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皇族姫  作者: 春香秋灯
契約紋の皇族姫-蛮族に発現した皇族-
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戦争の理由

 アタシに毒を盛るように命じた皇族たちがいなくなって、すっかり静かになった。もう、本当に酷い所だ、ここは。命を簡単に刈り取るようなことを遊びにようにするのだ。

 だけど、疑問が残る。アタシに攻撃を仕掛ける相手は、皆、消し炭だ。それは、城に来てからずっと。

 その疑問を晴らしたくて、アタシはアイシャールと話す機会を伺った。アタシの側には、常に皇族エウトがついている。朝も、昼も、夜も、ずっとだ。エウト、優しいから、夜の添い寝もしてくれる。朝にはいなくなっているけど。

 そうして過ごしていれば、いつかはアイシャールに会えるかな、と見ていた。外には出ない。アタシが外に行くと、また、人が死ぬかもしれない。

 やることがないので、エウトが本を持ってきてくれた。

「これ、もしかして、勉強?」

「読めるんだ」

「読めるよ!!」

「文字も読めないバカかと思ってた」

 容赦なくなってきたな、エウト。でも、仕方がない。アタシ、辺境のさらにど田舎から来たんだもん。勉強なんてしてなさそうだよね。

「勉強、嫌い」

「お前は皇族なんだから、これは絶対だよ」

「そんな、好きで皇族になったわけじゃない!!」

「皇族としての考え方だよ。わかった、僕から簡単に伝授しよう」

「お願いします」

「………」

 何かもの言いたげである。そうだよね、弟と同い年のエウトに学ぶなんて、おかしいよね。でも、この本、言い回しが悪いのよ。

「まず、皇族とは、妖精憑きを支配出来る一族のことだ」

「あれでしょ、契約紋で妖精憑きを縛って、命じることが出来るのが皇族」

「本来は違う。契約紋なんかなくても、妖精憑きは皇族には絶対服従だ。むしろ、奉仕までしようとする」

「そうなんだ」

 アイシャール、いつも、アタシのことを素晴らしい、とか、褒め称えているな。でも、あれは契約紋に縛られているからだよね。

「普段は、契約紋で使役する。だけど、真の皇族は、それを必要としない。僕たち皇族は、そういう真の皇族が生まれやすい一族なんだ」

「もしかして、皇帝イーシャは、真の皇族?」

「近いと言われている。そこは、妖精憑きの感覚だな。力の強すぎる妖精憑きほど、皇族への依存が強い。伯父上とアイシャールは、そういうのではないけどな」

「もしかして、恋人同士? となると、イズレンはアイシャールの子どもとか」

「平和だな。そんなわけないだろう。皇族の血筋は重要だから、血を薄めるようなことはしない。伯父上にはもう亡くなっているが、きちんと伴侶がいた」

「わかった。今は、イーシャとアイシャールは恋人同士なのね」

「皇帝の仕事は、筆頭魔法使いのご機嫌取りだ。そういうことだ」

「?」

 よくわからない。恋人同士でいいのに、エウトはそうでないという。

 ここに来て、それほど時間が経っているわけではないので、人間関係はよくわからない。

 横道にそれてしまったので、エウトは軌道修正してくれる。

「皇族というのは、皇族の儀式を通った者のことをいう。それまでは、皇族ではないが、血筋はしっかりとしているから、皇族扱いだ」

「あの、筆頭魔法使いに命じるやつね」

 最後、靴を舐めろ、なんて命令を強要されたな。

「そう。だけど、両親が皇族でも、子が皇族になるとは限らない。昔は、皇族の儀式は五歳で行うこととなっていた。だけど、皇族ナーシャのことがあって、皇族の血の発現は、個人差があるのではないか、と疑問視された。そこで、試験的に、皇族の儀式を赤ん坊から十五歳の子どもまで経過観測したんだ。そこではっきりしたのは、十歳を境目にして、皇族の血の発現が確実となった。それからは、十歳過ぎてから、皇族の儀式を行うこととなった」

「そうか。それは、良かったことだね」

 母は不幸だった。だけど、母のお陰で、遅く皇族の血が発現してしまった子どもたちは、皇族として残れるようになったのだ。未来が良ければ、それでいい。

「ここで、皇族の仕事だ。皇族の仕事は、皇帝と同じだ。政だな。皇帝は、基本、城から出ない。城を出なければならない視察のような仕事は、皇族が行うこととなっている」

「それ、アタシ、やりたい!!」

「戦争にも出ることになるぞ」

「………どうして、エウトは戦争に出たの?」

 エウトは、本当は、子どもだから、勉強しているはずだ。立派な皇族になるために、授業を受けているのが、普通だ。

 なのに、エウトは前線に出て、指揮をとっていた。あの挙兵の中で、子どもはエウト一人だけ。皇族も、きっと、エウト一人だけだろう。

 皇族の教育を受けていないから、そこが疑問になる。

「先の話だけど、皇族ってのは、戦場に出ることも大事なんだ。帝国は、弱肉強食だ。強者こそ正義だ。戦場に立てない皇帝は認められない。だから、皇帝になりたい皇族は、戦場に出るんだ」

