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皇族姫  作者: 春香秋灯
教皇長の皇族姫-波乱万丈な食事会-
68/353

二度目の皇位簒奪

 一回目の食事会は無理矢理、終わらせましたが、それで、問題解決したわけではありません。

 食事会会場であった、あの広い部屋に、皇族の使用人全てが集められました。ただ、集められたわけではありません。騎士によって、拘束されてです。

 騎士の一人が、使用人が全てそろっているかどうか、確認しています。随分な人数です。使用人というと、様々ですが、まさか、乳母まで集められるとは。

「さて、今回の食事会では、随分なことをしてくれたな」

「お許しください!! 我々は、ただ、皇族に従っただけです!!!」

「誰に従った? 俺は皇帝代理であることは、辺境の貴族すら知っている事実だ。もう、知らなかった、では済まされないことだ」

「その、次代の女帝の判断だと言われてしまえば、我々は従うしかありません!!!」

「次代の女帝といえども、今は、一皇族でしかない。しっかりとした教育を受けたはずなのに、そういうことがわからないとはな。こいつは、処刑だ」

「そんなっ!?」

 まさか、処刑されると思っていなかったのでしょう。今回の食事会の責任者は、真っ青になる。

「お前たちは、きちんと教育をされた者たちだ。そうでなければ、皇族の使用人になれるわけがないだろう。ただの平民でも、ただの孤児でもない。それなりの教育だ。試験だって行った。不正なんて出来ないように、妖精の審査までされている。そこまでしているのに、これだ。人のやることは、穴がある。完璧ではない。失敗したのなら、命で償うしかない。そういうものだ」

 うわっ、失敗したら処刑なんて、とんでもない職場ですね!! わたくしなんて、シスター見習いで、かなり失敗しましたが、軽い注意で終わりましたよ。

「それは、ちょっと、気の毒ですよ。命かけないといけない職場なんて、詐欺ではないですか」

「そういう契約だ」

「………」

 そうかー、それは仕方がない。契約と言われてしまうと、わたくしはもう、何も言えなくなります。縋るように見てくる使用人たちには悪いですが、シスター見習いからずっと、この契約の重要性を教え込まれていますので、逆らえません。

 皇族の使用人に採用されるということは、様々な契約を結ぶこととなります。その代わりに、恩恵を得られているはずです。そういう契約なのでしょう。

 さて、責任者が処刑と決まりました。騎士が二人やってきて、食事会の責任者をおさえこみます。

 なんと、その場で処刑しました。

 まさか、食事会会場で、処刑が始まるなんて、誰も思ってもいませんでした。わたくしだって、きっと、そういう場所で、なんて他人事に見ていました。

「あの、汚れ、とか」

「ハズスが綺麗にしてくれる。ハズスの魔法は万能だ。血の汚れなんぞ、悪臭ごと取り除いてくれるぞ」

「お任せください、新品同然にしてみせます」

 口元に笑みを浮かべていうハズス。そういう問題ではない。こんな、見せしめとはっきりわかる所での処刑をやめてほしいだけだ。せめて、わたくしの見えないところでしてほしい。

「さて、次は、食事会の準備に関わった者すべてを前へ。言い訳を聞いてやる」

 暴れて、叫び、と阿鼻叫喚です。だって、言い訳をしたって、カイサルは処刑するつもりなのだ。何言ったって、結果は変わらないので、抵抗します。

「そんな、重い処分はやめてあげましょう。その、鞭打ちとか、そういうものでいいではないですか」

「こいつらが処刑されると、生家とかには、かなりいい額の見舞い金が支払われる契約となっている。誰も文句は言わない」

「お金を払う払わないの問題ではありません。命は大事だと、教会で語っていたではないですか!!」

「俺は皇帝になるべく育てられている。教会の説教なんぞ、ただ、説教の本を読み上げているだけだ。だいたい、処刑が表沙汰となった時、生家は大変なんだぞ。生家としては、皇族の使用人となった身内として、それなりの恩恵を受けている。それも、問題を起こして処刑されたなんて知られれば、生家のほうが大変だ。それを秘密裡にしてやっているんだから、感謝するしかない」

