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皇族姫  作者: 春香秋灯
契約紋の皇族姫-蛮族に発現した皇族-
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笑えない悪戯

 皇帝の私室でお世話になることになったのだけど、何故か、皇族エウトも一緒だ。

「エウトは家族と過ごさないの? その、母親、とか」

 父親がどこの誰かわからない子、という話を思い出して、言葉を選んだ。

「母上は僕が五歳の頃に亡くなりました。それからは、僕の伯父である皇帝イーシャにお世話になっています」

「もしかして、エウトの母さんて、アタシの母さんの妹?」

「そうです。皇族の儀式を通過して残ったほうです」

「もう、そんな言い方しないの!! 母さんが生きてたら、良かった、というよ」

「………」

 良くなかったのかな? アタシはエウトの様子を伺う。いつもの作り笑いだ。

「さっさと、風呂をすませてこい!!」

 そして、何故か、もう独立したという皇族イズレンもいる。

「イズレンはもう大人だから、部屋を貰ったんでしょ。そっちに帰ればいいじゃない」

「貴様は、もっと警戒心を持て」

「どこに? 皇帝は母の兄だし、エウトなんて、子どもだよ。そうだ、エウト、今日は一緒に寝よう」

「………」

 笑顔を貼り付けたまま無言のエウト。

「そ、そうだよね。エウトの年頃で、姉の添い寝って、おかしいよね。でも、弟は添い寝をせがんでくるんだよね。甘やかしすぎだって言われるけど、夢見が悪くなる、て言われちゃうと、つい。アタシも、一人寝なんて、そんなにしたことがないし」

「はいはい、いいですよ」

「エウトって、いい子だね」

 ちょっと弱音吐いてやると、むちゃくちゃ不機嫌な顔でエウトは了承してくれる。

 アタシ用の服も用意されたので、アタシは外に出る。

「どこに行く?」

「水浴びしに、川に」

「………」

 おかしなこと言ってない。それが普通なのに。

 エウトとイズレンが顔を見合わせる。そして、深く溜息をつくと、エウトがアタシの手を引っ張る。

「お風呂ですよ、お風呂。一緒に入りましょう」

「洗ってあげる。アタシ、上手だよ」

「………」

 エウトに無言で背中を押されて、お風呂という場所に連れて行かれた。

 初お風呂は、驚かされた。





 皇族エウトは優しい。次の日には、捕虜となった幼馴染みキオンの所に連れて行ってくれた。

 エウト一人ではない。筆頭魔法使いアイシャールが部屋まで迎えに来てくれた。

「アイシャール、ありがとうございます。キオンはもう、起きていますか?」

 キオンの様子を少しでも知りたいアタシは、会う前から、アイシャールに質問攻めだ。アイシャール、あの綺麗な顔を喜びをこめた笑顔をアタシに向けてくれるから、ついつい、アタシもいいことがある感じになってしまう。

「まだです。羨ましいですね。あなたに心配される妖精憑きは、本当に幸福です」

「お、幼馴染み、だから」

 でも、結婚の申し込みされています。しかも、戦争が終わったら、初夜だって、キオン、言ってたな。

 どさくさで、結婚は承諾してしまっているし。キオン、忘れているといいな。

 口に出来ないことはいっぱいだ。そういうこと、話していい仲にはなっていない。アタシはまだ、アイシャールにも、皇族エウトにも、完全には心を開いていなかった。

 アイシャールは、立派な屋敷に入る。もしかすると、キオンはアタシみたいに、いい扱いされているのかな、なんて期待した。だけど、そこから地下へと続く隠し通路に案内された。やっぱり、捕虜って、こういう扱いだよね。

 長い階段を降りて、薄暗い地下に降り立った。アイシャールがちょっと視線を送るだけで、蝋燭に火が灯るも、とんでもなく奥まで続く通路は、先が見えない暗闇だ。

 アイシャールは少し先にある牢屋の前で止まる。一見すると、何もいない感じだったのに、アイシャールが立つだけで、鉄格子の奥の光景が変わる。

「キオン!!」

 キオンは、鉄格子の向こうで両手両足を拘束されて、壁に立たされていた。眠ることだって、満足に出来るような状態ではない。だいたい、あんな大怪我した後だ。いくら妖精憑きといえども、まだ、傷は完全に癒えていない。その状態で、キオンは意識を失っていた。