「エウトは、皇帝になりたい?」

「今回の挙兵は、別の意味合いがある。ここからは、皇族云々、関係ない話だ」

 話が長くなるのだろう。エウトがお茶をいれてくれる。

 目の前に出されるお茶。飲んでいいのかな? なんて見てしまう。もう、毒を盛られたから、警戒してしまう。

「僕は毒を盛らない。そんなことしなくても、こんなに近くにいるんだ。短剣一本で、簡単に殺せる」

「いただきます!!」

 ものすごく失礼なことを考えてしまった。エウトがアタシに毒を盛るはずがない。

 ちょっと、甘味のあるお茶だ。さりげなく、アタシの好みにあわせてくれた。エウト、本当にいい子だ。ついつい、エウトを抱きしめてしまう。

「ちょ、お前」

「こういうこと、大事なんだって。小さい頃から、いっぱいするといいんだよ。弟が側にいないから、代わりになってよ」

「仕方ないな」

 調子に乗って、エウトを膝に座らせる。エウト、顔を真っ赤にして、抵抗もしないよ。可愛いな。

「どうして、帝国は挙兵なんかしたの?」

「ナーシャを探すためだ。ナーシャはたぶん、真の皇族だったんだろう、とアイシャールが言っていた」

「あー、妖精憑きを支配出来る皇族ね。でも、母さん、普通だったよ。父さんとはベタベタだったけどね」

「そりゃそうだろう。真の皇族なら、妖精憑きは皆、くっついて離れなくなる。真の皇族がそれを心の底から望むなら、妖精憑きはずっとくっついてる」

「………それは、感動も半減しちゃう」

 父と母の結婚は、実は母の血筋のお陰、なんて言われたら、アタシは嬉しくない。愛し合って、夫婦になっていてほしい。

「僕は見たことがないから、なんとも言えない。ともかく、アイシャールの訴えから、ナーシャを探すこととなった。魔法使い総出で、帝国の使者も立てて、各地の小国を探したんだ。だけど、見つからない。そうなると、最果ての小国に絞られる。人が踏み入れないような小国もいくつかあったし、あそこは、妖精の安息地が近いから、魔法使いでも手が出せないんだ」

「妖精の安息地?」

「人が踏み入れられない妖精が支配する地のことだ。そこは、絶対に人は、例え妖精憑きでも手を出すことは許されない。だけど、その事をしるのは帝国でも一部だ。そこら辺の小国は知らず、妖精の安息地を支配にいれていると、こっちではお手上げとなる。仕方なく、挙兵だ」

「母さん一人のために!?」

「真の皇族は、帝国の念願だ。絶対、手に入れたい存在だ。それに、そういう時期となった、と皇帝イーシャが判断した。そこから、挙兵だが、きちんと話し合いをして、帝国に取り入れたりしたんだ」

「海と山、中央は、軍門に下ったんだよね」

 そこは、情報として知っていた。そこが帝国側についたので、最果ては全ての小国が手をあわせて挙兵することとなったのだ。

「一応、言っておくが、帝国は、話し合いの場を一度は設けている。それなのに、辺境の小国たちは、話し合いを拒否したんだ」

「そうなの!? 聞いてない」

「国王だけで決めたんだろう。小国の国民に話すようなことではないからな。帝国なんて、戦争の理由を帝国民にバカ正直に話したら、とんでもない反発くらったから、今回、義体を出したわけだ」

「あの、死なない人形ね」

 気持ち悪いものを思い出した。本当に酷い光景だった。

「今回の戦争は、いわば、筆頭魔法使いアイシャールの我儘だ。だから、義体を使って、戦わせたんだ。帝国最強の妖精憑きアイシャールには、あんなちんけな罠はお見通しだ。戦力も簡単に見破るから、義体で蹂躙する方法に出たんだ。そこで、散々、蹂躙して、戦意喪失している小国たちに交渉する予定だった。ところが、お前がいた」

