可能性を秘めています。ボク、どうかな?」
一斉に皆が大和を見つめる。
すると、ニコッと可愛い笑顔を見せる大和。
「ごめんなさい。ボク、お姉様のおかげで目指したい夢ができたんです」
「それって、演劇のスター以上の夢なの?」
「お姉様が、声優になるって夢を目指して頑張ってるから、ボクも決断できたって言うか」
照れるように頬を赤らめる。
今度は全員の目が麗華に向けられた。
「大和さん、その夢はお父様とお母様にはもう伝えたの?」
「いえ、お姉様にお話してからと思って」
ふふっと笑う麗華。
「ちゃんと聞きましたよ。伊勢の家は、あなたにお任せします」
「はい!」
優しい笑顔の麗華と、とびきり弾けるような笑顔の大和。
二人以外には、いったい何の話なのか、皆目見当もついていなかった。




