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皇族姫  作者: 春香秋灯
教皇長の皇族姫-波乱万丈な食事会-
66/353

食事会の準備

 とうとう、部屋の外に連れ出されることとなりました。

「皇帝代理としての仕事ではないな」

「もう、わたくし、女帝なのですか?」

「よし、今日は皇帝の儀式だ」

「いやいや、まだ女帝ではないから、させない」

 どうしてもわたくしと閨事をしたいハズスは、虎視眈々と狙っています。それを上手に躱してくれる皇帝代理カイサル。もう、一生、皇帝代理でいいでしょう、この人が!!

 でも、皇帝代理ではダメだという。かといって、わたくしはまだ女帝ではない。だけど、ハズスはわたくしだけを女帝を認めている。たぶん、ここが重要なのでしょう。

 連れて行かれたのは、宰相、大臣が勢ぞろいする会議室です。でも、人数が多いですね。

「では、宰相、大臣の交代を行う」

 そう宣言するカイサル。わたくしは上座に座らされ、目の前に、書類が並べられる。肩書と名前がずらりと並んだ書類だ。そうか、ここで、人事を一気に刷新してしまうのか。

 いまだに、宰相、大臣の肩書をあてがわれていた貴族たち。見れば、真っ青になって震えている。だって、彼らの後ろには、武器を持った騎士がいっぱい、立っているのだ。彼らの向かいに座るのが、新しい宰相と大臣たちである。こちらは、憎々しい、とばかりに目の前にいる貴族たちを睨んでいる。

「待たせてしまったな、お前たち」

「十年は長かったです」

「やっと、正しい形となりました」

「本当に」

 カイサルが労いの言葉をかけてやると、新しい宰相や大臣たちが口々に恨み言やらなにやら言ってくる。

「カイサル様が皇位簒奪前は、彼らが宰相、大臣だったのですよ」

 筆頭魔法使いハズスはわたくしに耳打ちして、ついでに、髪に口づけとかしてくる。口づけは余計ですよ。

 十年前、皇位簒奪によって、カイサルによって選ばれた宰相と大臣たちは、辛酸を舐めさせられたようです。それはそうです、彼らは、実力でその地位に立った方たちです。降格となって、色々とあったのでしょう。

 でも、耐えたのでしょう。カイサルのことです。十年後の話をしているはずです。カイサルは、皇帝として、十年後には、カイサル自身か、それとも、他の皇族が皇位簒奪をして、元の人事に戻されるように、きちんと確約したでしょう。

 そして、甘い汁をすすりまくった宰相や大臣たちは、これから大変です。

 十年前の人事は、どのように行われたのかはわかりません。きっと、皇族シズムは独断で、やったのでしょう。

 しかし、カイサルはきちんと筋道通りにする人です。だって、皇帝として育てられた人ですから。皇帝は、見本にならないといけないのです。

 カイサルは、すごい束の紙をどさっとわたくしの前に置いてくれます。

「ここに、お前たちが敵国と裏でつながっている、という報告書がある。俺が皇帝であった頃からつながっていたとはな」

「証拠も証言も証人もそろっている」

 口答えを許さないハズス。そうか、ハズスも頑張って、集めたのね。妖精憑きに隠し事なんて不可能です。ハズスを制御できないシズムは、役立たずだったでしょう。

「いや、裏切ったわけではなく、敵国の情報も、集めていただけだ。シズム様にも、ご報告、していた。内偵をしていたのだよ!!」

 そういうこと、きっと、皇族シズムにも言っていたのでしょうね。

「帝国では、金や銀の取引は、王国のみとしている。帝国と王国は、同じ敵を迎え撃つ立場だ。また、同じ教えのもと、生きている。しかし、お前たちは、敵国に金や銀、他にも宝石の原石などを提供して、科学の武器をため込んだな」

「いつか、戦争が起こった時のために、敵の武器の研究は必要なことだ」

「型式が、随分と古いのにか?」

「そんなことっ」

「帝国は敵国の情報を集めない。何故か? 考え方も生活様式も、全て違うからだ。敵国にとって、我々帝国は、大昔の文明で生きているのだよ。一度、敵国の捕虜になった場合、帝国は、帝国民といえども、受け入れないこととなっている。一度、敵国の文明に触れた帝国民は、もう、帝国での生活が不便となってしまう。だから、捕虜の交換なんてしない」