「処刑ではなく、皇族の使用人でなくせばいいではありませんか」

「妖精の契約は絶対ではない。これほどの不祥事を起こしたんだ。皇族の不祥事を表沙汰にされるわけにはいかない。だから、今、すぐ、なかったことにするんだ」

 皇族の権威のために、ただ、皇族に従っただけの使用人たちは処分されるのだ。その事実に、わたくしは怒りを感じる。だって、わたくしは元は底辺だ。

「それでは、これを命じた皇族たちは、無罪のままですか!?」

 罪を全て使用人たちに押し付け、命令した皇族たちは何もないというのだ。

「リサを罰すればいいのか?」

「リサだけではありません。リサを狂わせるきっかけを作ったリズもです。きっと、シズムだって、何かやっています。他にも、そういう皇族はいるでしょう!!」

「こういうのは、時間をかけてはいけないんだ。早ければ早いほうがいい」

 カイサルが手をあげると、食事会の準備の関係者すべてが騎士の手によって処刑される。

 あまりの光景に、関係がない使用人たちは、真っ青である。吐く者だっている。悪臭がすごすぎて、わたくしだって、吐きそうだ。吐かないのは、底辺としての経験だ。孤児院でも、シスター見習いでも、シスターでも、こういう悪臭に関わることが多かった。教皇長の側仕えだけど、教皇長はただ立っているわけではない。色々な場所に足を運ぶのだ。そこには、側仕えは必ずついていく。だって、カイサルの両腕は義体の両腕だ。魔法が解けてしまうと、動かなくなる。そうなった場合のための、側仕えだ。

 気の毒でならない。だけど、皇族教育はそうではない。使用人、というか、帝国民全ては手足なのです。命令をきけない者は、排除するほうがいい。だって、帝国は広すぎて、人がたくさんいます。完全な支配が不可能だから、貧民なんて制御できない帝国民を生み出しています。それほど人が多いのです。命の価値は、低い。平等なんて嘘っぱちです。

 わたくしは、目を背けることなく、その光景を見ます。気の毒だけど、どうしようもない。運が悪かったのだ。それが、底辺として生きてきたわたくしの考え方です。

 一通りの粛清は終わりました。でも、まだ、使用人たちは残っています。何故、全ての使用人を拘束しているのか?

「残った使用人どもは、牢へ連れて行け」

「そんなっ!!」

「何故!?」

 今回のことに、全くといっていいほど関係のない使用人たち。中には、皇族の乳母もいます。現在進行形で子育てに携わっています。そんな人たちまで、牢屋に入れられるというのです。

 理由など、教えられません。生き残った使用人たちは、騎士によって、牢屋へと運ばれます。大変な抵抗をするので、強制的に黙らせるため、暴力だって受けています。カイサルとハズスが何も言わないということは、騎士たちは、暴力も許可されているということです。

 そうして、静かになった部屋に残るのは、わたくしとカイサルとハズス、あと、処刑された使用人の遺体。

 凄惨な光景が目の前に広がっています。悪臭だって酷いものです。それを普通に見下ろすカイサル。

「勉強になったか?」

「何の?」

「女帝になるんだ。これは、リオネットの勉強だ」

「………」

 わざわざ、わたくしの前で処刑したり、処分を決めたりしたのは、将来のためだといいます。

「辛いなら、私に頼りなさい。私が全て、処理してやろう」

 優しい声でささやくハズス。

「お前は甘いな。俺には、あんなに容赦なく教育したってのにな」

「皇帝とは、そういうものです。リオネットは、私の愛する女性です。心の平穏を守ってあげたいというのは、当然ではありませんか」

「えー、これっぽっちも理解できん。俺からは家族の情を奪っておいて、お前は女に溺れるのか」

「長く生きているので、狂って、そういうことが起きただけですよ。世の中は、人ごときの想像の斜め上のことが起きます。まさか、今更、私が恋なんてするとは。これは、神と妖精が、私に与えただけにすぎない」

