偽の皇族
案内されたのは、皇帝が家族として過ごす私室です。そこに、わたくしと教皇長カイサル様、筆頭魔法使いハズス様が集まりました。
「今日から、リオネットは、ここで過ごすこととなる」
「いくつか、聞きたいのですが、いいですか?」
「俺でわかることであれば」
「わたくしが皇族というのは、嘘ですよね」
途端、カイサル様の表情が消える。
「なぜ、そう思う?」
「ハズス様に命令しても、これっぽっちも聞き入れてもらえていません」
離して、と何度も言っているのに、ハズス様は離れてくれなかった。願いと命令の境であるが、最後のほうなんか、命令のつもりで言ったのに、ハズス様は聞き入れてくれなかった。
「リオネットの靴を舐めただろう」
「綺麗な靴でしたもの。抵抗なく、舐められますよね」
新品の磨かれた靴なので、わたくしだって、舐めます。やりたくないけど、いざとなったら、それくらいのことをやった過去を思い出す。孤児院は、本当に容赦ない場所なのです。
「カイサル、近い」
わたくしがカイサル様にさらに問いただそうと近づいたというのに、ハズス様は恐ろしい声でカイサル様を注意する。途端、カイサル様はわたくしからものすごい距離をとる。
ハズス様はあれから、目隠しを外したままです。全ての人を魅了してしまう相貌を晒し、わたくしの手を引っ張り、ソファに座らせ、その隣りにハズス様が座りました。
「カイサルは、戦争をやりたいのだよ」
「近いです」
「聞きたいのだろう、色々と」
「それは、そうですが、こんなに近くなくてもいいではないですか」
「誘惑しているのだよ」
「どうして!?」
「一目惚れだ」
「………え?」
「初めて会った時から、ずっと、そなたを愛している」
過去を振り返ってみる。この男、女のわたくしに対して、かなり容赦ない仕打ちをしている。だって、カイサル様の足手まといにならないように、自死の練習までさせたのよ!?
この美しい相貌の男に、残念ながら、わたくしは愛情なんてこれっぽっちも持たない。持てるはずがない。ひどい目にあってばかりだもの。その見た目ですら許せないほどのことをわたくしはされているのだ。
結果、わたくしはハズス様から距離をとることにしました。ハズス様の向かいのソファに移動します。
わたくしが難攻不落だと気づいたハズス様は、距離をとることを許してくれたようです。そのまま、わたくしと向き合い、話を続けます。
「敵国との停戦協定は、私の師である妖精憑きハルト様の寿命とされていた。ハルト様はすでに天に召されて随分と経ったのだが、敵国は、ハルト様の生死が確認出来ないため、停戦をし続けている」
「亡くなったというのは、本当なのですか? その、ご遺体を確認したのですよね?」
「確認できていない。が、もうこの世にはいない、と報告を受けている。ハルト様の寿命は、随分前に終わっている。それを超えて生きているように見えていただけで、実際は、化け物になったようなものだ。生きていたわけではない」
「すみません、妖精憑きのことはよくわかりませんが、結局、どういうことなのですか?」
「敵国としては、戦争をしたいが、ハルト様が万が一にも生きている場合、大変なことが起こる。なので、今回のように、色々と内部から崩そうとしてくれるわけだ」
「十年前の皇位簒奪は、敵国の企みということですか?」
「敵国と貴族が手を結んで行ったことだ。戦争ではなく、内部干渉で、どうにか帝国を瓦解させたかったのだろう。妖精憑きの抵抗があったのは、計算外だったろうな」
皇位簒奪がうまくいっていれば、今頃、帝国はなくなっていたのかもしれない。それも、カイサル様に執着する筆頭魔法使いや妖精憑きの抵抗により、失敗してしまったという。
「それで、どうして、戦争を始めたいのですか?」
妖精憑きハルトは、長い停戦期間を作るために、寿命を差し出した。力のある妖精憑きの寿命は長い。そのため百年以上の停戦となった。
戦争がないことは、悪いことではないように思う。戦争、経験したことがないし、知識の上でしか知らないから、よくわからないけど。