「そんな、話」

「捕虜となった帝国民は皆、帝国では、戦死と報告される。これは、王国も同じだ。さて、お前たちは、どこまで、敵国の文明に触れたかな?」

 騎士たちが動き出した。宰相と大臣たちをおさえこむ。

「さて、退任といこう。代筆でいいだろう。印は押収した。これまで、ご苦労だった」

「だ、騙されたんだ!!」

「助けてくれ!!」

 口々に訴える元宰相と元大臣たち。ただの貴族となって、次は犯罪者です。

「あの、わたくし、いりますか?」

 流れ的に、わたくしはただ座っていただけだ。何もしていない。

「綺麗な華は必要だ」

 甘えるように後ろから抱きしめてくるハズス。いや、意味がわからないですよ、それ。

「ハズスがな、面倒だというのだよ」

「リオネット様、これからも、よろしくお願いいたします」

 カイサルに続いて、新しい宰相、大臣たちが頭を下げてきた。

「どういうことですか!?」

「こういう場には、必ず、筆頭魔法使いがいないといけないんだ。だが、ハズスは今、リオネットから離れない」

「離れたくありません」

「ということだ」

 とんでもない人事の光景を見せられたのは、全て、この百五十年以上も生きた化け物のせいか!!

「だったら、わたくしからハズスにお願いしたのに。ハズスは、わたくしのお願い、きいてくれますよね?」

「リオネット様と一緒であれば、どこにでも行こう」

「お願いは」

「離れたくない」

 ぎゅーと力をこめて抱きしめてくるハズス。

 見れば、宰相や大臣たちからは、生暖かい目で見られている。若い二人は、人前でもイチャコラかい、なんて思っているのでしょうね!!

 この男の過去のとんでもない所業を知ったら、そんなふうに思いませんよ。本当に、酷い男なのですから!!

「さて、無事、交代となった。お前たち、戦争準備をしてくれ」

 そうでした。カイサルは、戦争したいので、十年、潜ってたんですよね。

「もう、戦争を始めるのですか?」

 わたくしを女帝にするのは、まだまだ先だろうに、と思っていました。とりあえず、一年か二年先になるかな、なんてわたくしは考えていました。その間に、どうにか女帝を回避しよう、なんて甘いことも考えていましたとも。

「敵国がどう動くかは、わからん。とりあえず、今回のことは、敵国側に訴えていく。もうそろそろ、敵国も、動くだろう。何せ、十年間、搾取したんだからな。もっと搾取したいだろう」

 裏切者たちは、禁止されていた資源を一昔前の武器や道具と交換していました。敵国は美味しい思いを十年もしたのです。文明は底辺の帝国相手に、敵国は、勝てると思うのでしょう。

 人は、喉元過ぎれば、熱さも忘れます。百年以上昔の事など、伝説みたいなものです。もう生き証人もいないので、敵国は動き出すのでしょう。

 そうやって、敵国は、文明底辺の皇帝カイサルの手の平に踊らされました。




 夜はカイサルと一緒にお食事です。最近の話をしていると。

「そういえば、一年に一度の食事会、やらないといけないな」

「あれですか。皇族全てが勢ぞろいする、食事会」

 普段は、皇族って、家族とか親族とかで行動していて、勢ぞろいすることなんてありません。だって、皇族って、それなりに多いのです。

 皇族が集められるのは年に一度の食事会です。この食事会は、皇族の儀式を受けていない若者まで集められます。

 皇族の儀式とは、十年に一度、十歳以上の皇族の子どもたちが受ける儀式です。皇族は筆頭魔法使いを制御出来ないといけません。それが出来るかどうかを確かめるために、筆頭魔法使いに命令するのです。跪くところから始まりますが、これすら出来ないと、皇族失格です。皇族の儀式を越えられないと、貴族、平民、貧民に、その時の皇帝の気分で落とされます。十年に一度の、命がけの儀式なのですが、実は、皇族たちは理解していないのですよ。ずっと城の中で育てられた皇族の子どもたちは、世間を知りません。城の外は、皇族の常識は通じないのです。皇族でなくなると、これまで受けてきた恩恵もなく、立場だってないに等しいのです。だいたい、皇族失格となった人たちは、生き残れません。

 こんな十年に一度の恐ろしい通過儀礼をまだ受けていない子どもたちは、何も知らずに、食事会に参加するのですよね。なるべく、若い子たちは関わらないようにしよう。

 実は、わたくしは、皇族の儀式を終えた立派な皇族には会っているのですが、儀式を終えていない皇族には会っていません。部屋に引きこもっていますし、教育はすでにハズスによって施されてしまっていますので、外に出る理由がありません。何より、皇族リズみたいに、妙なこと言われちゃったら、ちょっと気分が滅入ります。

「食事会、全員、出席なのですよね」

「赤ん坊や、手がかかる子どもは欠席だぞ」

「体調、悪くなりたい」

「皇族は、妖精の守りがあるから、病気にならない」

「………」

 体調悪いです、なんて言って欠席は出来ないのね。なんて、恐ろしいのでしょうか。

 一気に、食欲なくしてしまう。美味しいのだけどね。

「リオネットは欠席でいいだろう。私も出たくない」

 ハズスのは、ただのわがままですよね。それにわたくしは理由付けされても困ります。

「そんな時間があったら、リオネットともっとくっついていたい」

「どこ触っているのですか!?」

 どさくさにまぎれて、胸なんか触ってきましたよ、この男は!!