 アタシが鉄格子を揺らすと、簡単に開いた。鍵、かかってないんだ。そのまま中に入って、キオンの顔に触れる。温かい。

「枷だけで十分ではないですか!?」

「妖精憑きは頑丈です。これほど厳重にしても、力ある妖精憑きは、簡単に脱獄してしまうのです。この男は、少々、力がありますから、鎖で弱らせています」

「どういうこと?」

「その鎖も、妖精封じです。この地下牢全ては妖精封じが施されています。あなたの国にもありますよね、これと同じもの」

「っ!?」

 アタシが戦争に出る前、父と弟は地下牢にいれられた。そこは、妖精殺しの小国と、道具作りの小国の技術によって作られた、強力な妖精封じの地下牢だ。そこに入れられた妖精憑きは、あまり力のない人だと、発狂するという。

 そこと同じものがされているという。アタシはキオンを拘束する手枷に手をかける。すると、簡単に手枷は外れた。アタシはかまわず、もう片方の手枷を外してやると、意識のないキオンはアタシの上に倒れてくる。

 キオンは鍛えている。もう体だって成人並だ。呆気なくアタシは負けて、キオンの下敷きとなる。

 それも、アイシャールの魔法によって、簡単に解放される。

「魔法、使える、の?」

「わたくしほどの妖精憑きは、この程度の封じでは力を封じられませんよ。しかし、あなたは素晴らしい。まさか、ここまでとは」

「お願い、キオンの枷、もうやめて!! アタシはわからないけど、ここの妖精封じは、妖精憑きにとっては、苦痛でしかないのよ!!」

 そう、聞いている。実際、弟リウは苦しんでいた。

 泣いて訴えるも、アイシャールはやはり、為政者だ。キオンの拘束を戻してしまう。

「まだ、彼を解放する準備が出来ていません。もう少し、ここで大人しくしてもらいます」

「だったら、せめて、ベッドで寝かせてあげて。こんないっぱい、妖精封じをされるなんて、可哀想よ」

「いいでしょう。今すぐ、用意しましょう」

 アイシャールはアタシを牢屋の外に出した。それから、何か道具を取り出す。それを操作すると、普通のベッドが牢屋の中に出てきた。キオンを壁に拘束する鎖をベッドにつけられ、キオンはベッドで横にされた。それでも、キオンは意識を取り戻さない。

 アタシはベッドに横になったキオンの手を握る。

「キオン、戦争、終わったよ。起きて。約束したじゃない」

 キオンの手が握り返してきた。意識を取り戻したかも、と見てみるも、眠ったままだ。

「死ぬほどの傷です。回復には時間がかかります。無理に意識を取り戻させることは、回復を阻害することとなりますよ」

「そうなの?」

「一度死んだのです。そのことを軽く考えてはいけません。わたくしだって、死んだ者を生き返らせたのは、これが初めてでありません。ですが、ただの人は、生き返らせても、ただ、生きているだけの人でしかありませんでした」

「どういうこと?」

「ただ、横になって、目を開いて、呼吸しているだけです。廃人ですよ」

「もしかして、キオンは」

「ですが、妖精憑きは違います。とても頑丈なんです。生き返らせても、元に戻ります。それには、とても時間がかかります。魂は一度、神の御許に行きました。そこから戻ることは、並大抵のことではありません。ただの人は、一生を費やすでしょう。ですが、妖精憑きは妖精という繋がりが残っていますから、それなりの時間をかけて戻ってきます。それまでには、この体も完全に回復しているでしょう」