「長いこと戦争がないと、今回みたいに、内乱のようなことが起こるんだ。それを防ぐためにも、定期的に、戦争があったほうが良いこともある」
「戦争って、人が死ぬのですよね」
「敵国側は、大損害だ。帝国側は、妖精憑きが味方にいるから、ほどほどだな」
「お金もかかりますよね」
「随分と前から、予算は繰り越し続きで、膨れ上がっている。もうそろそろ、戦争をしないと、予算を崩す話に持っていかれる。一度、崩されると、戦争が起こった時、大変なこととなるからな」
聞いていてわかる。戦争は、帝国にとって必要悪なのです。
わたくしは、ハズス様を通して、色々と学びました。帝国は、今更、領土を増やすような戦争は必要ありません。これ以上、支配が出来ないほど、混乱を起こしているのです。だから、戦争なんて必要ありません。だけど、戦争することは、大義名分を作ります。
武力を持つ大義名分、妖精憑きを独占する大義名分、戦争のために予算を組む大義名分、といっぱいです。
帝国の、皇族は戦争がなければ、ただ、最強の妖精憑きの支配者だけです。それはそれでいいのですが、弱肉強食の帝国としては、もう一つ、支配者としての強味が欲しいのでしょう。それが、戦争です。
孤児院でもそうです。わざと敵を作って、倒して、強者として居場所を作る方法がとられます。また、弱者を作って攻撃して、強者であろうとすることだってあります。別に、弱肉強食だからではなく、そうやって自らを強く見せることで、居場所を作ることが許されてしまうのです。何せ、後ろ盾のない孤児の集まりです。職員はさぼることばかり考えて、問題が起こっても、対処なんてしてくれません。
「それと、わたくしを皇族と偽ることは、関係ありませんよね。わたくしが皇族でないことは、いつかは知られてしまいますよ」
危ない橋を渡らされています。シスターは、辞めさせられると、口封じされることは覚悟の上でした。ですが、この皇族の偽りは、そういう問題ではありません。
「万が一、わたくしが皇族でないと知られた場合、今の皇族の価値が落ちます」
わたくしだけで済む問題ではない。れっきとした皇族の皆さんは、皇族でないかもしれない、と価値を落とされるのです。
「そこは心配ない。いくらだって、お前の靴を舐めよう」
甘い声、甘い顔で言い切るハズス様。うわ、気持ち悪っ!
顔に出たのでしょう。ハズス様、悲し気な顔を見せる。
「これほど愛しているというのに、通じないものだな」
「過去を振り返ってみてください。どこに、愛情があったというのですか!?」
「それは仕方がない。無自覚だったのだよ。最初の頃は、妙に苛立って、カイサルに近いので、てっきり、カイサルに近づいているからか、と思っていた。ところが、リオネットがヒズムとも話していても苛立った。苛立ちが募るのは、リオネットが他者と話したり、近かったりする時だ。それなのに、リオネットと二人きりで皇族教育を指導している時は、拘束したり、閉じ込めたいと思って、随分と我慢したものだ」
「それ、誰に相談しましたか?」
「カイサルだ」
わたくしはカイサル様を見ました。カイサル様、おもいっきりわたくしから顔を背けています。わたくしを利用していますよね、カイサル様!!
「か、勘違い、じゃ、ないですか?」
「色々と試した。リオネットに自死の練習をさせただろう。あれは辛かった」
うわ、あれ、そういう目的だったのですか!?
油断していると、ハズス様は、また、わたくしの隣りに移動してくる。わたくしの手を握って、軽く口づけなんかしてくる。
「聞いたぞ。どこか年寄の後妻になりたい、なんてカイサルに話していたと」
「そういうとこにも、嫁入りできますよね、という軽い冗談です」
「ならば、私の所に来なさい。そんな穢れた所に行くことなど、考えなくていい」
「その前に、偽の皇族問題はどうするのですか!?」
「あれは、リオネットの囲うための手段だ。どうせ、逃げるつもりであろう。だったら、既成事実を作って、逃げられないようにすればいい。一度、皇族とされてしまった以上、ここからは出られない。皇帝となれば、皇帝の儀式は強制だ。堂々と、リオネットを抱ける」
うわ、先の先まで囲う気満々ですよ!!