「つい、魔がさした」

 ちょっと顔を赤くしていうハズス。そんな、純真無垢みたいな態度しているけど、カイサルとは、閨事、最後までやったって、聞いてますからね!! 油断も隙もあったものではない。

「ハズスが出たくない、と言えば、通じるだろう。リオネット、無理しなくていいぞ。ハズスとしっかり、仲を深めなさい」

「なんか、言い方が卑猥です!!」

「帝国の安寧は、リオネットにかかっている。ハズス、もっと弱味につけこんでいいんだぞ。リオネットは、どうせ、ハズスを受け入れるしかないんだから」

「そうはいうが、リオネットには、好きになってもらいたい」

 ハズスの思いは、想像していたよりも重い。

 人に好意を向けられたことがないわけではない。好意には、色々とあります。隣人としての好意、家族としての好意、上司部下としての好意、友達としての好意、そして、恋人としての好意と、好意の形は様々です。

 わたくしが受けたことがあるのは、隣人、上司部下、くらいです。残念ながら、友達はいません。だって、教会で働いている方々は、全て妖精憑きでした。妖精憑きにとって、ただの人であるわたくしは、底辺です。上から見下ろす存在なのです。

 家族はわかりません。まあ、カイサルが、わたくしを娘のように見ていると言っていますが、ハズスに生贄として差し出している時点で、やっぱり皇帝だよね、なんて思ってしまいます。

 恋人としての好意が、ハズスでしょう。口でも態度でも、無茶苦茶です。そこは、長く生き過ぎて、気狂いを起こしてしまっているのでしょう。また、化け物じみた妖精憑きなので、人というものの扱い方が、よくわかっていないように見えます。

「ハズスは、こんなふうに、異性を好きになったことがありますか?」

「嫉妬か!? 大丈夫だ、異性も同性もこのように好きなったのは、リオネットだけだ。過去には一人もいない!!」

「そうですか。わたくし、実は、そういう気持ちを持った相手は、一人もいません」

「そうか! だったら、最初も最後も、私になるように、頑張ろう」

「はい、頑張ってください」

 過去はともかく、今は、ハズスは一生懸命、わたくしに尽くしてくれる。こういう経験をしたことがないので、わたくしは戸惑うばかりです。

 だけど、過去に、わたくしみたいな相手がいない、という事実は、とても嬉しく思った。

 だから、わたくしは、ハズスのことをもっと知りたくなった。

「ハズスは、どうして、カイサルを皇帝にしたかったのですか?」

 生まれる前、母親のお腹にいる時から、ハズスはカイサルを皇帝にすると決めていた。そこまで強い思いを抱くほど、カイサルは妖精憑きに惹きつける何かがあったのだろうか。

「うまいな、私のことのような聞き方をして、カイサルの話に持っていくとは」

 あ、質問、間違えちゃいました。ハズスが深読みしちゃいました。そうではないのですけどね。

「私が若い頃、妖精憑きハルト様がご健在の頃に、すごい男に出会ったんだ。王国の者なのだが、今のカイサル以上の皇族の血筋を持っている者だった。ぜひ、皇帝に、とお願いした。しかし、その男は、ハルト様を妖精として従え、王国に帰っていってしまった」

「ハルトというと、あの、最悪の妖精憑きのことですか!?」

「そうだ。その男のお陰で、帝国は助かったようなものだ。ハルト様はそれからすぐ、天に召されたと、その男から報告を受けた。それっきりだ」

「知りませんでした」

「邂逅はわずかだ。ハルト様は、その男に出会って、そのままついて行ってしまった。あれほど、誰の手にも負えないような化け物だったハルト様を簡単に従えたあの男のことは、今でも忘れない。だが、筆頭魔法使いとしては、あの男の存在を表沙汰には出来なかった。そこで、表沙汰となったのが、血のマリィだ。マリィはな、伝説のような聖女ではない。ハルト様を手に入れるために、皇族を、貴族を妖精憑きの力を悪用して、粛清したんだ。その粛清を仕向けたのもハルト様だ」