「………」

 わたくしを後ろから抱きしめるハズス。目隠ししているから、感情なんて読めない。だけど、声はとても熱がこもっている。

「次は、皇族だな。思いあがりの皇族は、次は何をしてくれるかな?」

「処刑ですか?」

「そんなことはしない。皇族は皇族での、別のやり方がある」

 皇帝として、一体、次は何をやるのやら。皇族教育だけではわからない何かをカイサルはやろうとしている。

 わたくしはただ、黙って見ているしかない。だって、わたくしは偽物の皇族です。迂闊に動けば、簡単に殺されてしまいます。

 頼るのは、背中から抱きしめてくる筆頭魔法使いハズスのみです。このハズスだって、皇族に命じられれば、わたくしを殺せてしまいますが、わかっているのでしょうか。





 使用人全てを失った皇族側は大変です。子育て中の乳母まで奪われたのです。早速、苦情がきます。

「筆頭魔法使いの屋敷にいる使用人を呼び寄せた。十分、教育された者たちだ。乳母の仕事も出来る者もいる」

 筆頭魔法使いの屋敷にいる使用人は、皇帝に絶対服従です。以前は、皇帝だったシズムに従っていた。でも、シズムがただの皇族となった今、次の皇帝に従うのが、筆頭魔法使いの屋敷に所属する使用人たちです。その切り替えの素晴らしさを目の当たりにしました。

 教育だけではないでしょう。筆頭魔法使いの屋敷の管理は重要です。何せ、帝国の命運を左右させる筆頭魔法使いが生活する場なのです。筆頭魔法使いの機微は大事なので、全て、皇帝に報告されます。その報告を元に、皇帝は筆頭魔法使いのご機嫌をとるわけです。

 しかも、今の筆頭魔法使いは千年に一人誕生するという化け物です。顔色、伺いまくらなければ、大変なこととなります。

 だから、皇族の使用人の代わりとしてやってきた彼らは、もう、皇帝代理カイサルと、筆頭魔法使いハズスの顔色を伺いまくりです。

「陛下、このようなことが」

 そして、密告しまくりです。どんどんと、皇族のやらかしを使用人たちは報告していきます。皇族たちは、これまでの使用人たちと同じように接しています。知らないのです。筆頭魔法使いの屋敷に所属する使用人たちの忠誠心の高さを。

「ハズス様、皇帝の私室の使用人はどうしましょうか?」

「必要ない。私が朝も昼も夜も、ずっとついている。触れるな」

 わたくしの側で、わたくしだけを見つめたままいうハズス。使用人に顔だけでも向けてあげればいいのに、一瞥すらしない。

 慣れているのか、使用人たちは気にしない。ハズスの言質をとったので、さっさと出ていく。こうして、皇帝の私室は、ハズスによって支配されました。もう、やりたい放題でしょうね。

 ハズスは皇帝代理カイサルも、使用人たちもいなくなると、わたくしの前に跪き、わたくしの手を握ります。

「これで、夜も一緒です。暗殺者なんて、消し炭にしてやります」

「生け捕りにしないのですね」

「リオネットの命を狙う命令に従う暗殺者など、生きている価値はない。骨も残すものか。姿すら、見せてなるものか」

「だったら、例の部屋に閉じ込めればいいではないですか」

「自由なリオネットがいい。心を病んでいるリオネットもいい」

「皇族は、何も咎められないのですね」

 使用人たちはあっという間に処刑や粛清されたのに、命じた皇族たちには、今のところ、何もされていない。

「食事会関係の仕切りは、私に代わった。リサは、責任をとって幽閉となった」

「幽閉するような場所があるのですか?」

「あるぞ。例の部屋のような魔法を施された地下牢がな。筆頭魔法使いの屋敷にある部屋は、生かしながら、出る意思をなくさせる。しかし、皇族専用の地下牢は、出る意思をなくさせ、生かさない」