はたから見れば、羨ましい、なんて言われそうです。何せ、この見た目は最上級の中の最上級の男が手に入るのですから。欲しいという皇族、貴族、帝国民はいっぱいでしょうね。
ですが、過去の所業が、そうは思わせてくれません。わたくしは、この男に随分な目にあっているのです。とても、愛情なんて持てません。見た目がよくても、それ以上に、ひどい目にあっているのですから。
「ハズス、そこまでにしなさい。リオネットも、急に環境が変わって、戸惑っているだろう」
「さっさと皇帝にして、皇帝の儀式をしたい」
「リオネットを説得してやる。だから、今日は大人しく、屋敷に戻りなさい」
「カイサル、手を出さないように。いいですね。もう、お前に側仕えは必要ないのですから、リオネットに手伝わせないように」
「もうしない」
カイサル様が上手にハズス様を説得して、どうにか、離してくれた。
それでもハズス様は離れがたい、とばかりにわたくしを後ろから抱きしめ、髪から腕から背中やらと口づけして、やっと出ていった。
そして、わたくしは改めて、カイサル様と向き合うこととなった。
「わたくしをシスター見習いにしたのは、これが目的ですか?」
「そこは否定しておく。本当に、偶然、たまたまなんだ。ハズスがまさか、リオネットに一目惚れするとは、思ってもいなかった」
「本当ですか?」
「本当だ。もともと、十年後に、皇位簒奪をすることは決まっていた。十年という期間を置いたのは、敵国を油断させるためだ。敵国にとって、俺は邪魔者だったからな」
敵国が、カイサル様を邪魔に思ったのも、よくわかる。カイサル様はとても優秀な為政者です。机の上の仕事は瞬間で終わらせてしまうし、教会での問題事も、瞬間で解決してしまいます。
まあ、よく、お酒を飲みに帰ってこないとか、約束をすっぽかすとか、そういう問題行動はありますが、それを除いても、優秀な方です。
きっと、皇帝としても、とても優秀なのでしょう。それほど優秀な方が相手では、敵国だって、内部を攪乱出来ません。だから、皇帝を挿げ替える手段に出るしかありませんでした。
「なぜ、十年前、皇位簒奪を成功させてしまったのですか?」
両腕と皇族の資格を犠牲にしてまで行った行為は、一歩間違えれば、処刑されていただろう。
「処刑されても良かったんだ。処刑されても、俺の代わりを育てるように、ハズスには指示していた。重要なのは、十年後に、皇位簒奪させることだ。そして、敵国と貴族との繋がりを表沙汰にして、戦争を勃発させる」
「すでに、貴族の目星はついているのですね」
「いるぞ、皇族席に近いところに。宰相と大臣どもだ」
皇帝だったシズム様は、甘言をした貴族を重用しました。今頃、宰相も大臣たちも、戦々恐々としているでしょう。逃げたくとも、その立場が出来なくしています。欲をかきすぎたのです。
十年かけて、カイサル様は、帝国内にいる膿を表に出したのです。
「それと、わたくしが偽の皇族になるのは、関係ありませんよね」
どうしても、納得がいかないことが、そこです。わたくしを囲うにしても、ほかにも方法があるはずです。公の場で、堂々と、嘘をつく必要なんてない。
だって、筆頭魔法使いには、特別な権利がある。筆頭魔法使いになるほどの妖精憑きは、執着が強い。その強い執着を閉じ込める権限と部屋が筆頭魔法使いの屋敷にはあるのだ。
別に、わたくしを表立って囲わなくても、ひそかに囲えばいいだけです。わたくしだって、命が惜しいので、大人しく囲われてあげますよ。
「どうして、わたくしを筆頭魔法使いの屋敷に囲うように、言わなかったのですか?」
「リオネットを手に入れてしまったら、ハズスは戦争に参加しなくなる。帝国は戦勝国でなければならない。敵国は、科学という武器を使って侵攻してくる。それに対抗する最終手段は、神の使いを使役する妖精憑きだ。最初は、人同士で戦わせるが、最後は、妖精憑きに敵兵を蹂躙させる。そのために、リオネットを女帝にして、ハズスを戦場に立たせる」
「それならば、わたくしに言わせればいいではないですか!? 敵国を蹂躙してほしい、と」