「わたくしも、気を付けないといけないですね」

 じっとわたくしはハズスを見てしまう。最悪妖精憑きハルトは、恐ろしい美貌の持ち主だったという。きっと、ハズスのような美貌だ。気を付けよう。

「私は大丈夫だ。そこまで狂っていない。ハルト様は、気狂いによって、悪い妖精になっていただけだ。悪い妖精といっても、それは、人の価値観だ。妖精は悪戯好きだ。人にとっての悪事など、妖精にとってはちょっとした悪戯でしかない。ハルト様は、そういう類になってしまっただけだ」

「それと、カイサルを皇帝にするのと、どう関係があるのですか?」

 話が全然、違う方向に行ってしまっているので、わたくしは、改めて、聞き直した。

「ここからが大事だ。そんなハルト様だが、正気となると、いつも話していたのが、ある皇族のことだ。ハルト様はな、たった一人の皇族のお迎えを待っていた。どのような皇族かと聞いてみれば、なんと、母親の腹に宿った瞬間からお仕えする、と決めていた皇族だという。才能とか、そういうものではない。存在そのものに惹かれたんだと。それから、正気の時に聞いてみれば、ハルト様は饒舌に話してくれた。ハルト様はその皇族を赤子の頃から全てをかけて育てたそうだ。将来は皇帝にして、その皇族の子孫までお仕えしたい、と願ったほどの入れ込みだった。だけど、様々な不幸が重なり、その皇族は、国外追放となってしまった。ハルト様は置いていかれてしまったんだ。だけど、ハルト様は信じていた。もう、人の寿命の何倍も生きているというのに、その皇族がもうすぐ迎えに来る、なんて話していた。そして、本当に、迎えに来たんだ。

それを見て、とても羨ましかった。生まれ変わってまで、迎えに来てくれる皇族を手に入れたハルト様のことを」

「えっと、その、ハルトとその皇族は、その恋人同士、とかではないですよね?」

「そういうのではない。まれにあるのだよ。妖精憑きとして、執着してしまう人を。私にとって、それが、カイサルだ」

「聞いていると、条件が皇族でないといけないみたいですね」

「そうだろうな。古書の類は焚書してしまったから、わからないが、皇族には、何かあるのだろう」

「そうですか。それは、安心しました」

「どうしてだ?」

「だって、わたくしは皇族だからハズスに好かれた、というわけではないですから。そういうものを抜きにしての好意です。良かったです」

「本当だ!!」

 わたくしに指摘されて、ハズスは初めて気づいた。

 カイサルへの執着は、きっと、ハルトのある皇族への執着と同じだ。でも、わたくしへの好意は、そういうものを越えている。だって、今は、カイサルよりも、わたくしの側についてくれている。

 そんな他愛無い話を端から聞いていたカイサルは、微妙な顔をしていた。それはそうだ。ハズスの執着が血筋だと言われたのだ。

 ただ、これを言いきるには、事例が少ない。ハズスとハルトの二例だけで、断言は出来ないのです。

 でも、カイサルは妖精憑きに随分と好かれている事実は確かです。まだ、見習い魔法使いであり、将来は筆頭魔法使いとなるヒズムからも、カイサルに対するなんともいえない好意を聞いています。

「でしたら、食事会には出ましょう」

「私との仲をもっと深めよう」

「偽物といえども、皇族ですもの。しっかりと役割を果たします。逃げてばかりいるのは、性に合いません」

 いつも命がけだ。きっと、食事会も命がけになってしまうだろう。わたくしは、ハズスに寄りかかり、覚悟を決めた。





 食事会の仕切りは基本、皇帝と皇妃の役割です。わたくしは、ハズスが女帝として指名をしていますが、現在は一皇族です。だけど、将来は女帝となるので、皇帝代理のカイサルと、カイサルの妻リサのやり取りを見ることとなりました。