「それは、もしかして、教えに反したことをしたんじゃ」

 話を聞いていると、キオンを生き返らせたことは、間違ったことをしているような気がする。

「そこは、神の試練です。だから、生き返っても、魂が戻ってくるのには時間がかかります」

 納得のいく説明をされても、不安が残る。

 帝国は、神の教えに反することをしている。戦争を起こして、侵略して、小国をどんどんと飲み込んで、聖域を壊している。

「もういいだろう。戻ろう」

 皇族エウトは、いい加減、いらだっていた。それはそうだ。アタシに付き合わされているのだから、こんなトコにいるのもイヤだろう。

「ご、ごめん!!」

「捕虜にベッドなんて、贅沢だ。普通は地べただぞ」

「そうなんだ、知らなかった」

 そういえば、小国にある地下牢がどうなっているのか、アタシは知らない。そこは、妖精憑きが閉じ込められる場所だ。ただの人であるアタシは、そこがどうなっているのか、今更ながら、何も知らないことに気づかされた。

 牢から出ると、通路で不機嫌な顔をするエウトと対面だ。すっかり、アタシの前では取り繕うのをやめてくれた。それは、ちょっと嬉しい。

「へらへら笑って」

「だって、エウト、アタシの前では作らないんだもの。その顔でいいよ」

「バカか。ああいう顔は、時には武器になるんだよ。頭軽い女だな」

「あー、そうだね。アタシ、絶対に、ここでは一番バカだよ」

「ほら、行くぞ。皇帝陛下が昼食をご一緒したいそうだ」

「エウトも一緒?」

「一緒だ」

「イズレンも?」

「イズレンは忙しいんだぞ。あれでも、出来る皇族なんだから」

「でも、ごはんは家族そろって食べるほうが美味しいよ」

「………」

 無言でエウトはアタシの手を引っ張って歩く。エウトとアイシャールがいないと、アタシ、この地下からも出られないな。

 地下の薄暗さに馴れたせいで、明るい屋敷に出ると、ちょっと目が痛かった。アイシャールは、キオンの拘束とか、牢屋の鍵とか、きちんとしてから、地下から出てきた。

「アイシャールって、本当に綺麗ね。リウも負けないくらい綺麗だけど」

「お前の自慢の弟か。物凄く力の強い妖精憑きなんだってな」

「そうそう。頭だっていいんだから。でも、国王にはなれないの。血筋が良くないから」

「帝国でも、妖精憑きはよほどの理由がない限り、皇帝にはなれないな」

「アタシの国は、妖精憑きでないと、国王になれない。まあ、アタシの国は、妖精憑きの国だから」

 帝国と妖精憑きの小国は真逆だ。帝国は、アタシが知る神の教えの真逆で動いている。便利な道具を使い、妖精憑きを魔法使いと呼び、皇帝が支配している。

 妖精憑きの小国は、ほとんどが妖精憑きだ。妖精憑きは妖精を滅多に使わない。ただ、あるがままに神が与えた恵みを受け、そのままだ。

 屋敷を出ると、また、城に戻ることとなる。

「捕虜って、皆、あの地下牢にいるの?」

 生き残っている仲間のことが気になった。アタシ、薄情だな。キオンのことしか考えていなかった。

「ただの人は、城の牢獄ですよ」

「キオンは、妖精憑きだから?」

「あの屋敷は特別なんです。あの屋敷の支配はわたくしにあります。あの屋敷に入ることも、わたくしの許可なしでは出来ません。そして、出ることもです。あの妖精憑きが地下牢から出ることも、不可能ですよ」

「だったら、妖精封じなんてしなくても」

「一度、死んだんです。目覚めた時、何が起こるかわかりません。だから、わざわざ、わたくしの屋敷の地下にいれたのです。あそこであれば、暴走した力もある程度、抑え込めます」

「そうなんだ」

 アタシは無知だ。単純にキオンが生き返って喜んでいた。その先を考えていなかった。

 アイシャールは、生き返ったキオンのその後のことをよく考えて、ああしたのだ。拘束は、必要なんだ。

「あなたは知らなかったのです。仕方がありません。こういうこと、妖精憑きでしかわからない感覚ですからね」

 アタシがちょっと悲しい顔でもしたのだろう。アイシャールは慰めてくれる。本当に、アイシャールは優しいな。

「アイシャール、キオンのこと、お願いね」

「御意」

 嬉しそうに笑うアイシャール。う、女同士だけど、間違いが起きてしまいそう。

 ふと、アタシの手を引っ張るエウトを見る。エウトは時々、アタシの様子が心配なのか、ちらっと振り返ってくれる。たまたま、目があうと、アタシは笑うようにする。そうすると、エウトは不機嫌そうに前を向いている。でも、耳が真っ赤だ。可愛い。