「あの部屋に入るとな、リオネットはハズスの操り人形だ。ハズスが望むことしか言えなくなる。それでは困るのだよ。戦争は勃発させても、戦力で負けてしまっては、帝国は蹂躙されてしまう」
「ハズス様は気づいているはずです。なぜ、カイサル様の言いなりなのですか!?」
「皇帝の儀式をしたくないのだろう。あれは閨の強要だ。俺はハズスに強要出来る。実際、最後までしたんだ。その頃は、リオネットに出会う前だから、ハズスもかまわなかった。しかし、今はリオネットがいる。次代の筆頭魔法使いはまだ育っていない。ハズスは筆頭魔法使いを辞められないんだ。だったら、リオネットを偽の皇族に仕立て上げて、囲って、女帝にして、皇帝の儀式で強制的に閨事をすればいい。既成事実が出来てしまえば、リオネットも逃げられなくなる。筆頭魔法使いを辞められるようになった頃に、リオネットを女帝から下ろすつもりだ」
「………」
気持ち悪っ!! 口に出して叫びたいけど、我慢しました。うかつなこと言って、間違っても、ハズス様の耳に入ったら、大変なことになります。
「悪い話ではない。ハズスは絶対的な力を持っている。何者からも、リオネットを守ってくれるぞ」
「そこに、わたくしの気持ちはありません」
「どこかの年老いた後妻になる、なんて話してたじゃないか」
「冗談ですよ!! だいたい、わたくしはシスターを辞める時は口封じされる、と言われ続けていたのですよ」
「それほどの覚悟があるのなら、ハズスに愛されるなんて、大したことではないだろう。帝国の安寧のためにも、ハズスを受け入れなさい」
「他人事だから、そう言ってしまえるのですよね!!」
「ハズスの、どこがダメなんだ?」
「どこって、その、過去があれですから。本当に、ひどい目にあってばかりでした。事あるごとに、口封じとか、自死しろ、とか言ってきましたし」
「それは仕方がない。筆頭魔法使いとして、正しいことを言っていただけだ。今日、身に着けていた装飾品には、随分と魔法をかけていたぞ。リオネットに万が一のことがないように、とな」
「持って逃げたら殺すみたいなことを言われました」
「ハズスの執着は半端ないぞ。リオネットが死んでいてもいいんだ。骨でも愛せる」
うわ、気持ち悪っ!! もう、ハズス様のことを受け入れる受け入れない、関係ないですよね。殺してでも、わたくしを手に入れようとしているじゃないですか。
もう、顔にも出ているので、カイサル様は困ったように笑っている。
「若い娘の考えることは、よくわからんものだ。それ以前に、俺は家族というものが理解できん」
「そうですよね。実の娘を背中からばっさり斬っちゃいますものね」
「そう言ったところで、俺には痛くもかゆくもないぞ」
嫌味を言ってやっても、カイサル様は平然としている。
「俺はな、ハズスに育てられたんだ。ハズスは、俺が生まれる前から、母の腹に宿った瞬間から、俺を皇帝にすると決めていた。だから、離乳の段階で、俺は母から離された。それからずっと、ハズスに育てられたんだ。家族なんてない。ハズスが家族かというと、そうではない。ハズスにとって、俺は皇帝だ。だから、俺は皇帝の生き方しか知らない。皇妃を持っても、娘息子を持っても、家族というものはわからない。それらは、帝国のための道具でしかない」
「でも、子育て失敗した、なんて言ってましたよね」
教皇長カイサル様として、リズ様と接した後、そんなことを口にしていました。あれもまた、カイサル様の本音でしょう。
「俺にとっては、リオネットを育てたようなものだ。それと娘のリズを比較してしまったのだろうな」
「わたくしも、失敗作ですか?」
「そういうのはない。リオネットはリオネットだ。成功も失敗もない。どちらにしても、リオネットは、可愛い娘なんだろう。今なら、わかる。リズには、親子の愛情はない」
「わたくしにだってないでしょう。だって、わたくしを利用して、ハズス様を転がそうとしているではないですか」
