第30話 放送部の会議に潜入!?
「声優」と言うお仕事の存在を知らなかった女子高生が声優を目指して奮闘する、笑いあり涙ありの……いえ、ほとんど笑いだらけの楽しい青春ストーリーです。
声優の井上喜久子さんが実名で登場しますが、ご本人と所属事務所のアネモネさんには快く承諾をいただきました! ありがとうございます!!
第1話と第2話を井上さんに朗読していただきましたが、このたび第16話と17話も、朗読していただきました!
朗読を聞くには下のURLをコピペして飛んでください!
謎の対談も、聞いていただけると幸いです(笑)
https://x.gd/9kgir
更新情報はXで!「@dinagiga」「@seitsuku」
「現部長の安田くん、どう思いました? チーフとは、初対面でしたよね?」
そう言った男は二十代半ばほどで、薄いブルーの襟付きシャツにチノパンという、いかにも放送業界人らしい出で立ちをしていた。
コミュニティFM局“ラジオノむさしの”のディレクター、栗山智彦である。
「そうね……」
声をかけられた女性は、おそらく栗山よりひと回りほど年上だろう。
動きやすそうな少し大きめのブラウン系ワンピースで、茶色がかった縦長のショートがサラサラと風に揺れている。
彼女は栗山の上司、番組プロデューサーでありチーフディレクターの城島温子だ。
二人は今日、彼らの出身校でもあるここ、都立武蔵原高校に視察に来ていた。座っているのは、昼休みには生徒たちの憩いの場所になる中庭のベンチである。
「ちょっと気合入りすぎてるかもね」
「そうなんですよねぇ、肩の力を抜いたほうがいいぞって、その方が作品全体を見渡せるぞって、いつも言ってるんですけど、どうやら無理みたいで」
「でもね――」
城島が栗山に笑顔を向ける。
「高校生らしくていいんじゃない? 一所懸命さが出てて」
「そうなんですけど、彼も一応部長で、去年なんてJコンのアナウンス部門で優勝してるんですよ……もうちょっと大人になってくれたら、OBのボクとしても安心なんですが」
「私だって、放送部のOBよ」
「そうですけど」
城島は正面に顔を向けると、笑顔を深めた。
「ま、私から見れば、栗山くんも似たようなものだけどね」
「いやぁ、それを言われると、言いわけできませんです」
栗山は、バツが悪そうに苦笑しながら右手で頭をかく。
「それにしても、あんな流れになるなんて、思ってもみなかったわ」
城島の笑顔が、少し困ったような表情に変わる。
「そうですね。あれはボクも予想してませんでした」
アップバングで持ち上げられた彼の前髪を、秋のさわやかな風が揺らしていた。
「ちゅうもーくっ!」
放送室に、部長の安田正広の声が大きく響いた。
「今日は、我が部のOBのお二人が来てくださっている! みんな、正しい挨拶を!」
放送部の部員全員が、びしっと揃って頭を下げる。
「こんにちは!」
中庭で城島と栗山が困り顔になるほんの一時間前、二人は放送部を訪ねていた。
城島が皆を見回す。
「はい、こんにちは。でも、そんなに固くならなくていいからね」
その後を栗山が続ける。
「そうですよ。今日は取材に来たのではなく、取材のお願いと、みなさんに挨拶に来ただけですから。ほら、レコーダー回したりしてないでしょ?」
そう言って両手を上げた栗山を見て、部員たちはほっと安堵の息をもらした。
やはり相当に緊張していたようだ。
だが、緊張が少し緩んだのもつかの間、安田部長の背筋がピンと伸びる。
「こちらのお二人は、“ラジオノむさしの”のディレクターさんなのです!」
おおーっとどよめく生徒たち。
つい先日、この放送室に声優である井上喜久子がやって来たばかりだ。その余韻も冷めやらぬ今、今度はラジオ局からプロの音響スタッフが来たという。彼らが驚くのも無理はない。