「アタシ?」

 そう、アタシを捕虜にして、帝国軍は戦争をやめたのだ。

「アイシャールは、お前からは、ナーシャの血筋を強く感じる、と言ったんだ。お前を連れて帰って、情報を吐かせようとしたら、皇族だし、ナーシャの娘だし、予定は狂ってばかりだ」

「ねえ、それで、どうして、あなたが戦争に出たの? そこの説明が抜けてる」

 戦争の理由はわかった。だけど、戦争に出る皇族に、エウトが出る必要なんてない。皇族、いっぱいでしょう。毒殺騒ぎで見たけど、いっぱい大人の皇族はいた。

「簡単だ。死んでよくて、でも、それなりに仕事が出来る皇族が、僕しかいなかった」

「酷い!! イーシャ、酷い!!」

「いやいや、伯父上は大反対だったよ。城から出して、ナーシャの二の舞になったら、なんて提案した皇族どもを殴ったんだから」

 うわ、すごいことになってたんだ。疑ってごめん、イーシャ。

「この戦争には、伯父上の息子であるイズレンが立候補してたんだ。イズレンは、皇帝になりたいんだ。ここで、箔付けしたかったんだろう」

「だったら、イズレンが出兵すれば良かったのに」

「アイシャールがそれを許可しなかった」

「どうして!?」

「イズレンには、もっと大きな戦場を用意する、と言ったんだ。もうそろそろ、帝国は大きな戦争があるんだろう。今回の出兵は、いわば、妖精憑きアイシャールの独断場だ。これでは、イズレンの箔付けにはならない。むしろ、悪評になる、とアイシャールは反対した。そして、多数決で、僕に決まったわけだ」

「皇族の大人たち、酷い!! アタシが代わってあげたかった!!!」

 後ろから抱きしめてあげる。こんな小さくて、まだ子どもの柔らかさを残したエウトを戦争に出すなんて、皇族、最低だ。

「もう、離せ!! ともかく、そういうことで、僕は戦場に出たわけだ。生きて帰っても、アイシャールのお陰、死んでも良かったね、と言われる程度だ」

「ごめん、アタシ、エウトを人質にしたね」

 戦争だけど、アタシは、一番弱いエウトを人質にした。ちょっと怪我させて、武器を手放してしまったけど、でも、経過は最低だ。

 エウトはアタシの胸に背中を預けてきた。

「出来ないって、知ってた。見るからに、頭はお花畑だもんな」

「酷い!! 死んだ獣だって捌けるんだから」

「人と獣は違う。しかも、死んだ獣と生きた人は大違いだ」

「でも、エウト、あの場では、皆がエウトを助けようとしてたよ。動くな、と言ったら、皆、動かなかったんだから。エウトは、あの戦場では、いい皇族と見られてたんだよ」

 エウトを人質にすると、誰も抵抗しなかった。皆、エウトをどうにか助けようと、アタシの油断を伺っていたのだ。

 何も言わないけど、エウト、耳が真っ赤だ。可愛いな。

 エウトはとうとう、アタシの膝から降りてしまう。不機嫌な顔をして、アタシの向かいに座った。机が邪魔で、エウトを抱きしめたり出来ない。

「皇族の話は、また明日にしよう。もうそろそろ、伯父上が戻ってくる」

「今日は、アイシャール、来るかな?」

「アイシャールに会いたいなら、言えばいいだろう。アイシャールなら、喜んで会いに来るぞ」

「でも、アイシャール、忙しいでしょ。帝国って、皆、何かしら、忙しく動いているから」

「お前の国は、どうなんだ?」

「そこは、あるがまま、のんびりとだよ」

「………」

 そこは笑うしかない。こんな人が忙しなく動くような国じゃないよ。何せ、辺境のさらにど田舎なんだから。戦争がなければ、一生、アタシは妖精憑きの小国で使えない人で足手まといだったな。

「ただいま」

「おかえり!!」

 アタシはイーシャに抱きつく。いつも、仕事から帰ってきた父にしていたことだ。同じことをイーシャにしてるだけ。

 イーシャはアタシを軽く抱きしめると、額に軽く口づけする。そこも、父と同じで嬉しい。はやく、父と弟に会いたい。

「お元気そうですね、リーシャ様」

「アイシャール!!」

 今日はアイシャールも一緒だ。アイシャールにも抱きつこうとして、思いとどまる。アイシャール、両手を広げて待っているけど、これをしていいかどうか、迷うところだ。

「あら、わたしくにはないのですか?」

「行きます!!」

 アイシャールと抱き合っちゃう。女同士でこれは、間違い起きても仕方ないなー。

「アイシャールに聞きたいことがあったの。アタシに付いてる妖精について、教えてください」

 途端、アイシャールの表情は暗くなる。大変なこと、聞いてしまったようだ。

「そのことも含めて、今日はイーシャ様に相談がありました。ちょうどよかったので、お話しましょう」

 アタシ、イーシャ、エウト、そしてアイシャールがそれぞれ座って向かい合う。

「まず、リーシャ様につけられている妖精ですが、わたくしのものだけではありません。しかも、つけた妖精憑きは一人二人ではありませんよ」

「リウだけじゃないの!?」

「目に見えないことですから、リーシャ様はわかりませんよね。リーシャ様がいた妖精憑きの小国では、妖精憑きが普通に生まれるのですよね。リーシャ様、男性におもてだったんですよ」