「リオネットを引き取ってしばらくは、可愛い娘が出来たような気分だった。血の繋がりのある娘息子には、これっぽっちも愛情は持てなかったが、リオネットには、何か感じ入るものがあった。ハズスの相談を聞いて、随分と腹が立ったものだ。あれは、娘を思う親の感情なんだろうな」
「………」
ハズス様のことがなければ、信じれた話です。ですが、ハズス様の生贄にされてしまったので、どうしても信じれません。
「こうなってしまったが、リオネットのことは、俺も、ハズスも、しっかりと守ろう。大丈夫だ。誰にも手を出させない」
「もう、教会には戻れないのですね」
「行きたい時は、ハズスに頼めばいい。一人でここを出ることは危険だ。なにせ、本当の皇族ではないから、筆頭魔法使いの加護がない」
「ハズス様とですか?」
「まず、敬称はやめなさい。もう、俺にも敬称と使ってはいけない。リオネットは、皇族となったんだ。皇族同士は、皇帝といえども、敬称は使わない。リオネットは、これから、敬称をつけられる側だ」
笑ってしまう。元は捨て子で、孤児で、シスター見習いで、シスターになって、と底辺ばかり這いずっていたというのに、皇族という最高の身分となってしまったのだ。
「急に、こうなってしまって、気持ちの整理はつかないだろう。この部屋には、使用人も入れないようにされている。ゆっくり休みなさい」
「カイサル様は、どちらに行くのですか?」
一人で暮らすには広すぎるし、部屋数だって多い。何より、使い方がわからない。
不安そうに見えてしまったのでしょう。カイサル様は苦笑する。
「保護者として、ここで一緒に居てもいいのなら、居るがな」
「今更ですよね。昔は、一緒のベッドで寝たりしましたし、お風呂だって、入ったことがあるではないですか」
孤児院から引き取られたばかりの頃は、役立たずな上、右も左もわからないので、カイサル様に教えてもらってばかりだった。寂しくて、一緒に寝てもらったこともある。
「わかっていると思うが、もう、そういうことはしない」
「いくらなんでも、わたくしだって、分別はついています。カイサル様のことは、そういうふうには見ていません」
「それは良かった。では、保護者として、ここにいよう」
「ありがとうございます」
とりあえず、この広くて、部屋数の多い所に一人にされなくて、安心しました。
次の日、目隠しをしていないハズス様がお迎えに来ました。
「今日は部屋にずっといるつもりでしたが」
心の整理がついていないというのに、ハズス様は容赦なく、部屋から連れ出してくれます。使用人とかは入れなくなっていますが、ハズス様は無条件で入れてしまうのですよね、あの部屋。
「これから、皇位簒奪を失敗した者たちの処分ですよ」
とても嬉しそうな声で説明してくれるハズス様。内容が怖すぎ。
ハズス様に連れられて行かれた先には、それなりの年齢以上の皇族全てが集まっていた。素顔を晒すハズス様に見惚れるも、道を譲る。
中心にいるのは、拘束された皇族シズム様と皇族リズ様です。
「あの、リズ様もですか?」
「皇位簒奪に関わった者全てが、処分を受けるのですよ」
うわ、容赦ない。リズ様、ちょっと味方になっただけじゃないですか。後ろから実の父親に斬られる、なんて怖い目にもあって、可哀想なのに。
リズ様もシズム様も真っ青になって震えています。この処分って、決めるのは誰かしら、なんて他人事みたいに見ているのだけど、肝心のカイサル様がいないです。
「あの、カイサル様は?」
「カイサルは失格紋持ちですので、この場には来ませんよ」
「っ!?」
ハズス様に言われて、わたくし、気づいてしまった。この処分の処遇を決めるのは、わたくしだ。だって、わたくしに向かって、シズム様は皇位簒奪しようとしたのですから。
よく考えたら、カイサル様は代理戦争しただけですよね。勝者はわたくしだ。
とんでもない事となってしまった。気づくのが遅すぎました。部屋を出る前に、気づけばよかったです。
この場に立ってしまった以上、もう逃げられません。後ろでは、ハズス様がべったりとくっついています。早速、わたくしに匂いつけですか。もう、誰も、わたくしなんて欲しがったりしませんよ!!
