第1話 美桜(姉好きな妹)ルート①
「はー……可愛い女の子が朝起こしてくれればいいのに」
「可愛い女の子がなんだって?」
「うおあっ!?」
すぐ隣を見てみると、妹が仁王立ちして威圧感を出している。
ラスボス感がすごい。
「な、なにかな……美桜」
美桜――白髪桜目の美少女。
肩まで伸びた白い髪と桜色に輝く瞳は、春を連想させる。
だが今は――ニコニコ微笑んではいるが――顔がすごく怖い。
底知れぬラスボスオーラを感じる。恐怖。
「『なにかな』じゃないよ! 朱美おねーちゃん、起こしても全然起きないんだもん!」
ふくれっ面になり、魔王オーラが消えた。
ずっと朱美を揺すっていたらしく、疲労感が現れている。
そんなところも可愛いと思いながら、朱美は美桜の頭を撫でる。
「ありがと~。美桜がいてくれてよかった」
「……っ、朱美おねーちゃんのそういうとこ……ほんとずるい」
不機嫌そうに言いつつ、されるがままだ。
むしろ、頭を突き出して「もっと」とせがんでくる。
美少女に弱い朱美は、家族だろうがなんだろうが手を出したくなってしまう。
「んー……ねぇ、ちょっとだけ襲わせ――」
「変なこと言ったらコロス☆」
「スミマセン」
すごくいい笑顔で怒られた。
ちなみに、声にはものすごく殺気が込められていた。
あれ以上言っていたら本当に殺されていたかもしれない。
仕方なく、朱美は学校に行く準備をする。
顔を洗い、朝食を食べ、歯を磨いている間も、「可愛い女の子に囲まれたい」などと呟いていた。
いや、実際には可愛い妹に毎朝起こされたいだけだが。
「じゃ、いこうか」
「あ、お姉ちゃん待って!? 教科書忘れてるよ!」
今日も今日とて、学校生活が始まる。
☆ ☆ ☆
教室のドアを開けると、朱美はいつも通りに挨拶する。
「おっはよー!」
すると、男女問わずクラスのみんなから返事が帰ってくる。
「おはよー」
「よっすー」
朱美は人気者だった。クラスメイトだけではなく、先輩や後輩からも好かれている。
そんな完璧な姉に比べて。
妹の美桜は、人気者とまではいかないが友達は多い。
猫かぶりな優しい性格と可愛い見た目も伴って、クラスでは中心人物だった。
ただ、人気者とはお世辞にも言えない。
それでも朱美は可愛い妹を誇りに思っている。
だって、彼女が人気者じゃないのにはちゃんとした理由があるから。
「……おはよう、朱美ちゃん。今日もたくさんの人に囲まれてるな」
「沙橙! もー大変だよぉ……」
朱美に無気力そうに話しかけたのは、クラスメイトである沙橙。
茶髪橙目の美少女だ。
朱美と同じ、肩につくぐらいの長さの髪を持つ彼女の目は、どこか光が入っていない。
朱美以外に親しい間柄の人がいないのもあってか、教室ではいつも本を読んで過ごしている。
その時も、いつでも、ハイライトなし。
朱美は密かに、その目に光を宿してみたいと考えている。
「……そういえば、今朝は蒼衣さんと一緒じゃないんだ?」
「あー、なんか忙しいみたいで先に行かれちゃったんだよねー」
その言葉に沙橙はなにかを思ったようで、少しばかり残念そうな表情になった。
「……そうか、今回はそういう世界線なんだな」
沙橙は意味深なことを呟いたが、朱美にはなんのことかさっぱりだ。
そんな朱美の困惑を感じ取ったのか、沙橙はわざとらしく話題を変える。
「……ところでさ」
「んー?」
「……美桜ちゃんと付き合ってるってほんとなのかい?」
「…………は!?」
朱美は面食らったような顔をする。
「そ、そんなわけないでしょ!?」
「……そうなのかい? いやなに、仲が良さそうだからちょっと気になっただけだ」
「そんなんじゃないって! 相手は妹だよ!?」
沙橙がからかうように言うと、朱美は必死に弁明する。
朱美が美桜を大事に思っていることは事実だが、それはあくまで妹だからに過ぎない。
朱美にとっての美桜は家族だ。恋人などではない。
ただ、沙橙にとってはその弁明が面白くなかったようだ。
少ししょんぼりした様子で口を開く。
「……そうかい、つまんないな。まあなにかあったらボクに言ってくれよ」
……いや、別に落ち込んでいるわけではないらしい。抑揚のない声で言うからわかりにくいけど。
ちなみに目は死んでいる。ハイライトなし。
でも口は笑っているという、なんともいえない表情だった。
沙橙は、なにを考えているのかわからない。
ただ、なんとなく朱美は彼女から目を離すことができない。
そんな朱美を見て、沙橙は不思議そうな顔をする。
「……どうしたの? ボクの顔になにかついてるかい?」
「う、ううん! なんでもありません!」
朱美が取り繕うように言うと、沙橙は見切りをつけたように会話を切り上げた。
そして本を読む作業に戻る。
もう用はないといわんばかりに、こちらに目を向けることはない。
「……本当に、つまんない」
そう呟く彼女の目は、どこか寂しそうだった。