「………え? どういうこと?」

「求婚等、されたことはありませんか?」

「結婚の話は、父さんを通してあったけど、皆、話だけで終わったかな」

「これだけの妖精憑きが牽制しあっているんです。消えますでしょうね」

「すぐに追い払え!! 可愛い姪に妖精をつけるなんて、とんでもない男どもだ!!!」

 怒り狂う皇帝イーシャ。

「そんな、怒ることなんてないのに。ただ、アタシを守ろうとしてただけでしょう」

「バカだな。妖精の記憶を見れば、お前の私生活が妖精憑きに筒抜けだ」

「………」

 エウトに言われて、初めて、事の重大さに気づいた。やだ、なんだか、鳥肌がたってきた。もう、人に見られて恥ずかしいこと、きっと、いっぱいした。裸にもなったよね。それも見られちゃうの!!

 アタシは縋るようにアイシャールを見た。アイシャールは笑顔で頷く。

「妖精の記憶もいじってあげましたよ。心配ありません」

「アイシャールー---!!!」

 アタシはアイシャールに泣きついた。もう、アイシャール様様だ。

「ですが、やっかいなのがいますよ。その相談のために、来ました」

「全部剥がしたんじゃないの!?」

「わたくしよりも格上の者がいます。その妖精が、あなたを痛い目にあわせたり、毒を盛ったりした者全てを消し炭にしたんです」

「アイシャールの妖精じゃない?」

「わたくしの妖精には、妖精の復讐を命じています。それに、ちょっと腕をつかんで痛い目にあわせた程度では、発動しません。大きな怪我をさせられそうになった時くらいですよ、妖精の復讐が発動するのは」

「そうなんだ」

「生け捕りにしないと、証言が得られませんから。証言をとった後は、消し炭です」

「………」

 良くなかった。結局、消し炭にされちゃうんだね。しかも、関係者全てをどうにかしようなんて、アイシャールを敵に回してはいけない。

 しかし、アタシにつけられた妖精がアイシャールでも手におえないなんて。その妖精をつけたのは、間違いなく、弟リウだ。

 リウは、アタシに結婚を申し込んだ幼馴染みキオンを妖精を使って傷つけた。あの時、アタシは気づくべきだった。リウは、アタシのためなら、人だって殺せるんだ。

「あの、アタシ、やっぱり、家に帰れない? リウの所に行かなきゃいけない」

 このまま離れ続けることは、危険な気がした。リウの側に行かないと、大変なことになる。

 妖精憑きの小国では、人殺しは大罪だ。厳しく教えられる。だけど、リウはアタシにつけた妖精に人殺しをさせた。これからもっと、大変なことになる。

「ナーシャのもう一人の子どもならば、必ず、ここに連れて来る。まかせなさい」

「アタシについている妖精は、きっと、リウのものです。アイシャールですら手がつけられない妖精を持つリウをどうやって連れて来るのですか?」

「そこは、秘密だ。今、辺境の小国と再交渉中だ。時間はかかるが、君が暮らしていた小国も、帝国領となるだろう」

「そんな、時間をかけてまでやることでは」

「こういうことは、順序が大事だ。弟はいくつだ?」

「エウトと変わりません」

「そんな子ども、老獪な大人が出ると、すぐに篭絡されてしまうぞ。力だけぶつけても、アイシャールには敵わない。アイシャールは」

「イーシャ様」

 ものすごい怖い声でイーシャの名を口にするアイシャール。途端、イーシャは口を閉ざした。アイシャールに対して、言ってはいけないことを言いそうになったんだ。

 見てみると、アイシャール、笑っているけど、まとう空気が怖い。イーシャ、何を言おうとしたのか、とても気になるけど、アタシは黙っていることにした。

「でも、良かったではないですか。これで、リーシャ様に不埒なことをする者は、この城からいなくなりましたよ」

「確かに」

「静かになったな」

 とんでもない力によって、アタシの平和は守られた。

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