 そのまま皇族の生活区に入る。城は広くて大きい。皇族の生活区に入る時は、また、門番がいるの。そこを通り抜けると、本とか抱えた子どもたちと対面だ。皆で勉強か。

 それを見て、気づいてしまう。エウト、本当なら、この子どもたちに混ざって勉強しなきゃいけないんだよね。

「エウト、ごめん、勉強の邪魔してた」

「僕はもう終わったんだよ。あんな奴らと一緒にするな」

 作り笑顔を貼り付けているが、小声でアタシに口悪くいう。うーわー、エウトって、裏表が激しい。

 皇族の子どもたちは、アタシから距離をとる。そりゃそうだ。何故か、アタシに痛いことした使用人が、アタシの目の前で消し炭になったのだ。そのことを思い出して、ちょっと身震いする。

 おかしい。アタシ、人が目の前で死んだというのに、平然としている。

 私の顔色が悪くなったことに気づいたエウトは、私を子どもたちから遠ざける方へと引っ張っていく。

「伯父上の食事会は、別に無理しなくていいんだぞ。そりゃ、伯父上は大喜びするだろうけどな」

「なら、行く!!」

 連れて行かれた先は、皇帝の執務室だ。そこで、皇帝イーシャは、これまた、偉そうな人と話しながらお仕事していた。

 中に入って、椅子に座って待つこととなった。気を利かせた使用人が、お茶をお菓子を持ってきてくれる。

 皇帝イーシャの仕事をしている姿は、かっこいい。こういう、机の上の仕事が出来るのだから、とても頭がいいのだろう。アタシとは大違いだ。

 アタシは使えない肉体労働だな。父は、ほら、妖精憑きだから、悪い何かから守っているという。弟リウは、きっと、頭がいいから、こういう仕事も出来るのだろう。

 イーシャは、父とリウを連れて来てくれるという。そうしたら、お願いしよう。リウのための勉強の環境を整えてもらおう。

 ふと、使用人が震えているように見える。アタシがお茶を飲むのを待っているんだ。はやく、出ていきたいんだね。アタシは、さっさとお茶を飲む。

「まずっ!!」

 吐き出してしまった。目の前にいるエウトは、ものすごい顔をしている。ごめん、アタシ、田舎育ちだから、礼儀とか、そういうの、出来ない。

「あ、ああ、あああああー-----!!!!」

 突然、使用人がとんでもない悲鳴をあげる。見てみれば、使用人が火に飲まれて、そのまま、消し炭になってしまった。

 アタシは、目の前で起きたことに、呆然となる。どうして?

「毒だ!!」

 叫んだのは皇帝イーシャだ。それを聞いて、皇族エウトはアタシからお茶とお菓子を遠ざけた。

「な、なんで?」

「リーシャ、大丈夫だ。君には、筆頭魔法使いの守護がきいている。毒を盛られても、君は死なない。皇族に毒を盛られた!! すぐに、追跡するように、アイシャールに伝えろ!!!」

「もうしています。皇族の悪戯です。皇族だからと、甘い顔をしていれば、つけあがりましたね。大変なことになっていますよ」

 筆頭魔法使いアイシャールは部屋に入ってきて、嫣然と微笑む。とても嬉しそうだ。

 対して、皇帝イーシャは怒りで顔を歪める。

「ナーシャの娘に毒を盛るなど、許さん!! 私自らが処刑する。案内しなさい」

「喜んで」

 イーシャはアイシャールを引き連れて、執務室を出ていく。

 残ったのは、アタシと、皇族エウト、そして、さっきまで皇帝とお話していた、偉い人だ。この偉い人、真っ青な顔をして、アタシから距離をとって、部屋を走るように出ていった。