「どういうことですか?」

「なにもされない、ということだ。囚人には、食事の権利がある。しかし、皇族専用の地下牢には、何もしない。面会もさせない。ただ、飢え死にするのを待つのみだ」

「筆頭魔法使いの加護は、地下牢の魔法も防ぐのではないのですか!?」

「あれは、神の仕切りだ。たかが妖精憑きに、神の名のもとに施された魔法は勝てない」

 結局、責任をとって、リサは死ぬのだ。

 ひと思いに処刑されるほうがいいのか、じわじわと疑問を持たずに飢え死にするのがいいのか、わからない。

 夫婦の問題は綺麗に解決していると思っていた。だけど、カイサルは容赦がない。わたくしがやったことは、無駄だった。

 教皇長の時には、カイサルは優しい面ばかり見せてくれた。後ろ暗いことなんて、何一つ、していなかった。だけど、今ならわかる。わたくしは四六時中、カイサルについているわけではなかった。就寝時は、わたくしは必要ない、と部屋を追い出されていた。カイサルはハズスと二人っきりだ。その時に、色々とやっていたのだろう。教会だって、清廉潔白な場でないことは、わたくしだって知っている。横領だってするし、差別だってする。実際、わたくしは差別されていた。差別されながら、無事だったのは、教皇長カイサルと筆頭魔法使いハズスの目が隙間なく光っていたからだ。

 そうして、報告が上がってくる中、カイサルの家族が部屋にやってきた。

「母上はどこにいるのですか!?」

 リサの処分は、秘密裡に行われていたことが、ここではっきりした。

 わたくしは沈黙する。皇帝代理カイサルがいるので、わたくしが口を挟むことではない。いなくても、筆頭魔法使いハズスに丸投げしていたでしょう。

 たまたま、教皇長の仕事を終えて戻ってきたカイサルは、教皇長の服を着ていた。

「騒がしいな」

「父上、母上があれから部屋に戻っていません!! リズの様子をみていたのは、母上だけです!!!」

「リズのことは、兄弟姉妹でみてやればいいだろいう。俺は、皇帝代理として、教皇長として、忙しい身の上だ」

「そういう問題ではありません。母上が、どこにもいないのですよ!? この部屋に連れて行かれて最後、誰も見ていません」

 わたくしを睨みながら訴えてくるリサの子どもたち。よりにもよって、あの夫婦の話し合いの後に、地下牢に連れて行かせたのですね。それでは、明らかに、わたくしが疑われるではないですか!!

 やってもいない罪をなすりつけられているわたくしは、だけど、黙り込んだ。迂闊に言ってはいけない。口を開けば、また、カイサルの思惑にはまることになるかもしれない。

「リサがいないことに、いつ気づいた?」

 座っているわたくしを後ろから抱擁しているハズスが口を挟んだ。

「今日の朝、リズの様子を見に行って、わかった」

「二日も、何をしていた?」

 食事会後に、わたくしは夫婦の話し合いをさせた。それから二日経っての発覚でした。

「親子といえども、もう家庭を持っているのだ。母上の所に、毎日、足を運ぶわけがないだろう」

「リサの気狂いは、かなり有名な話だ。それなのに、放置していたのか」

「何かあれば、使用人から報告がある」

「その使用人も、あの食事会の後、私の屋敷の使用人に入れ替わったというのにか。使用人の引継ぎを一切されていない、と気づかないとはな。とんだ間抜けだ」

「夫婦なのですから、父上が気づくべきでしょう!!」

 ハズスに痛い指摘をされ、リサの子どもたちは、父親であるカイサルに責任を押し付ける。

「俺がまともな父親、夫としての行動をしたことがあったか? 一度としてない。それなのに、こんな時、俺を夫や父親として責めるのか。俺が皇位簒奪された十年前、お前たちは俺に何と言ったか、覚えているか?」