城島が、生徒たちの緊張を少しでもほぐすように、優しい声で言う。
「取材に関しては、どんなことを聞きたいかのリストや台本をちゃんと渡すから、それを見ながら答えてくれればいいの。放送部なんだから、それなら簡単でしょ?」
再び生徒たちの顔に、安心の色が浮かんだ。
「それで――」
栗山が安田に話を向ける。
「この放課後はどんな活動をしていたんですか? そろそろ創造祭の準備に入っているとか?」
安田が自信ありげに大きくうなづいた。
「正解です! 今度の創造祭に向けて我が部は、短編のドキュメンタリー映画を製作しようと決まっているので、その詳細についての会議をしていました!」
「ドキュメンタリーですか! 放送部らしくていいですね!」
栗山が生徒たちに笑顔を向ける。
「はい!」
安田が増々笑顔になった。
「来年のJコン参加への練習にもなるので、今の二年生と一年生にはいい勉強になるのではないかと、愚考したわけであります!」
感心したらしく、城島もほほぅという表情になる。
「で、テーマは何なの? どんなものを取材する予定?」
だが、その問いに安田の顔が少し曇った。
「それが決まらなくて、今日の会議をしていたわけなんです……」
「それは大変ね。私たちのことはいいから、会議の続きをしてちょうだい。それを見せてもらうのも、取材の一部になるから」
「そうですね。安田くん、続けてください!」
栗山も興味津々のようだ。
「それじゃあ、今日の議題の続き! 我々は、何のドキュメンタリーを撮るべきか!?」
一人の女生徒がスッと手を上げた。
結芽である。
「桜田さん!?」
副部長の佐竹真希が大声を上げた。メガネをかけた生真面目そうな女子だが、実は去年Jコン東京大会の朗読部門で優勝、全国大会へ出場を果たした実力者でもある。
「あなたどうしてここにいるのよ!?」
安田も顔色を変えた。
「そうだ! 君はアニ研に! いいやもとい! アニ研内声優部に移ったんじゃないのか!?」
結芽が珍しく、右の口角だけを上げてニヤリとした表情を作る。
自然にそうなったわけではなく、頑張ってそうしているようだ。
真希がそれに突っ込む。
「いやいや、ニヤリとかしなくていいから! なぜここいるのよ!?」
「私、退部届まだ出してない」
真希を含め部員たち全員が安田に顔を向けた。
「部長?」
「うむ……確かに、受け取っていないな」
苦笑する安田。
「だから、私はまだ放送部員。会議に参加する」
だが、真希が首をかしげた。
「でも、すぐにアニ研に移るんでしょ?」
「うん」
「じゃあ、どうして会議に参加するのよ?」
再び、無理やりニヤリとする結芽。
今度は胸ポケットのぬいぐるみの顔も、両手でニヤリと歪めている。
「トカゲのニヤリはいいから、答えなさい!」
「スパイしに来た」
「スパイ?」
安田を含め、部員全員が首をかしげた。
「うん。私たちも、創造祭のステージに出ることにした。だから、敵情視察」
「声優部で出るのか?」
「うん。朗読する」
シーンと静かになる放送室。
最初に口を開いたのは真希だ。
「部長、どうします?」
うーんと、少し考えて今度は安田がニヤリと笑った。
「急ごしらえの声優部なんかに、たいした朗読ができるはずもない」
「確かに」
「スパイでも、敵情視察でも何でも好きにすればいい。さぁ、会議を続けるぞ!」
「はい!」
全員揃って返事をした放送部員たちに混じって、結芽は右腕を突き上げ、
「おおーっ」
と声を出していた。
ミッション・インポッシブル! と言うか、スパイ大作戦!(古っ!ww)
結芽による公然としたスパイ活動でした(笑)
「尚、君もしくは君の仲間が捕らえられ、或いは殺されても当局は一切関知しないからそのつもりで。成功を祈る」




