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やっと、見つけた。
クレイとの約束を、見つけた。
エリシャから遠く離れた地で、やっと。
「ユ、ティ、ア」
初めてその名前を、口に乗せたら少しだけ安堵できた。
昔遊んだという記憶も、おぼろげながら思い出してきていた。ずいぶん美化されてしまったかもしれないが、カディールの持つ記憶の中で、美化できるものといえばその一年間しかなかった。
カディールは、その額に手を伸ばしかけて、止める。
硬くまぶたを閉じるその顔は、ずいぶんと痩せこけていて傷や痣だらけだった。顔だけではない。晒していた素肌は荒れていて、治っていない傷がいくつもあった。どれほどの仕打ちを受けてきたのか想像もできないほどだ。
『その力で私の義妹を、守ってほしい』
クレイの、最後の夢。
(ああ、わかってる)
その約束があるから、カディールはクレイの後を追わずにまだ生きていける。
「ひどいね……少女にこんなことを」
「なんとかならないのか、シオン」
ユティアの細すぎる身体を支えているシオンは、少し息を吐いてユティアの伸ばしたまま手入れもしていない前髪を優しく梳いた。
極度の栄養不足からか、この少女はあまりにも小柄に感じる。
「魔道では無理だよ。早く神殿に行ったほうがいい」
カディールはちらりと扉のほうに視線を向けた。
騒ぎを聞きつけたのか、廊下から何人かの足音が聞こえている。隠す気もない、荒々しい気配。
「どうすんだ、ここ」
ユティアはここの商品ということになっている。カディールたちが連れ去ったことを知れば、意地になって追いかけてくるかもしれない。
「そうだね」
シオンはユティアをカディールに渡すと、ゆっくりと右手を掲げた。中指の銀の指輪が瞬時に長杖に変化する。
「施錠せよ」
簡潔な言葉で、扉は手も触れていないのにばたんと閉じた。
次に寝台に敷かれていた大きな布を引き抜き、人の大きさに丸めて男のそばに置く。杖から炎があがり、あっというまに男とその布を包み込んでいった。
「これで時間かせぎができる」
それで十分だ。足取りはすぐに消せる。
煙がすぐに充満してきた。この部屋は二階だったが、カディールはユティアを抱きかかえたまま、躊躇することなく窓から飛び降り、シオンもそれに続いた。