「っ!?」

「天罰だ、と言ったんだ。両腕を斬りおとされ、背中に失格紋の焼き鏝をされて、閑職に追いやられ、城からも追い出された俺に、そう言ったんだ。別に、恨んではいない。そういうふうに言われるんだな、と思っただけだ。そんな俺が、リサやリズ、子どもや孫のことなど、気にしない。天罰だ、というほど、俺のことを恨んで、嫌っているのだろう。俺に頼るな」

 十年前に、親子は、夫婦は、終わっていた。わたくしの考えは甘かった。親子を、夫婦を、とりもとうなんて、バカなことをした。

 わたくしは、嗚咽を殺して泣いてしまう。こんなことってない。

「リオネット、どうした!? 泣いてしまうと、困る」

 ハズスはわたくしの前に座って、わたくしの涙を舐めたりした。ハンカチで拭ってくれればいいのに、こんな時でも、欲望のままに動くのが、ハズスだ。

 泣いているわたくしに、リサの子どもたちは気まずくなった。何せ、家族の恥を晒しているようなものだ。

 カイサルはというと、驚愕していた。わたくしが泣いている姿など、見たことはあっただろうに、カイサルはわたくしを見たまま、凍り付いているのだ。わたくしが泣いているのなど、珍しいことではない。

 わたくしが泣くと、カイサルは困るのだ。どんな理由であっても、カイサルは困って、凍り付いて、動けなくなる。

「お前たち、もう出ていけ!! 私のリオネットが泣かせることをするな。ほら、お前を泣かせる奴らは、私がどうにかしてやろう。どうしてほしい?」

 それを聞いたリサの子どもたちは、慌てて部屋を出ていった。それはそうだ。力ある妖精憑きは、人を簡単に殺し、壊し、潰すのだ。皇族といえども、ハズスが本気になれば、契約紋の隙をついて、苦しめることをするのだ。

「お前を泣かせる奴らはいなくなった。大丈夫だ、私が守ってやろう」

 正面から優しく抱きしめ、優しく頭を撫でてくれるハズス。過去の所業は酷いというのに、どんどんとそれを許してしまいたくなるほど、ハズスはわたくしにだけ優しい。

 わたくしはハズスの胸で泣き続けた。





 そうして、二回目の食事会が始まる。二回目の席順は完璧である。完璧すぎて、皮肉となる。

 なにせ、リサの席がないのだ。

 座るべき席を探すために、ハズスと一巡して、わたくしは気づいた。席順は、上座二つに座る皇族が代わるだけで、その他の席順は変わらない。だけど、リサが減ることで、席順は変わる。

 リサの席順は、皇族としては、前のほうだ。ほとんどの皇族は、一人減ったことに気づくだろう。

 ほとんどの皇族が席についてから、カイサルは教皇長の服で登場である。相変わらず、二つの肩書で忙しそうだ。

 元皇帝シズムと元皇妃リズは、前回、わたくしとカイサルが座っていた席についている。向かい合うように座る二人に、誰も声をかけない。リズは、さらにやせ細っているようだ。リズの面倒は、あれから、誰がみているのだろうか。リズの姿は、薄汚れているように見える。

 全ての皇族が勢ぞろいしたところで、食事会は始まろうとしていた。

 開始の挨拶の前に、リズがフォークを握りしめて、走ってきた。狙うは、やっぱりわたくしだ。

「あんたが来てから、滅茶苦茶よ!!」

 だけど、ハズスがそれを許さない。失格紋をされたリズに、ハズスは攻撃出来る。あっけなく、リズは部屋の端まで吹き飛ばされた。

 それは合図のように、リズとそう変わらない年代の皇族が動き出した。持っていた武器を手にして、カイサルへと向かってくる。れっきとした皇族である彼らに、ハズスは攻撃できない。

 両側から迫ってくる皇族たち。なのに、カイサルは動かない。

 カイサルへと向かっていく皇族たちを座っていた殆どの皇族たちが拘束したのだ。男も女も武器を持ち、カイサルへと向かっていく皇族数名をおさえこんだ。

 それだけでは終わらない。まだ、皇族の儀式を終えていない若い皇族たちの中でも分裂が起こっていた。カイサルに敵対しているであろう皇族の子たちをカイサルの味方をしている皇族の子たちが拘束したのだ。敵対している皇族の子たちは、何も知らなかったようで、突然のことに、震えていた。