「ほとんど、皇妃が決めるのですね」

「皇帝は、外回りが基本ですから。女は内回りですよ」

 さすが、カイサルの妻。十年前に役割を娘のリズに譲ってはいるが、きっと、時々、手伝ったりしていたのだろう。

 皇族の一覧を見ても、これ、どう並べばいいのか、これっぽっちもわからないので、昨年のものを見せてもらう。

「基本的には、前年のものをそのまま使うわね」

「年齢順や、家族順ではないのですね」

 並びに規則性が見られない。教皇長の側仕えの知識が使えない。

「これは、皇族の血筋順です。今回は、上座を変えることとなります。カイサルか、それともリオネットか、どちらかが上座となります」

「ぜひ、上座はカイサルで。その次は本来は、皇妃なのですか?」

「そこも、血筋順です。皇妃だからといって、皇帝の次となるわけではありません」

「血筋重視なのですね、本当に」

 偽物の皇族であるわたくしは、本来ならば、この席にすらつけないのですけどね。罪悪感で、お腹が痛くなってきます。

「食事の内容は、料理人に任せてしまいましょう」

「カイサル様とリオネット様のお食事は、私が担当だ。他の者の手作りなど、食べさせない」

「いつものことですよ」

 ハズスが口を挟んでくるも、リサは慣れたものです。そうか、そうなっちゃうのか。

 それはそれで、安心です。だって、わたくしは皇族ではないですし、カイサルは失格紋のせいで筆頭魔法使いの加護を失っているので、毒殺出来てしまいます。

 ハズスが裏切ったら、わたくしもカイサルも殺されちゃいますね。もっと、ハズスのことを愛せるように頑張ろう。

 そうして、日程やらメニューやら決めていると、リサが急に黙り込んでしまいました。

「久しぶりのことで、疲れてしまいましたか? 大変ですよね、内輪といえども、食事会ですから、色々と言われてしまいますものね」

「リズも参加なのですよね」

「それは、まあ、そうでしょうね。前年まで、カイサルも参加していましたから」

 前年の席順では、カイサルは末席ですよ、末席。皇族の儀式を受けていない若者よりも下の扱いです。

 こうなると、皇族リズと皇族シズムは、失格紋をされてしまったので、末席となります。この二人を会わせたくないのだけどなー。

「先日、間違いでしたが、リズが、毒を盛られたと勘違いして、大騒ぎしたのです」

「聞いています。ちょっと傷んだ材料を使われたのですよね。他の皇族の方々も同じものを食べたのですが、筆頭魔法使いの加護のお陰で、問題なかったのですよね」

「ですが、それから、リズは食事を口に出来なくなってしまったのです」

 これはまた、大変なことになってますね。こういう事、本当は、父親であるカイサルも一緒になって考えなければいけないのですが、もう、家族枠ではないのですよね。

「カイサルは、リズのこと、恨んだりとか、そういうものはありませんよ。カイサルは、ほら、皇帝ですから」

 家族というものがわかっていない。何せ、わたくしのことを娘みたい、と言いながら、筆頭魔法使いハズスへの生贄に差し出しています。もう、皇帝としての生き方を捨てられないのですよ。

「それに、今回の仕切りはリサです。わたくしは見ているだけですし、何もしませんよ」

「欠席してもいいですよね?」

「ダメに決まっているだろう」

 いいですよ、とわたくしは言いたいのに、ハズスがそれを邪魔する。

「知らないわけがないだろう。カイサルは、十年間、欠席させてもらえなかったんだ。出された料理だって、全て食べた」

「ハズスが作ったものですよね」

「違う。その食事会では、私の料理は出すな、と命じられた。だから、カイサル様は、毒や薬が盛られているかもしれない料理を食べたんだ。実際、薬が盛られていて、戻ってきたカイサル様は、大変なことになっていた。私は手を出せないから、他の妖精憑きがカイサル様を治療したんだ」

「………」

 リズもシズムも、自業自得だ。食事会の欠席など、許されるはずがない。

 まさか、十年間、そんな恐ろしい所業を実の娘がしているなど、知らなかったリサは真っ青になった。

「いいか、リズは欠席が許されない。食べられないとか、甘えたことをいうな。十年間、実の父親にあれほどのことをしておいて、今更だ。暗殺者だって差し向けておいて」

「そんなこと、嘘です!!」

「生け捕りにした暗殺者は皆、白状してくれた。シズムやら、他の皇族やら、貴族やら、いっぱいだ。その中に、リズの名も出てきた。だけど、カイサルは、表に出さなかった。十年間、暗殺未遂の事実を隠し通したんだ。皇帝、皇族、と口で嘯いているがな、やはり、家族は大事なんだろう」

「そうなのですか」

 羨ましい。心の底から、そう思う。カイサルは、口ではあんなことを言っておいて、やっぱり、家族は大事なのだ。こんなに酷いことされているというのに、隠し通して、家族を守っている。それも、ただ、血がつながっている、というだけだ。

 リサは泣きそうな顔をする。もう、準備なんて、毎年、同じことの繰り返しなので、それほど大変なわけではない。

「食事会の準備は、よくわかりました。席順だけが、わたくしにはわからないところでしたが、他は、例年通りですね。ほら、ハズス、戻りましょう。お邪魔になっちゃいます」

「そうだな、部屋に戻って、仲を深めよう」

 空気なんて読めないのか、それもと、わざとなのか、ハズスはわたくしに従って、その場を一緒に離れてくれた。

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