「さて、どうしてほしいですか、リオネット」
「ど、ど、ど、どうすれば、いい、の、ですか?」
甘い声で聞いてくるハズス様。言葉だけならば、なんかいい感じなんだけど、目の前の光景は、怖い。
「カイサルの時は、ほら、両腕を斬りおとして、失格紋をつけましたよ」
そうでしたそうでした!! 処刑できないから、そうなったのですよね。でも、よくよく考えれば、両腕斬りおとすって、かなり残酷な処分ですよね。
「か、過去では、どういうことがありましたか?」
きっと、いい感じの処分があるはずです。何かないかなー? なんて縋ってしまうわたくし。心、繊細なんですよ。
「だいたいは処刑ですね。皇位簒奪の場で殺すことがほとんどですから。生き残ること自体、実は珍しいことですよ」
「奉仕活動とか」
「教会では、よくやってたね。でも、また、皇位簒奪するかもしれない。一度は許されるものだから」
二度失敗すると、処刑ですものね!! 知ってます。
「まずは、失格紋の儀式をしよう」
「そうしましょう」
失格紋の儀式だって、大変です。何せ、筆頭魔法使いの加護を失うこととなります。これまで、当然のように、筆頭魔法使いの加護によって守られていたものを失うということは、想像を絶するほどの恐怖でしょう。
そういえば、カイサル様は失格紋持ちですよね。今度、聞いてみましょう。
失格紋の儀式を軽く考えていました。だって、焼き鏝を背中にやるだけですから。
そこからが大変です。まず、誰がおさえこんで、誰が焼き鏝を押し付けて、という作業は全て、皇族がやるのです。半端な人には出来ません。何せ、焼き鏝なんて、誰だってやりたくないので、暴れます。
「カイサル様の時は、どうでしたか?」
最強の武力持ちのカイサル様に失格紋の儀式は、なかなか難しそうに思えました。まず、両腕を斬りおとすのだって、大変でしょうに。
「カイサルは大人しく従ったぞ。焼き鏝をされて、両腕もすぱんとされた。抵抗なんて見苦しいことはしなかった」
どういう訓練をしたのでしょうか。ついつい、ハズス様を伺うように見てしまう。あれです、わたくしみたいに、練習させたのでしょうね。こわっ!!
そうして、役割分担が終了すると、儀式です。二人同時に、というのは、あれです、情けですね。一人ずつだと、後からされる方は恐怖二倍ですから。
「こ、こんなこと、して、お父様が、許さないわよ!!」
ここまできて、リズ様は皇帝代理カイサル様に縋る。
「いや、あいつは喜んでやるぞ」
リズ様の希望をハズス様はすっぱりと否定する。この場にいなくて良かった。実の親に二度も傷つけられたら、リズ様も再起不能になっちゃいますよ。
「お、俺は、皇帝だぞ!! こんなこと、許されるものか!!」
シズム様、おもいっきり抵抗しています。
「シズム様、片手ないから、いいではないですか」
皇位簒奪時に、カイサル様が斬りおとしました。これ以上、やる必要がないように見えます。
「それはそれ、これはこれです。儀式は絶対です。この場で何かすることが見せしめとなります」
「そうなのですか」
どうにか軽くしたいのに、それが許されない。こういう事って、大事だから、曲げられないのですよね。
「いい気にならないで!! 孤児のくせに!!!」
他人事のように見ていたので、リズ様がわたくしに怒りをぶつけてきました。
「お前なんて、発現した皇族でなければ、底辺よ!! 皇族といったって、お前の身分は、わたくしよりも下よ!!!」
「私のリオネットに、随分な口をきくな」
恐ろしい声を出すハズス様。でも、リズ様は失格紋の儀式が終わっていないので、ハズス様の加護持ちです。
「さすが、孤児。色仕掛けでハズスを篭絡したのね。汚らわしい!!」
リズ様の言葉に、怒りに震えるハズス様。それでもわたくしから離れないですね。落ち着きたいのか、わたくしの髪の匂いとかかいでいる。気持ち悪っ!!
「はやく儀式をしろ!!」
命じるのはわたくしのはずなのに、ハズス様が命じています。でも、仕方がないです。ハズス様に逆らえる皇族、いません!!
あまりに暴れるので、手の空いている皇族まで参加して、二人をおさえつけました。もう、抵抗が出来なくなったところで、ものすごく熱く、真っ赤になっている焼き鏝が登場です。これも、皇族がやるしかないのです。
「す、素早くやりましょう」
時間かけると、きっと痛いと思います。そういう思いやりで言いました。
そして、最初はシズム様、次にリズ様でした。
しばらく、焼いたお肉は食べられないな、と思いました。
いつもはあとがきみたいなものを書きますが、今回はなしです。続くといいな、と思いながら、書きました。この後は、まだ考えていません。ノートパソコンで書いているので、変な感じになっています。
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