 そんな中、カイサルの子や孫だけは、呆然と、椅子に座っていた。カイサルの血族だけ、蚊帳の外だ。

 それを末席で見ていたシズムは真っ青になって震えた。

「お、俺は、関係ない!!」

 この光景は、シズムが起こした皇位簒奪に見える。だけど、シズムは頭を抱えて震え、叫んだ。

「ふざけるな!! お前が脅したんだろうが!!!」

「十年前のことで!!!」

「一人だけ逃げるつもりか!?」

「知らない!! 何のことだ!?」

 拘束されている皇族たちは、十年前、皇位簒奪に手を貸した者たちなのだろう。シズムは真っ青になって否定するが、まるで説得力がない。

 シズムは震えて、そして、気づく。

「リズ、まさか、リズなのか!!」

 壁に吹き飛ばされて、血を吐き出して、痛みに動けなくなっているリズは、返事なんで出来ない。もう、顔を真っ青にして、震えている。

 シズムは家族で世話をされているから、それなりに食べてはいたのだろう。だけど、リズはそうではない。母リサがいない部屋で、信じられる者はいない。兄弟姉妹はただ、傍観していただけだ。実際、今も、椅子に座って、呆然としている。

 リズは、食べることも、飲むことも出来ない状態で放置されていたのだ。この食事会の席にも、無理矢理、連れてこられたのだろう。そのような状態で、攻撃を受け、ちょっとした出血でも、命取りとなることがある。

 わたくしは、貧民街で、飢えさせられ、ちょっとした暴力で怪我をして、死ぬ貧民をたくさん見たことがある。リズのように、守られて生きていた世間知らずな皇族なんて、ちょっとした事で、簡単に死ぬだろう。弱いのだ。

 そうして、リズはあっけなく、死んでしまった。

 人の死を目の前にして、まだ、皇族の儀式を終えていない者たちは、恐慌状態となる。保護者である親たちに縋りつこうとするのだ。だけど、カイサルの敵側となってしまった親を持つ子どもたちは、近寄れない。数の暴力に負けて、立ちすくむしかない。

「皇位簒奪を二度失敗した場合は、処刑と決まっている」

「俺じゃない!!」

「お前だ!!」

「ちくしょー!!!」

 カイサルの言葉に、シズムは必死になって否定しても、拘束された仲間たちは、シズムを責める。シズム一人が否定しても、複数が肯定しているのだ。

「違う、リズが、リズがやったんだ!! 俺じゃない!!」

「貴様、死んだリズのせいにするのか!?」

 とうとう、リサの子どもたちが動き出した。怒りで顔を真っ赤にして、恐怖で動けないシズムを殴った。

「貴様のせいで、家族は滅茶苦茶だ!! 貴様が、十年前に、皇位簒奪なんかしたせいで!!!」

「ふざけるな!! よくもやってくれた、とお前たち皆、言っただろう!! カイサルに罰を与えてくれて、ありがとう、と!!!」

「っ!?」

「俺ばかりを責めるな!! あの皇位簒奪の計画をたてたのは、リズだ!!! リズはな、カイサルが娘を見捨てるようなら、一緒に斬れと言ったんだ!!!!」

「まさか、リズを殺すつもりだったのか!?」

「そ、それはっ」

「リズは、貴様を心の底から愛してたんだぞ!!」

「リズがそう、言ったんだ。そう、リズが!!」

「煩い!! 黙れ!!!」

 シズム一人に、リズの兄弟が暴力をふるった。シズムに勝てるはずがない。一方的な暴力に、シズムは動かなくなった。





 二度目の皇位簒奪の失敗となったシズムは、処刑であったが、酷い暴力による怪我により、次の日には冷たくなっていた。

 十年前、シズムに賛同した皇族たちは、全て、体の一部を斬りおとされ、失格紋の焼き鏝を背中に押されることとなった。

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