「本当に、バカな奴らだな。リーシャに手を出せば、ただでは済まないってのに、バカなんだから」

「処刑って、死ぬの?」

「そうだ。お前に毒が盛られたんだ。伯父上が黙ってすますはずがない」

「止めないと!!」

「おい、どうやって行くのかわかるのか?」

 エウトに止められ、そう言われて、気づく。アタシ、エウトについていくだけで、これっぽちも道を覚えていない。

 エウトは深いため息をついて、アタシの手を握る。

「ゆっくり行こう。城中、大変なことになっている」

「う、うん」

 エウトに手を引かれ、アタシは大人しく進む。

 エウトのいう通りだ。城中、阿鼻叫喚だった。アタシが毒を盛られたということで、あちこち、何か起きている。そして、アタシを見て、恐怖に引きつらせる人たちはいっぱいだ。

 どうして、こうなったのか、わからない。だいたい、毒を盛られたといったって、アタシ、生きてるし。あのお茶は、物凄くまずかったけど。

 ただ歩いているだけで、悲鳴まであがってくる。アタシは何も悪くない。だいたい、どうして人が消し炭になるの? アタシは妖精憑きでもないのに。

 城から皇族の居住区に入ると、そこも大変なことになっていた。皇族数人が、数人の皇族を皇帝イーシャの前に突き出していた。突き出された皇族たちは、泣いている。

 泣いている皇族たちは、体の一部が、おかしい。変異しているのだ。

 アタシが来たことを知った皇族たち。泣いている皇族たちは、アタシに向かって手を伸ばす。アタシは恐怖で動けないでいると、皇族イズレンがアタシを引っ張って、その手から離してくれた。

「どういうことだ!? その女、ただの皇族だと聞いたぞ!!」

「そうよ、ただの、蛮族出の皇族だと」

「なのに、妖精の復讐を皇族が受けるなんて」

 口々に責めるように叫ぶ皇族たち。全て、アタシに向かってだ。

「し、知らない、そんなの。だいたい、妖精に復讐されるって、どんな悪事を働いたのよ!!」

 言ってやる。妖精に復讐されるのは、よほどの悪行だ。そうアタシは妖精憑きの小国で習った。

「しらばっくれないで。アンタ、皇族じゃないんでしょう。別の妖精憑きの守護を受けてるに違いないわ!!」

「それは、そうかも」

 言われて、気づく。アタシは妖精を視認出来ないからわからない。だけど、きっと、アタシには、妖精の守護がつけられている。

 弟リウだ。リウは、物凄く力のある妖精憑きだという。きっと、王都なんて遠い所でも、リウの妖精の守護は続いているのだろう。

 何気ない呟きだ。それを聞いて、皇族たちが怒りに震えて、アタシに向かってくる。

「もう、貴様は、ここから出ていけ」

「で、でも」

 怖くて、足が竦んでしまっている。もう、狩りをしているほうが、百倍ましよ!!

 人の身勝手な憎悪は恐ろしいものだ。その恐ろしさに、涙まで出る。

「アタシ、悪くない!! だいたい、毒を盛っておいて、アンタたち、おかしい!! 人の命をなんだと思っているのよ!? アタシは運よく生きてたけど、普通は死んじゃうんだよ!! 実際、そのせいで、お茶を運んだ使用人が死んだわ。それは、アンタたちが変なことして、巻き込まれたんじゃない!!! アタシを責める前に、人として間違ったことしたんだから、それなりの罰を受けるべきよ」

「素晴らしい、さすが、リーシャ様。そうです、リーシャ様こそ、正しいことです!!」

 どこに感動する要素があるのかわからないけど、アイシャールが笑顔で、手を叩いて同意してくれる。

 さらに、皇帝はアタシの前に立ち、妖精の復讐を受けた皇族たちを見下す。

「全くだ。貴様らは、人の命を玩具か何かと勘違いしているな。それが、その妖精の復讐だ。誰か、失格紋の焼き鏝を持ってこい。こいつら全員を皇族失格にし、城から追い出せ」

「そ、そんな」

「お慈悲を!」

「いう相手が間違っているだろう」

 皇帝に縋る皇族たち。だけど、皇帝は容赦ない。彼らの手を踏みつける。

「リーシャは見ないほうがいい」

 皇帝イーシャは、アタシの同席をこれ以上、許可しなかった。それからのことを見ることなく、アタシはエウトに引っ張られ、皇帝の私室に引っ込むこととなった。

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